営業秘密に関する刑罰規定(不競法21条1項)
不競法21条1項の規定を以下に整理しておきます。
なお、刑罰規定全般について、図利加害目的は共通の要件です。
また刑法の一般論として、故意が必要です(刑法38条1項)。
第二十一条
次の各号のいずれかに該当する者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 【不正取得罪】
不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的で、〔=図利加害目的〕
詐欺等行為(人を欺き、人に暴行を加え、又は人を脅迫する行為をいう。以下この条において同じ。)
又は
管理侵害行為(財物の窃取、施設への侵入、不正アクセス行為(不正アクセス行為の禁止等に関する法律 (平成十一年法律第百二十八号)第二条第四項 に規定する不正アクセス行為をいう。)その他の保有者の管理を害する行為をいう。以下この条において同じ。)
により、
営業秘密を取得した者
二 【不正取得後使用・開示罪】
詐欺等行為又は管理侵害行為により取得した営業秘密を、
+〔図利加害目的〕
使用し、又は開示した者
三 【正当被開示後領得罪】
営業秘密を保有者から示された者であって、
+〔図利加害目的〕
その営業秘密の管理に係る任務に背き〔=任務違背〕、
次のいずれかに掲げる方法でその営業秘密を領得した者
イ 営業秘密記録媒体等・・・又は営業秘密が化体された物件を横領すること。
ロ 営業秘密記録媒体等の記載若しくは記録について、又は営業秘密が化体された物件について、その複製を作成すること。
ハ 営業秘密記録媒体等の記載又は記録であって、消去すべきものを消去せず、かつ、当該記載又は記録を消去したように仮装すること。
四 【正当被開示・不法領得後使用・開示罪】
営業秘密を保有者から示された者であって、
+〔任務違背〕
前号イからハまでに掲げる方法により領得した営業秘密を、
+〔図利加害目的〕
+〔任務違背〕
使用し、又は開示した者
五 【正当被開示従業員使用・開示罪】
営業秘密を保有者から示されたその役員・・・又は従業者であって、
+〔図利加害目的〕
+〔任務違背〕
その営業秘密を使用し、又は開示した者(前号に掲げる者を除く。)
六 【正当被開示元従業員使用・開示罪】
営業秘密を保有者から示されたその役員又は従業者であった者であって、
+〔図利加害目的〕
その在職中に、その営業秘密の管理に係る任務に背いてその営業秘密の開示の申込みをし、又はその営業秘密の使用若しくは開示について請託を受けて、
その営業秘密をその職を退いた後に使用し、又は開示した者(第四号に掲げる者を除く。)
七 【違法被開示後使用・開示罪】
+〔図利加害目的〕
第二号又は前三号の罪に当たる開示によって営業秘密を取得して、
その営業秘密を使用し、又は開示した者
なお、財物の窃盗等と比べると、
1号(取得罪)≒窃盗罪
2号(不法取得後使用・開示罪)≒窃盗後の不可罰的事後行為
3号(被開示後領得罪)≒横領罪
4号(被開示・不法領得後使用・開示罪)≒横領後不可罰的事後行為 or 背任
5号(被開示従業員使用・開示罪)≒横領後不可罰的事後行為
6号(元従業員使用・開示罪)≒横領後不可罰的事後行為 or 背任
7号(不法被開示後使用・開示罪)≒(窃盗犯からの直接の)盗品等譲受け後不可罰的事後行為
といったイメージでしょうか。
窃盗等の場合は財物領得後の行為は新たな法益侵害を発生させないので不可罰的事後行為になっているのに対して、営業秘密の場合には使用・開示が独立の違法行為となっています。
これは、営業秘密の場合には取得されたら法益侵害が終了するわけではななくて(むしろ営業秘密自体は財物と違って保有者の手元に残るので、取得されただけでは現実的な法益侵害はないとすらいえるかもしれません)、むしろ、そのあとの使用・開示行為で法益が現に侵害されるから、というのが理由でしょう。
また、ベネッセの名簿流出事件などをイメージすると分かりやすいですが、同じ営業秘密を何度でも開示することで何度でも法益(この場合の法益は保有者であるベネッセのそれというより、個人情報の主体の法益、というのが実態に近いのでしょうけれど)が侵害される、というのも情報窃盗の特徴といえるでしょう。
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