不当な取引制限の定義と非ハードコアカルテル
不当な取引制限は、
「事業者が、・・・
他の事業者と共同して・・・相互にその事業活動を拘束し、
又は
〔他の事業者と共同してその事業活動を〕遂行することにより、
公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」
と定義されています。(独禁法2条6項)
カルテルや談合のようなハードコアカルテルを前提に、この定義についてはたくさんの議論が積み上げられています。
しかし、非ハードコアカルテルについても、はたしてその行為がこの定義に該当するのかは、あらためて検討しておく必要があるように思います。
たとえば公取委の相談事例(平成20年度事例1)では、相互OEMについては、
「本件は,製品Aの製造販売市場において競争関係にある事業者が,契約により,相互にOEM供給を行おうとするものであることから,競争事業者間の相互拘束として検討する必要があり,このような取組によって,一定の取引分野における競争が実質的に制限される場合には,不当な取引制限(独占禁止法第3条)として問題となる。」
と、競争者間の「相互」のOEMなので、「相互拘束」の要件を満たすかのような説明がなされています。
これに対して、相互ではないOEMについて、平成26年度事例7では、一方的なOEMがなぜ相互拘束になるのか何の説明もないまま、競争の実質的制限を検討しています。
では、なぜ(相互あるいは一方的な)OEMが相互拘束になるのでしょうか。
たとえ競合とはいえ、たんに一方が他方から物を買うというだけでは、「相互拘束」とはいえないのではないでしょうか。
その答えは、OEMを依頼する側(商品を買う側)は、その分、自分では製造しないという、少なくとも暗黙の合意があるからです。
共同生産であれば、その製品については各社独自に生産はしないという、少なくとも暗黙の合意があるからです。
共同調達の場合でも、その目的は購入量をできるだけ増やしてコスト削減を図ることであるとすれば、各社独自には調達しないという合意は、案外簡単に認められるかもしれません(そうでないかもしれません)。
OEMの場合、仮に相互のOEMであっても、AがBに売り、BがAに売る、というのが「相互」なのだ、というのは無理です。それはたんなる売買が対向しているに過ぎないからです。
それに、もし相互OEMについてそんな説明をすると、一方的なOEMの場合に不当な取引制限に該当するという説明に窮してしまいます。
しかし、このように論理的に考えると、すべてのOEMが「相互拘束」の要件をみたすわけではなさそう、という気もしてきます。
たんに相手方から買うというだけで、それと同数の製造を買い手側がやめると合意したことには、当然にはならないでしょう。
たとえば、OEMそのものではないですが、マツダがトヨタからハイブリッドシステムを購入しているのは、マツダが自社でハイブリッドシステムを作る能力がないからです。
(※ただし、マツダにはスカイアクティブという、素晴らしい技術があることを申し添えておきます。とくに2.2リッターディーゼルは、燃費、パワー、静粛性、フィーリング、どれをとってもすばらしいです。)
これがもし、OEMでマツダがトヨタからハイブリッド車を購入してマツダのバッジを付けて販売した場合であったとしても、マツダが、ハイブリッド車の開発をしないことを暗黙に合意したとか、購入したハイブリッド車の分だけ自社の生産量を減らすと暗黙に合意したとか認定するのは、おそらく無理でしょう。
このように、競合のOEMだからといって、当然に相互拘束の要件が満たされるわけではないことは明らかです。
OEMに限らず、非ハードコアカルテルは実際に審査されたこともおそらくなく、まして当事者が争ったこともなく、また、今後争うこともないでしょう。
そのため、不当な取引制限の構成要件の議論はもっぱらハードコアカルテルを念頭に置いて議論されていたと思います。
しかし、いざ公取委が摘発しようとすると、このような問題もあらかじめきちんと証拠固めしておかないと、思わぬところで足元をすくわれかねないように思います。
たとえば、平成17年相談事例集7のように、西日本の会社が東日本の競合から東日本販売分についてOEMを受け、東日本の会社はその逆をする、という事例であれば、西日本の会社は東日本で自社製の製品を販売することは諦めた(ないしは、東日本では自社製の製品を販売しないことを条件にOEM契約が締結された)、ということがうかがえるので、「相互拘束」といえそうです。
でも、平成26年度事例7の一方的なOEMで、もしOEMを頼む側(生産をやめる側)であるX社が、相手方のY社に生産をやめることを知らせないでOEM契約を締結したとしたら、相互拘束性も、場合によっては共同性も、認められないかもしれません。
そういう場合には、少なくとも公取委は、「Y社はX社が生産をやめることをうすうす気づいていたはずだ」ということを、証拠固めしておく必要があると思います。
OEMはお互いのコスト情報が見えてしまうから反競争的だ、とか、コストが斉一化するから反競争的だ、などといっても、それは競争の実質的制限(対市場効果)の話であって、相互拘束性という行為要件の話ではありません。
たとえば共同生産の場合、各社独自に生産をしないという合意はないけれど、共同生産した方があきらかに安上がりなのでそうしているのだ、というような場合、それだけで「相互拘束」といえるのかは、かなり微妙な問題であるように思われます。
実際には、生産設備の統合や除却を伴うことが多そうなので、そのあたりから相互拘束を認定できるのかもしれません。
しかし、たしかに生産設備の統合や除却は、ゲーム理論的な意味でのコミットメントであるとはいえるかもしれませんが、法的な意味での合意(共同性)や相互拘束性が当然に認められることにはならないような気がします。
将来目に見える形で問題になることはないかもしれませんが、理論的な裏付けを準備しておくにこしたことはないと思います。
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