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2015年5月20日 (水)

納期の前倒しと給付内容の変更

下請法4条2項4号前段では、

「下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付の内容を変更させ・・・ること。」

が禁じられています。

ここでいう「給付の内容の変更」には、納期の前倒しは含まれるのでしょうか。つまり、納期の前倒しをすると4条2項4号に違反するのか、という問題です。

ここで、給付の「内容」というのをものすごく広く読めば、納期の合意も給付内容の合意の一部である、といえなくもありません。

しかし下請法では、3条書面の記載事項として、

「給付の内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項」

という言い方をして、「給付の内容」と「その他の事項」を明確に区別している上に、3条書面規則1条1項2号では、

「給付・・・の内容並びにその給付を受領する期日」

というように、「給付の内容」と「給付を受領する日」を明確に分けて使っています。

このような文言解釈からすると、給付の「内容」には、納期は含まない、と考えるべきでしょう。

下請法講習テキスト(平成26年11月版)p67でも、

「『給付内容の変更』とは、給付の受領前に、3条書面に記載されている委託内容を変更し、当初の委託内容とは異なる作業を行わせることである。」

と、「給付内容の変更」にいう「給付内容」とは3条書面規則1条1項2号の「給付・・・の内容」のことであることをうかがわせる記載があります。

また、鈴木満著『新下請法マニュアル(改訂版)』p207によると、

「親事業者が、下請事業者の給付についてその責任がないのに、受領前に給付の内容を変更したり、受領後にやり直しをさせる行為は、従来、下請代金の減額や受領拒否に該当するものとして取り扱われてきた。

このため、平成15年法改正〔注・情報成果物などの追加〕の政府原案では、かかる行為を規制するために新たな規定は必要ないとの判断から本号は規定されていなかった。

しかし、国会の審議の過程で、かかる行為は下請取引特有の悪質な行為であり、これを独立の禁止行為として明確に規定しておくべきだとの意見が出され、国会修正により、新たな禁止行為として追加規定されたものである。」

と説明されています。

つまり、給付内容の変更の規定は、減額や受領拒否に含まれる(少なくとも従来はそれで対応できていた)行為を想定していることが分かります。

とすると、納期の前倒しは減額や受領拒否とは関係ありませんから、やはり給付の「内容」の変更には含まれない、と考えるのが立法経緯にもかなうように思われます。

あと、納期の延期については受領拒否で処理する解釈・運用が確立している(給付内容の変更とはしない)ことも、納期の前倒しが給付内容の変更ではない理由となるかもしれません。

ところが、実はちょっと微妙な文献もあるのです。(実はここからが本題だったりする。)

つまり、公取委事務総局の『広告制作業における下請取引実態と改正下請法の内容』(平成16年2月)p60では、

「◆不当な発注内容の変更,不当な発注取消しに関連するQ&A◆

Q1: 下請事業者が納期を守らないことがよくあるのだが,このような場合には,むしろ発注内容を変更(納期を延ばす)しなければ下請事業者が不利益を与えることになるので,下請事業者との合意の上で納期を変更することは違反とはならないと考えてよいか。

A1: 下請事業者の要請により給付内容を変更することは問題とはならない。」

という記載があって、納期を延ばすことが発注内容の変更に該当するかのように説明されています。

同文書は、まさに平成15年改正(給付内容の変更が違反行為に追加さるとともに情報成果物作成委託が下請法の対象になった)を踏まえて広告業界に向けられたものであるために、給付内容の変更における「内容」に納期が含まれると公取委が考えていたのではないか?とみえなくもないわけです。

しかしやはり、給付の「内容」には、納期は含まれないと考えるべきでしょう。

前述の文言解釈に加えて理由をいえば、下請法の運用基準でも、「給付内容の変更」というのは、まさに給付の中身そのもののことを指すという前提で書かれていることがあげられます。

また、給付内容の変更(4号前段)とやり直し(同号後段)はセットになっていて、給付内容の変更は給付の受領前に行うものであるのに対して、やり直しは給付の受領後に行うものであるという説明がよくなされますが、納期の変更は、そういう分け方になじまない、つまり、納期の延期を受領後に行っても(返品プラス再納期の指定、でしょうか)それを「『やり』直し」とはいわない、なので、「給付内容の変更」ともいわない、というのももう一つの理由になるかもしれません。

つまり、「やり直し」という言葉は、「やる」ことの中身の変更なので、給付内容の変更も当然、中身の変更であろう、という理屈です。

というわけで、「広告制作業における下請取引実態と改正下請法の内容」の記載は、ちょっと公取委担当者の筆が滑ったものである、ととらえるべきでしょう。

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