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2015年9月

2015年9月24日 (木)

不当な取引制限の定義と非ハードコアカルテル

不当な取引制限は、

「事業者が、・・・

他の事業者と共同して・・・相互にその事業活動を拘束し、

又は

〔他の事業者と共同してその事業活動を〕遂行することにより、

公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」

と定義されています。(独禁法2条6項)

カルテルや談合のようなハードコアカルテルを前提に、この定義についてはたくさんの議論が積み上げられています。

しかし、非ハードコアカルテルについても、はたしてその行為がこの定義に該当するのかは、あらためて検討しておく必要があるように思います。

たとえば公取委の相談事例(平成20年度事例1)では、相互OEMについては、

「本件は,製品Aの製造販売市場において競争関係にある事業者が,契約により,相互にOEM供給を行おうとするものであることから,競争事業者間の相互拘束として検討する必要があり,このような取組によって,一定の取引分野における競争が実質的に制限される場合には,不当な取引制限(独占禁止法第3条)として問題となる。」

と、競争者間の「相互」のOEMなので、「相互拘束」の要件を満たすかのような説明がなされています。

これに対して、相互ではないOEMについて、平成26年度事例7では、一方的なOEMがなぜ相互拘束になるのか何の説明もないまま、競争の実質的制限を検討しています。

では、なぜ(相互あるいは一方的な)OEMが相互拘束になるのでしょうか。

たとえ競合とはいえ、たんに一方が他方から物を買うというだけでは、「相互拘束」とはいえないのではないでしょうか。

その答えは、OEMを依頼する側(商品を買う側)は、その分、自分では製造しないという、少なくとも暗黙の合意があるからです。

共同生産であれば、その製品については各社独自に生産はしないという、少なくとも暗黙の合意があるからです。

共同調達の場合でも、その目的は購入量をできるだけ増やしてコスト削減を図ることであるとすれば、各社独自には調達しないという合意は、案外簡単に認められるかもしれません(そうでないかもしれません)。

OEMの場合、仮に相互のOEMであっても、AがBに売り、BがAに売る、というのが「相互」なのだ、というのは無理です。それはたんなる売買が対向しているに過ぎないからです。

それに、もし相互OEMについてそんな説明をすると、一方的なOEMの場合に不当な取引制限に該当するという説明に窮してしまいます。

しかし、このように論理的に考えると、すべてのOEMが「相互拘束」の要件をみたすわけではなさそう、という気もしてきます。

たんに相手方から買うというだけで、それと同数の製造を買い手側がやめると合意したことには、当然にはならないでしょう。

たとえば、OEMそのものではないですが、マツダがトヨタからハイブリッドシステムを購入しているのは、マツダが自社でハイブリッドシステムを作る能力がないからです。

(※ただし、マツダにはスカイアクティブという、素晴らしい技術があることを申し添えておきます。とくに2.2リッターディーゼルは、燃費、パワー、静粛性、フィーリング、どれをとってもすばらしいです。)

これがもし、OEMでマツダがトヨタからハイブリッド車を購入してマツダのバッジを付けて販売した場合であったとしても、マツダが、ハイブリッド車の開発をしないことを暗黙に合意したとか、購入したハイブリッド車の分だけ自社の生産量を減らすと暗黙に合意したとか認定するのは、おそらく無理でしょう。

このように、競合のOEMだからといって、当然に相互拘束の要件が満たされるわけではないことは明らかです。

OEMに限らず、非ハードコアカルテルは実際に審査されたこともおそらくなく、まして当事者が争ったこともなく、また、今後争うこともないでしょう。

そのため、不当な取引制限の構成要件の議論はもっぱらハードコアカルテルを念頭に置いて議論されていたと思います。

しかし、いざ公取委が摘発しようとすると、このような問題もあらかじめきちんと証拠固めしておかないと、思わぬところで足元をすくわれかねないように思います。

たとえば、平成17年相談事例集7のように、西日本の会社が東日本の競合から東日本販売分についてOEMを受け、東日本の会社はその逆をする、という事例であれば、西日本の会社は東日本で自社製の製品を販売することは諦めた(ないしは、東日本では自社製の製品を販売しないことを条件にOEM契約が締結された)、ということがうかがえるので、「相互拘束」といえそうです。

でも、平成26年度事例7の一方的なOEMで、もしOEMを頼む側(生産をやめる側)であるX社が、相手方のY社に生産をやめることを知らせないでOEM契約を締結したとしたら、相互拘束性も、場合によっては共同性も、認められないかもしれません。

そういう場合には、少なくとも公取委は、「Y社はX社が生産をやめることをうすうす気づいていたはずだ」ということを、証拠固めしておく必要があると思います。

OEMはお互いのコスト情報が見えてしまうから反競争的だ、とか、コストが斉一化するから反競争的だ、などといっても、それは競争の実質的制限(対市場効果)の話であって、相互拘束性という行為要件の話ではありません。

たとえば共同生産の場合、各社独自に生産をしないという合意はないけれど、共同生産した方があきらかに安上がりなのでそうしているのだ、というような場合、それだけで「相互拘束」といえるのかは、かなり微妙な問題であるように思われます。

実際には、生産設備の統合や除却を伴うことが多そうなので、そのあたりから相互拘束を認定できるのかもしれません。

しかし、たしかに生産設備の統合や除却は、ゲーム理論的な意味でのコミットメントであるとはいえるかもしれませんが、法的な意味での合意(共同性)や相互拘束性が当然に認められることにはならないような気がします。

将来目に見える形で問題になることはないかもしれませんが、理論的な裏付けを準備しておくにこしたことはないと思います。

2015年9月23日 (水)

不当な取引制限の定義

不当な取引制限の定義を整理しておきます。

不当な取引制限とは、

「事業者が・・・

①他の事業者と共同〔≒合意〕して・・・相互にその事業活動を拘束し、

又は

②〔他の事業者と共同〔≒合意〕して〕〔その事業活動を〕遂行する

ことにより、

公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」

と定義されています。

(ちなみに政府の英訳では、

「such business activities, by which any enterprise ...

in concert with other enterprises,

mutually restrict [their business activities]

or

[mutually] conduct their business activities ...

thereby causing, contrary to the public interest, a substantial restraint of competition in any particular field of trade.」

となっています。)

論理的に整理すると、

不当な取引制限とは、

「事業者が・・・

他の事業者と共同〔≒合意〕して・・・

相互にその事業活動を拘束し、

又は

②〔その事業活動を遂行する

ことにより、

公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」

ということでしょう。

「共同」というのは、「合意」のこと、つまり、意を通じていること、であると説明されます。

(ちなみに英訳では

「他の事業者と共同して

の部分は、

in concert with other enterprises」

と英訳されていて(EU競争法で「concerted practice」(共同行為)という用語があります)、

「in concert with」

というのは、

「working together with」

という意味なので(Oxford Learner's Dictionary)、まさに「共同」あるいは「共働」というのにぴったりの翻訳です。)

ここで、「事業活動を拘束」(restrict their business activities)というのは、具体的には、拘束を受ける側からすれば、積極的に競争することを控える、ということです(拘束する側からすれば、相手方に積極的に競争することを控えさせる、ということです)。

典型的には、値引きを控える、ということですね。

それを、「相互に」やるので、お互いに値引きを控える、ということになります。

「相互に」は、よくいわれるように、一方が他方を従属させている「一方的拘束」は含まないという意味だ、というのが伝統的な考え方です(白石『独占禁止法(第2版)』p133)。独禁法制定直後には「相互」とは「対等」という意味であるという解説もあったそうです(同書同頁)。

「相互に」は英訳では「mutually」ですが、mutualは、

「used to describe feelings that two or more people have for each other equally, or actions that affect two or more people equally

ということなので、一方的な拘束は含まないという伝統的な考えからすると、これもぴったりの訳です。

法律用語で「相互」といえば、「相互主義」(外国が日本国民に対等な保護を与える限り、日本も当該外国国民に保護を与える。英語ではreciprocity)が思いつきますが、これも、対等の精神です。

「相互保険」、「相互会社」なんかも、加入者は対等である、という対等、あるいは互助の精神が表れている言葉だと思います。

「共同して」というのと、「相互に」というのが、言葉の上で何となく似ていて、両者の関係が分かりにくいですが、「共同して」が修飾するのは、「他の事業者と」です。

これに対して、「相互に」が修飾するのは、「拘束する」です。

なので、「共同して」というのは、他の事業者と一体となって行動していることを表しており、「相互に」というのは、各当事者が受け入れた拘束がお互い様の関係になっていることを表している、といえるでしょう。

でも、論理的には、「相互に事業活動を拘束する」ことは、「他の事業者と共同」していることが前提になっている、というべきでしょう。

というのは、「相互の拘束」というのは、「他の事業者と共同」していない限り、およそあり得ないからです。

いいかえると、各社が独自の判断で(=「共同」でなく)値引きを控えよう、というのは、(そういうのを「拘束」と呼ぶのかという問題もありますが(自己拘束?))、「相互」の拘束とはいわない、ということです。

シャーマン法1条では、複数性(plurality)の問題として、一言で片づけられてしまうところです。

このように考えてみると、

「事業者が・・・他の事業者と共同して・・・相互にその事業活動を拘束し」

といわず、

「事業者が、他の事業者と相互にその事業活動を拘束し」

でも十分に意味は通ったと思うのですが、合意を要するということを明示するために、「共同して」と入れた、と考えると分かりやすいかもしれません。

このように、「他の事業者と共同」でない、「相互の拘束」というのは、論理的にあり得なさそうですが、逆に、「他の事業者と共同」だけれど、「相互の拘束」ではない、という場合はありそうです。

たとえば、AとBが結託してCの事業を物理的に妨害する、というようなケースでは、(とくに、AとBが単独でもCを妨害することが自己の利益になると考えていた場合には)お互いに、という意味での「相互に」でもないし、そもそも自己の行為をしばる、あるいは抑制する、という意味での「拘束」もないような気がします。

(「Cを妨害しないことを控える」という構成もあるかもしれませんが、そういうのを「拘束」というのは、日本語としてちょっと無理な気がしますし、そもそもCを物理的に妨害するというのが「事業活動」の拘束といえるのか、という問題もありそうです。)

2015年9月21日 (月)

消費者の利益になるカルテル

カルテルは常に消費者を害すると思われがちですが、経済学では一定の条件の下でカルテルにより消費者が利益を受けることがあることが知られています。

これを簡単なモデルで表している、

Michael D. Whinston "Lectures on Antitrust Ecomonics" p17

に従って、紹介しておきます。

前提として、需要関数を

x(p)=2-p

限界費用を

mc=1

参入費用を

ec=1/16

と置き、もし、2社目が参入してきたらベルトラン競争(価格による競争。商品差別化のない限り価格は限界費用まで下がる)をする、と仮定します。

この場合、もし2社参入すると価格が1まで下がり、利益が出なくて参入費用が回収できないので、参入するのは1社に限られます。

そして、1社だけが参入すると、その独占価格は、

pm=3/2

となります。

(この計算は単純です。まず、需要関数が

x(p)=2-p ⇔ p=2-x

なので、独占企業の総収入関数(TR)は、

TR=x(p)・p

⇔ TR=x・(2-x)=2・x-x^2

となります。この総収入関数を数量xで微分して限界収入関数(MR)を求めると、

MR=2-2x

となります。

独占企業(に限りませんが)が利益を最大化するときの生産数量では、限界収入と限界費用が等しくなので、

MR=MC ⇔ 2-2x=1 ⇔ x=1/2

となります。

これを、p=2-x に代入すると、

pm=3/2

となります。)

このとき独占企業の独占利潤(πm)は、

πm=x・(p-mc)-ec=1/2・(3/2-1)-1/16=3/16

となり、消費者余剰(CS)は、1/8となります。

(消費者余剰の計算は、グラフを描けば二辺が0.5の二等辺三角形の面積なので1/となるのですが、少し数学的にいえば、需要関数x(p)=2-pを価格についてpm(=3/2)から切片2まで積分して、

CS=[2p-1/2・p^2]={4-2}-{3-9/8}=1/8

となります。)

つまり、カルテルができないために独占となったときの独占利潤は3/16、消費者余剰は1/8、総余剰は5/16となります。

では、カルテルを許して価格を5/4とした場合はどうでしょうか。

(ここで価格を5/4としたのは、完全に独占価格の3/2(=6/4)まで上げることはできないけれどベルトラン価格(=1)よりは高い、というくらいの意味です。それから、後述のように、この価格だと参入が起きる、というのがポイントです。)

この場合、2社の総利潤(参入費用控除前)を計算してみましょう。

価格は5/4なので、数量は2社で

x(p)2-p=2-5/4=3/4

となります。よって2社の総利潤(参入費用控除前)は、マージンに数量をかけて、

(5/4-1)×3/4=3/16

となります。1社の利益(参入費用控除前)はその半分で、3/32となります。

3/32の利益が保証されるなら、参入費用ec=1/16よりも大きいので、参入が起きます。この、利益を保証して参入を促す、というのがポイントです。

この場合、2社の生産者余剰は、3/16-2・ec=3/16-2/16=1/16となります。(独占企業の3/16よりは、当然ながら小さいです。)

そして、消費者余剰は9/32となり(一辺が3/4の二等辺三角形の面積です)、独占の場合の1/8(=4/32)よりも、ずいぶんと大きくなっています。

さらに、総余剰は、消費者余剰と生産者余剰の合計なので、9/32+2/32=11/32となり、独占の場合の5/16(=10/32)よりも、わずかですが大きくなっています。

つまり、ある程度カルテルを許して参入コストを回収できるような価格を保証することで、かえって消費者が利益を受け、社会全体としてもそれが望ましいということがある、ということです。

(ちなみに、もう少し一般的に、複占価格をpdと置くと、生産者余剰(πd)は、

πd=(pd-1)(2-pd)=-pd^2+3pd-2

で、消費者余剰(CS)は、

CS=(2-pd)^2×1/2=1/2pd^2-2pd+2

なので、総余剰(TS)は、

TS=πd+CS=-1/2pd^2+pd

となります。

なお総余剰の導関数(TS')は、

TS'=-pd+1

なので、TSは、pd=1で最大値(=0.5)をとる、下に開いた2次関数となります。

そして、総余剰が独占の場合の5/16に等しいpdを求めると、

-1/2pd^2+pd=5/16

を解くことになり、

pd=(16+(16^2-4・8・5)^0.5)÷16≒1.612

となります。

つまり、

1<pd<1.612

の範囲内に価格がおさまるときには、複占下の総余剰が独占下のそれよりも改善することになります。)

カルテルは常に悪だという単純な発想しかない法律家にとっては、示唆に富む内容ではないかと思います。

2015年9月 8日 (火)

薬機法(旧薬事法)と景表法の関係

真渕博編著『景品表示法(第4版)』p165に、薬機法(旧薬事法)の表示規制に関する簡単な説明があり、その中では、虚偽誇大広告の禁止(薬機法66条1項)と、医師による保証広告の禁止(同条2項)が挙げられています。

条文を確認すると、

「(誇大広告等)

第六十六条  何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない。

2  医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の効能、効果又は性能について、医師その他の者がこれを保証したものと誤解されるおそれがある記事を広告し、記述し、又は流布することは、前項に該当するものとする。

3  何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品に関して堕胎を暗示し、又はわいせつにわたる文書又は図画を用いてはならない。」

というものです。

しかし、薬機法と景表法の関係を考える際には、66条だけを挙げるのは、やや片手落ちのような気がします。

というのは、景表法の分野で一番問題になりそうな、医薬品でもないのに「ガンが治る」とかいう表示をしているものは、承認前の医薬品の広告禁止(薬機法68条)に該当するからです。

薬機法68条は、

「(承認前の医薬品、医療機器及び再生医療等製品の広告の禁止)

第六十八条  何人も、

第十四条第一項〔医薬品、医薬部外品及び化粧品の製造販売の承認〕

第二十三条の二の五第一項〔医療機器及び体外診断用医薬品の製造販売の承認〕

若しくは第二十三条の二の二十三第一項〔指定高度管理医療機器等の製造販売の認証〕

に規定する医薬品若しくは医療機器

又は

再生医療等製品であつて、

まだ第十四条第一項、

第十九条の二第一項〔外国製造医薬品等の製造販売の承認〕、

第二十三条の二の五第一項、

第二十三条の二の十七第一項〔外国製造医療機器等の製造販売の承認〕、

第二十三条の二十五第一項〔再生医療等製品の製造販売の承認〕

若しくは第二十三条の三十七第一項〔外国製造再生医療等製品の製造販売の承認〕

の承認

又は

第二十三条の二の二十三第一項〔指定高度管理医療機器等の製造販売の認証〕

の認証

を受けていないものについて、

その名称、製造方法、効能、効果又は性能に関する広告をしてはならない。」

というものです。

ポイントは、薬機法での「医薬品」の定義で、薬機法2条1項では、

「(定義)

第二条  この法律で「医薬品」とは、次に掲げる物をいう。

一  日本薬局方に収められている物

二  人又は動物の疾病の診断、治療又は予防に使用されることが目的とされている物であつて、機械器具等・・・でないもの(医薬部外品及び再生医療等製品を除く。)

三  人又は動物の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とされている物であつて、機械器具等でないもの(医薬部外品、化粧品及び再生医療等製品を除く。)」

とされています。

ここでさらにポイントは、医薬品の2条1項2号で、治療等に使用されることが

「目的とされている物」

というふうに定義されていることです。

つまり、治療等を「目的」としていれば、それは定義上、「医薬品」に該当することになります。

よくいわれる例として、ただのゴマでも、「ガンに効く」といえば、そのゴマは、「医薬品」になるわけです。

実際にはそこまで大雑把な議論ではなく、

無承認無許可医薬品の指導取締りについて」(昭和46年6月1日 薬発第476号)

という通達の別紙に、

「医薬品の範囲に関する基準」

というのがあり、その中で、何が医薬品に該当するのか、細かく定められています。

たとえば、

「1 野菜、果物、調理品等その外観、形状等から明らかに食品と認識される物

2 健康増進法(平成14年法律第103号)第26条の規定に基づき許可を受けた表示内容を表示する特別用途食品〔注・特定保健用食品(トクホ)、病者用食品、妊産婦用粉乳、嚥下困難者用食品がこれに入ります〕

3 食品表示法(平成25年法律第70号)第4条第1項の規定に基づき制定された食品表示基準(平成27年内閣府令第10号)第2条第1項第10号の規定に基づき届け出た表示内容を表示する機能性表示食品

は、医薬品とはみなさない、とされていたり、

「新聞、雑誌等の記事、医師、学者等の談話、学説、経験談などを引用又は掲載することにより暗示するもの

(例) 医学博士○○○○の談

「昔から赤飯に○○○をかけて食べると癌にかからぬといわれている。………癌細胞の脂質代謝異常ひいては糖質、蛋白代謝異常と○○○が結びつきはしないかと考えられる。」等」

は医薬品的な効能効果を標ぼうしているものとみなす、とされていたり、

錠剤やカプセルといった形状のものでも、「食品」と明示されていれば形状だけで医薬品と判断されることはない、

とされていたりします。

というわけで本題に戻ると、たとえば健康食品を「ガンに効く」と広告すると、その健康食品は医薬品とみなされ、もちろん医薬品の承認は得ていないでしょうから、未承認の「医薬品」の広告(薬機法68条)に該当してしまうわけです。

法律上のポイントは、虚偽誇大広告の禁止の場合は、実際に表示内容通りの効き目があれば違反にはならないのに対して、未承認の医薬品の広告の場合は、表示内容通りの効き目があっても違反になる、という点です。

ちなみに、罰則は、66条の虚偽誇大広告の場合も(薬機法85条4号)、68条の未承認医薬品の広告の場合も(同条5号)、2年以下の懲役または200万円以下の罰金です(併科あり)。

なので、虚偽誇大広告と未承認医薬品の広告とで、どちらが悪いということはないのかもしれませんが、少なくともまともな事業者がより気を遣うのは未承認医薬品の広告のほうではないかと思います。(まともな健康食品で、表示通りの効果が確かにあっても、未承認医薬品の広告のほうには引っかかってしまうことがあるので。)

ですので、薬機法は消費者庁の管轄ではありませんが、緑本の解説にも68条を加えた方が、より親切ではないかと思います。

2015年9月 3日 (木)

転嫁阻害表示の一例

インターネットで調べものをしていたら、たまたま、こんな表示を見つけました。

Img_0700

「昨年4月1日から、多くの商品で8%OFFを継続中」

と書いてあります。

「昨年4月1日から」

というのは消費税の引き上げ時期を意識していることが明らかですが、転嫁阻害表示ガイドラインで、たんに8%値引きという表示のみでは問題ないとしているので、それでこういう表示を考えられたのでしょうね。

事業者の方はいろいろな表示を工夫されるものだなあと、ほんとうに感心します。

でも、消費税転嫁阻害表示にはあたらないとしても、こういう「8%OFF」とかいう表示(二重価格表示)は、最近相当期間の過半数(基本的には、直近8週間のうち4週間超)で販売実績がないといけないので、昨年4月1日からずっと8%OFFというのは、二重価格表示として問題なのではないでしょうか。

たしかに、最近相当期間については、価格表示ガイドラインに、

「当該価格〔注・比較対象価格〕がいつの時点でどの程度の期間販売された価格であるか等その内容を正確に表示しない限り」

という限定があるので、

「昨年4月1日から」

と時期を明示しているからいい、という整理なのでしょうか。

私は、直感的には、いくらなんでも1年半近く前の価格を比較対象にするのはまずいのではないかという気がしますが、ではそれで消費者が「著しく有利」と誤認するのか、といわれれば、誤認しないような気もします。少なくとも私は誤認しませんでした。

(そもそもあえて1年半も前の価格を比較対象にするなんてことは、今回の消費税増税のような背景がなければ、だれもやろうと思わないでしょうから、そういう意味では特殊な事例なのかもしれません。)

でも消費者庁に聞いたらダメといわれるかもしれません。

誤認するとすれば、消費税分安くなってるんじゃないかという誤認でしょうが、上述のように、ガイドラインでは8%という表示だけではOKになっています。

いろいろ考えると、実は本当によく練られた表示なのかもしれません。

ところで写真の表示がそうだというわけではないのですが、たんに「8%引き」という表示をすることは、消費税転嫁法は問題ないとしても、景表法上は注意が必要です。

というのは、転嫁阻害表示ガイドラインの最後に

「(参考)消費税率の引上げに伴う表示に関する景品表示法の考え方」

というのがあり、その「禁止される表示例」の1つに、

「実際には、その小売事業者が過去の販売価格等より消費税率の引上げ幅又は消費税率と一致する率の値引きをしていないにもかかわらず、これらの率を値引きしているかのような『3%値引き』、『8%値引き』等の表示」

というのがあるからです。

たとえば、税率引き上げ前に105円(税込)で販売していた商品ついて、税率引き上げ後に、「8%引き」という表示をするためには、105×{(100-8)÷100}=96.6円で販売していないといけないことになります。

「8%引きと表示しているのだから文字通り8%引きと表示しないといけない」という、当たり前といえば当たり前の理屈ですね。

なので、もし写真の表示の事業者が、増税前に税込み105円で売っていたものを増税後100円で売っていたとすると、景表法違反になります。

ただ私はこの見解にはやや異論があって、拙著『実務解説消費税転嫁特別措置法』p161にも書いたのですが、多くの消費者は、むしろ、増税前に税込105円で売っていたものを増税後は税込み100円で売っているんだな、と感じるのではないか、と思うのです。

ちなみに、パブコメ回答8番では、

「消費税率の引上げの直後においても、「3%値引き」との表示をした場合、消費税率引上げ後の税込価格から3%値引きされている旨を明瞭に表示していない限り、消費者は最近相当期間にわたって販売されていた税込価格から3%値引きされていると認識し得ることから、景品表示法上の有利誤認表示に該当するおそれがあります。」

と、はっきり回答されています。

2015年9月 1日 (火)

村上他『条解独占禁止法』の域外適用に関する解説の疑問

村上他編著『条解独占禁止法』p98に、輸出カルテルと効果主義に関して、

「この基準〔注・自国市場について直接的、実質的かつ予測可能な効果が及ぶときに自国独禁法が適用されるという基準〕は、

・・・輸出カルテルのような輸出取引のように、自国市場に効果を及ぼすことが当初から意図(認識)されているとはいえない

自国領土外での行為も含めて適用される。」

という解説があります。

(なお、日本市場を含む国際カルテルなど、当初から日本市場を明確に対象としているときには、

「自国(日本)市場に実質的効果を及ぼすことを意図して行われていて、自国市場に実質的な効果を及ぼしているとき」

に、日本の独禁法が適用される、というのが同書の立場です。p98)

でもこれって、結局、輸出カルテルには独禁法が適用されないといっているのでしょうか?それとも、適用されるといっているのでしょうか?

論理的によめば、海外で行われた輸出カルテルでも

「日本の市場に直接的、実質的かつ予測可能な効果」

が及ぶときには日本の独禁法が適用され、

「日本の市場に直接的、実質的かつ予測可能な効果」

が及ばないときには日本の独禁法は適用されない、ということなのでしょうけれど、輸出カルテルは通常は日本市場に、「直接的、実質的かつ予測可能な効果」はないから問題なわけです。

なので、もし輸出カルテルにも日本の独禁法が適用されるというなら、どのような場合に輸出カルテルが、

「日本の市場に直接的、実質的かつ予測可能な効果」

を及ぼすと考えているのか説明してもらわないと、不親切です。

読者はあてはめの結論を知りたいわけで、規範を繰り返すだけでは物足りません。

そこであえて私なりに同書の解説を解釈すれば、輸出カルテルでは、少なくとも「直接的」の要件を満たすのは極めて難しいのではないかと思います。

もし「直接的」の要件が満たされるとすれば、当該輸出先国と日本が地理的に1つの市場だという場合くらいしか思いつきませんが、もし1つの市場なら、それは輸出カルテルではなくて、たんに、輸出先国と日本をひっくるめて普通の価格カルテルをしているに過ぎない、ということなのだと思います。

なので、同書の立場では、普通の意味での輸出カルテルは域外適用の対象にならない、ということなのだろうと推測します。

また、今はあまり顧みられることもない事例ですが、輸出カルテルに関する日本フェルト社事件(勧告審決昭和48年1月12日)に言及がないのも、実務用コンメンタールとしていかがなものかと思います(根岸『注釈独占禁止法』p114でも、本書の旧版にあたる厚谷他『条解独占禁止法』p247でも、ちゃんと触れられています。)

次に、村上『条解』p99では、

「不公正な取引方法の禁止については、各国独自の禁止規定、規制は域外適用しないことが国際ルールであって、基本的に域外適用する必要はないものと考えられる」

と説明されています。

でも、「国際ルール」であるといわれる、その根拠は何でしょうか?

私が勉強不足なだけかもしれませんが、不公正な取引方法は域外適用されないという「国際ルール」があるというのは、初めて聞きました。

(やや近い話で思いつくのは、FTC法5条の消費者保護の規定は日米独禁協定の対象にならない、というのがありますが、不公正な取引方法はもちろん、対象になります。)

実際にも、不公正な取引方法が域外適用できないと困ることもあるのではないでしょうか。

たとえば、マイクロソフトのNAP事件やインテルのリベートにしても、一歩間違えれば域外適用の事案です。

『条解』の立場では、そういうのは私的独占でやればいいということなのかもしれませんが、実務的には私的独占は(とくに課徴金が導入されてから)とてもハードルが高いものがあります。

そういう現実があるのに、形式的に私的独占なら域外適用できるけど不公正な取引方法ならできない、と形式的に区別する解釈論は、あまり説得力はないように思われます。

ちなみに根岸先生のノボ事件等に関するレジュメでは、

「今日であれば、ノボが19条に違反する不公正な取引方法を行っているとして、ノボを名宛人として日本での指定代理人へ書類送達又は外国における書類送達(領事送達)・公示送達を通じて手続を進めるべきであるということになる。」

と、不公正な取引方法への域外適用を肯定されています。

わたしも、これが普通の理解だと思います。

そもそも本書は逐条解説であって(しかも、権威ある弘文堂の『条解』シリーズです)、学術論文ではないのですから、あまり強く自説を展開されると、実務での使い勝手が落ちてしまいます。

さらに驚くことに、

「優越的地位の濫用は日本経済社会の特質を反映した日本での行為を対象とする日本独自の規制であって域外適用をすることは想定されていない。」

と述べられています。(p99)

確かに公取委のホンネもそうかもしれませんがbleah、ちょっと言い過ぎではないでしょうか。

ちなみに優越的地位の濫用の特則であり、優越よりもっと日本的な規制である下請法の場合ですら、域外適用はあるが運用上取り締まりはしない、というのが公取委と中企庁の見解だと思われます。

「日本での行為を対象とする」というのが理由に入っているのも、同義反復のような気がします。

少なくとも私には、この記述を根拠に外国企業に対して「優越的地位の濫用は域外適用されない」とアドバイスするのは、怖くてできません。

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