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2015年5月28日 (木)

村上他編著『条解独占禁止法』の代金減額に関する気になる記述

村上他編著『条解独占禁止法』p920の、下請代金の減額が許される「下請事業者の責に帰すべき理由」の説明で、

「『下請事業者の責に帰すべき理由』があるとして、下請代金の額を減じることができるのは、具体的には、次の場合〔注・瑕疵がある場合など〕に限定される。」

としています。

ここまでは、「次の場合」の①~③も含め、下請法講習テキストの記述と同じなので問題ないのですが、問題なのは、それに続けて、村上『条解』では、

したがって、下請事業者と下請代金の減額を行うことについてあらかじめ約束ができているような場合でも、その特約を理由にして下請代金の減額を行うことは許されない。

と解説されているところです。(この部分は下請講習テキストにはありません。

(なお、以下、当初合意が3条書面に記載されていても減額は認められないという趣旨と思われるので、以下でもその前提です。)

しかし、実際にはそんなことはありません。

昨日このブログでも書いたように、公取委や中小企業庁の数多くの文献で、当初合意があるのに減額が認められない場合として、「下請事業者に責任がない」という要件が、必ず入っています。

そして、そこでの当初合意の存在を前提に「責任」があるとして減額できる場合というのは、けっして、上記①~③の場合に限定する趣旨ではありません。

といか、①から③は、当初合意の存在を前提としたものではありません。

というのは、①から③は、

① 下請事業者の責めに帰すべき理由(瑕疵の存在、納期遅れ等)があるとして、受領拒否、返品した場合に、その給付に係る下請代金の額を減じるとき

② 下請事業者の責めに帰すべき理由があるとして、受領拒否、返品できるのに、そうしないで、親事業者自ら手直しをした場合に、手直しに要した費用を減じるとき

③ 瑕疵等の存在又は納期遅れによる商品価値の低下が明らかな場合に、客観的に相当と認めらる額を減じるとき

ですが、これらの理由はその内容に対応する当初合意があろうがなかろうが減額できることがあきらかであり、ということは、①~③は同じ内容の当初合意の存在を想定したものではないことがあきらかだからです。

というわけで、講習テキストの(ア)~(ウ)(村上『条解』では①~③に相当)の記述は、あくまで、当初合意がなくても(当初合意の有無にかかわらず)「下請事業者の責に帰すべき理由」として認められるのは、この3つに限られる、といっているだけなのです。

「あらかじめ〔つまり、発注時点で〕約束ができている」ということは、「責に帰すべき理由」とは異質なものだと思います。

(ただ、「あらかじめ」であっても減額は認められない、というのを条文のどの文言にひっかけるかというのは、難しい問題です。というのは、下請講習テキストでは、代金減額というのは、発注後、事後的に減額することだと説明されているからです。

このように、下請法は文言がおろそかにされている法律なのですが、しかしだからこそ、われわれ弁護士は、わずかな論理的矛盾もゆるさない厳密な解釈を心がける必要があると思います。)

そういう異質なもの(当初合意)に関する解釈論を、①~③に限定されることを理由に認められないと説明してしまうと、たとえば同書のその次の、「ボリュームディスカウント等合理的理由に基づく割戻金」が認められる理由の説明に窮してしまいます。

百歩譲って、もし当初合意の話をここに入れるなら、せめて、

「したがって、下請事業者と下請代金の減額を行うことについてあらかじめ約束ができているような場合でも、『下請事業者の責に帰すべき理由』があるとして代金減額することは認められない

と書くと、論理的整合性は保たれるでしょう。

しかし、そうすると、当初合意と帰責理由という異質なものが一緒くたになっていることがますます目立ってしまい、読者の混乱を招きそうです。

つまり、このような修正を読んだ読者は、

「ほかの理由による減額は認められるのか?」

という疑問を持つか(ボリュームディスカウント等、認められます)、あるいは、

「当初合意と帰責理由は別問題から、あたりまえじゃん(何か深い意味でもあるのかな?)」

と思うでしょう。

これに対して、現状の『条解』の該当部分を読んだ読者、とくに、弁護士のようなプロでない読者は、

「そうか。下請事業者と下請代金の減額を行うことについてあらかじめ約束ができているような場合でも、その特約を理由にして下請代金の減額を行うことは(①~③の場合を除いて)許されないんだな。」

と素直に誤解するでしょう。(はっきりそう書いてあるのですから、そうとしか読みようがありません。)

村上『条解』の下請法の部分は基本的に下請法講習テキストに依拠しているのですが(p893に明記されています)、最初に上記「したがって・・・」以下をみたとき私は、

「んんん???(そんなことないだろう。講習テキストにそんなこと書いてあったっけ?)」

と思ってしまいました。

やはり、講習テキストそのままの部分とそれ以外の著者独自の見解の部分は、きちんと分けた方がよいのではないでしょうか。

著作権法32条の引用の要件の問題はさておき、コンメンタールとしての使い勝手や信頼性の面からも、その方が良かったと思います。

それから、やはり他人が書いた文章に加筆するときは、こういう思わぬところでミスが起こりがちなので、怖いですね。私も(こういう「加筆」はやったことはありませんが、将来「補訂」とかはするかもしれないので)気を付けたいと思います。

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