緑本の二重価格表示に関する解説の疑問
片桐編著『景品表示法(第3版)』のp85に、「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」(価格表示ガイドライン)第4-1(1)アの、
「同一ではない商品の価格との二重価格表示が行われる場合には,
販売価格と比較対照価格との価格差については,商品の品質等の違いも反映されているため,
二重価格表示で示された価格差のみをもって販売価格の安さを評価することが難しく,
一般消費者に販売価格が安いとの誤認を与え,不当表示に該当するおそれがある。」
という部分の解説として、
「これは、商品等の販売価格には、
商品の品質、
販売価格の性格(セール価格か通常価格か)、
小売業者の業態(ディスカウンターか百貨店かなど)、
アフターサービスの有無など、
種々の事情が反映されているのであるが、
一般消費者はそのような隠された事情を正確に認識できるものではなく、
これらの要素の差異を明らかにすることなく販売価格のみを比較表示した場合には、一般消費者は、価格に影響する要素は同一であることを前提に、単純に表示された価格の差だけで販売価格が安いと誤認してしまう恐れがあるからである。」
と解説されています。
しかし、ディスカウンターの価格か百貨店の価格かを明らかにしないと不当表示になるというのは、おかしいのではないでしょうか。
(前提として、二重価格表示の比較対照価格として用いるのは自己の価格であることが多いですが、他社の価格を比較対照価格とするものも含まれます。
このことは価格表示ガイドラインで二重価格表示を、
「事業者が自己の販売価格に当該販売価格よりも高い他の価格(以下「比較対照価格」という。)を併記して表示するもの」
とだけ定義して、比較対象価格が自己の価格か他社の価格かを問うていないことから明らかです。
また、緑本p86にも、
「比較対象(ママ)価格に用いられる価格」
には、
「競争業者の販売価格」
が含まれると明記されています。)
実際には、むしろ比較対照価格がどういう業態の者による価格なのかを明示した方が、自社の安さをアピールできてよいことが多いでしょう。
たとえば、アウトレットは、たんに
「他店では1万円のところ、当店では5000円」
と漠然と書くよりは、
「阪急百貨店では1万円のところ、当店では5000円」
と書いた方が、消費者は当該商品のみならず当該アウトレットの安売り店としてのイメージアップにつながりそうです。お客さんも納得でしょう。
これに対して、
「御殿場アウトレットでは5000円のところ、当店では3000円」
という表示をしたいアウトレットはあまりいなさそうですし、そこまでやると、「本当に大丈夫か(安すぎやしないか)?」と心配になりそうです。
なので、アウトレットには比較対照価格が百貨店の価格であることを隠す動機はないのかもしれません。
しかし、百貨店での価格であることを明示しないと消費者が誤認する、と目くじらを立てるほどのことでしょうか。
もし消費者が誤認するとすれば、
「何も業態について明示がないので、同じ業態、つまり別のアウトレットでの価格と誤認する。」
という誤認なのでしょうけれど、アウトレットに来ている人は百貨店よりも安いから来ているのであって、他のアウトレットよりも安いから来ているのではないのではないでしょうか。
つまり、百貨店の価格よりも安ければお客さんは誤認していないのではないでしょうか。
もっといえば、緑本p85に上がっている、
「販売価格の性格(セール価格か通常価格か)」
というのも、同じように、目くじら立てるほどのことはないと思います。
つまりここでの起こり得る消費者の誤認は、
「このお店の(ありきたりの)セール価格よりもさらに安いと思ったのに、実は、通常価格に比べて安いだけだった。」
という誤認でしょうが、(ありきたりの)セール価格よりも安いという誤認をする人がいるのでしょうか。
なにも説明がなかったら、むしろ、通常価格が比較対照価格になっていると思うのではないでしょうか。
前述のように、アウトレットには百貨店と明示しない動機もないわけですが、それでも、緑本は解釈論としていかがなものかと思います。
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