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2015年8月31日 (月)

平成25年度相談事例集事例4(店舗販売業者のみへのリベート)

平成25年度の相談事例に、

有力な福祉用具メーカー(シェア30%、1位)が,

① 来店した顧客に直接適切な商品説明を行うための販売員教育を行うこと

② 種類ごとに一定の在庫を常時確保すること

の両方を条件に、インターネット販売業者を対象とせずに,店舗販売業者のみを対象とするリベートを新たに設けることは,独占禁止法上問題とならない

と回答したものがあります。

結論はこれでよいと思いますが、理由づけに問題があります。

というのは、この事例では、

X社(相談者)はインターネット販売業者に対する卸売価格を引き上げるものではない

というのが理由としてあげられています。

しかし、こんなことをいうと、インターネット販売業者に対する卸売価格を上げられなくなってしまわないでしょうか?

それとも、リベート導入と時間をずらして、ほとぼりが冷めたころに上げるのなら、かまわないのでしょうか?

もし時間をずらしても問題なら(公取は「問題だ」というのでしょうけれど)、インターネット販売業者と店舗販売業者で、卸価格を同一にしなければならなくなりそうです。

反対に、店舗販売業者に対する卸売価格のみを下げると、だめなのでしょうか?

私は、インターネット販売業者に対する卸売価格を上げるのも、店舗販売業者に対する卸売価格を下げるのも、基本的には問題ないと考えています。

メーカーが、販売チャンネルごとに、当該販売チャンネルにおける小売レベルでの市場支配力や、小売のマージンや、需要の弾力性(販売チャンネルごとに需要の弾力性が異なるということは十分あり得ると思います)をにらみながら、また、各販売チャンネルごとの需要の交叉弾力性をみながら、各販売チャンネルごとに卸売価格を別々に設定するのは、当然に許されるべきことです。

もし特定の販売チャンネル(たとえばインターネット)の販売コストが低いために小売マージンが大きい場合、そのマージンにあずかろうとしてメーカーが卸売価格を上げるのは、利益最大化のための合理的な行動です。

再販拘束やその他のブランド内競争制限行為がない前提で(=ブランド内競争は従前を維持する前提で)卸価格を上げても、ブランド間競争も残余需要曲線も従前と変わらないなら、価格も上がらないはずです。

つまり、卸売価格を上げても利益が小売からメーカーに移転するだけであり、消費者には害はないはずです。

それに、もしネット販売業者と店舗販売業者で卸売価格に差をつけてはいけないということになると、論理的には、ネット販売業者の間でも同じ卸売価格にしなければならなくなり、かつ、店舗販売業者の間でも同じ卸売価格にしなければならないことになり、メーカーの自由な価格設定を阻害するとともに、効率性も害します。

販売業者への卸売価格を上げること自体が再販売価格の拘束になるという人はいないでしょう。

その理屈は、ネット販売業者と店舗販売業者の間に卸価格の差が従前からあってもなくても同じはずです。

以上のような理由で、インターネット販売業者に対してだけ卸売価格を上げるのは何ら問題なく、インターネット販売業者に対する卸売価格を引き上げるものではないことを適法の理由とする相談事例は問題だと思います。

もちろん、インターネット販売業者が安売りをしたことを理由に卸売価格を上げると、再販の「拘束」にあたるおそれがあるので、それは避けないといけません。

なので、安売りをしたインターネット販売業者にだけ、「あなた、安売りしたから、罰として卸売価格を上げるよ」なんてことをいうと、違法になります。

なので、そうならないように、やり方に気を付ける必要はあると思います。

それと、相談事例では1つめの理由は、

当該リベートは,店舗販売に要する販売コストを支援するためのものである

というのを挙げていますが、これもちょっと消化不良です。

理屈の上では正しいのですが、「支援するためのものである」ということを理由にすると、主観的意図が問題であるかのような誤解を招きかねません。

それも無関係ではないのでしょうけれど、本質的には、相談事例集でも認定されているように、本件リベートは、「販売量によって変動・増減しない固定額」である、という点が重要です。

固定額であることによって、従業員の教育コスト(→販売量とは関係なさそう)と在庫コスト(→販売量に多少は関係しそうですが、間接的っぽい)の補償であるという性格が明確になるということも重要な点ではありますが、固定額のリベートは販売店にとって(マイナスの)固定費なので、販売店の限界費用には関係なく、小売価格への影響が限定的だからです。

相談事例が「固定額」であることを認定している理由も同じであろうと信じたいですが、それならそうと、きちんと説明すべきです。

まして、インターネット販売業者に対する卸売価格を引き上げるものではない、なんていう的外れな理由があげられていると、公取委は経済学を分かっているのか(どういう垂直制限をすると、関係者の行動がどのように変わって、それが消費者厚生にどのような影響を及ぼすのか)、疑問を持たれかねません。

こういうことをやっていると、中国とかインドとか、後発組の当局にすら馬鹿にされやしないかと、日本人としてちょっと心配になります。

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