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2015年7月25日 (土)

役務の提供完了報告書と情報成果物作成委託

調査レポートのような報告書は情報成果物の典型で、下請法の適用がありえます。

親事業者が他者から作成を請け負ったレポートを再委託する場合には類型2ですし、親事業者が自己使用するためのレポートの作成を委託する場合には、親事業者自身が同種のレポートを作成しているときに限り、類型3で下請法の適用があります。

ここまでは基本中の基本ですね。

では、役務提供委託に際して、役務の完了報告書を提出させた場合、それ自体独立した情報成果物作成委託になるのでしょうか。

たとえば、分かりやすい自己使用役務の例でいうと、ビルのオーナーがトイレの清掃を清掃業者に委託しているとして、清掃業者が清掃を完了して完了報告書を清掃業者から受け取った場合、常識的に考えて、清掃の委託の部分はオーナーが自己のためにした役務の委託ですから下請法の対象外ですが(自己のためにする役務は下請法の対象外です。これも基本です)、作業の完了報告書の部分だけを取り出して、情報成果物作成委託に該当する、といわれることはないのか(オーナー自身が同種の報告書を業として作成していることが前提ですが)、というのが、ここでの問題です。

やはり、そのような役務提供に付随した報告書は、情報成果物作成委託には該当しないと考えるのが常識的でしょう。

では条文をチェックしてみましょう。

まず、清掃の完了報告書も、「文字・・・により構成されるもの」(下請法2条6項3号)に該当するので、それ自体は情報成果物であるといわざるをえないでしょう。

次に、下請法2条3項では、情報成果物作成委託の類型3を、

「〔親〕事業者が

その使用する情報成果物の作成を業として行う場合に

その情報成果物の作成の行為の全部又は一部を

他の事業者に委託すること」

と定義しています。

1つには、清掃の完了報告書のようなものは、親事業者が「使用する」とはいえない、という解釈が思い浮かびます。

つまり、清掃の完了報告書は、清掃業者が自己の債務の履行を立証するために提出するものであって、親事業者がこれを使用するために受け取るものではない、という解釈です。

しかし、たとえば内閣法制局法令用語研究会編『法律用語辞典』(有斐閣)では、「使用」は、

「普通には、その物の有する機能性質によって定まる用方、すなわち、本来の用方に従って消費し、又はそのまま使うこと」

と説明されており、清掃の完了報告書は清掃が完了したことの記録として用いるのが本来の用法そのものですから、これを「使用」に該当しないというのは無理があるでしょう。

(ちなみに、同書の「用方」というのは、一瞬、「用法」の誤記かと思いましたが、同書では『用方(ようほう)』も、

「物の自然的性格に即した本来の経済的目的に合する使用方法。・・・なお、物の用い方、使用の方法という意味では『用法』が用いられる。」

と、きちんと定義されて載っています。さすが法制局、誤記などするはずがありません!)

なので、たとえば親事業者が自社オフィスの清掃を完了したら社内報告書を作成することを業としていた場合には、その社内報告書は、「その使用する」情報成果物であるといわざるをえないと思います。

次に考えられるのは、「委託」していない、という解釈です。

下請法には、「製造委託」や「役務提供委託」といった用語の定義はあるのですが、「委託」という言葉の定義はありません。

一応、下請法運用基準では、

「なお、この法律で『委託』とは、事業者が、他の事業者に対し、給付に係る仕様、内容等を指定して物品等の製造(加工を含む。)若しくは修理、情報成果物の作成又は役務の提供を依頼することをいう。」

という説明がありますが、「仕様、内容等を指定」しているか否かが「委託」か否か(たとえばたんなる売買か)にかかわってくるのは製造委託くらいで、その他の役務提供委託や情報成果物作成委託は基本的にみな「一品もの」なので、この定義の「仕様、内容等を指定」で清掃の完了報告書の範囲を絞るのはちょっと無理でしょう(清掃の完了報告書とはいえ、内容は「一品もの」なわけですし)。

では、「依頼」していない、という解釈は可能でしょうか。

つまり、清掃の完了報告書は清掃業者が自己の債務の弁済を立証するために作成しているのであって、発注者からは「依頼」していない、という理屈です。

この理屈が成り立つ場合も確かにあるでしょう。

でもそういう、清掃業者が自発的に報告書を提出してくる場合には、完了報告書の発注もないわけですから、下請法の適用がないのは当然で、むしろ問題になるのは、契約書で報告書の提出を義務付けているような場合です。

では、契約書で清掃の完了報告書の提出を義務付けている場合にも、「依頼」に該当しないと解することは可能でしょうか。

そこで再度、前出の『法律用語辞典』を見てみると、「委託」は、

「一般に、法律行為又は事実行為を他人又は他の機関に依頼すること」

と説明されています。

私には、この「委託」の定義は、本来、本人がやるべき、あるいはやってもよいような法律行為や事実行為を、あえて他人にやらせる、というニュアンスを含んでいるようにみえます。

実際、「委託」は、「委ねる」、「託す」ということですから、本来本人がやることが予定されているはずです。

とすると、清掃の完了報告書のようなものは、どう転んでも発注者が作成することは不可能、といいますか、発注者がまったく同じ内容の報告書を作っても意味がないわけで、作業を行った本人である清掃業者が作成してこそ意味がある、と思うのです。

とすると、日本語本来の「委託」の意味を尊重して、また、運用指針の「依頼」にそのような意味も込めることとして、仮に契約書で完了報告書の提出を義務付けていても、それは本来下請事業者がやるべきことであって、本来発注者がやるべきことを「依頼」しているものではない、と考えることにしたいと思います。

ちなみに下請法講習テキストにも作業の完了報告書を単独の役務提供委託とみないことをうかがわせる記載がいくつかあります。

たとえば、p42のQ67では、(情報成果物作成委託関係)というくくりの中で、

「プログラムの作成委託において,給付の内容を確認するため,プログラムの納品に併せて下請事業者に最低限の証拠資料(単体テスト結果報告書等)を提出させることとし,プログラムの納品時に証拠資料の提出がない場合には,証拠資料の提出後にプログラムを受領したこととしたいがよいか。」

という設問に対して、

「あらかじめ親事業者と下請事業者との間で,親事業者が支配下においたプログラムが一定の水準を満たしていることを確認した時点で給付を受領したこととすることを合意しており,プログラムの納品に併せて当該確認を行うための証拠資料の提出を求めている場合において,証拠資料の提出が遅れた場合に,証拠資料の提出後にプログラムを受領したこととしても問題はない(ただし,3条書面に記載した納期日にプログラムが親事業者の支配下にある場合には,内容の確認が終了していなくても3条書面上の納期日が支払期日の起算日となる。)。

なお,この場合には,委託した給付の内容に証拠資料の提出を含むこととし3条書面にその旨記載して発注するとともに,証拠資料の作成の対価を含んだ下請代金の額を下請事業者との十分な協議の上で設定して発注する必要がある。」

と回答されています。

(なお、内容は同じなので上記引用は平成18年11月版のテキストからコピペしました。コピペできない設定のPDF版が多いので、後日の便宜のため、18年版を貼り付けておきます。)

「1811koushuu_text.pdf」をダウンロード

この設問からは、証拠資料としての報告書自体を情報成果物とみていることはうかがわれず、あくまでプログラムの作成が情報成果物作成委託だととらえられているようにみえます。

そうでなければ、報告書自体の納期(?)とか、報告書自体の対価(?)とかが必要になるはずです。

「委託した給付の内容に証拠資料の提出を含むこととし」、とか「証拠資料の作成の対価を含んだ下請代金」を定めろとか、報告書自体、委託の対象といっているようにも読めるのが気持ち悪いですが、そこは、「きっとそこまで深く考えてはいないだろう」ということで、目をつむりましょう。

3条書面に書けというのもとても気持ち悪いですが、これも、報告書自体を発注対象とするなら、報告書自体の納期を書かないといけないはずで、そこまでのことはこの回答からはやはり読み取れないと思います。

他の例としては、p43のQ70では、(役務提供委託関係)のくくりの中で、

「Q69: 運送委託において,下請事業者からの配達報告が届いた時点を『役務を提供した日』としてよいか。

A: 『役務を提供した日』とは,当該役務が完了した日であり,報告書の届いた日ではない。」

というのがあり、ここでも、役務の完了報告書それ自体が情報成果物であるという観点からの分析はありません。

と、いうわけで、役務のたんなる完了報告書を作成させることは、独立した情報成果物作成委託とはみない、ということでかまわないと思います。

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