« 村上他編著『条解独占禁止法』の繰り返し加算(7条の2第7項)の解説について | トップページ | 業務用表示の表示該当性に関する緑本の解説の疑問 »

2015年7月29日 (水)

アンケートにかかわる緑本の「景品類」の解説の疑問

景表法実務の必須図書、消費者庁の方々による執筆の、

片桐編著『景品表示法(第3版)』(通称、『緑本』)

の、「景品類」の定義に関する運用基準の説明に、ちょっと疑問があります。

同書p162では、

「事業者が市場調査のためのアンケート用紙の回収促進のために謝礼等を提供した場合」

であっても顧客誘引のための手段と認められる場合として、

「③謝礼等の額がアンケートに記入する際の負担からみて過大である」

という場合を挙げています。

しかし、これは疑問です。

まず、これでは、事業者が何らかの「市場調査」のためのアンケートを実施した場合について、「過大」であれば顧客誘引のための手段とみられて景品類に該当する、といっているようにみえます。

しかし定義告示運用基準では、そうはいっていません。

定義告示運用基準1項では、

「・・・自己の供給する商品に関する市場調査のアンケート用紙の回収促進のための金品の提供であっても・・・」

となっており、ここでの市場調査のアンケートは、「自己の供給する商品に関する」ものであると明確に規定されています。

これが、緑本の記載では、何らかの市場調査のためのアンケートであって、過大であれば景品類にあたるといっているように読めてしまいます。

市場調査のアンケートにもいろいろあって、私が以前街角で受けたアンケートは、

「コーヒーのイメージにはどのタレントが似合うと思いますか。

①アーノルド・シュワルツェネッガー

②トミー・リー・ジョーンズ

③渡辺謙」

みたいな感じでした。(ちなみに謝礼はありませんでした。)

これから発売する新商品のための調査だったので、具体的な商品名は未定でした。

最近聞いたのでは、「進学先アンケートに回答したらギフトカード10万円が当たった。」というのがありました。

こういう頭で読んだせいか、同書の上記引用部分では自己の商品との関連性がなくても「過大」なら景品類にあたるといっているようにみえて、ちょっとびっくりしました。

次に、仮に自己の商品に関するアンケート調査であるとしても、「謝礼等の額がアンケートに記入する際の負担からみて過大である」という基準は、私は大いに疑問だと思います。

まず、この基準は総付け景品(アンケート回答者全員がもらえる景品)しか念頭にないのではないでしょうか。

抽選で当たる(懸賞による)景品であれば、回答の手間に比べて過大になるのは当然です。

なので、手間に比べて過大という基準だと、とくに懸賞による景品の場合には、大したことない景品でも景品類に該当してしまう(景品類に該当しない場合がほとんどなくなってしまう)と思います。

あるいは、消費者庁は、

「『過大』かどうかは、当選する確率なども踏まえて総合的に判断するので、必ずしも常に過大となるわけではない。」

などと回答するのかもしれませんが、そんなあいまいな基準では、当局の裁量を増やすだけで何の実益もありません。

次に、そもそも「負担」に比べて過大かどうかを「顧客誘引の手段」の要素とするのは、理屈として間違っています。

あらためて定義告示運用基準の関係個所を引用すると、

「提供者の主観的意図やその企画の名目のいかんを問わず、客観的に顧客誘引のための手段になっているかどうかによって判断する。

したがって、例えば、親ぼく、儀礼、謝恩等のため、自己の供給する商品の容器の回収促進のため

又は

自己の供給する商品に関する市場調査のアンケート用紙の回収促進のため

の金品の提供であっても、『顧客を誘引するための手段として』の提供と認められることがある。」

となっています。

このように、定義告示運用基準には、手間に比べて過大とかは、一言も触れられていません。

『緑本』p162で、上で引用を飛ばした①と②は、

「①その商品を買わなければアンケートに適切に答えられない」

「②販売業者が自己の店舗の入店者のみにアンケート用紙を配布している」

といった例は、オーソドックスな「誘引」の要素であり、これらにくらべて③は、アンケートの文脈でいきなり出てきた基準で、その意味で突出しています。

また、企業にとってはアンケートの情報というのはお金を払ってでも欲しい、ということがあり得るわけで、そうすると、「手間」を基準にしたのでは、お金を払ってでも欲しいアンケートを、企業はすることができなくなってしまいます。

まして今日、インターネットでのアンケートが流行っており、「手間」はますますかからなくなっているのですから、「手間」を基準にすると、ますます謝礼が払いにくくなってしまいそうです。

しかも、具体的に考えてみると、このルールは、論理的に変です。

たとえば1本130円の缶コーヒーでも、その缶コーヒーに関するアンケートの企業にとっての価値は130円を超える、ということは、いくらでもありそうです。

もし企業がこのアンケート回答1件の価値を1000円と考えていた場合に、消費者庁が、

「このアンケートの『手間』は500円が相当だ」

と判断したら、たんに「景品類」に該当してしまうだけでなく、購入を条件としないので、「取引の価格」が100円となってしまい(総付運用基準1(3))、すると景品の限度額は200円(総付告示1項)となってしまいます。

つまり、「手間」として相当なのは500円だから500円までならいい、というのではなく、限度は200円になってしまう、というおかしなことになりそうです。

つまり、『手間』が500円の場合、

500円以下の景品は「過大」でないので景品類に該当せず、500円まで景品を付けてもいい

のに、

501円以上の景品を付けようとすると「過大」といわれて200円までしかつけられない、

ということになってしまい、なんだか変です。

この気持ち悪さは、本来景品類の限度額価値の問題として処理すべき景品類の価格の問題を景品類の定義自体に取り込んでしまったために、論理がねじれてしまっているせいだと思われます。

このような論理的な難点だけでなく、実質的に考えても、過大な景品だから商品に誘引されるということはないのではないでしょうか。

つまり、過大な景品の場合に誘引されるのは、「アンケートに回答すること」だけなのではないでしょうか。

そのようにアンケートに誘引された人が、なぜ、(お店に来るわけでもないのに)商品の購入にまで誘引されるのか、私にはわかりません。

たくさんお礼をもらったから、恩義に感じて商品も買ってくれる、とでもいうのでしょうか?

それとも、多額の謝礼をもらって(あるいは、多額の謝礼が当たるという広告をみて)印象に残るから、お店で手に取るようになる、というのでしょうか?

むしろ、誰でも回答できるアンケートに過大な景品をつけても、それは、誰でも応募できる「オープン懸賞」に近いものなのではないでしょうか。(懸賞による場合。総付けなら、誘引性がないので「景品類」に該当しないとすべき。)

「多額の謝礼をもらって(あるいは多額の謝礼をだすという広告を見て)印象に残る」というのは、オープン懸賞の場合にそっくりです。

「オープン懸賞」が無制限に認められるようになった現在、そのこととのバランスも問題になると思います。

« 村上他編著『条解独占禁止法』の繰り返し加算(7条の2第7項)の解説について | トップページ | 業務用表示の表示該当性に関する緑本の解説の疑問 »

景表法」カテゴリの記事

コメント

興味深く拝見しております。

運用基準の「市場調査のアンケート・・」というのは、あくまで「顧客を誘引するための手段」といえるか否かという観点の話であって、その要件を充足したからといって必ず「景品類」に該当するというわけではないのではないでしょうか。「景品類」に該当するというためには取引付随性の要件なども必要ですので、道端でアンケートに答えてもらった人に100万円の商品を抽選で提供するような場合は、取引付随性がないのでオープン懸賞となるのではないでしょうか。

たいへん貴重なご意見ありがとうございます。

おっしゃる通りだと思います。

普段から、取引付随性の要件と顧客誘引性の要件は、何だか混然一体となっているなという印象を持っていたのですが、よく見返すと、緑本①②の要件はまさに、通常、取引付随性で考慮される要素であり(なので、「①②は顧客誘引性と取引付随性を混同している」という批判が可能かもしれません)、それに引きずられて③が満たされると取引付随性も満たされるかのように考えてしまいました。

ただ、本文にも書いたように、アンケートに「過大」な謝礼を付けて「誘引」されるのはアンケートに回答しようとすることだけのように思われ、アンケートの謝礼で本体商品の取引を誘引する(顧客誘引性)効果がある、というのは、やはり無理なのではないかと思います。

(もう少し正確にいうと、後述のように、アンケートには具体的商品名に触れるものから、触れないもの、競合他社製品も含めて触れるもの、など様々あるので、「過大」というだけで一律に顧客誘引性ありというのはこのようなアンケートの多様性を無視するものだと思います。)

つまり、「適正」な謝礼では「適正」にアンケートに誘引されるのが、「過大」な謝礼なら、もっと強く(過大に)アンケートに誘引される、というだけではないかと思います。

しかも、もし店頭でアンケートをした場合には、②で(「過大」か否かを問わず)顧客誘引性が認められ、ほぼ自動的に取引付随性も認められそうです。

そうすると、たとえば経済上の利益を付けたアンケートの用紙を店頭で配る場合、

③のルートでいくと「過大」な場合で、取引付随性がある場合に限り、景品になる、

のに対して、

②のルートでいくと(過大かどうかをとわず)取引付随性も認められて景品になる、

ということになり、常に②のルートでいった方が、「過大」でなくても「景品類」に該当する分「景品類」の範囲が広くなり、③のルートを用意する意味がない(そもそも③の要件に意味がない)ということになりそうです。

そうすると、①②が顧客誘引性と取引付随性を混同していることが、実は大きな問題であるよう思えてきます。(むしろ、顧客誘引性は③だけにするのが正しいのかもしれません。)

いま「オープン懸賞告示」を見ましたら、オープン懸賞というのは、「顧客を誘引する手段として」という要件と、「正常な商慣習に照らして過大」という要件が別建てになっています。

つまり、顧客誘引性と「過大」は、別の要件ということです。

こちらのほうが、日本語の意味としてはすっきりすると思います。

つまり、オープン懸賞の場合、顧客誘引性については、通常、新商品の具体的名前などが広告に載っていて、それをもって顧客誘引性が認められるのだと思います。

アンケートの場合は、具体的な商品名が上がっているものもあれば、上がっていないものもあれば、複数の商品(場合によっては競合他社の商品も含め)の名前が挙がっている場合もあると思います。

そのような多様性を無視して、「過大」であれば顧客誘引性あり、とするのは、やはり問題ではないかと思います(競合他社製品も含めアンケートしている場合などは、顧客誘引性はない可能性が高いでしょう)。

なかなかまとまりませんが、あらためて貴重なご指摘に感謝いたします。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1240660/60942235

この記事へのトラックバック一覧です: アンケートにかかわる緑本の「景品類」の解説の疑問:

« 村上他編著『条解独占禁止法』の繰り返し加算(7条の2第7項)の解説について | トップページ | 業務用表示の表示該当性に関する緑本の解説の疑問 »