業務用表示の表示該当性に関する緑本の解説の疑問
片桐編著『景品表示法(第3版)』p43に、業務用表示が消費者に対する表示と認められる場合の例として、
「例えば、
飲食店向けの食材の供給業者が飲食店に納入する商品の包装物に行った表示と同内容の表示を飲食店においてメニュー等に行うことを
食材供給業者が認識して、
かつ、
当該表示により一般消費者の誤認が発生したような場合には当該食材の供給業者も景品表示法違反に問われることがありうる」
と解説されています。
しかし、この解説は疑問です。
まず、不当表示が成立するかは表示者の故意過失を問わないのに、なぜここだけ「認識」が出てくるのか、不思議でなりません。
景表法上の「表示」に該当するかどうかは、
「顧客を誘引するための手段として、事業者が自己の供給する商品又は役務の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について行う広告その他の表示」
であるかどうかで判断するのが景表法の建前です。
もし上記の例で食材供給業者が自己の「表示」をしたとみるのであれば、
「顧客」→レストランのお客(食材業者の顧客ではないのでは?)
「自己の供給する商品」→レストランの料理(供給するのはレストランでは?)
「表示」→メニュー(作成主体はレストランでは?)
と考えざるを得ないわけですが、それは無理でしょう。
表示をそのまま使われるという「認識」が必要というのも、上記定義のどこにひっかかってくるのか、さっぱりわかりません。
根本的な原因を作った人に責任を負わせたいという感覚論は理解できますが、解釈論としては無理です。
しかも、食材とメニューでは内容がやや遠いので、要らぬ論点が増えるので、例としてもあまり適切でないように思います。
むしろ緑本のそのあとの「丸紅畜産(株)に対する排除命令」(平成14年4月24日)の方が、まだストレートでましだと思います。
ただこの事件も理屈としておかしいのは、本文の解説と同じです。
同事件は、丸紅畜産が、牛肉の業者向け包装や段ボール箱に「国産鶏」と表示していたところ、実はブラジル産であり、取引先の小売業者はこの表示に基づいて、小分けした商品に「国産鶏」と表示して一般消費者に販売していた、というものです。
そして、丸紅畜産は、自己の段ボール箱等の表示に基づいて小売業者が小分け商品に同じ表示をすると認識していた、と認定されています。
その結果、丸紅畜産に排除命令が出されました。
事実認定としては、
「丸紅畜産は・・・当該小売事業者を通じて一般消費者に販売した鶏肉・・・について〔包装袋または段ボール箱に〕『国産鶏』と記載(した)」
と認定されています。
小分けにしたとはいえ、丸紅畜産自身が、小売業者「を通じて」一般消費者に自己の商品を販売した、という認定は、正しいと思います。メーカーが小売店を通じて商品を販売するのと同じでしょう。(小分けしたからといって、同じ商品とみてよいでしょう。ここが、食材と料理のケースと大きく違います。)
しかし、だからといって小売業者の表示が丸紅畜産の表示になるわけではないでしょう。
事実認定をどう読んでも、排除命令の対象となっている表示は包装袋と段ボール箱の表示であるとしか読めません。
それは消費者向けの表示ではないし、消費者が実際目にすることもなかったわけですから、それ自体は景表法上の「表示」に該当しないことは緑本で解説されているとおりです。
この事件でも、一般消費者向けの表示を問題としたうえで、丸紅畜産自体が小売業者の表示(一般消費者向けの表示)の作成に関与していたことを、(むりやりにでも?)認定する必要があったのではないでしょうか。
なので、私はこの事件も景表法の解釈を誤っていると思います。
それにこの事件の解釈では、緑本p55の、
「メーカー、製造元、卸売業者等小売業者に商品を供給した者が、小売業者が一般消費者に示した表示の内容決定に関与している場合には、表示主体となる。」
というのと、正面から矛盾するのではないでしょうか。
筋を通すなら、不当表示の直接の原因を作った者を措置命令の対象にして、原因を排除する命令を出せるように法律を改正すべきでしょう。
ただ、実務がこういうことで回っている以上、他人に不当表示をさせないように気を付けるべきことは、いうまでもありません(民事上の損害賠償請求を受けたりする可能性もあります。)
ちなみに、公取委職員の執筆による、
「食肉をめぐる最近の不当表示事件について」(公正取引625号、2002年11月)
のp32では、
「『表示を行う行為』には、厳密には、
①『表示の内容を決定する行為』と、
②『決定された内容を伝達する等現実に人目に触れるようにする行為』に分けられ、
この①及び②の行為がなければ表示を行ったことにはならない。」
と、ここまでは「ふむふむ」と納得しながら読めるのですが、続いて、
「しかし、一事業者がそのすべてを行うとは限らないため、表示に複数の事業者が関連する場合には、どの事業者に対して景品表示法の排除措置を行うかの判断が必要となってくる。」
というあたりから、「あれ、誰の表示かは問題にしないの?「決定」か「伝達」か、どちらかすれば自己の表示になるみたいに読めるけど、他人の表示を「決定」したり(例、コピーライター)、他人の表示を「伝達」したり(例、メーカーのラベルのついた商品をそのまま陳列する小売店)することも、いくらでもあるのでは?」という疑問がわいてきます。
そして、きわめつけは、
「食肉卸業者が原因となる不当表示事件は、雪印、カワイ、丸紅、全農等、スターゼンであり、これらの者が景品表示法の適用を受ける表示主体であることは明らかであって・・・」
と、原因を作っただけで表示主体になることが「明らか」と説明されています!
なぜ「明らか」といえるのか、何の説明もありません。
(まるで、何の根拠もなく、「わが国が戦争に巻き込まれるなどということは決してありません!」と断言するどこかの国の首相みたいです
)
この書きぶりだと、事件処理当時の公取委では、緑本のような、「表示は消費者向けの表示に限る」という論点が、まったく意識されていなかった可能性があります。
本当は、不当表示者が行う表示と消費者が目にする表示は異なる表示であってもかまわないと割り切る、つまり、消費者が誤認する限り、消費者が目にした表示のみならず、その原因となった表示も「表示」に含まれる、と解したいところですが、4条1項1号に、「一般消費者に対し・・・示す・・・表示」と明記されている以上、それは無理でしょうね。
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第4版では「例えば」以下が削除されています。
投稿: | 2015年8月19日 (水) 19時37分
たしかに消えていますね。教えていただきありがとうございます。
投稿: 弁護士植村幸也 | 2015年8月25日 (火) 20時38分