村上他『条解独占禁止法』の域外適用に関する解説の疑問
村上他編著『条解独占禁止法』p98に、輸出カルテルと効果主義に関して、
「この基準〔注・自国市場について直接的、実質的かつ予測可能な効果が及ぶときに自国独禁法が適用されるという基準〕は、
・・・輸出カルテルのような輸出取引のように、自国市場に効果を及ぼすことが当初から意図(認識)されているとはいえない
自国領土外での行為も含めて適用される。」
という解説があります。
(なお、日本市場を含む国際カルテルなど、当初から日本市場を明確に対象としているときには、
「自国(日本)市場に実質的効果を及ぼすことを意図して行われていて、自国市場に実質的な効果を及ぼしているとき」
に、日本の独禁法が適用される、というのが同書の立場です。p98)
でもこれって、結局、輸出カルテルには独禁法が適用されないといっているのでしょうか?それとも、適用されるといっているのでしょうか?
論理的によめば、海外で行われた輸出カルテルでも
「日本の市場に直接的、実質的かつ予測可能な効果」
が及ぶときには日本の独禁法が適用され、
「日本の市場に直接的、実質的かつ予測可能な効果」
が及ばないときには日本の独禁法は適用されない、ということなのでしょうけれど、輸出カルテルは通常は日本市場に、「直接的、実質的かつ予測可能な効果」はないから問題なわけです。
なので、もし輸出カルテルにも日本の独禁法が適用されるというなら、どのような場合に輸出カルテルが、
「日本の市場に直接的、実質的かつ予測可能な効果」
を及ぼすと考えているのか説明してもらわないと、不親切です。
読者はあてはめの結論を知りたいわけで、規範を繰り返すだけでは物足りません。
そこであえて私なりに同書の解説を解釈すれば、輸出カルテルでは、少なくとも「直接的」の要件を満たすのは極めて難しいのではないかと思います。
もし「直接的」の要件が満たされるとすれば、当該輸出先国と日本が地理的に1つの市場だという場合くらいしか思いつきませんが、もし1つの市場なら、それは輸出カルテルではなくて、たんに、輸出先国と日本をひっくるめて普通の価格カルテルをしているに過ぎない、ということなのだと思います。
なので、同書の立場では、普通の意味での輸出カルテルは域外適用の対象にならない、ということなのだろうと推測します。
また、今はあまり顧みられることもない事例ですが、輸出カルテルに関する日本フェルト社事件(勧告審決昭和48年1月12日)に言及がないのも、実務用コンメンタールとしていかがなものかと思います(根岸『注釈独占禁止法』p114でも、本書の旧版にあたる厚谷他『条解独占禁止法』p247でも、ちゃんと触れられています。)
次に、村上『条解』p99では、
「不公正な取引方法の禁止については、各国独自の禁止規定、規制は域外適用しないことが国際ルールであって、基本的に域外適用する必要はないものと考えられる」
と説明されています。
でも、「国際ルール」であるといわれる、その根拠は何でしょうか?
私が勉強不足なだけかもしれませんが、不公正な取引方法は域外適用されないという「国際ルール」があるというのは、初めて聞きました。
(やや近い話で思いつくのは、FTC法5条の消費者保護の規定は日米独禁協定の対象にならない、というのがありますが、不公正な取引方法はもちろん、対象になります。)
実際にも、不公正な取引方法が域外適用できないと困ることもあるのではないでしょうか。
たとえば、マイクロソフトのNAP事件やインテルのリベートにしても、一歩間違えれば域外適用の事案です。
『条解』の立場では、そういうのは私的独占でやればいいということなのかもしれませんが、実務的には私的独占は(とくに課徴金が導入されてから)とてもハードルが高いものがあります。
そういう現実があるのに、形式的に私的独占なら域外適用できるけど不公正な取引方法ならできない、と形式的に区別する解釈論は、あまり説得力はないように思われます。
ちなみに根岸先生のノボ事件等に関するレジュメでは、
「今日であれば、ノボが19条に違反する不公正な取引方法を行っているとして、ノボを名宛人として日本での指定代理人へ書類送達又は外国における書類送達(領事送達)・公示送達を通じて手続を進めるべきであるということになる。」
と、不公正な取引方法への域外適用を肯定されています。
わたしも、これが普通の理解だと思います。
そもそも本書は逐条解説であって(しかも、権威ある弘文堂の『条解』シリーズです)、学術論文ではないのですから、あまり強く自説を展開されると、実務での使い勝手が落ちてしまいます。
さらに驚くことに、
「優越的地位の濫用は日本経済社会の特質を反映した日本での行為を対象とする日本独自の規制であって域外適用をすることは想定されていない。」
と述べられています。(p99)
確かに公取委のホンネもそうかもしれませんが
、ちょっと言い過ぎではないでしょうか。
ちなみに優越的地位の濫用の特則であり、優越よりもっと日本的な規制である下請法の場合ですら、域外適用はあるが運用上取り締まりはしない、というのが公取委と中企庁の見解だと思われます。
「日本での行為を対象とする」というのが理由に入っているのも、同義反復のような気がします。
少なくとも私には、この記述を根拠に外国企業に対して「優越的地位の濫用は域外適用されない」とアドバイスするのは、怖くてできません。
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