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2015年5月 2日 (土)

7条の2第8項2号と3号ロの棲み分け

独禁法7条の2第8項(主導的違反者の課徴金の5割増し)の2号(受託継続対価等「指定」者)では、

「単独で又は共同して、

他の事業者の求めに応じて、

継続的に

他の事業者に対し

当該違反行為に係る商品若しくは役務に係る対価、供給量、購入量、市場占有率又は取引の相手方

について指定した者」

は課徴金が5割増しになると規定されています。

同じく同項3号ロ(実行活動重要「指定」者)では、

「他の事業者に対し

当該違反行為に係る商品又は役務に係る対価、供給量、購入量、市場占有率、取引の相手方その他当該違反行為の実行としての事業活動

について指定すること(専ら自己の取引について指定することを除く。)。」

と規定されています。(ただし3号柱書で、「重要なもの」に限定されています。)

何らかの「指定」をする点で両者は共通しているので、その棲み分けが問題になります。

ここで、3号ロ(実行活動重要「指定」者)に該当するとされた東京電力本店等発注の特定架空送電工事事件のTLCに対する納付命令(平成25年(納)第39号・2013年12月20日)について、毎年恒例の公正取引での座談会(766号2頁)で、岸井大太郎先生が、

「〔1号に認定された関電工に対して〕3号のTLCについては、どのように事実を認定しているかよくわからない部分があります。

3号は『当該違反行為を容易にすべき重要なもの』という要件になっていまして、

2号と異なり『他の事業者の求めに応じて』『継続的に』という要件がないという説明がされています。

けれどもこの事件では、事件解説(・・・公正取引763号70-76頁)を見ると、継続性の要件を満たしていたと読めるような書き方をしてありますし〔注:というか、納付命令の2頁に明記されています。〕、

また他者の要望を受けて行われたというようなことも書いてありますので〔注:公正取引763号75頁の事件解説に書いてあります。〕、

その点では実質的には2号と変わらないように思いました。

そこで、どこが違うのかを見てみると、

2号は『違反行為に係る』ですけれども、

3号は『当該違反行為の実行としての事業活動について』

とされています。

そうすると、本件の場合、TLCは、受注予定者自体を決めるのではなく、決まった受注予定者が受注できるように価格低減率〔注:東京電力が定める査定価格から減額が可能な程度を百分率で示すもの。もちろん、価格低減率が大きいほど落札しやすくなるわけです〕を調整するという行為をしていましたので、そのようにカルテルの実施のプロセスで重要な部分を担ったということで、2号ではなく3号のロを適用したのではないかと考えました。」

という発言があります。

しかし、私は、岸井先生のこの解釈はちょっと条文の文言をこねくり回し過ぎている感じがして、よくわからないところがあります。

2号(受託継続対価等「指定」者)の「違反行為に係る」というのは、

「当該違反行為に係る商品若しくは役務に係る対価、供給量、購入量、市場占有率又は取引の相手方について指定した者」

の下線部分のことですから、単純に、2号の指定の対象は、違反対象商品役務の「対価、供給量、購入量、市場占有率又は取引の相手方」に限定されている、というだけのことではないでしょうか。

そして、TLCは、「対価、供給量、購入量、市場占有率又は取引の相手方」のいずれも指定していない、というだけなのではないでしょうか(なので、2号非該当)。

納付命令では、TLCの加算原因行為は、

「TLCは,東京電力が架空送電工事の発注方法を変更したことを契機として,継続的に,東京電力本店等発注の特定架空送電工事のうち,予報(価格低減率の提示による競争によって予報先を選定するものに限る。)の方法により発注されるものの大部分について,受注予定者(受注予定者が共同企業体である場合にあってはその代表者)からなされる当該事業者が東京電力に提示する価格低減率の連絡を受けて,これを基に,

受注予定者以外の各事業者が東京電力に提示すべき価格低減率

を調整した上で,それぞれ指定することなどにより,

受注予定者が確実に受注できるようにしていたものであり,この行為は独占禁止法第7条の2第8項第3号ロに該当するものであって,前記3の違反行為を容易にすべき重要なものである。したがって,TLCは,同号に該当する者であり,同項の規定の適用を受ける事業者である。」

と認定されています。

つまり、2号(受託継続対価等「指定」者)の

「対価」

というのは、実際に取引する(あるいは、少なくとも取引の申し込みをする)「対価」なので、受注予定者以外の者の応札価格は、あくまでダミーなので、「対価」ではない、ということですね。

これに対して3号ロ(実行活動重要「指定」者)の指定対象には、

「当該違反行為に係る商品又は役務に係る対価、供給量、購入量、市場占有率、取引の相手方」

のみならず、

「その他当該違反行為の実行としての事業活動」

も含まれるので、落札予定者以外の者の応札価格(ダミー価格)を指定した場合も、この「実行としての事業活動」に問題なく該当する、というのが条文の素直な読み方だと思います。

実際、同じ座談会の野口文雄前公正取引員会事務総局審査局長は、端的に、

「TLCが受注予定者や受注予定者の価格低減率をきめていたわけではないことから、3号ロを適用したという点については、そのとおりです。」

と回答されています。

つまり、受注予定者を決めていれば2号の「取引の相手方」の指定に該当するし、受注予定者の価格低減率を決めていれば2号の「対価」の指定に該当するので、2号を適用できたけれども、TLCはいずれにもあたらなかったので3号ロになった、ということです。

また岸井先生の上記発言中の、

「そのようにカルテルの実施のプロセスで重要な部分を担ったということで、2号ではなく3号のロを適用したのではないか・・・」

というのも、よくわからないところがあって、2号で指定しているのも「実施のプロセス」であることには変わりがないように思います。

続けて岸井先生は、

「そうだとすると、本件は、2号と同じく『求めに応じて』『継続的に』であれば、違反行為全体を直接指示していなくても、その重要部分について指示していればいいとした先例として理解できることになりますが、いかがでしょうか。」

と質問されていますが、この理解も条文のどの文言から出てくるのか、よくわかりません。

「違反行為全体」という言葉の意味がまずよくわかりませんが、たとえば入札談合を例にとって、素直に「違反行為全体」というのを、受注予定者とその応札価格と、受注予定者以外の者(誰が応札するか)とその応札価格であると考えると、「違反行為全体」を指示することなど、2号でも、3号ロでも、求められていません。

学者の方は、条文の文言を理論的に構成しなおして読む傾向があり、それはそれで妥当な法解釈として極めて重要不可欠なことではあるのですが、実務に出ると、ややこしい条文は、立法経緯や立法趣旨はどうあれ、まずは、書いてある通りに解釈するとどうなるのか、というところからスタートします。

条文を読むのにいちいち背景まで考えないというけないというのでは、忙しい実務は回っていきませんし(独禁法の専門家は弁護士のごく一部でもありますし)、理論的な説明をしても、その結果が条文の文言から外れていては、裁判では勝てません。

岸井先生の問いかけに対して金井貴嗣先生は、

「今岸井先生がご指摘になった点は、要するに3号の柱書きの『容易にすべき重要なもの』が一体どういう場合を指すのかということがポイントですね。」

と、なんとか条文に引き戻そうとされているのが微笑ましいところです。

さて、翻って以上の議論からどういうことが分かるのかといえば、まず、2号の

「対価、供給量、購入量、市場占有率又は取引の相手方」

というのは、実際に成立した(あるいは成立させようとした)「対価」であり、「供給量」であり、「購入量」であり、「市場占有率」であり、「取引の相手方」なのだ、という、ある意味で当たり前のことですね。

少なくともいえるのは、入札談合の受注予定者以外の応札価格(ダミー価格)の指定は、「対価」の指定ではない、ということです。

なんとなく2号(受託継続対価等「指定」者)の方が、重要性を問わない(あるいは、重要性が擬制されている)という点で、3号ロ(実行活動重要「指定」者)よりも悪いのだ、というイメージかと思います。

そうすると、TLCは、顧客が実際に支払う対価自体を決めたわけではないので(それは受注予定者自身が決めています)、2号ほどには悪くないので、3号ロに落ちていく、というのは、分からないではありません。

ただ3号ロに落ちていくと、重要性の要件が必要なので、「求めに応じて」「継続的」という事実があれば、3号ロの重要性において参酌される、ということなのでしょう。

前述のとおり岸井先生は、

「・・・本件は、2号と同じく『求めに応じて』『継続的に』であれば、違反行為全体を直接指示していなくても、その重要部分について指示していればいいとした先例として理解できることになりますが、いかがでしょうか。」

とおっしゃっていますが、これも条文の文言からはおかしくって、「全体」か「部分」かという切り分けがよくわからないというのが1つ(上述のとおり)と、条文上は端的に、「重要」であれば(そして、何らかの実行活動を指定していれば)3号ロに該当するといってよいはずです。

もし、岸井先生の「その重要部分について指示していればいい」というのが、「重要なもの」(3号柱書)と同じ意味なら、さらに加えて、「求めに応じて」「継続的に」という要件が必要になるわけではないでしょう。

反対に、「求めに応じて」「継続的に」であれば必然的に「重要なもの」といえるかといえば、必ずしもそうともいえないわけです。

なお、そもそも論ですが、2号は3号ロの一部を明確化したということなのでしょうけれど、いずれにせよ課徴金5割増という結果は同じなのですから、もう少し整理した条文にした方がよかったのではないでしょうか。

そうすれば、以上のような不毛な解釈論争も起きなかったのにと思います。

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