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2015年8月24日 (月)

事業者向けの懸賞

古典的な景表法上の論点ですが、総付景品が一般消費者に対するものに限られているのに対して、懸賞による景品はそのような限定がありません。

つまり、「一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限」(総付制限告示)では、

一般消費者に対して懸賞(「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」(昭和52年公正取引委員会告示第3号)第1項に規定する懸賞をいう。)によらないで提供する景品類の価額は・・・」

とされているので、対象は一般消費者なのですが、「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」(懸賞制限告示)では、

「この告示において『懸賞』とは、次に掲げる方法によつて景品類の提供の相手方又は提供する景品類の価額を定めることをいう」

と定義されており、相手方を一般消費者に限定する規定はないので、事業者も相手方になりうるわけです。

これは、そもそも景表法が「景品類」を、

「顧客を誘引するための手段として・・・事業者が自己の供給する商品又は役務の取引・・・に付随して相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益であつて、内閣総理大臣が指定するものをいう。 」

と定義して、たんに「相手方」として、一般消費者に限定していないことから、こういうことができるわけで、懸賞制限告示が法律違反というわけでもありません。

(それに対して表示規制のほうは、表示の定義こそ、

「顧客を誘引するための手段として、事業者が自己の供給する商品又は役務の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について行う広告その他の表示であつて、内閣総理大臣が指定するものをいう」

というように、相手方を事業者に限るようにはなっていませんが、4条1項各号に、

「一般消費者に対し」

という文言が入っているので、一般消費者に対する物に限られています。)

このように、形式的には事業者向けの懸賞による景品も規制の対象なのですが、景表法が消費者庁に移管された今、このような解釈を続けるのはバランスが悪いと思います。

そこで、事業者向けの懸賞は景表法の対象外という解釈を導く根拠として、1条の、

「この法律は、商品及び役務の取引に関連する不当な景品類及び表示による顧客の誘引を防止するため、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為の制限及び禁止について定めることにより、一般消費者の利益を保護することを目的とする。」

というのを持ってくることが考えられると思います。

「一般消費者の利益」という究極の目的の部分は、事業者向けの懸賞でも関係する場合があるかもしれないという反論があるかもしれませんが、

「一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為の制限及び禁止について定めることにより」

という手段の部分は、どう見ても、事業者向けの懸賞にはあてはまらないと思います。

ただ、目的規定でこれほど実体規定を絞り込むというのは、少なくとも実務家の感覚からするとかなり抵抗があるのも事実です。(緑本にも事業者向け懸賞に関する記述が相当ありますし。)

そこで、以前、拙著『実務解説消費税転嫁特別措置法』p138で示した考えを応用して、以下のように考えてみたいと思います。

消費者庁の所掌事務は、消費者庁及び消費者委員会設置法4条により、

「第四条  消費者庁は、

前条の任務〔注・消費者の利益の擁護及び増進、商品及び役務の消費者による自主的かつ合理的な選択の確保並びに消費生活に密接に関連する物資の品質に関する表示に関する事務を行うこと〕を達成するため、

次に掲げる事務(第六条第二項に規定する事務〔注・消費者委員会の事務〕を除く。)をつかさどる。

一  消費者の利益の擁護及び増進に関する基本的な政策の企画及び立案並びに推進に関すること。

二  消費者の利益の擁護及び増進に関する関係行政機関の事務の調整に関すること。

三  消費者の利益の擁護及び増進を図る上で必要な環境の整備に関する基本的な政策の企画及び立案並びに推進に関すること。

〔四号から13号の2省略〕

十四  不当景品類及び不当表示防止法 (昭和三十七年法律第百三十四号)第二条第三項 又は第四項 に規定する景品類又は表示(第六条第二項第一号ハにおいて「景品類等」という。)の適正化による商品及び役務の消費者による自主的かつ合理的な選択の確保に関すること。 」

とされています。

なので、「消費者の利益の擁護」や、「消費者による自主的かつ合理的な選択の確保」に関係しないことは消費者庁の所掌事務ではないので、消費者庁は所掌することはできません。

したがって、事業者に対する懸賞による景品類の提供については消費者庁の権限外であり、これに対して消費者庁が措置命令を出すことはできない、と考えます。

この点、消費税転嫁法18条3項では、

「内閣総理大臣は、この法律による権限(消費者庁の所掌に係るものに限り、政令で定めるものを除く。)を消費者庁長官に委任する。 」

と、委任されるのが消費者庁の所掌に係るものに限ることが明文で規定されているのに対して景表法12条1項では、

「内閣総理大臣は、この法律による権限(政令で定めるものを除く。)を消費者庁長官に委任する。 」

と、消費者庁の所掌事務に限るとの明文の規定がないのが痛いのですがcoldsweats01、消費税転嫁法の場合は転嫁拒否行為など消費者庁の所管に属しない行為も対象なので上記のような限定文言を入れる必要があっただけであって、消費者庁の所掌事務に属しないものを内閣総理大臣が消費者庁に委任することができないのは当然のことです。

なので、景表法12条1項に「消費者庁の所掌に係るものに限る」との文言がないことは、消費者庁の所掌に属しない事務(事業者に対する景品類の提供)が消費者庁に委任されていないことを否定する理由にはならないと考えます。

したがって、事業者に対する景品類の提供に対する措置命令は、景表法6条の原則どおり内閣総理大臣が行使すべき(実際には、内閣総理大臣には措置命令を出すスタッフや仕組みがないので、措置命令は出されない)ということになるのだと考えます。

ただこの考え方の難点は、行政実体法と行政組織法で組織法の方が優先するという理屈は一般的には存在しないことです。

そうすると、あくまで「後法は前法を破る」の原則に従わざるをえません。

ところが、消費者庁設置法の施行日は平成21年9月1日であり(消費者庁及び消費者委員会設置法の施行期日を定める政令(平成二十一年八月十四日号外政令第二百十四号)、当然ですが、平成21年改正景表法12条の施行日も消費者庁設置法の施行の日とされています(平成21年改正景表法附則1条)。

つまり、理屈の上では両者に優劣はつけられないということです。

こういう、前法も後法もない、「同時法」の場合には、やはり個別に理屈で優劣をつけるほかなく、今回の場合は、消費者庁設置法を優先するのが筋が通っていると思います。

以上、可能な解釈論を展開してみましたが、そもそも、平成21年の消費者庁設立と景表法の移管のときに、事業者向けの景品を景表法の規制対象から除外すべきだったのではないでしょうか。

あるいは今からでも消費者庁は、懸賞制限告示を改正して、事業者向けの懸賞は制限の対象から外すべきだと思います。

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