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2015年5月27日 (水)

当初合意のある手数料と代金減額

下請法上、発注時に合意した下請代金(=3条書面記載の下請代金)を事後的に減額すると、代金減額として違法になります。

では、発注時点で何らかの名目で減額することを合意(以下「当初合意」とよびます)し、かつ、かかる当初合意も3条書面に記載していた、という場合でも、代金減額として違法となるのでしょうか。

これは実は、けっこう微妙な問題です。

たとえば、「広告業界における下請適正取引等の推進のためのガイドライン」(広告業ガイドライン)p27では、

「『下請代金の減額の禁止』とは、親事業者(広告会社)が、下請事業者の責に帰すべき理由がないにもかかわらず、定められた下請代金の額を減ずることを禁止するものであり、減額の名目、方法、金額の多少を問いません。

例えば、歩引き、リベートなどの合理的な理由に基づかない減額など、その内容が下請事業者の責任のない理由によるものであれば、当初に下請事業者と協議して合意した額であったとしても、下請代金の減額として問題となり得ることに注意する必要があります。」

と、下請事業者に責任のない理由による減額は、仮に当初合意があっても(そしてもちろん、3条書面に明記されていても)問題となると説明されています。

ただ、どういう場合に「責任のない」といえるのかについては、説明はありません。

次に、中小企業庁のホームページのQ&Aでは、

「Q48.手数料名目による減額

A社(資本金1,200万円)は、荷主のC社(食品メーカー)が出資した子会社の運送業者B社から、C社の貨物の運送を委託され請け負っています。

A社とB社との契約書に、手数料3%を運送代金から差し引くと規定した事項があることから、毎月の運送代金の支払い時に3%が差し引かれています。

手数料を差し引く行為は法律に違反するのではないでしょうか。

A.

本事例は、B社の資本金が3億円超であれば、下請代金法の適用対象の取引となります。

下請事業者の責に帰すべき理由がないにもかかわらず、発注時に決定した下請代金の額を発注後に減ずる行為は、手数料等の名目を問わず、『下請代金の減額』に該当するおそれがあります。

これは、当初に下請事業者と協議して合意した金額であったとしても、その内容が下請事業者の責任のない理由により下請代金から減じるものであれば減額として問題となりうることに注意が必要です。」

というように、当初合意があっても、下請事業者の責任のない理由による減額は認められない、と説明されています。

次に、下請事業者に対する調査の質問票では、

「★下請代金法のポイント(その4) 下請代金の減額について

親事業者は、下請事業者に責任がない場合には、たとえ下請事業者と事前に合意していたとしても、発注書面に記載した下請代金の額を減じることは禁止されています。

また、減額の名目、方法、金額の多少を問わず、発注書面に記載した下請代金の額を、発注後いつの時点で減じることも禁止されています。

したがって、例えば、「協力金」、「出精値引き」、「歩引き」等と称して下請代金を減額する場合は下請代金法違反になります。」

と、下請事業者に責任がない場合には、当初合意があっても減額は禁止される、と説明されています。

次に、中小企業庁の「中小企業向けQ&A」でも、

「Q48.手数料名目による減額

A社(資本金1,200万円)は、荷主のC社(食品メーカー)が出資した子会社の運送業者B社から、C社の貨物の運送を委託され請け負っています。

A社とB社との契約書に、手数料3%を運送代金から差し引くと規定した事項があることから、毎月の運送代金の支払い時に3%が差し引かれています。

手数料を差し引く行為は法律に違反するのではないでしょうか。

A.

本事例は、B社の資本金が3億円超であれば、下請代金法の適用対象の取引となります。

下請事業者の責に帰すべき理由がないにもかかわらず、発注時に決定した下請代金の額を発注後に減ずる行為は、手数料等の名目を問わず、『下請代金の減額』に該当するおそれがあります。

これは、当初に下請事業者と協議して合意した金額であったとしても、その内容が下請事業者の責任のない理由により下請代金から減じるものであれば減額として問題となりうることに注意が必要です。」

と、同じく、当初合意があっても下請事業者の責任のない理由による減額は認められない、と書かれています。

最後に、「産業機械・航空機等における下請適正取引等の推進のためのガイドライン」p11でも、

「☆下請代金の減額の禁止(法第4条第1頄第3号)について

下請法の適用対象となる取引を行う場合には、親事業者は発注時に決定した下請代金を「下請事業者の責に帰すべき理由」がないにもかかわらず発注後に減額すると下請法違反となる。

<ポイント>

下請代金の減額の禁止とは、親事業者が、下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、定められた下請代金の額を減ずることを禁止するものであり、減額の名目、方法、金額の多尐を問わず、また発注後いつの時点で減額しても本法違反となる。つまり、歩引き、リベート、システム利用料など当初に下請事業者と協議して合意した金額であったとしても、その内容が下請事業者の責任のない理由により下請代金から減じるのであれば減額として問題となり得ることに注意する必要がある。」

と、当初合意があっても減額は問題であると記載されています。

以上を踏まえると、当初合意があっても下請事業者に責任のない代金減額は認められない、というのが当局の見解であると理解できます。

それで世の中に存在する減額のほとんどはカバーできるのですが、いくつか疑問もわいてきます。

まず、「責任のない」ってどういう意味なのか?ということです。

当初合意の話なので、目的物に瑕疵があるとか、そういうことではなさそうです。

そうすると、たとえば、あまり根拠がない「事務手数料」とか、「伝票作成料」みたいなものの減額は、認められそうにありません。

では、実質的に根拠がある手数料的なものも絶対に認められないのか?というと、絶対に認められないということはないんだろうという気がします。

しかし、そんな理屈のことを詰めて考えるより、下請事業者が負担すべき実質的な理由のある減額なら、最初からそのような事情も織り込んで代金額に反映させておけばいいだけの話です。

それをわざわざ、請負代金額とは別建てで、目立つ形で「○○手数料」みたいに書くのは、少なくとも実務的には避けることが強く推奨されます。

また実際の違反事例では、公正取引661号50頁堤・香城「竹田印刷株式会社に対する勧告について」があります。

この事件は、

「竹田印刷は、自社が全額出資する株式会社光風企画・・・を竹田印刷の下請取引に係る発注業務に関与させることの対価として、事務手数料の名目で、竹田印刷と下請事業者との間で取り決めた下請代金の額からその5%を徴収する旨を下請事業者に周知し、下請代金の額からその5%を事務手数料として減じていた。」

という行為が、

「下請事業者の責に帰すべき理由がないのに下請代金の額を減じていた。」

と評価されて、違法とされたものです。(p49)

この事件がちょっと変わっているのは、竹田印刷は3条書面に下請事業者と合意した下請代金の額(「合意金額」)を記載せず、合意金額から5%差し引いた額を記載していた、なので、外形上3条書面記載の金額は支払ったことになっていた、という点です。(p50)

この点について解説は、「(1)下請代金の減額と『下請代金』の認定」という見出しのもと、

「発注書面に記載することが義務付けられている下請代金の額は、親事業者と下請事業者との間で発注前に交渉し、発注内容の対価として双方で合意された金額であることが前提となっている。

したがって、合意金額と発注書面上の金額が異なっているとしても、本来、下請事業者の給付に対して支払うべき下請代金は、竹田印刷と下請事業者との間で発注内容の対価として取り決めた合意金額であるため、本件では合意金額を下請代金と認め、下請代金を減額したという認定をしたものである。」

と説明しています(p50)。

これをどう読むかはちょっと微妙で、たとえば1万円で合意した製造委託について3条書面に9500円と書いた場合には、9500円とする合意がなかった(あくまで合意は1万円だった)、という認定になっている、と読むのが表面的には正しいのだろうと思います。(見出しも「下請代金の減額と『下請代金』の認定」なので。)

つまり、5%分減額するという合意はなかった、という認定です。

もしこのような表面的な読み方が正しいとすると、下請事業者の「責任のない理由」による減額であるかどうかという、減額の合理性の有無にかかわらず、違法となる、というのが理屈に合いそうです(当初合意がそもそも存在しないわけですから)。

ところが解説では、「下請代金から事務手数料を徴収することの合理性」という見出しのもと、

「本件では光風企画が竹田印刷の社内手続に一部関与していたものの、下請事業者の選定、合意金額の決定から発注、支払にいたるまでの委託業務はすべて竹田印刷が自ら行っており、光風企画の事務手数料として下請代金から減額する合理的理由は見当たらない。」

と説明されています(p50)。

そしてこの点について、大江橋の同僚の長澤弁護士の『優越的地位濫用規制と下請法の解説と分析』p144の脚注では、

「公正取引委員会は、発注前の合意に基づく代金減額の事案では、減額することに合理的な理由があるか否かについて吟味しているようである。」

として、前記竹田印刷の解説を引用されています。

(ちなみに、前記長澤『解説と分析』のp144~145には、代金減額について下請法のプロが知っておくべきことがわずか2ページの中にすべて書いてあるといっても過言ではないので、一読をおすすめいたします。)

前述のように、本件が減額の「当初合意」があったといえるのかどうかは微妙なところだと思いますが、当初合意がなかったのなら減額の合理性を云々するまでもなく違法なのは明らかなので、わざわざ合理性の検討がなされていること自体、当初合意がなかったとはいいきれない(むしろ当初合意があった可能性が高い)と公取委は考えていたことを裏付けるのではないかと思います。

つまり、この事例でも、本当に合理性のある減額で、当初合意もあり、3条書面にもきちんと書いてあるのであれば、認められる可能性はないわけではない、ということなのだろうと思います。

そして、この事例の解説で「合理性」とか「合理的な理由」とか言っているのは、上に引用した多くの文献が「下請事業者の責任のない理由」といっているのと、表と裏で反対ですが、ほぼ重なるのでしょう。

でも言葉の問題として、たとえば手数料を下請事業者に負担させることが「合理的」とはいえても、下請事業者に「責任がある」というのは、ちょっと通常の日本語としてはおかしい気がするのが、難点といえば難点です。

こういう妙な混乱が生じるのも、条文のどの文言の解釈をしているのか(あるいは、条文にない要件の議論をしているのか)を意識せずに上記解説が議論しているからでしょうね。

もうひとつ、この事件の解説や上記各文献の難点は、「下請代金」と別建てで差し引くと問題になりうるけれど、下請代金に溶け込ませるとOKだ、ということになりかねないことです。

しかも、別建てで差し引いても「合理的な理由」があればOKであるかのように竹田印刷の解説は読めなくもないですし、溶け込ませていても「合理的な理由」がなければ問題だ、といっているようにも見えます。

でも、「減額」というのは、事後的に引くことだと講習テキストなどでも説明されているので、事前に引いているケース(「下請代金」は控除後の額)は、そもそも「減額」には該当しないとするのが論理的なはずです。

このあたりの、いったいどの要件の議論をしているのかわけがわからなくなることが、下請法をやっていると、時々あります。

弁護士としては、条文のどの文言解釈をしているのかを、常に意識したいと思います。

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