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2015年5月 1日 (金)

主導的役割に対する割増課徴金

平成21(2009)年改正で、カルテルで主導的役割を果たした事業者に5割増の課徴金算定率が適用されることになりました(7条の2第8項)。

7条の2第8項は、柱書で、

「第一項の規定〔課徴金納付命令〕により課徴金の納付を命ずる場合において、当該事業者が次の各号のいずれかに該当する者であるときは、〔課徴金算定率は1.5倍〕とする。

ただし、当該事業者が、次項〔10年内の繰り返し+主導的役割=2倍〕の規定の適用を受ける者であるときは、この限りでない。」

としたあとで、5割増の要件についての各号で次の通り定めています。

「一  単独で又は共同して、

〔①〕当該違反行為をすることを企て

かつ、

〔②〕他の事業者に対し

当該違反行為をすること又はやめないこと

を要求し、依頼し、又は唆す

ことにより、

〔③〕当該違反行為をさせ、又はやめさせなかつた者

二  単独で又は共同して、

〔①〕他の事業者の求めに応じて、

〔②〕継続的に

〔③〕他の事業者に対し

当該違反行為に係る商品若しくは役務に係る対価、供給量、購入量、市場占有率又は取引の相手方について指定した者

三  前二号に掲げる者のほか、単独で又は共同して、のいずれかに該当する行為であつて、〔①〕当該違反行為を容易にすべき重要なものをした者

イ 〔②〕他の事業者に対し当該違反行為をすること又はやめないことを要求し、依頼し、又は唆すこと。

ロ 〔②〕他の事業者に対し当該違反行為に係る商品又は役務に係る対価、供給量、購入量、市場占有率、取引の相手方その他当該違反行為の実行としての事業活動について指定すること(専ら自己の取引について指定することを除く。)。」

一見してわかるのは、

1号(発案(「企て」)者)と、3号イ(重要「要求」等者)、

2号(受託継続調整(「指定」)者)と、3号ロ(重要調整(「指定」)者)、

が、それぞれ対になっているということです。

つまり、1号では「企て」かつ「違反行為をさせ、又はやめさせなかった」という要件があるのに、3号イでは、ありません。(その代わり、「重要なもの」に絞っています。)

図示(?)すれば、

1号=「企て」+「要求等」+「させ」

3号イ=     「要求等」     +「重要性」

といったところでしょうか。

別の言い方をすると、1号では、「企て」に加え、「要求」等したことにより、さらに、「違反行為をさせ、又はやめさせなかった」こと、という、ある意味での結果の発生まで進むことが必要とされているのに対して、3号イでは、「させ」まで進むことは要求されていません。

ただ、「させ」まで進むほどの行為は通常、「重要なもの」でしょうから、1号は3号イの典型的な場合(に絞りをかけたもの)ということができそうです。

2号では「求めに応じて」「継続的に」という要件が必要ですが、3号ロでは不要です。その代わり、「重要なもの」に絞るとともに、「指定」の対象に「その他当該違反行為の実行としての事業活動」が加えられています。

これも図示すれば、

2号=「求めに応じ」+「継続的」+(対価等の)「指定」

3号ロ=                (実行活動の)「指定」+「重要性」

といったところでしょうか。

3号ロ(重要「指定」者)の「指定」の対象に

「その他当該違反行為の実行としての事業活動」

が加えられていることから翻って考えると、2号(受託継続「指定」者)では指定の対象は

「対価、供給量、購入量、市場占有率又は取引の相手方」

に限定されているんだなかということが分かります。

このような限定が合理的なのかはよくわかりませんが、2号は個別規定ということで、適用対象を明確にしようとしたということなのでしょう。

ところで、1号の「単独で又は共同して」の説明について、菅久他『独占禁止法(第2版)』p214では、

「『単独で又は共同して』なので、1社である必要はなく、1つの違反行為について複数の事業者が該当し得る(以下の場合も同じ)」

と解説されています。

しかし、この説明は、はちょっとおかしいと思います。

「共同して」というのが必然的に複数の事業者が必要なのは、そのとおりでしょう。

でも、「単独で」というのは、1社とは限らず、2社がそれぞれ相手とは無関係に行う、という場合も含まれるのではないでしょうか。(そういうのを「共同して」とはいわないでしょう。)

たとえば、「企て」を、たまたま2社がそれぞれ相手の存在を知らずにやる、ということも、理屈の上ではありうると思います。

そして、2社が「企て」たけれど、結局どちらの「企て」が成就してカルテルが成立したのかよくわからない、ということもあるのではないでしょうか。

そのように「企て」とカルテル成立の因果関係が不明な場合でも、文言上は1号に該当するといって差し支えないと思います。

(「企て」は、「企て」者内部の問題なので、結果発生との因果関係を問題にする性質のものではないように思いますし、因果関係を読み込めそうな「(違反行為を)させ」についても、参加者の1人に違反行為をさせれば「させ」にあたるといって差し支えないでしょう。

つまり、「企て」者の行為は最低1人に違反行為を「させ」れば十分であって、参加者全員に「させ」る必要はない、あるいは、カルテル全体が「企て」者の行為によってもたらされる必要はない、と思います。

つまり、最低1人に「させ」たことと、カルテル参加者全員にカルテルを行わせたことは、必ずしも一致しないということです。)

(ちなみに、1号の、

〔①〕当該違反行為をすることを企て

かつ、

〔②〕他の事業者に対し

当該違反行為をすること又はやめないこと

を要求し、依頼し、又は唆す

ことにより、

〔③〕当該違反行為をさせ、又はやめさせなかつた者

の要件は、上記の改行で示したとおり、

(「企て」〔①〕+「要求等」〔②〕)×「させ」〔③〕

と読むべきなんであろうと思います。

逆にいうと、

「企て」〔①〕+(「要求等」〔②〕×「させ」〔③〕)

ではない、ということです。)

・・・といろいろ考えると、「共同して」という文言を、複数の事業者が該当しうる根拠とするのは、論理的におかしいように思えます。

むしろ、(「単独で」はあたりまえなのでよいとして)「共同して」の意味というのは、3号の重要性を、共同者全体として一体的に判断できる、というところにあるのではないでしょうか。(刑法の共犯のイメージです。)

ところで、主導的役割(という言い方をされることが多いのでここでもそう表現しますが、この表現自体、1人であることをイメージさせるので若干ミスリーディングです)を果たす者が複数存在し得るのか、という問題があります。

この問題について、立案担当者解説である藤井・稲熊編著『逐条解説平成21年改正独占禁止法』p59では、1号から3号共通の説明((4)複数の事業者に対する適用)として、

「例えば、入札談合において『幹事』等の役割を持ち回りにしている場合がこれ〔複数の事業者が主導的役割を果たす場合〕に当たる。」

と解説されています。

これだけみると、5社のカルテルで5社間で幹事を持ち回りでやっていた場合には、5社すべてが割増課徴金の対象になりそうです。

しかし、それは、割増課徴金の趣旨からいっておかしいでしょう。

菅久p214では、1号に関する説明ですが、この点がもう少し絞られていて、

「特定の事業者が主導した場合にその事業者について算定率を割増すこととした趣旨にかんがみれば、すべてのカルテル参加者がこれ〔複数の事業者が加算対象となること〕に該当するようなケースは想定されない。」

と、少なくとも1号で全員が加算対象になることはないと解説されています。

しかし、菅久ですら、「すべてのカルテル参加者が」該当することは想定していないと明示するのは、1号の「企て」者だけであって、2号と3号については全員が加算対象になる可能性を排除していないように読めます。

(菅久p214の「(以下の場合も同じ)」というのが、「・・・想定されていない。」の次に来てれば話は違うのですけれど。さすが赤本、このあたりは良く練られています。)

でもやっぱり、2号でも3号でも、全員が加算対象というのはあり得ない(少なくとも、めったにない)のではないでしょうか。

というのは、

「特定の事業者が主導した場合にその事業者について算定率を割増すこととした趣旨にかんがみれば」

という説明は、1号の「企て」者のみならず、2号の受託継続「指定」者や、3号イの重要「要求」等者や、3号ロの重要「指定」者の場合でも、同様にあてはまるように思われるからです。

ちなみに、主導的役割による加算が適用されたのは、いまのところ、

①高知土木工事事件談合事件納付命令・平成24年(納)第44号(2012年10月17日・ミタニ建設工業)

②同事件納付命令・平成24年(納)第45号(同日・入交建設)

③同事件納付命令・平成24年(納)第48号(同日・轟組)

(以上①~③は、同一事件)

④東京電力架空送電工事事件納付命令・平成25年(納)第39号(2013年12月20日・TLC)

⑤東京電力地中送電ケーブル事件納付命令・平成25年(納)第71号(2013年12月20日・関電工)

の5つの命令だけです。

(なお、村上他編著『条解独占禁止法』は平成26(2014)年12月の刊行で、原則として平成26(2014)年9月現在の法令に基づくようですが(前書き)、同書の7条の2第8項の解説(361頁以下)では、①~⑤のいずれの事件にも言及がありません。せっかく新しいコンメンタールなのですから、少しは触れておいてもよかったのではないかという気がします。)

①~③は同一事件で、3社が共同して受注予定者を指定していたということで、そろって2号(受託継続指定者)が適用されています。

④と⑤は、同じ東電発注の事件で相互に関連していますが別の事件(談合)で、④でも⑤でも、加重されているのは1社ずつです。

④のTLC(東電のグループ会社)は3号ロ(重要「指定」者)、⑤の関電工は1号(「企て」者)が適用されています。

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