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2015年9月21日 (月)

消費者の利益になるカルテル

カルテルは常に消費者を害すると思われがちですが、経済学では一定の条件の下でカルテルにより消費者が利益を受けることがあることが知られています。

これを簡単なモデルで表している、

Michael D. Whinston "Lectures on Antitrust Ecomonics" p17

に従って、紹介しておきます。

前提として、需要関数を

x(p)=2-p

限界費用を

mc=1

参入費用を

ec=1/16

と置き、もし、2社目が参入してきたらベルトラン競争(価格による競争。商品差別化のない限り価格は限界費用まで下がる)をする、と仮定します。

この場合、もし2社参入すると価格が1まで下がり、利益が出なくて参入費用が回収できないので、参入するのは1社に限られます。

そして、1社だけが参入すると、その独占価格は、

pm=3/2

となります。

(この計算は単純です。まず、需要関数が

x(p)=2-p ⇔ p=2-x

なので、独占企業の総収入関数(TR)は、

TR=x(p)・p

⇔ TR=x・(2-x)=2・x-x^2

となります。この総収入関数を数量xで微分して限界収入関数(MR)を求めると、

MR=2-2x

となります。

独占企業(に限りませんが)が利益を最大化するときの生産数量では、限界収入と限界費用が等しくなので、

MR=MC ⇔ 2-2x=1 ⇔ x=1/2

となります。

これを、p=2-x に代入すると、

pm=3/2

となります。)

このとき独占企業の独占利潤(πm)は、

πm=x・(p-mc)-ec=1/2・(3/2-1)-1/16=3/16

となり、消費者余剰(CS)は、1/8となります。

(消費者余剰の計算は、グラフを描けば二辺が0.5の二等辺三角形の面積なので1/となるのですが、少し数学的にいえば、需要関数x(p)=2-pを価格についてpm(=3/2)から切片2まで積分して、

CS=[2p-1/2・p^2]={4-2}-{3-9/8}=1/8

となります。)

つまり、カルテルができないために独占となったときの独占利潤は3/16、消費者余剰は1/8、総余剰は5/16となります。

では、カルテルを許して価格を5/4とした場合はどうでしょうか。

(ここで価格を5/4としたのは、完全に独占価格の3/2(=6/4)まで上げることはできないけれどベルトラン価格(=1)よりは高い、というくらいの意味です。それから、後述のように、この価格だと参入が起きる、というのがポイントです。)

この場合、2社の総利潤(参入費用控除前)を計算してみましょう。

価格は5/4なので、数量は2社で

x(p)2-p=2-5/4=3/4

となります。よって2社の総利潤(参入費用控除前)は、マージンに数量をかけて、

(5/4-1)×3/4=3/16

となります。1社の利益(参入費用控除前)はその半分で、3/32となります。

3/32の利益が保証されるなら、参入費用ec=1/16よりも大きいので、参入が起きます。この、利益を保証して参入を促す、というのがポイントです。

この場合、2社の生産者余剰は、3/16-2・ec=3/16-2/16=1/16となります。(独占企業の3/16よりは、当然ながら小さいです。)

そして、消費者余剰は9/32となり(一辺が3/4の二等辺三角形の面積です)、独占の場合の1/8(=4/32)よりも、ずいぶんと大きくなっています。

さらに、総余剰は、消費者余剰と生産者余剰の合計なので、9/32+2/32=11/32となり、独占の場合の5/16(=10/32)よりも、わずかですが大きくなっています。

つまり、ある程度カルテルを許して参入コストを回収できるような価格を保証することで、かえって消費者が利益を受け、社会全体としてもそれが望ましいということがある、ということです。

(ちなみに、もう少し一般的に、複占価格をpdと置くと、生産者余剰(πd)は、

πd=(pd-1)(2-pd)=-pd^2+3pd-2

で、消費者余剰(CS)は、

CS=(2-pd)^2×1/2=1/2pd^2-2pd+2

なので、総余剰(TS)は、

TS=πd+CS=-1/2pd^2+pd

となります。

なお総余剰の導関数(TS')は、

TS'=-pd+1

なので、TSは、pd=1で最大値(=0.5)をとる、下に開いた2次関数となります。

そして、総余剰が独占の場合の5/16に等しいpdを求めると、

-1/2pd^2+pd=5/16

を解くことになり、

pd=(16+(16^2-4・8・5)^0.5)÷16≒1.612

となります。

つまり、

1<pd<1.612

の範囲内に価格がおさまるときには、複占下の総余剰が独占下のそれよりも改善することになります。)

カルテルは常に悪だという単純な発想しかない法律家にとっては、示唆に富む内容ではないかと思います。

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