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2015年6月

2015年6月22日 (月)

平成26年度企業結合事例集について

平成26年度企業結合事例集が6月10日に公表されました

こちらも、気が付いたことを記しておきます。

まず全体的に、今回、経済分析を用いたことを前面に押し出すものが多くなりました。

これまでも経済分析は行われていたようですが、あまり事例集にもはっきり書かれていなかったので、今回の傾向はたいへん結構なことだと思います。

あとから振り返ったら、平成26年度は企業結合課の経済分析元年だった、ということになるかもしれません。

■ 事例1 佐藤食品によるきむら食品の包装もち製造販売事業譲受け

合計市場シェアが40%程度なので、とくに大きな問題もなく認められています。

若い人がお餅の食べなくなったので量販店にとって魅力的でない、というのが需要者からの競争圧力として考慮されているのが興味深いです。

なお、きむら食品が民事再生中という事情も考慮されています。

■ 事例2 マースによるP&Gのペットフード事業の譲受け

ドッグフードとキャットフードで市場を分けて、しかもそれぞれの中で「ドライタイプ」、「ウェットタイプ」、「療養食」と分けていますが、ちょっと狭すぎるんじゃないでしょうか。

犬と猫は味の嗜好が違うと説明されていますが、両者で必要な製造設備や技術、ノウハウは同じようなもので、そうすると、供給の代替性についてはそば屋とうどん屋くらいの違いしかないような気が、私にはします。

ひょっとしたら、需要の代替性の点からも、犬にとってのキャットフードは、関西人にとっての関東風うどんと同じくらいの選択肢かもしれません。(半分冗談です)

もう少しだけ真面目にいうと、需要の代替性という場合の需要者は、もちろん犬や猫ではなくて、飼い主です。

なので、需要の代替性を考えるときの正しい質問は、

「犬はキャットフードを食べるか」

ではなくて、

「犬の飼い主は、(ドッグフードの値段が上がったからといって)犬にキャットフードをやるか」

です。

■ 事例3 王子製紙の中越パルプ株式追加取得

王子製紙が10%弱から20%強まで中越パルプの株を買い増した事案です。

製紙業界で過去協調的な値上げをされていたことが、非常に重く見られています。

企業結合というのは、理屈ではなくて、究極的には将来の企業行動の予想という側面があるので、過去の行動が考慮されるのはやむを得ないでしょう。

そのため、両社の6品種の競合事業は独立して行い、これらについて事業提携するときには公取の事前了解を得ること、取締役の派遣は1人までにして、しかも社外にすること、問題解消措置措置の実施状況を年1回公取に報告すること、など、かなり厳しい条件がついています。

10%だと条件がついていなかったのが、20%だとここまで条件が付いたということで、今後も少数株式取得の問題解消措置の限界事例として、参考になると思われます。

需要の代替性について経済分析を用いて、異なる商品の価格間の相関関係と、価格比の定常性(ある系列がある時点において一定水準から乖離しても時間の経過とともに一定水準へ復帰する性質)を参考に判断していることが目を引きます。

ところで細かいことですが、いくつかの品種間の供給の代替性を論じる中で、

「これらの品種間において供給者の構成が一致しているわけではなく、供給者の市場シェアも相当程度異なっているため、供給の代替性が認められることのみをもって、一定の取引分野の商品範囲を○○○とすることは必ずしも適切ではない」

ということをいっています。

たとえば、「塗工紙等」の一種である「アート紙」について、

「塗工紙等は、標準的な塗工紙用抄紙機の生産設備において、特段の設備対応を要することなく生産することが可能であるため、塗工紙等の間には一定の供給の代替性があると考えられる。

しかし、塗工紙等のうちの各品種間において供給者の構成が一致しているわけではなく、供給者の市場シェアも品種ごとに相当異なっているため、この点〔=塗工紙等の間には一定の供給の代替性があるという点〕のみをもって、一定の取引分野の商品範囲を塗工紙等として画定することは必ずしも適切ではないと考えられる。」

と述べられています(16頁~17頁)。

たとえば、

塗工紙等

の中に

アート紙 (市場シェア:王子70%、X社20%、中越10%)

塗工紙等A (Y社60%、Z社40%)

があるとして、アート紙と塗工紙等Aとで、競争者の顔ぶれも市場シェアも全然違うじゃないか、なので2つを同じ市場とはみない、という理屈です。

でもこういう、競争者の顔ぶれがまったく異なる場合であっても、供給の代替性があるなら(=アート紙の値段が上がった時にY社が塗工紙等Aの生産をアート紙に振り向けるなら)、市場画定で考慮するというのがガイドラインの立場だったのではないでしょうか。

アート紙の競争者の顔ぶれと、塗工紙等Aの競争者の顔ぶれが同じかどうかは、市場画定には本質的には関係のないことであるはずです。まして、両商品で供給者の市場シェアまで一致している必要はないはずです。

たしかに感覚的には、供給の代替性がある商品間で、競争者の顔ぶれも市場シェアも似たようなものだったら、全部まとめて1つの市場だといいやすい、というのは分からないでもないですが(そういう場合だったら私も安心して「全部まとめて1つの市場ですね」とアドバイスするでしょう)、でも、理屈の上では、やっぱり変です。

供給の代替性がある(ようにみえる)にもかかわらず、競争者の顔ぶれがまったく違ったら、生産設備は共通だけれど、本当は供給の代替性はないのではないかを疑うべきで、それは歴史的な経緯であったり、ブランドイメージや販路や、顧客の使い慣れ(慣性)による事実上の参入障壁かもしれません。

なので、この部分の公取の判断は、結論としては正しい場合が多いものの(いわばルールオブサム)、一般論として理屈が独り歩きするのは、ちょっといかがなものかなと思います。

■ 事例4 ノバルティスによるグラクソ・スミスクラインの抗がん剤事業の譲受け

この事例は、承認待ちの医薬品(いわゆるパイプライン)について競争への影響を判断していることが目にとまります。(37頁)

以前、「Getting the Deal Through, Pharmaceutical Antitrust」(2012)という文献に寄稿したときの設問に、日本ではパイプラインの競争判断はどうやっているのか、という設問があり、外国ではそういう問題があるんだなぁと思った記憶があります。

■ 事例5 コスモ、昭和シェル、住商、東燃ゼネラルによるLPガス事業の統合

この事例では、価格決定フォーミュラが各社ことなるので価格等について共通認識にいたるのは容易ではない、と認定されています。(44頁)

LPガスは比較的コモディティ的な商品だと思うので、価格フォーミュラが違うといっても結果は似たようなものになるのではないかと想像してしまいそうですが、そうではないということですね。

私もかつて企業結合でクライアントから価格決定のフォーミュラを見せてもらったことがあります。もちろん相手方のは見ていませんので、似たり寄ったりかどうかは判断できませんでしたし、なので、フォーミュラが各社違うとかの主張すらもしませんでした。

各社のフォーミュラを全部見ることができる当局だからこそ、可能な判断なのでしょう。

■ 事例6 CKサンエツによる日本伸銅の株式取得

この事例では、錫リフローめっきの直接の需要者である端子ピン加工業者には材専用の加工設備しかない事業者が存在する(なので、本件株式取得により当事会社の錫リフローめっき線の市場シェアが7割になって、値上げされるかもしれない)にもかかわらず、川下のコネクタ用端子ピン需要者であるコネクタメーカーが材を用いた端子ピンと材を用いた端子ピンを価格や品質で使い分けていることを理由に、需要者からの競争圧力があると判断しています。

つまり、

コネクタメーカー→端子ピン加工業者(線材加工)→当事会社

          →端子ピン加工業者(条材加工)→錫リフローめっき条メーカー

というふうに、競争圧力がはたらく、より具体的には、線材の価格を上げるとコネクタメーカーが条材に乗り換えてしまうので、上げようにもあげられない、ということでしょう。

物事の本質をみれば、線材と条材が競争しているということなのですが、直接の需要者である加工業者が線材から条材に乗り換えられないときには、線材と条材は別市場という判断になりがちです。

こういうパターン(直接の需要者との関係では競合していないけれど、川下では競合している)はよく実務で発生します。

市場を形式的に判断する公取の傾向からすると、一部の需要者(=線材加工業者)でも排除されるなら違法だ、となりがちだったのですが、今回、そういう形式的な判断はしないのだということが明らかにされたのは、たいへん結構なことだと思います。

■ 事例7 ジンマーとバイオメットの統合(医療機器製造販売)

この事例では、問題解消措置として資産譲渡が求められるともに、統合実行後一定期間内に譲渡先と契約できなかったときには事業処分受託者(トラスティ trustee)が売却をする、ということになっています(67頁)。

トラスティは米国では一般的な制度なので、米国のレメディに平仄を合わせたのでしょう。

今後、純粋に国内でのM&Aにも採用されるための下地になるのではないでしょうか。

また、経済分析で、市場集中度がメーカー価格にプラスの影響を持つことがわかったとされています(66頁)。

手続的なところでは、1次審査で需要者へのヒアリングが行われたことが注目されます(52頁)。

また王子中越の事例と同じく、2つの商品で供給性が認められても1つの市場とは認めない(供給者の構成や市場シェアの状況が異なるので)という判断がされています。(56頁)

■ 事例8 KADOKAWAとドワンゴの共同株式移転

この事例では、有料動画配信事業などが問題になり、双方向市場では間接ネットワーク効果(コンテンツが増えると需要者の満足度が上がり、需要者の数が増えるとコンテンツが増える、という関係があること)が存在するので、ドワンゴには顧客閉鎖(ドワンゴが競争者からコンテンツ調達を拒否すること)のインセンティブがない、と判断されています。(73頁)

たしかにそのとおりでしょう。

2015年6月18日 (木)

平成26年度相談事例集について

平成26年度の相談事例集が出ました

気が付いたことをいくつか記しておきます。

■ 事例1

マンション賃貸業者が、入居者に対して、電力小売事業を行う子会社から電力供給を受けることを義務付けることが独禁法上問題ないとした事例です。

結論は問題ないでしょう。事例では、一般電気事業者よりも安く当該子会社は電力を供給するとされていますが、高くても問題ないと思います。(そんなことしたら入居者が減ってしまうだけなので。)

■ 事例2

情報サービス提供業者(インターネットのプロバイダでしょうか)が、代理店に取次・料金回収を委託したうえで、ユーザー料金は自社で決める、というのが問題ないとされました。

再販の、いわゆる委託販売の例外のようなものですね(商品ではなく、サービスですが)。特に問題ないでしょう。

■ 事例3

インテリア用品メーカーが小売店に安売り広告を禁止するのが独禁法違反となる(「おそれ」ではなく)とされた事例です。

安売り禁止目的であることは明らかで(広告さえしなければ安売り自体は禁止しない、という言いわけは通りません。)違反となるのは当然でしょう。よく公取に相談にいったもんだと思います。

■ 事例4

健康器具メーカーが、虚偽誇大広告を防ぐため、自社のひな形を用いて商品説明することを小売業者に義務付けることが、問題ないとされた事例です。

ひな形以外の説明をすることを禁止するのかは事例からは明らかではありませんが、おそらく禁止しても問題ないのでしょう。

■ 事例5

電子機器メーカーが小売業者に対面販売を義務付けるのが独禁法上問題となる(「おそれ」ではなく!)という事例です。

事例では、「小売店からの価格に関する苦情を受けて」とか、いかにも問題ありそうな事情が述べられていますが、こういう事情があると対面販売の合理性が疑われるので、違反となるのもやむを得ないところでしょうか。

あと事例では、一般消費者から操作方法に関する問い合わせはほとんどなかった、という事実が述べられています。

問い合わせが仮にあっても、問い合わせがあってから答えていれば問題ないのであれば、問い合わせがあったことが事前に対面販売を義務付ける必要性を裏付けると考えるのはちょっと無理があります。

なので、問い合わせすらなかった(のだから、まして、事前に説明しなかったために事故や苦情があったわけでもなかったのだろう)、という趣旨でしょう。

決して、問い合わせを受けた実績があったら対面販売が正当化されるというわけではありません。

■ 事例6

機械メーカーが小売業者に対して一般消費者への商品説明を義務付けるのが、独禁法上問題ないとされた事例です。事例5とセットですね。

説明方法としてネット販売に配慮して、「自社が作成した動画の小売業者のショッピングサイトへの掲載を求めることを検討している」というのが目を惹きます。

対面販売の義務付けは基本的にダメなんだ、というのが公取の現在のスタンスであることが、事例5と6をみるとよくわかります。

でも論理的に考えると、対面販売の義務付けでネット販売を事実上禁止するのが問題だというなら、ネット販売を有無を言わさず禁止するのはなおさらだめなはずです。

でもそこまで言い切っていいのか、疑問もあります。ネット販売はブランドイメージがそこなわれるから全面的にやめてほしいという商品は絶対あるはずで、そういう商品のメーカーがネット販売を禁じたら違法なのか、といのが、もっと一般的な問題です。

事例5でも、対面販売を義務付けるとか、いかにも口実っぽいやり方ではなく、この商品はブランドイメージが大事なのでネット販売自体を禁じる、と相談したらどうだったんでしょうね。

対面販売は安全性の問題がメインなので公取もまだ合理性が判断しやすいでしょうが、ブランドイメージを守るのにネット販売禁止が合理的か、というのは、実はなかなか判断が難しいと思います。(すくなくとも、対面販売の義務付けよりは、ネット販売全面禁止の方が、緩やかに認めてよさそうな気が、感覚的にはします。)

■ 事例7

市場シェア6割の化学品メーカーが生産をやめ、シェア3割の唯一の国内競合メーカーからOEM供給を受けることが、独禁法上問題ないとされた事例です。

これはびっくりしましたね。

何がビックリかというと、なんとなくこういうケースは本気でカルテルとして調査する気はないんだろうなと思っていましたが(←これは適法違法というより、公取の事件選択基準の問題です)、ここまで正面切って相談事例集に載せてきたことがビックリです。

回答では、OEM後も販売は独自に行うというのがプラスに評価されていますが、OEMにしたら当事者間での価格競争がなくなるのは当然です(製造受託側は、自社商品の売上に響かないレベルで委託側への販売価格を決めるに決まっているので。)

本件でも生産をやめる側は自社ブランドを維持するだけなので(生産は完全撤退)、極端にいえば、複占市場で合意で一方が撤退しているに等しいと思います。

ブランドや販路に競争(差別化)の源泉があるなら話は違うかもしれませんが、化学品ではあんまりそういうことはなさそうな気がします。

輸入も現状1割どまりだし、「輸入品のシェアが年々拡大し、今後も拡大する見込みである」という、きわめて抽象的なものです。

なので、これだとOEMなら何でもOKにみえます。

平成13年度事例8(市場シェア50%弱のA社と40%強のB社の相互OEMを違反のおそれありと判断)と比べても、ずいぶんとゆるくなったものです。

これだけシェアが高くてOEMがOKなら、一方が合意で撤退するのもOKだという議論への強力なサポートになると思います。

とても使い勝手の良い回答例が出たので、今後は大いに活用させていただこうと思います。

■ 事例8

加工品メーカー同士で、一方が製造設備削減分を他方からOEM供給受けるのが問題ないとされた事例です。

いろいろ細かいことをいっていますが(理論的には正しいことをいっているのですが)、事例7が無条件にOKといってしまった後では、霞んで見えます。

■ 事例9

国内測定器メーカー5社(合計シェア100%)が、測定機器の測定方法を統一することが独禁法違反のおそれありとされた事例です。

「測定方法は測定機において重要な『品質』なので、品質カルテルだ」という公取の理屈は、抽象論としては理解できるのですが、5社でこういう取組をしようとしたり、わざわざ公取に相談に行ったということは、露骨にカルテルをやろうとしていたわけではなさそうなはずで、そうすると、何か効率性が生じるというようなことをいう余地はなかったのかな、という気がします。

それと、「測定方法」というのが品質にどの程度影響があるのか(競争の実質的制限といえるのか)、というのも気になります。

ひょっとしたらどの測定方法をとるかで品質差はほとんどなく、測定方法以外の部分(たとえば加工技術)で品質差が生じたのかもしれません。

そういうことを考えると、相談事例ではもう少し丁寧に説明してほしかったと思います(守秘義務の関係で難しいのかもしれませんが)。

■ 事例10

ある県の浄化槽の水質検査業者などの団体が標準料金表を策定しようとしたのが独禁法違反となるとした事例です。

結論はまあこんなもんだろうと思いますが、次の事例11では値上げしないことを「要請」までしているのに、事例10では、「基準」となるだけで強制や要請の要素は認定されてないのに違反とされていることに、ちょっとバランスの悪さを感じます。

■ 事例11

ホテルの団体が「わが国で開催される国際的な大規模行事」(きっと東京オリンピックのことですね)の期間中に過度な値上げをしないよう会員ホテルに要請するのが独禁法上問題ないとされた事例です。

私はこれはおかしいと思います。

回答では、

「過度な値上げの抑制を一般的に要請する限りにおいては」

問題ないとか、

「宿泊料金の設定の基準を決定するものではない」

から問題ないとかいっていますが、疑問です。

まず、値上げの抑制だから問題ないというのは、理屈としておかしいです。

自由競争が資源の効率的分配を実現するのだという経済理論も理由ですが、もっと分かりやすいところでは、最高再販売価格拘束も最低再販売価格拘束と同様に違法であるとしているのと、明らかに矛盾しています。

それから、基準をきめなければいいとか、一般的抽象的要請だからいいとかいうのも、説得力がありません。

具体的な金額を決めても、要請ですらなく、あくまで参考価格ということはいくらでもあるのであって、決定打にはなりえません。

強制ではなく「要請」なのでよい、という理屈も、値段に関するものである以上、かなり危ないです。

少なくとも私は、価格については、「強制ではなく『要請』のレベルなら業界団体がやっても問題ない」とは、怖くてとてもアドバイスできません。

どうもオリンピックということで、公取は特別扱いしてしまったのではないでしょうか。

■ 事例12

医療機器メーカーの団体が、会員に対して、中古品ユーザーに対する消耗品の販売を禁止させることが問題となるおそれがあるとした事例です。

これは露骨な中古品販売業者の排除ですね。

保守点検をしてるかユーザーに確認すれば足り、消耗品の販売を一律に禁止することに合理性はないという公取の判断も正しいと思います。

ただ、ユーザーに確認して保守点検を受けていないことを認めた場合、消耗品の販売を禁じてよいか、というのが本件の問題の本質だと思います。

公取の判断は、ユーザーに確認した結果保守点検を受けていないことが分かれば供給を拒絶してよいことが前提になっているように読めますが(そうでないと確認する意味がない)、公取の言いたいことはきっとそうではないでしょう。

世の中では、各社単独の判断の場合ですら、つまり、保守点検を受けていないユーザーに対する消耗品の販売を各社が独自の判断で拒絶する場合ですら、独禁法上本当に大丈夫なのか心配する、というのが通常の感覚だと思います。

たとえば、インクジェットプリンタのメーカーが、リサイクル品などの非純正カートリッジを使用した場合には修理を受けないとか保証の対象外とする、というような場合で、それでも「大丈夫か?」と心配するのが、少なくとも有力なメーカーの感覚だと思います。

ですから、確認した結果保守点検していないことが分かった時には消耗品の販売を拒絶する、ということを業界団体できめるのは、やっぱりまずいと思います。

そういう意味でいうと、相談事例の説明はちょっと舌足らずというか、誤解を招きかねない表現だと思います。

2015年6月15日 (月)

平成27年不競法改正案2条1項10号

平成27年不競法改正案2条1項10号であらたな「不正競争」に追加されることになった、技術上の秘密を不正に使用して生成した物の悪意重過失による譲渡等に関する条文を整理しておきます。

不競法改正案2条1項

この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。 

十 【技術上秘密不正使用物の悪意重過失譲渡等】

第四号〔不正取得〕から前号〔取得後不正開示知情使用・開示〕までに掲げる行為

(技術上の秘密

(営業秘密のうち、技術上の情報であるものをいう。以下同じ。)

使用する行為に限る

以下この号において「不正使用行為」という。)

により生じた物を

譲渡し、

引き渡し、

譲渡若しくは引渡しのために展示し、

輸出し、

輸入し、

又は

電気通信回線を通じて提供する行為

(当該物を譲り受けた者

(その譲り受けたに当該物が不正使用行為により生じた物であることを知ら、かつ、知らないことにつき重大な過失がない者に限る。)

当該物を

譲渡し、

引き渡し、

譲渡若しくは引渡しのために展示し、

輸出し、

輸入し、

又は

電気通信回線を通じて提供する行為

除く。)

従来、不競法では、営業秘密という情報の一定の「取得」、「使用」、「開示」が不正競争になるとされていましたが、改正案の2条1項10号は、情報そのものではなくて、その情報を使用して作られた物(侵害品)に対する差止等を認めるものです。特許法に一歩近づいたといえます。

最後の括弧書きで、「除く」とされている、

「当該物を譲り受けた者」

というのが、その直後の括弧書きで善意無重過失者(シロ)に限定されているので、結局、「除」かれない(=違反になる)のは、悪意重過失者(クロ)に限られる、ということです。

注意すべきなのは、

「(その譲り受けた時

当該物が不正使用行為により生じた物であることを知らず、

かつ、

知らないことにつき重大な過失がない

者に限る。)」

ということなので、善意無重過失の判定時は、行為者が当該物を譲り受けた時点である、ということが分かります。

つまり、譲り受けた後に悪意になっても改正案10号は適用されません。

逆に、自分の前主が善意であっても抗弁権が切断されたりということはなく、行為者が譲受の時点で悪意または重過失である限り、被害者である営業秘密の保有者は、当該行為者に対して損害賠償や、譲渡等の差止をすることができると考えられます。

ちなみに、

「第四号〔不正取得〕から前号〔取得後不正開示知情使用・開示〕までに掲げる行為(技術上の秘密・・・・を使用する行為に限る。」

の部分を書き下すと、

4号は、

「・・・不正取得行為により取得した営業秘密を使用・・・する行為」

の部分が該当し、

5号は、

「その営業秘密について不正取得行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで・・・その取得した営業秘密を使用・・・する行為」

の部分が該当し、

6号は、

「その取得した後にその営業秘密について不正取得行為が介在したことを知って、又は重大な過失により知らないでその取得した営業秘密を使用・・・する行為」

の部分が該当し、

7号は、

「営業秘密を保有する事業者(以下「保有者」という。)からその営業秘密を示された場合において、不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用・・・する行為」

の部分が該当し、

8号は、

「その営業秘密について不正開示行為(前号に規定する場合において同号に規定する目的でその営業秘密を開示する行為又は秘密を守る法律上の義務に違反してその営業秘密を開示する行為をいう。以下同じ。)であること若しくはその営業秘密について不正開示行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで・・・その取得した営業秘密を使用・・・する行為 」

の部分が該当し、

9号は、

「その取得した後にその営業秘密について不正開示行為があったこと若しくはその営業秘密について不正開示行為が介在したことを知って、又は重大な過失により知らないでその取得した営業秘密を使用・・・する行為」

の部分が該当します。

2015年6月14日 (日)

営業秘密に関する「不正競争」

不競法2条1項4号から9号の規定を以下に整理しておきます。

(定義)

第二条  この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。

四 【不正取得、不正取得後使用・開示】

窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段により営業秘密を取得する行為(以下「不正取得行為」という。)

又は

不正取得行為により取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為(秘密を保持しつつ特定の者に示すことを含む。以下同じ。)

五 【不正取得重過失取得、不正取得重過失取得後使用・開示】

その営業秘密について不正取得行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで〔=不正取得重過失〕

営業秘密を取得し、

又は

その取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する

行為

六 【善意取得後不正取得重過失使用・開示】

その取得した後

+〔不正取得重過失〕

その取得した営業秘密を

使用し、

又は

開示する

行為

七 【被開示後不正使用・開示】

営業秘密を保有する事業者(以下「保有者」という。)からその営業秘密を示された場合において、

不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的で、〔=図利加害目的〕

その営業秘密を

使用し、

又は

開示する

行為

八 【不正開示重過失取得、不正開示重過失取得後使用・開示】

その営業秘密について不正開示行為

(前号に規定する場合において同号に規定する目的でその営業秘密を開示する行為

又は

秘密を守る法律上の義務に違反してその営業秘密を開示する行為をいう。以下同じ。)

であること

若しくは

その営業秘密について不正開示行為が介在したこと

を知って、若しくは重大な過失により知らないで〔=不正開示重過失取得〕

営業秘密を取得し、

又は

その取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為

九 【善意取得後不正開示重過失使用・開示】

その取得した後に

その営業秘密について不正開示行為があったこと若しくはその営業秘密について不正開示行為が介在したことを知って、又は重大な過失により知らないで

その取得した営業秘密を

使用し、

又は

開示する

行為

なお、やや強引に刑法の窃盗等と比べると、

四 【不正取得、不正取得後使用・開示】≒窃盗・詐欺・恐喝・強盗、不可罰的事後行為

五 【不正取得重過失取得、不正取得重過失取得後使用・開示】≒重過失による盗品等譲受け、重過失による盗品等譲受け等の不可罰的事後行為

六 【善意取得後不正取得重過失使用・開示】≒事後重過失盗品等譲受け等の不可罰的事後行為

七 【被開示後不正使用・開示】≒横領 or 横領後の不可罰的事後行為

八 【不正開示重過失取得、不正開示重過失取得後使用・開示】≒重過失による盗品等譲受け、重過失による盗品等譲受け後の不可罰的事後行為

九 【善意取得後不正開示重過失使用・開示】≒事後重過失の不可罰的事後行為

といったかんじでしょうか。

2015年6月13日 (土)

営業秘密に関する刑罰規定(不競法21条1項)

不競法21条1項の規定を以下に整理しておきます。

なお、刑罰規定全般について、図利加害目的は共通の要件です。

また刑法の一般論として、故意が必要です(刑法38条1項)。

第二十一条  

次の各号のいずれかに該当する者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

一  【不正取得罪】

不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的で、〔=図利加害目的〕

詐欺等行為(人を欺き、人に暴行を加え、又は人を脅迫する行為をいう。以下この条において同じ。)

又は

管理侵害行為(財物の窃取、施設への侵入、不正アクセス行為(不正アクセス行為の禁止等に関する法律 (平成十一年法律第百二十八号)第二条第四項 に規定する不正アクセス行為をいう。)その他の保有者の管理を害する行為をいう。以下この条において同じ。)

により、

営業秘密を取得した者

二 【不正取得後使用・開示罪】

詐欺等行為又は管理侵害行為により取得した営業秘密を、

+〔図利加害目的〕

使用し、又は開示した者

三 【正当被開示後領得罪】

営業秘密を保有者から示された者であって、

+〔図利加害目的〕

その営業秘密の管理に係る任務に背き〔=任務違背〕、

次のいずれかに掲げる方法でその営業秘密を領得した者

イ 営業秘密記録媒体等・・・又は営業秘密が化体された物件を横領すること。

ロ 営業秘密記録媒体等の記載若しくは記録について、又は営業秘密が化体された物件について、その複製を作成すること。

ハ 営業秘密記録媒体等の記載又は記録であって、消去すべきものを消去せず、かつ、当該記載又は記録を消去したように仮装すること。

四 【正当被開示・不法領得後使用・開示罪】

営業秘密を保有者から示された者であって、

+〔任務違背〕

前号イからハまでに掲げる方法により領得した営業秘密を、

+〔図利加害目的〕

+〔任務違背〕

使用し、又は開示した者

五 【正当被開示従業員使用・開示罪】

営業秘密を保有者から示されたその役員・・・又は従業者であって、

+〔図利加害目的〕

+〔任務違背〕

その営業秘密を使用し、又は開示した者(前号に掲げる者を除く。)

六 【正当被開示元従業員使用・開示罪】

営業秘密を保有者から示されたその役員又は従業者であった者であって、

+〔図利加害目的〕

その在職中に、その営業秘密の管理に係る任務に背いてその営業秘密の開示の申込みをし、又はその営業秘密の使用若しくは開示について請託を受けて、

その営業秘密をその職を退いた後に使用し、又は開示した者(第四号に掲げる者を除く。)

七 【違法被開示後使用・開示罪】

+〔図利加害目的〕

第二号又は前三号の罪に当たる開示によって営業秘密を取得して、

その営業秘密を使用し、又は開示した者

なお、財物の窃盗等と比べると、

1号(取得罪)≒窃盗罪

2号(不法取得後使用・開示罪)≒窃盗後の不可罰的事後行為

3号(被開示後領得罪)≒横領罪

4号(被開示・不法領得後使用・開示罪)≒横領後不可罰的事後行為 or 背任

5号(被開示従業員使用・開示罪)≒横領後不可罰的事後行為

6号(元従業員使用・開示罪)≒横領後不可罰的事後行為 or 背任

7号(不法被開示後使用・開示罪)≒(窃盗犯からの直接の)盗品等譲受け後不可罰的事後行為

といったイメージでしょうか。

窃盗等の場合は財物領得後の行為は新たな法益侵害を発生させないので不可罰的事後行為になっているのに対して、営業秘密の場合には使用・開示が独立の違法行為となっています。

これは、営業秘密の場合には取得されたら法益侵害が終了するわけではななくて(むしろ営業秘密自体は財物と違って保有者の手元に残るので、取得されただけでは現実的な法益侵害はないとすらいえるかもしれません)、むしろ、そのあとの使用・開示行為で法益が現に侵害されるから、というのが理由でしょう。

また、ベネッセの名簿流出事件などをイメージすると分かりやすいですが、同じ営業秘密を何度でも開示することで何度でも法益(この場合の法益は保有者であるベネッセのそれというより、個人情報の主体の法益、というのが実態に近いのでしょうけれど)が侵害される、というのも情報窃盗の特徴といえるでしょう。

2015年6月 3日 (水)

「それなりに」の英訳

流通取引慣行ガイドラインが一部改正されましたが、改正ガイドラインでは、販売方法の制限について、最高裁判例に従って、

それなりの合理的な理由」

という文言に改められています。

これを公取委の英訳でどう訳しているのか見てみたら、

plausibly rational reasons」

と翻訳されていました。

「それなり」という曖昧な言葉を、かなり苦心して訳されたのではないかと思います。

plausibleというのは、日本語に訳しにくい言葉ですが、

「もっともらしい」

とか

「まことしやかな」

とか訳されることが多いようです。

この和訳を鵜呑みにすると、公取訳は、「それなりに」を、「もっともらしい」、「まことしやかに」と訳していることになり、たいぶ意味がずれるようにも見えます。

しかし、英語本来の「plausible」の意味は、本来そこまで怪しげな意味ではなくって、たとえばOxford Advanced Learners' Dictionaryでは、

「(of an excuse or explanation) reasonable and likely to be true」

「(弁解や説明が)合理的で、かつ、真実である可能性が高い」

と説明されており、かなりポジティブな言葉であることが分かります。

私も、plausibleという言葉を、あまりネガティブな意味でネイティブスピーカーが使っているのを聞いたことがありません。

一方、「それなり」を『新明解国語辞典』で調べると、

「十分ではないが、予測された程度に応じたものだと評価できる様子を表す。

『―におもしろい(意義がある・評価する)/―の価値はある』。」

と説明されています。(「まあそんなもんだろう」という感じでしょうか。)

「それなり」の一般的な語感はまさにその通りで、さすが『新明解』だと思います。

ただ、最高裁判例の「それなりに」というのを、まさに『新明解』のような意味と理解してよいかどうは、けっこう悩ましいところではないかと思います。

最高裁の「それなり」というのは、たぶん、

「裁判所は、販売方法の合理性みたいな、ビジネスのことはよくわかりませんから、合理性はあまり厳格にはみませんよ」

というメッセージなのではないでしょうか。

そうすると、「それなり」の本来の意味は『新明解』のいうようにかなりいい加減なものですが、最高裁の意図はそこまでいい加減なものではないと善解すると、そこそこポジティブなニュアンスのある「plausible」と訳すのは、あり得る訳ではないかという気がします。

また、でき上がりの、

「plausibly rational reasons」

という規範全体をみると、客観的な(神様の目から見た)「reasonable reason」ではなくて、「plausibly」という、やや曖昧さを残す規範となっていることが何となく伝わるので、そういう意味でも、これはこれでうまい訳かも、という気もします。

(法規範自体に、「plausibly」なんていうあいまいな言葉を使うこと自体について、英米国人は、ぎょっとするかもしれませんが。)

というわけで、「それなり」は、公取の訳に従って、「plausibly」と訳そうと思います。

「日本の判決文を英訳しようとするとうまく訳せないことが多くて困る」と、かつて研究者の方がおっしゃっていましたが、たしかにこの「それなり」も、判決を英訳すると妙な言葉や曖昧な論理を使っている場合にはすぐにばれてしまう、という好例のように思われました。

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