村上他編著『条解独占禁止法』の8条の3の解説
村上他編著『条解独占禁止法』の8条の3(事業者団体が違反行為者である場合の課徴金)の解説(p393)で、
「かかる違反行為〔注・不当な取引制限等〕により利得を得るのは構成事業者であることから、当該事業者団体の構成事業者に対して課徴金が賦課される。」
と述べられています。
しかし、この解説だけでは、すべての構成事業者に対して課徴金が課せられるかのように読めてしまい(当然、売上が必要ですが)、少し不親切ではないでしょうか。たまたま調べものをしていて、私はそう感じました。
実際には、課徴金を課せられるのは、違反行為の実行行為としての事業活動を行った構成事業者に限られます。
というのは、課徴金算定期間が、
「当該行為の実行としての事業活動を行つた日から当該行為の実行としての事業活動がなくなる日までの期間」
と定められており(7条の2第1項、8条の3で準用)、違反行為に何ら関与していない構成事業者は、「実行としての事業活動」がないので、課徴金算定期間もゼロになるからです。
「実行としての事業活動」を行った構成事業者にのみ課徴金がかされることは、たとえば、『注釈独占禁止法』には、
「・・・そこで団体の決定に従った行動をとらず、違反行為の『実行としての事業活動』がなかったとされた構成事業者には、課徴金は課されない〔引用事例省略〕。
その意味で、実行としての事業活動の要件は、事業者団体の行為に関しては、実行期間の特定に加えて、課徴金の対象となる構成事業者を特定するという機能をあわせもっている。」(p219)
と明記されていますし(多数の事例も引用)、『論点体系独占禁止法』にも、
「課徴金納付義務者は、事業者団体による違反行為の実行として事業活動を行った構成事業者である」(p233)
と明記されています。
さらにいえば、初版に相当する厚谷他編著『条解独占禁止法』でも、
「事業者団体による違反の事例では、団体の決定に従わない構成員もみられ、そのような事業者は当然、カルテルの実行としての活動がないため、課徴金を納付する義務を負わない。」(p316)
と、端的に述べられています。
村上『条解』には、実行としての事業活動を行った構成事業者のみに課徴金が課されるとの記載はありませんでした。
村上『条解』の該当箇所には8条の3による読み替え条文が書いてあり、それはそれで便利なので否定はしませんが(ちなみに読み替え条文は、以前私もこのブログで書きました)、せっかくの本格コンメンタールなのですから、もうちょっと本体の説明を丁寧にしていただけたらありがたかったのに、とユーザーの立場から思います。
類書を後から出す場合には先行文献の内容はカバーする、という戦略を出版社が採ることがありますが(そうすると、ユーザーは「こっち(=後から出た類書)があればいいか。」という気になる)、少なくとも村上他『条解』は、『注釈独占禁止法』や厚谷『条解』に対してそのような関係にはないことがわかります。
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