平成27年不競法改正案2条1項10号
平成27年不競法改正案2条1項10号であらたな「不正競争」に追加されることになった、技術上の秘密を不正に使用して生成した物の悪意重過失による譲渡等に関する条文を整理しておきます。
不競法改正案2条1項
この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
十 【技術上秘密不正使用物の悪意重過失譲渡等】
第四号〔不正取得〕から前号〔取得後不正開示知情使用・開示〕までに掲げる行為
(技術上の秘密
(営業秘密のうち、技術上の情報であるものをいう。以下同じ。)
を使用する行為に限る。
以下この号において「不正使用行為」という。)
により生じた物を
譲渡し、
引き渡し、
譲渡若しくは引渡しのために展示し、
輸出し、
輸入し、
又は
電気通信回線を通じて提供する行為
(当該物を譲り受けた者
(その譲り受けた時に当該物が不正使用行為により生じた物であることを知らず、かつ、知らないことにつき重大な過失がない者に限る。)
が
当該物を
譲渡し、
引き渡し、
譲渡若しくは引渡しのために展示し、
輸出し、
輸入し、
又は
電気通信回線を通じて提供する行為
を除く。)
従来、不競法では、営業秘密という情報の一定の「取得」、「使用」、「開示」が不正競争になるとされていましたが、改正案の2条1項10号は、情報そのものではなくて、その情報を使用して作られた物(侵害品)に対する差止等を認めるものです。特許法に一歩近づいたといえます。
最後の括弧書きで、「除く」とされている、
「当該物を譲り受けた者」
というのが、その直後の括弧書きで善意無重過失者(シロ)に限定されているので、結局、「除」かれない(=違反になる)のは、悪意重過失者(クロ)に限られる、ということです。
注意すべきなのは、
「(その譲り受けた時に
当該物が不正使用行為により生じた物であることを知らず、
かつ、
知らないことにつき重大な過失がない
者に限る。)」
ということなので、善意無重過失の判定時は、行為者が当該物を譲り受けた時点である、ということが分かります。
つまり、譲り受けた後に悪意になっても改正案10号は適用されません。
逆に、自分の前主が善意であっても抗弁権が切断されたりということはなく、行為者が譲受の時点で悪意または重過失である限り、被害者である営業秘密の保有者は、当該行為者に対して損害賠償や、譲渡等の差止をすることができると考えられます。
ちなみに、
「第四号〔不正取得〕から前号〔取得後不正開示知情使用・開示〕までに掲げる行為(技術上の秘密・・・・を使用する行為に限る。」
の部分を書き下すと、
4号は、
「・・・不正取得行為により取得した営業秘密を使用・・・する行為」
の部分が該当し、
5号は、
「その営業秘密について不正取得行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで・・・その取得した営業秘密を使用・・・する行為」
の部分が該当し、
6号は、
「その取得した後にその営業秘密について不正取得行為が介在したことを知って、又は重大な過失により知らないでその取得した営業秘密を使用・・・する行為」
の部分が該当し、
7号は、
「営業秘密を保有する事業者(以下「保有者」という。)からその営業秘密を示された場合において、不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用・・・する行為」
の部分が該当し、
8号は、
「その営業秘密について不正開示行為(前号に規定する場合において同号に規定する目的でその営業秘密を開示する行為又は秘密を守る法律上の義務に違反してその営業秘密を開示する行為をいう。以下同じ。)であること若しくはその営業秘密について不正開示行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで・・・その取得した営業秘密を使用・・・する行為 」
の部分が該当し、
9号は、
「その取得した後にその営業秘密について不正開示行為があったこと若しくはその営業秘密について不正開示行為が介在したことを知って、又は重大な過失により知らないでその取得した営業秘密を使用・・・する行為」
の部分が該当します。
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