選択的流通と仲間取引
改正流取ガイドライン第2部第2-5(いわゆる「選択的流通」)では、
「商品を取り扱う流通業者に関して設定される基準が、当該商品の品質の保持、適切な使用の確保等、消費者の利益の観点からそれなりの合理的な理由に基づくものと認められ、かつ、当該商品の取扱いを希望する他の流通業者に対しても同等の基準が適用される場合には、
たとえメーカーが選択的流通を採用した結果として、特定の安売り業者等が基準を満たさず、当該商品を取り扱うことができなかったとしても、通常、問題とはならない。」
とされています。
今回のガイドライン改正についての公取の公式見解は、従来の考え方を明確化したものであって変更するものではない、ということなので、選択的流通についても、従来から考えが変わったわけではない、ととらえるのが正しいのだとは思います。
ただ、選択的流通について、
「たとえメーカーが選択的流通を採用した結果として、特定の安売り業者等が基準を満たさず、当該商品を取り扱うことができなかったとしても、通常、問題とはならない。」
と明言したことの意義はそれなりに大きいのではないかと思います。
(ちなみに、「特定の」と限定したのは、すべての安売り業者が排除できてしまう基準というのは認められない、ということを言いたいのではないかと想像します。)
というのは、選択的流通の本場の欧州では、選択的流通は当然に価格競争を阻害するものであると考えられており、価格競争を阻害してもなおそれを上回る価格以外での要素の関する競争が実現できるから許されるのだ、という考え方を採っているからです。(Case 107/82, AEG v Commission, [1983] ECR 3151, para 33)
ところが、従来の流取ガイドライン(今も変わりませんが)では、選択的流通が共通して有する要素である取引先の制限(※選択的流通は、承認された流通業者以外への転売を禁止するので取引先制限の要素が必然的に伴います)の中の、選択的流通に比較的近そうな「仲間取引の禁止」について、
「仲間取引の禁止が、
安売りを行っている流通業者に対して自己の商品が販売されないようにするために行われる場合など、
これによって当該商品の価格が維持されるおそれがある場合には、不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定一二項)。」(第2部第2-4(3))
とされており、このうち、
「安売りを行っている流通業者に対して自己の商品が販売されないようにするために行われる場合など」
の部分がは「など」なので例示と解するほかなく、要は、仲間取引の禁止により価格維持の恐れが生じれば違法である、と読むほかなかったわけです。
そうすると、欧州では価格維持効果があると考えられている選択的流通は、日本では認められないのではないか?という疑問が生じたとしても不思議ではなかったわけです。
ただ、論理的には、これは選択的流通に限った話ではなく、特定の販売方法を流通業者に義務付けるために正規販売店以外への「横流し」を禁じる場合も、上記の仲間取引の禁止のところだけを見ると、禁止されているように読めなくもなかったわけです。
でも実際には、販売方法の義務付けを確保するために正規販売店以外への横流しを禁止することは、販売方法の制限が「それなりに合理的」であれば適法、というのが資生堂最高裁の考え方であったわけです。
なので、それをと併せてガイドラインを読めば、
①販売方法の制限確保のための転売禁止は、当該方法に「それなりの合理性」があれば許される
②販売方法の制限確保を超える転売禁止は、価格維持の恐れがあれば許されない
というルールが読み取れたわけです。
そして、たいていの場合は①なので、従来から「それなり」でOKだったわけです。
ただ資生堂事件では、一律に転売が禁止されていたので、選択的流通(承認ディーラー間では転売制限できない)よりも厳しい制限を課していたことになり、厳密にいえば②だったのではないか、という理解も可能です。
そう考えると、②に当たりそうな場合でも、日本では実は「それなり」の基準で判断していたことになるので、実際には、欧州よりも緩やかなルールだったわけです。
しかし、ガイドラインだけを見ると、仲間取引の禁止は価格維持の恐れがあれば違法としか読めないので、選択的流通は許されないのではないかという疑問ももっともであったわけであり、そのような次第で今回の改正に至った、ということなのだと思います。
このような、ちょっと複雑な背景で改正されているので、今回の選択的流通のガイドラインへの追加は、かなり異質なものを追加した感がありますし、仲間取引の禁止の規定はそのまま残っているので、異質な上にますます整合性のなさが目立ちます。
ともあれ、ガイドラインが選択的流通のところで安売り業者の排除に言及したということは、選択的流通では価格維持効果があっても適法という立場が採られたと考えざるを得ないと思います。
そうすると、ガイドラインの明確化という点では意味があるのではないかと思います。
ただできれば、仲間取引の禁止も整合性を持たせるような改正をすべきだったと思います。
これもひとえに、公取が今回の改正をやる気がなく、規制改革会議に押し付けられたことの表れ(なので、言われた部分しか改正していない)なのではないかと思います。
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