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2015年5月

2015年5月28日 (木)

村上他編著『条解独占禁止法』の代金減額に関する気になる記述

村上他編著『条解独占禁止法』p920の、下請代金の減額が許される「下請事業者の責に帰すべき理由」の説明で、

「『下請事業者の責に帰すべき理由』があるとして、下請代金の額を減じることができるのは、具体的には、次の場合〔注・瑕疵がある場合など〕に限定される。」

としています。

ここまでは、「次の場合」の①~③も含め、下請法講習テキストの記述と同じなので問題ないのですが、問題なのは、それに続けて、村上『条解』では、

したがって、下請事業者と下請代金の減額を行うことについてあらかじめ約束ができているような場合でも、その特約を理由にして下請代金の減額を行うことは許されない。

と解説されているところです。(この部分は下請講習テキストにはありません。

(なお、以下、当初合意が3条書面に記載されていても減額は認められないという趣旨と思われるので、以下でもその前提です。)

しかし、実際にはそんなことはありません。

昨日このブログでも書いたように、公取委や中小企業庁の数多くの文献で、当初合意があるのに減額が認められない場合として、「下請事業者に責任がない」という要件が、必ず入っています。

そして、そこでの当初合意の存在を前提に「責任」があるとして減額できる場合というのは、けっして、上記①~③の場合に限定する趣旨ではありません。

といか、①から③は、当初合意の存在を前提としたものではありません。

というのは、①から③は、

① 下請事業者の責めに帰すべき理由(瑕疵の存在、納期遅れ等)があるとして、受領拒否、返品した場合に、その給付に係る下請代金の額を減じるとき

② 下請事業者の責めに帰すべき理由があるとして、受領拒否、返品できるのに、そうしないで、親事業者自ら手直しをした場合に、手直しに要した費用を減じるとき

③ 瑕疵等の存在又は納期遅れによる商品価値の低下が明らかな場合に、客観的に相当と認めらる額を減じるとき

ですが、これらの理由はその内容に対応する当初合意があろうがなかろうが減額できることがあきらかであり、ということは、①~③は同じ内容の当初合意の存在を想定したものではないことがあきらかだからです。

というわけで、講習テキストの(ア)~(ウ)(村上『条解』では①~③に相当)の記述は、あくまで、当初合意がなくても(当初合意の有無にかかわらず)「下請事業者の責に帰すべき理由」として認められるのは、この3つに限られる、といっているだけなのです。

「あらかじめ〔つまり、発注時点で〕約束ができている」ということは、「責に帰すべき理由」とは異質なものだと思います。

(ただ、「あらかじめ」であっても減額は認められない、というのを条文のどの文言にひっかけるかというのは、難しい問題です。というのは、下請講習テキストでは、代金減額というのは、発注後、事後的に減額することだと説明されているからです。

このように、下請法は文言がおろそかにされている法律なのですが、しかしだからこそ、われわれ弁護士は、わずかな論理的矛盾もゆるさない厳密な解釈を心がける必要があると思います。)

そういう異質なもの(当初合意)に関する解釈論を、①~③に限定されることを理由に認められないと説明してしまうと、たとえば同書のその次の、「ボリュームディスカウント等合理的理由に基づく割戻金」が認められる理由の説明に窮してしまいます。

百歩譲って、もし当初合意の話をここに入れるなら、せめて、

「したがって、下請事業者と下請代金の減額を行うことについてあらかじめ約束ができているような場合でも、『下請事業者の責に帰すべき理由』があるとして代金減額することは認められない

と書くと、論理的整合性は保たれるでしょう。

しかし、そうすると、当初合意と帰責理由という異質なものが一緒くたになっていることがますます目立ってしまい、読者の混乱を招きそうです。

つまり、このような修正を読んだ読者は、

「ほかの理由による減額は認められるのか?」

という疑問を持つか(ボリュームディスカウント等、認められます)、あるいは、

「当初合意と帰責理由は別問題から、あたりまえじゃん(何か深い意味でもあるのかな?)」

と思うでしょう。

これに対して、現状の『条解』の該当部分を読んだ読者、とくに、弁護士のようなプロでない読者は、

「そうか。下請事業者と下請代金の減額を行うことについてあらかじめ約束ができているような場合でも、その特約を理由にして下請代金の減額を行うことは(①~③の場合を除いて)許されないんだな。」

と素直に誤解するでしょう。(はっきりそう書いてあるのですから、そうとしか読みようがありません。)

村上『条解』の下請法の部分は基本的に下請法講習テキストに依拠しているのですが(p893に明記されています)、最初に上記「したがって・・・」以下をみたとき私は、

「んんん???(そんなことないだろう。講習テキストにそんなこと書いてあったっけ?)」

と思ってしまいました。

やはり、講習テキストそのままの部分とそれ以外の著者独自の見解の部分は、きちんと分けた方がよいのではないでしょうか。

著作権法32条の引用の要件の問題はさておき、コンメンタールとしての使い勝手や信頼性の面からも、その方が良かったと思います。

それから、やはり他人が書いた文章に加筆するときは、こういう思わぬところでミスが起こりがちなので、怖いですね。私も(こういう「加筆」はやったことはありませんが、将来「補訂」とかはするかもしれないので)気を付けたいと思います。

2015年5月27日 (水)

当初合意のある手数料と代金減額

下請法上、発注時に合意した下請代金(=3条書面記載の下請代金)を事後的に減額すると、代金減額として違法になります。

では、発注時点で何らかの名目で減額することを合意(以下「当初合意」とよびます)し、かつ、かかる当初合意も3条書面に記載していた、という場合でも、代金減額として違法となるのでしょうか。

これは実は、けっこう微妙な問題です。

たとえば、「広告業界における下請適正取引等の推進のためのガイドライン」(広告業ガイドライン)p27では、

「『下請代金の減額の禁止』とは、親事業者(広告会社)が、下請事業者の責に帰すべき理由がないにもかかわらず、定められた下請代金の額を減ずることを禁止するものであり、減額の名目、方法、金額の多少を問いません。

例えば、歩引き、リベートなどの合理的な理由に基づかない減額など、その内容が下請事業者の責任のない理由によるものであれば、当初に下請事業者と協議して合意した額であったとしても、下請代金の減額として問題となり得ることに注意する必要があります。」

と、下請事業者に責任のない理由による減額は、仮に当初合意があっても(そしてもちろん、3条書面に明記されていても)問題となると説明されています。

ただ、どういう場合に「責任のない」といえるのかについては、説明はありません。

次に、中小企業庁のホームページのQ&Aでは、

「Q48.手数料名目による減額

A社(資本金1,200万円)は、荷主のC社(食品メーカー)が出資した子会社の運送業者B社から、C社の貨物の運送を委託され請け負っています。

A社とB社との契約書に、手数料3%を運送代金から差し引くと規定した事項があることから、毎月の運送代金の支払い時に3%が差し引かれています。

手数料を差し引く行為は法律に違反するのではないでしょうか。

A.

本事例は、B社の資本金が3億円超であれば、下請代金法の適用対象の取引となります。

下請事業者の責に帰すべき理由がないにもかかわらず、発注時に決定した下請代金の額を発注後に減ずる行為は、手数料等の名目を問わず、『下請代金の減額』に該当するおそれがあります。

これは、当初に下請事業者と協議して合意した金額であったとしても、その内容が下請事業者の責任のない理由により下請代金から減じるものであれば減額として問題となりうることに注意が必要です。」

というように、当初合意があっても、下請事業者の責任のない理由による減額は認められない、と説明されています。

次に、下請事業者に対する調査の質問票では、

「★下請代金法のポイント(その4) 下請代金の減額について

親事業者は、下請事業者に責任がない場合には、たとえ下請事業者と事前に合意していたとしても、発注書面に記載した下請代金の額を減じることは禁止されています。

また、減額の名目、方法、金額の多少を問わず、発注書面に記載した下請代金の額を、発注後いつの時点で減じることも禁止されています。

したがって、例えば、「協力金」、「出精値引き」、「歩引き」等と称して下請代金を減額する場合は下請代金法違反になります。」

と、下請事業者に責任がない場合には、当初合意があっても減額は禁止される、と説明されています。

次に、中小企業庁の「中小企業向けQ&A」でも、

「Q48.手数料名目による減額

A社(資本金1,200万円)は、荷主のC社(食品メーカー)が出資した子会社の運送業者B社から、C社の貨物の運送を委託され請け負っています。

A社とB社との契約書に、手数料3%を運送代金から差し引くと規定した事項があることから、毎月の運送代金の支払い時に3%が差し引かれています。

手数料を差し引く行為は法律に違反するのではないでしょうか。

A.

本事例は、B社の資本金が3億円超であれば、下請代金法の適用対象の取引となります。

下請事業者の責に帰すべき理由がないにもかかわらず、発注時に決定した下請代金の額を発注後に減ずる行為は、手数料等の名目を問わず、『下請代金の減額』に該当するおそれがあります。

これは、当初に下請事業者と協議して合意した金額であったとしても、その内容が下請事業者の責任のない理由により下請代金から減じるものであれば減額として問題となりうることに注意が必要です。」

と、同じく、当初合意があっても下請事業者の責任のない理由による減額は認められない、と書かれています。

最後に、「産業機械・航空機等における下請適正取引等の推進のためのガイドライン」p11でも、

「☆下請代金の減額の禁止(法第4条第1頄第3号)について

下請法の適用対象となる取引を行う場合には、親事業者は発注時に決定した下請代金を「下請事業者の責に帰すべき理由」がないにもかかわらず発注後に減額すると下請法違反となる。

<ポイント>

下請代金の減額の禁止とは、親事業者が、下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、定められた下請代金の額を減ずることを禁止するものであり、減額の名目、方法、金額の多尐を問わず、また発注後いつの時点で減額しても本法違反となる。つまり、歩引き、リベート、システム利用料など当初に下請事業者と協議して合意した金額であったとしても、その内容が下請事業者の責任のない理由により下請代金から減じるのであれば減額として問題となり得ることに注意する必要がある。」

と、当初合意があっても減額は問題であると記載されています。

以上を踏まえると、当初合意があっても下請事業者に責任のない代金減額は認められない、というのが当局の見解であると理解できます。

それで世の中に存在する減額のほとんどはカバーできるのですが、いくつか疑問もわいてきます。

まず、「責任のない」ってどういう意味なのか?ということです。

当初合意の話なので、目的物に瑕疵があるとか、そういうことではなさそうです。

そうすると、たとえば、あまり根拠がない「事務手数料」とか、「伝票作成料」みたいなものの減額は、認められそうにありません。

では、実質的に根拠がある手数料的なものも絶対に認められないのか?というと、絶対に認められないということはないんだろうという気がします。

しかし、そんな理屈のことを詰めて考えるより、下請事業者が負担すべき実質的な理由のある減額なら、最初からそのような事情も織り込んで代金額に反映させておけばいいだけの話です。

それをわざわざ、請負代金額とは別建てで、目立つ形で「○○手数料」みたいに書くのは、少なくとも実務的には避けることが強く推奨されます。

また実際の違反事例では、公正取引661号50頁堤・香城「竹田印刷株式会社に対する勧告について」があります。

この事件は、

「竹田印刷は、自社が全額出資する株式会社光風企画・・・を竹田印刷の下請取引に係る発注業務に関与させることの対価として、事務手数料の名目で、竹田印刷と下請事業者との間で取り決めた下請代金の額からその5%を徴収する旨を下請事業者に周知し、下請代金の額からその5%を事務手数料として減じていた。」

という行為が、

「下請事業者の責に帰すべき理由がないのに下請代金の額を減じていた。」

と評価されて、違法とされたものです。(p49)

この事件がちょっと変わっているのは、竹田印刷は3条書面に下請事業者と合意した下請代金の額(「合意金額」)を記載せず、合意金額から5%差し引いた額を記載していた、なので、外形上3条書面記載の金額は支払ったことになっていた、という点です。(p50)

この点について解説は、「(1)下請代金の減額と『下請代金』の認定」という見出しのもと、

「発注書面に記載することが義務付けられている下請代金の額は、親事業者と下請事業者との間で発注前に交渉し、発注内容の対価として双方で合意された金額であることが前提となっている。

したがって、合意金額と発注書面上の金額が異なっているとしても、本来、下請事業者の給付に対して支払うべき下請代金は、竹田印刷と下請事業者との間で発注内容の対価として取り決めた合意金額であるため、本件では合意金額を下請代金と認め、下請代金を減額したという認定をしたものである。」

と説明しています(p50)。

これをどう読むかはちょっと微妙で、たとえば1万円で合意した製造委託について3条書面に9500円と書いた場合には、9500円とする合意がなかった(あくまで合意は1万円だった)、という認定になっている、と読むのが表面的には正しいのだろうと思います。(見出しも「下請代金の減額と『下請代金』の認定」なので。)

つまり、5%分減額するという合意はなかった、という認定です。

もしこのような表面的な読み方が正しいとすると、下請事業者の「責任のない理由」による減額であるかどうかという、減額の合理性の有無にかかわらず、違法となる、というのが理屈に合いそうです(当初合意がそもそも存在しないわけですから)。

ところが解説では、「下請代金から事務手数料を徴収することの合理性」という見出しのもと、

「本件では光風企画が竹田印刷の社内手続に一部関与していたものの、下請事業者の選定、合意金額の決定から発注、支払にいたるまでの委託業務はすべて竹田印刷が自ら行っており、光風企画の事務手数料として下請代金から減額する合理的理由は見当たらない。」

と説明されています(p50)。

そしてこの点について、大江橋の同僚の長澤弁護士の『優越的地位濫用規制と下請法の解説と分析』p144の脚注では、

「公正取引委員会は、発注前の合意に基づく代金減額の事案では、減額することに合理的な理由があるか否かについて吟味しているようである。」

として、前記竹田印刷の解説を引用されています。

(ちなみに、前記長澤『解説と分析』のp144~145には、代金減額について下請法のプロが知っておくべきことがわずか2ページの中にすべて書いてあるといっても過言ではないので、一読をおすすめいたします。)

前述のように、本件が減額の「当初合意」があったといえるのかどうかは微妙なところだと思いますが、当初合意がなかったのなら減額の合理性を云々するまでもなく違法なのは明らかなので、わざわざ合理性の検討がなされていること自体、当初合意がなかったとはいいきれない(むしろ当初合意があった可能性が高い)と公取委は考えていたことを裏付けるのではないかと思います。

つまり、この事例でも、本当に合理性のある減額で、当初合意もあり、3条書面にもきちんと書いてあるのであれば、認められる可能性はないわけではない、ということなのだろうと思います。

そして、この事例の解説で「合理性」とか「合理的な理由」とか言っているのは、上に引用した多くの文献が「下請事業者の責任のない理由」といっているのと、表と裏で反対ですが、ほぼ重なるのでしょう。

でも言葉の問題として、たとえば手数料を下請事業者に負担させることが「合理的」とはいえても、下請事業者に「責任がある」というのは、ちょっと通常の日本語としてはおかしい気がするのが、難点といえば難点です。

こういう妙な混乱が生じるのも、条文のどの文言の解釈をしているのか(あるいは、条文にない要件の議論をしているのか)を意識せずに上記解説が議論しているからでしょうね。

もうひとつ、この事件の解説や上記各文献の難点は、「下請代金」と別建てで差し引くと問題になりうるけれど、下請代金に溶け込ませるとOKだ、ということになりかねないことです。

しかも、別建てで差し引いても「合理的な理由」があればOKであるかのように竹田印刷の解説は読めなくもないですし、溶け込ませていても「合理的な理由」がなければ問題だ、といっているようにも見えます。

でも、「減額」というのは、事後的に引くことだと講習テキストなどでも説明されているので、事前に引いているケース(「下請代金」は控除後の額)は、そもそも「減額」には該当しないとするのが論理的なはずです。

このあたりの、いったいどの要件の議論をしているのかわけがわからなくなることが、下請法をやっていると、時々あります。

弁護士としては、条文のどの文言解釈をしているのかを、常に意識したいと思います。

2015年5月20日 (水)

納期の前倒しと給付内容の変更

下請法4条2項4号前段では、

「下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付の内容を変更させ・・・ること。」

が禁じられています。

ここでいう「給付の内容の変更」には、納期の前倒しは含まれるのでしょうか。つまり、納期の前倒しをすると4条2項4号に違反するのか、という問題です。

ここで、給付の「内容」というのをものすごく広く読めば、納期の合意も給付内容の合意の一部である、といえなくもありません。

しかし下請法では、3条書面の記載事項として、

「給付の内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項」

という言い方をして、「給付の内容」と「その他の事項」を明確に区別している上に、3条書面規則1条1項2号では、

「給付・・・の内容並びにその給付を受領する期日」

というように、「給付の内容」と「給付を受領する日」を明確に分けて使っています。

このような文言解釈からすると、給付の「内容」には、納期は含まない、と考えるべきでしょう。

下請法講習テキスト(平成26年11月版)p67でも、

「『給付内容の変更』とは、給付の受領前に、3条書面に記載されている委託内容を変更し、当初の委託内容とは異なる作業を行わせることである。」

と、「給付内容の変更」にいう「給付内容」とは3条書面規則1条1項2号の「給付・・・の内容」のことであることをうかがわせる記載があります。

また、鈴木満著『新下請法マニュアル(改訂版)』p207によると、

「親事業者が、下請事業者の給付についてその責任がないのに、受領前に給付の内容を変更したり、受領後にやり直しをさせる行為は、従来、下請代金の減額や受領拒否に該当するものとして取り扱われてきた。

このため、平成15年法改正〔注・情報成果物などの追加〕の政府原案では、かかる行為を規制するために新たな規定は必要ないとの判断から本号は規定されていなかった。

しかし、国会の審議の過程で、かかる行為は下請取引特有の悪質な行為であり、これを独立の禁止行為として明確に規定しておくべきだとの意見が出され、国会修正により、新たな禁止行為として追加規定されたものである。」

と説明されています。

つまり、給付内容の変更の規定は、減額や受領拒否に含まれる(少なくとも従来はそれで対応できていた)行為を想定していることが分かります。

とすると、納期の前倒しは減額や受領拒否とは関係ありませんから、やはり給付の「内容」の変更には含まれない、と考えるのが立法経緯にもかなうように思われます。

あと、納期の延期については受領拒否で処理する解釈・運用が確立している(給付内容の変更とはしない)ことも、納期の前倒しが給付内容の変更ではない理由となるかもしれません。

ところが、実はちょっと微妙な文献もあるのです。(実はここからが本題だったりする。)

つまり、公取委事務総局の『広告制作業における下請取引実態と改正下請法の内容』(平成16年2月)p60では、

「◆不当な発注内容の変更,不当な発注取消しに関連するQ&A◆

Q1: 下請事業者が納期を守らないことがよくあるのだが,このような場合には,むしろ発注内容を変更(納期を延ばす)しなければ下請事業者が不利益を与えることになるので,下請事業者との合意の上で納期を変更することは違反とはならないと考えてよいか。

A1: 下請事業者の要請により給付内容を変更することは問題とはならない。」

という記載があって、納期を延ばすことが発注内容の変更に該当するかのように説明されています。

同文書は、まさに平成15年改正(給付内容の変更が違反行為に追加さるとともに情報成果物作成委託が下請法の対象になった)を踏まえて広告業界に向けられたものであるために、給付内容の変更における「内容」に納期が含まれると公取委が考えていたのではないか?とみえなくもないわけです。

しかしやはり、給付の「内容」には、納期は含まれないと考えるべきでしょう。

前述の文言解釈に加えて理由をいえば、下請法の運用基準でも、「給付内容の変更」というのは、まさに給付の中身そのもののことを指すという前提で書かれていることがあげられます。

また、給付内容の変更(4号前段)とやり直し(同号後段)はセットになっていて、給付内容の変更は給付の受領前に行うものであるのに対して、やり直しは給付の受領後に行うものであるという説明がよくなされますが、納期の変更は、そういう分け方になじまない、つまり、納期の延期を受領後に行っても(返品プラス再納期の指定、でしょうか)それを「『やり』直し」とはいわない、なので、「給付内容の変更」ともいわない、というのももう一つの理由になるかもしれません。

つまり、「やり直し」という言葉は、「やる」ことの中身の変更なので、給付内容の変更も当然、中身の変更であろう、という理屈です。

というわけで、「広告制作業における下請取引実態と改正下請法の内容」の記載は、ちょっと公取委担当者の筆が滑ったものである、ととらえるべきでしょう。

2015年5月18日 (月)

村上他編著『条解独占禁止法』の8条の3の解説

村上他編著『条解独占禁止法』の8条の3(事業者団体が違反行為者である場合の課徴金)の解説(p393)で、

「かかる違反行為〔注・不当な取引制限等〕により利得を得るのは構成事業者であることから、当該事業者団体の構成事業者に対して課徴金が賦課される。」

と述べられています。

しかし、この解説だけでは、すべての構成事業者に対して課徴金が課せられるかのように読めてしまい(当然、売上が必要ですが)、少し不親切ではないでしょうか。たまたま調べものをしていて、私はそう感じました。

実際には、課徴金を課せられるのは、違反行為の実行行為としての事業活動を行った構成事業者に限られます。

というのは、課徴金算定期間が、

「当該行為の実行としての事業活動を行つた日から当該行為の実行としての事業活動がなくなる日までの期間」

と定められており(7条の2第1項、8条の3で準用)、違反行為に何ら関与していない構成事業者は、「実行としての事業活動」がないので、課徴金算定期間もゼロになるからです。

「実行としての事業活動」を行った構成事業者にのみ課徴金がかされることは、たとえば、『注釈独占禁止法』には、

「・・・そこで団体の決定に従った行動をとらず、違反行為の『実行としての事業活動』がなかったとされた構成事業者には、課徴金は課されない〔引用事例省略〕。

その意味で、実行としての事業活動の要件は、事業者団体の行為に関しては、実行期間の特定に加えて、課徴金の対象となる構成事業者を特定するという機能をあわせもっている。」(p219)

と明記されていますし(多数の事例も引用)、『論点体系独占禁止法』にも、

「課徴金納付義務者は、事業者団体による違反行為の実行として事業活動を行った構成事業者である」(p233)

と明記されています。

さらにいえば、初版に相当する厚谷他編著『条解独占禁止法』でも、

「事業者団体による違反の事例では、団体の決定に従わない構成員もみられ、そのような事業者は当然、カルテルの実行としての活動がないため、課徴金を納付する義務を負わない。」(p316)

と、端的に述べられています。

村上『条解』には、実行としての事業活動を行った構成事業者のみに課徴金が課されるとの記載はありませんでした。

村上『条解』の該当箇所には8条の3による読み替え条文が書いてあり、それはそれで便利なので否定はしませんが(ちなみに読み替え条文は、以前私もこのブログで書きました)、せっかくの本格コンメンタールなのですから、もうちょっと本体の説明を丁寧にしていただけたらありがたかったのに、とユーザーの立場から思います。

類書を後から出す場合には先行文献の内容はカバーする、という戦略を出版社が採ることがありますが(そうすると、ユーザーは「こっち(=後から出た類書)があればいいか。」という気になる)、少なくとも村上他『条解』は、『注釈独占禁止法』や厚谷『条解』に対してそのような関係にはないことがわかります。

2015年5月12日 (火)

村上他編著『条解独占禁止法』の7条の2第5項(中小企業の軽減率)の解説について

村上他編著『条解独占禁止法』の7条の2第5項の解説(p356)で、

「この点、中小企業等協同組合法に基づく事業協同組合について軽減率を適用するか否かを判断する際には、商法上の会社および有限会社も当該組合の組合員となっていることに照らして、事業協同組合固有の出資の総額および従業員数に加えて、当該組合の出資の総額に各組合の資本もしくは出資の額を合わせた出資の総額、または当該組合のものに各組合員のものを合わせた常時使用する従業員の総数で、本項6号の要件に該当するか否かを判断する必要があるとする(審判審決平成15・9・8審決集50-116〔関東造園建設協同組合課徴金事件〕」

と説明されています。

しかし、この関東造園の事件を現行の7条の2第5項6号の説明に持ってくるのは、私はおかしいと思います。

というのは、関東造園事件の当時、5項6号は存在せず、同号は平成17年改正で追加されたものだからです(同改正当時は4項6号)。

このことは、諏訪園編著『平成17年改正独占禁止法』p58に、

「このような〔「会社及び個人」を厳格に解釈して中小規模の組合であっても大企業と同じ算定率で課徴金を課す〕運用について、違反行為を行った中小規模の協同組合から審決取消訴訟が提起され、最高裁判決(平成15年3月14日判時1820号55頁〔注・協業組合カンセイ事件〕が、軽減算定率が適用される「会社及び個人」と同等規模の協業組合については中小企業の算定率を課すべきと判断したことを踏まえ、改正法では・・・中小規模にとどまる〔組合やその連合会〕は、中小企業と同率の算定率が適用されることが明確に規定されている。」

と解説されています。

ちなみに、上記関東造園事件の当時の中小企業軽減率の条文である7条の2第2項は、

「前項の場合において、当該事業者が次のいずれかに該当するときは、同項中「百分の六」とあるのは「百分の三」と、「百分の二」とあるのは「百分の一」とする。

一 資本の額又は出資の総額が三億円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が三百人以下の会社及び個人であつて、製造業、建設業、運輸業その他の業種(次号から第二号の三までに掲げる業種及び第三号の政令で定める業種を除く。)に属する事業を主たる事業として営むもの

二 資本の額又は出資の総額が一億円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が百人以下の会社及び個人であつて、卸売業(第三号の政令で定める業種を除く。)に属する事業を主たる事業として営むもの

二の二 資本の額又は出資の総額が五千万円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が百人以下の会社及び個人であつて、サービス業(第三号の政令で定める業種を除く。)に属する事業を主たる事業として営むもの

二の三 資本の額又は出資の総額が五千万円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が五十人以下の会社及び個人であつて、小売業(次号の政令で定める業種を除く。)に属する事業を主たる事業として営むもの

三 資本の額又は出資の総額がその業種ごとに政令で定める金額以下の会社並びに常時使用する従業員の数がその業種ごとに政令で定める数以下の会社及び個人であつて、その政令で定める業種に属する事業を主たる事業として営むもの」

となっており、現在の5項6号に該当する条文はありませんでした。

さらに、関東造園事件審決の該当箇所を引用すると、

「独占禁止法第7条の2第2項の趣旨は,事業規模の小さい企業に対して軽減算定率を適用することにあり,同項の規定の適用対象となり得る「会社」又は「個人」と事業規模においてこれらと同等というべき事業者との間で軽減算定率の適用上取扱いを異にしなければならない理由はない(協業組合カンセイ事件判決)。

そして,事業協同組合は,組合員である小規模の事業者が各組合員の営んでいる事業を共同化することにより,競争力のある一個の独立した事業主体たる地位を得るためのものであること,組合員の資格を有する者は,組合の地区内で事業を行う小規模の事業者等である(中小企業等協同組合法第8条第1項)が,地域の小規模の事業者が共同事業を行うことにより地域独占体を構成し得ること,また,小規模の事業者より規模の大きな事業者を組合員に含むものがあることも想定し得る(同法第7条第2項)ことからすれば,事業協同組合固有の出資の総額及び従業員数をもって事業規模を判断するのは適当ではなく,商法上の会社及び有限会社を組合員とする事業協同組合にあっては,当該組合の出資の総額に各組合員の資本若しくは出資の額を合わせた出資の総額又は当該組合のものに各組合員のものを合わせた常時使用する従業員の総数が,独占禁止法第7条の2第2項の規定する「会社」又は「個人」の事業規模に関する要件に該当するときは,同項を類推して,当該組合には軽減算定率を適用するものとする。」

と、あくまで(明文の規定がないことを前提に)中小企業の軽減率を類推適用するのだ、といっています。

なので、『条解』の

「本項6号の要件に該当するか否かを判断する必要があるとする。」

という部分は、この意味でも正しくありません。

何かの誤解だと思うので、改訂版が出るときには修正されたらよいと思います。

2015年5月 7日 (木)

日豪独禁協定に関する日経記事(4月30日)と公取発表について

4月30日の日経朝刊に、

「公取委、豪当局と協定 証拠資料など相互提供 」

という見出しで、

「公正取引委員会は29日、オーストラリア競争・消費者委員会(ACCC)との間で、独占禁止法違反事件の証拠を共有できる協力協定を結んだ。調査で入手した電子メールや文書を交換することで情報収集機能を高め、国際的なカルテルの摘発増加につなげる。」

と書いてありました。

日米や日EUの協定でも、証拠の交換まではできないので、「思い切ったことをするもんだなぁ」と思うとともに、「どうしてオーストラリアなんだろう?(ICNの年次大会がシドニーであったので、そのお土産か?)」、などと変な勘繰りもしたりしました。

(従来の協定で証拠の交換ができないことは、同記事でも、「公取委が証拠共有まで踏み込んだ協定を結ぶのは初めてで、世界でも米豪間など数例にとどまる。」と書いてあります。)

ところが公取委のホームページをみて、ちょっと意味が分からなくなりました。

「概要」のところで、関連部分では、

「イ 各競争当局は,審査過程において違反被疑事業者等から入手した情報の共有を検討。」

となっていて、あくまで、(将来の課題として?)「検討」するだけであるかのように読めます。

「あれ?」と思って、協定の英語の正文のサブパラグラフ4.3をみると、

「Each competition authority will, where practicable and to the extent consistent with the laws and regulations of its country, give due consideration to sharing information obtained during the course of an investigation.

Each competition authority retains full discretion when deciding whether to share such information or not. The terms of use and disclosure of such information will be decided in writing on a case-by-case basis」

となっており、審査の過程で得た情報(つまり証拠)を共有することについて「適切に考慮する」(give due consideration)となっています。

しかも、「will」なので、(英文契約でwillとshallをどう使い分けるのかという論点はありますが)基本的には考慮義務があるといってよいと思います。

ところが公取委の仮訳では、

「各競争当局は、実行可能な場合で、かつ、自国の法令によって許容される限りにおいて、審査過程において入手した情報を共有することについて相応の検討をする

各競争当局は、当該情報を共有するか否かを決定するに際し、完全な裁量を保持する。当該情報の使用及び開示の条件は、場合によっては書面で決定される。」

と、されています。

これが先の「イ」の、「共有を検討」の出どころなのですね。

でも、「give due considration」というのは、義務とまではいえないけれど十分に考慮する、ということを表す常套句なので、お互いに裁量はあるにせよ、実際に相当程度の証拠の共有が行われる趣旨であろうと読み取れます。

それを、「相応の検討」と翻訳するのは、誤訳とはいいませんが、あまり適切な訳とはいえないと思います。

たとえば、政府の英訳法令データベースで、森林病害虫等防除法(暫定版)の7条の2(防除実施基準)(Pest Control Implementation Standards)をみると、

「第七条の二 農林水産大臣は、薬剤による防除が自然環境及び生活環境の保全に適切な考慮を払いつつ安全かつ適正に行われることを確保するため、森林病害虫等の薬剤による防除の実施に関する基準(以下「防除実施基準」という。)を定めなければならない。」

というのを、

「Article 7-2 (1) In order to ensure that control through pesticide application is implemented safely and properly, while appropriately giving consideration to conservation of the natural and living environment, the Minister of Agriculture, Forestry and Fisheries shall set standards concerning implementation of control of Forest Pests, etc. through pesticide application (hereinafter referred to as "Pest Control Implementation Standards").」

と英訳しています。

appropriateはdueと同じ意味なので、やはり日豪協定の「give due consideration」は、「適切な考慮を払う」と訳すべきでしょう。

しかも公取委の仮訳だと、「will」が訳出されていません。これは法令の翻訳として、ちょっと問題だと思います。

法令データベースで「相応の検討」で検索してもヒットしないので、「相応の検討」という用語は日本の法令では用いられていないものと思われます。

一般論としては、「検討する」を「consider」と訳すのは、かまわないと思います。

たとえば信託法附則4項では、

「前項の別に法律で定める日については、受益者の定めのない信託のうち学術、技芸、慈善、祭祀、宗教その他公益を目的とする信託に係る見直しの状況その他の事情を踏まえて検討するものとし、その結果に基づいて定めるものとする。」

というのを、

「The date specified separately by law set forth in the preceding paragraph shall be considered in light of the status of the review of trusts with no provisions on their beneficiaries which are created for academic activities, art, charity, worship, religion, or other public interest, as well as other circumstances concerned, and shall be determined based on such consideration.」

と英訳しています。

ですが、逆に、「consider」を「検討する」と訳してよい場合は、かなり限られると思われます。

少なくとも日豪協定4.3条においては、適切ではありません。

「検討する」という日本語から浮かぶ英語としては、むしろ、「study」とか、「investigate」とかではないでしょうか。

なお、証拠の共有を念頭においた条文として面白いものとして、日豪協定パラグラフ4.1では、

「Each competition authority will endeavour to render assistance to the other competition authority in the other’s enforcement activities to the extent consistent with the laws and regulations of the country of the assisting competition authority and the important interests of the assisting competition authority, and within its reasonably available resources.

Such assistance may include supporting the other competition authority in the application for approval of a separate governmental body of the country of the assisting competition authority if such approval is required to obtain information or evidence from enterprises or individuals of the country of the assisting competition authority.」

というのがあって、公取委の仮訳では、

「一方の競争当局は、自国の法令及び自己の重要な利益に適合する限り、かつ、自己の合理的に利用可能な資源の範囲内で、他方の競争当局に対してその執行活動について支援を提供するよう努力する。

そのような支援には、他方の競争当局が、支援を提供する競争当局の国内の企業又は個人から情報又は証拠を入手する際に、当該国の別の政府機関から同意を得ることが必要な場合において、当該政府機関から同意を得るための申請に係る支援が含まれ得る。」

とされています。

つまり、証拠の提供に自国の他の政府機関の承認が必要なら、その承認申請もする、ということですね。

2015年5月 2日 (土)

7条の2第8項2号と3号ロの棲み分け

独禁法7条の2第8項(主導的違反者の課徴金の5割増し)の2号(受託継続対価等「指定」者)では、

「単独で又は共同して、

他の事業者の求めに応じて、

継続的に

他の事業者に対し

当該違反行為に係る商品若しくは役務に係る対価、供給量、購入量、市場占有率又は取引の相手方

について指定した者」

は課徴金が5割増しになると規定されています。

同じく同項3号ロ(実行活動重要「指定」者)では、

「他の事業者に対し

当該違反行為に係る商品又は役務に係る対価、供給量、購入量、市場占有率、取引の相手方その他当該違反行為の実行としての事業活動

について指定すること(専ら自己の取引について指定することを除く。)。」

と規定されています。(ただし3号柱書で、「重要なもの」に限定されています。)

何らかの「指定」をする点で両者は共通しているので、その棲み分けが問題になります。

ここで、3号ロ(実行活動重要「指定」者)に該当するとされた東京電力本店等発注の特定架空送電工事事件のTLCに対する納付命令(平成25年(納)第39号・2013年12月20日)について、毎年恒例の公正取引での座談会(766号2頁)で、岸井大太郎先生が、

「〔1号に認定された関電工に対して〕3号のTLCについては、どのように事実を認定しているかよくわからない部分があります。

3号は『当該違反行為を容易にすべき重要なもの』という要件になっていまして、

2号と異なり『他の事業者の求めに応じて』『継続的に』という要件がないという説明がされています。

けれどもこの事件では、事件解説(・・・公正取引763号70-76頁)を見ると、継続性の要件を満たしていたと読めるような書き方をしてありますし〔注:というか、納付命令の2頁に明記されています。〕、

また他者の要望を受けて行われたというようなことも書いてありますので〔注:公正取引763号75頁の事件解説に書いてあります。〕、

その点では実質的には2号と変わらないように思いました。

そこで、どこが違うのかを見てみると、

2号は『違反行為に係る』ですけれども、

3号は『当該違反行為の実行としての事業活動について』

とされています。

そうすると、本件の場合、TLCは、受注予定者自体を決めるのではなく、決まった受注予定者が受注できるように価格低減率〔注:東京電力が定める査定価格から減額が可能な程度を百分率で示すもの。もちろん、価格低減率が大きいほど落札しやすくなるわけです〕を調整するという行為をしていましたので、そのようにカルテルの実施のプロセスで重要な部分を担ったということで、2号ではなく3号のロを適用したのではないかと考えました。」

という発言があります。

しかし、私は、岸井先生のこの解釈はちょっと条文の文言をこねくり回し過ぎている感じがして、よくわからないところがあります。

2号(受託継続対価等「指定」者)の「違反行為に係る」というのは、

「当該違反行為に係る商品若しくは役務に係る対価、供給量、購入量、市場占有率又は取引の相手方について指定した者」

の下線部分のことですから、単純に、2号の指定の対象は、違反対象商品役務の「対価、供給量、購入量、市場占有率又は取引の相手方」に限定されている、というだけのことではないでしょうか。

そして、TLCは、「対価、供給量、購入量、市場占有率又は取引の相手方」のいずれも指定していない、というだけなのではないでしょうか(なので、2号非該当)。

納付命令では、TLCの加算原因行為は、

「TLCは,東京電力が架空送電工事の発注方法を変更したことを契機として,継続的に,東京電力本店等発注の特定架空送電工事のうち,予報(価格低減率の提示による競争によって予報先を選定するものに限る。)の方法により発注されるものの大部分について,受注予定者(受注予定者が共同企業体である場合にあってはその代表者)からなされる当該事業者が東京電力に提示する価格低減率の連絡を受けて,これを基に,

受注予定者以外の各事業者が東京電力に提示すべき価格低減率

を調整した上で,それぞれ指定することなどにより,

受注予定者が確実に受注できるようにしていたものであり,この行為は独占禁止法第7条の2第8項第3号ロに該当するものであって,前記3の違反行為を容易にすべき重要なものである。したがって,TLCは,同号に該当する者であり,同項の規定の適用を受ける事業者である。」

と認定されています。

つまり、2号(受託継続対価等「指定」者)の

「対価」

というのは、実際に取引する(あるいは、少なくとも取引の申し込みをする)「対価」なので、受注予定者以外の者の応札価格は、あくまでダミーなので、「対価」ではない、ということですね。

これに対して3号ロ(実行活動重要「指定」者)の指定対象には、

「当該違反行為に係る商品又は役務に係る対価、供給量、購入量、市場占有率、取引の相手方」

のみならず、

「その他当該違反行為の実行としての事業活動」

も含まれるので、落札予定者以外の者の応札価格(ダミー価格)を指定した場合も、この「実行としての事業活動」に問題なく該当する、というのが条文の素直な読み方だと思います。

実際、同じ座談会の野口文雄前公正取引員会事務総局審査局長は、端的に、

「TLCが受注予定者や受注予定者の価格低減率をきめていたわけではないことから、3号ロを適用したという点については、そのとおりです。」

と回答されています。

つまり、受注予定者を決めていれば2号の「取引の相手方」の指定に該当するし、受注予定者の価格低減率を決めていれば2号の「対価」の指定に該当するので、2号を適用できたけれども、TLCはいずれにもあたらなかったので3号ロになった、ということです。

また岸井先生の上記発言中の、

「そのようにカルテルの実施のプロセスで重要な部分を担ったということで、2号ではなく3号のロを適用したのではないか・・・」

というのも、よくわからないところがあって、2号で指定しているのも「実施のプロセス」であることには変わりがないように思います。

続けて岸井先生は、

「そうだとすると、本件は、2号と同じく『求めに応じて』『継続的に』であれば、違反行為全体を直接指示していなくても、その重要部分について指示していればいいとした先例として理解できることになりますが、いかがでしょうか。」

と質問されていますが、この理解も条文のどの文言から出てくるのか、よくわかりません。

「違反行為全体」という言葉の意味がまずよくわかりませんが、たとえば入札談合を例にとって、素直に「違反行為全体」というのを、受注予定者とその応札価格と、受注予定者以外の者(誰が応札するか)とその応札価格であると考えると、「違反行為全体」を指示することなど、2号でも、3号ロでも、求められていません。

学者の方は、条文の文言を理論的に構成しなおして読む傾向があり、それはそれで妥当な法解釈として極めて重要不可欠なことではあるのですが、実務に出ると、ややこしい条文は、立法経緯や立法趣旨はどうあれ、まずは、書いてある通りに解釈するとどうなるのか、というところからスタートします。

条文を読むのにいちいち背景まで考えないというけないというのでは、忙しい実務は回っていきませんし(独禁法の専門家は弁護士のごく一部でもありますし)、理論的な説明をしても、その結果が条文の文言から外れていては、裁判では勝てません。

岸井先生の問いかけに対して金井貴嗣先生は、

「今岸井先生がご指摘になった点は、要するに3号の柱書きの『容易にすべき重要なもの』が一体どういう場合を指すのかということがポイントですね。」

と、なんとか条文に引き戻そうとされているのが微笑ましいところです。

さて、翻って以上の議論からどういうことが分かるのかといえば、まず、2号の

「対価、供給量、購入量、市場占有率又は取引の相手方」

というのは、実際に成立した(あるいは成立させようとした)「対価」であり、「供給量」であり、「購入量」であり、「市場占有率」であり、「取引の相手方」なのだ、という、ある意味で当たり前のことですね。

少なくともいえるのは、入札談合の受注予定者以外の応札価格(ダミー価格)の指定は、「対価」の指定ではない、ということです。

なんとなく2号(受託継続対価等「指定」者)の方が、重要性を問わない(あるいは、重要性が擬制されている)という点で、3号ロ(実行活動重要「指定」者)よりも悪いのだ、というイメージかと思います。

そうすると、TLCは、顧客が実際に支払う対価自体を決めたわけではないので(それは受注予定者自身が決めています)、2号ほどには悪くないので、3号ロに落ちていく、というのは、分からないではありません。

ただ3号ロに落ちていくと、重要性の要件が必要なので、「求めに応じて」「継続的」という事実があれば、3号ロの重要性において参酌される、ということなのでしょう。

前述のとおり岸井先生は、

「・・・本件は、2号と同じく『求めに応じて』『継続的に』であれば、違反行為全体を直接指示していなくても、その重要部分について指示していればいいとした先例として理解できることになりますが、いかがでしょうか。」

とおっしゃっていますが、これも条文の文言からはおかしくって、「全体」か「部分」かという切り分けがよくわからないというのが1つ(上述のとおり)と、条文上は端的に、「重要」であれば(そして、何らかの実行活動を指定していれば)3号ロに該当するといってよいはずです。

もし、岸井先生の「その重要部分について指示していればいい」というのが、「重要なもの」(3号柱書)と同じ意味なら、さらに加えて、「求めに応じて」「継続的に」という要件が必要になるわけではないでしょう。

反対に、「求めに応じて」「継続的に」であれば必然的に「重要なもの」といえるかといえば、必ずしもそうともいえないわけです。

なお、そもそも論ですが、2号は3号ロの一部を明確化したということなのでしょうけれど、いずれにせよ課徴金5割増という結果は同じなのですから、もう少し整理した条文にした方がよかったのではないでしょうか。

そうすれば、以上のような不毛な解釈論争も起きなかったのにと思います。

2015年5月 1日 (金)

主導的役割に対する割増課徴金

平成21(2009)年改正で、カルテルで主導的役割を果たした事業者に5割増の課徴金算定率が適用されることになりました(7条の2第8項)。

7条の2第8項は、柱書で、

「第一項の規定〔課徴金納付命令〕により課徴金の納付を命ずる場合において、当該事業者が次の各号のいずれかに該当する者であるときは、〔課徴金算定率は1.5倍〕とする。

ただし、当該事業者が、次項〔10年内の繰り返し+主導的役割=2倍〕の規定の適用を受ける者であるときは、この限りでない。」

としたあとで、5割増の要件についての各号で次の通り定めています。

「一  単独で又は共同して、

〔①〕当該違反行為をすることを企て

かつ、

〔②〕他の事業者に対し

当該違反行為をすること又はやめないこと

を要求し、依頼し、又は唆す

ことにより、

〔③〕当該違反行為をさせ、又はやめさせなかつた者

二  単独で又は共同して、

〔①〕他の事業者の求めに応じて、

〔②〕継続的に

〔③〕他の事業者に対し

当該違反行為に係る商品若しくは役務に係る対価、供給量、購入量、市場占有率又は取引の相手方について指定した者

三  前二号に掲げる者のほか、単独で又は共同して、のいずれかに該当する行為であつて、〔①〕当該違反行為を容易にすべき重要なものをした者

イ 〔②〕他の事業者に対し当該違反行為をすること又はやめないことを要求し、依頼し、又は唆すこと。

ロ 〔②〕他の事業者に対し当該違反行為に係る商品又は役務に係る対価、供給量、購入量、市場占有率、取引の相手方その他当該違反行為の実行としての事業活動について指定すること(専ら自己の取引について指定することを除く。)。」

一見してわかるのは、

1号(発案(「企て」)者)と、3号イ(重要「要求」等者)、

2号(受託継続調整(「指定」)者)と、3号ロ(重要調整(「指定」)者)、

が、それぞれ対になっているということです。

つまり、1号では「企て」かつ「違反行為をさせ、又はやめさせなかった」という要件があるのに、3号イでは、ありません。(その代わり、「重要なもの」に絞っています。)

図示(?)すれば、

1号=「企て」+「要求等」+「させ」

3号イ=     「要求等」     +「重要性」

といったところでしょうか。

別の言い方をすると、1号では、「企て」に加え、「要求」等したことにより、さらに、「違反行為をさせ、又はやめさせなかった」こと、という、ある意味での結果の発生まで進むことが必要とされているのに対して、3号イでは、「させ」まで進むことは要求されていません。

ただ、「させ」まで進むほどの行為は通常、「重要なもの」でしょうから、1号は3号イの典型的な場合(に絞りをかけたもの)ということができそうです。

2号では「求めに応じて」「継続的に」という要件が必要ですが、3号ロでは不要です。その代わり、「重要なもの」に絞るとともに、「指定」の対象に「その他当該違反行為の実行としての事業活動」が加えられています。

これも図示すれば、

2号=「求めに応じ」+「継続的」+(対価等の)「指定」

3号ロ=                (実行活動の)「指定」+「重要性」

といったところでしょうか。

3号ロ(重要「指定」者)の「指定」の対象に

「その他当該違反行為の実行としての事業活動」

が加えられていることから翻って考えると、2号(受託継続「指定」者)では指定の対象は

「対価、供給量、購入量、市場占有率又は取引の相手方」

に限定されているんだなかということが分かります。

このような限定が合理的なのかはよくわかりませんが、2号は個別規定ということで、適用対象を明確にしようとしたということなのでしょう。

ところで、1号の「単独で又は共同して」の説明について、菅久他『独占禁止法(第2版)』p214では、

「『単独で又は共同して』なので、1社である必要はなく、1つの違反行為について複数の事業者が該当し得る(以下の場合も同じ)」

と解説されています。

しかし、この説明は、はちょっとおかしいと思います。

「共同して」というのが必然的に複数の事業者が必要なのは、そのとおりでしょう。

でも、「単独で」というのは、1社とは限らず、2社がそれぞれ相手とは無関係に行う、という場合も含まれるのではないでしょうか。(そういうのを「共同して」とはいわないでしょう。)

たとえば、「企て」を、たまたま2社がそれぞれ相手の存在を知らずにやる、ということも、理屈の上ではありうると思います。

そして、2社が「企て」たけれど、結局どちらの「企て」が成就してカルテルが成立したのかよくわからない、ということもあるのではないでしょうか。

そのように「企て」とカルテル成立の因果関係が不明な場合でも、文言上は1号に該当するといって差し支えないと思います。

(「企て」は、「企て」者内部の問題なので、結果発生との因果関係を問題にする性質のものではないように思いますし、因果関係を読み込めそうな「(違反行為を)させ」についても、参加者の1人に違反行為をさせれば「させ」にあたるといって差し支えないでしょう。

つまり、「企て」者の行為は最低1人に違反行為を「させ」れば十分であって、参加者全員に「させ」る必要はない、あるいは、カルテル全体が「企て」者の行為によってもたらされる必要はない、と思います。

つまり、最低1人に「させ」たことと、カルテル参加者全員にカルテルを行わせたことは、必ずしも一致しないということです。)

(ちなみに、1号の、

〔①〕当該違反行為をすることを企て

かつ、

〔②〕他の事業者に対し

当該違反行為をすること又はやめないこと

を要求し、依頼し、又は唆す

ことにより、

〔③〕当該違反行為をさせ、又はやめさせなかつた者

の要件は、上記の改行で示したとおり、

(「企て」〔①〕+「要求等」〔②〕)×「させ」〔③〕

と読むべきなんであろうと思います。

逆にいうと、

「企て」〔①〕+(「要求等」〔②〕×「させ」〔③〕)

ではない、ということです。)

・・・といろいろ考えると、「共同して」という文言を、複数の事業者が該当しうる根拠とするのは、論理的におかしいように思えます。

むしろ、(「単独で」はあたりまえなのでよいとして)「共同して」の意味というのは、3号の重要性を、共同者全体として一体的に判断できる、というところにあるのではないでしょうか。(刑法の共犯のイメージです。)

ところで、主導的役割(という言い方をされることが多いのでここでもそう表現しますが、この表現自体、1人であることをイメージさせるので若干ミスリーディングです)を果たす者が複数存在し得るのか、という問題があります。

この問題について、立案担当者解説である藤井・稲熊編著『逐条解説平成21年改正独占禁止法』p59では、1号から3号共通の説明((4)複数の事業者に対する適用)として、

「例えば、入札談合において『幹事』等の役割を持ち回りにしている場合がこれ〔複数の事業者が主導的役割を果たす場合〕に当たる。」

と解説されています。

これだけみると、5社のカルテルで5社間で幹事を持ち回りでやっていた場合には、5社すべてが割増課徴金の対象になりそうです。

しかし、それは、割増課徴金の趣旨からいっておかしいでしょう。

菅久p214では、1号に関する説明ですが、この点がもう少し絞られていて、

「特定の事業者が主導した場合にその事業者について算定率を割増すこととした趣旨にかんがみれば、すべてのカルテル参加者がこれ〔複数の事業者が加算対象となること〕に該当するようなケースは想定されない。」

と、少なくとも1号で全員が加算対象になることはないと解説されています。

しかし、菅久ですら、「すべてのカルテル参加者が」該当することは想定していないと明示するのは、1号の「企て」者だけであって、2号と3号については全員が加算対象になる可能性を排除していないように読めます。

(菅久p214の「(以下の場合も同じ)」というのが、「・・・想定されていない。」の次に来てれば話は違うのですけれど。さすが赤本、このあたりは良く練られています。)

でもやっぱり、2号でも3号でも、全員が加算対象というのはあり得ない(少なくとも、めったにない)のではないでしょうか。

というのは、

「特定の事業者が主導した場合にその事業者について算定率を割増すこととした趣旨にかんがみれば」

という説明は、1号の「企て」者のみならず、2号の受託継続「指定」者や、3号イの重要「要求」等者や、3号ロの重要「指定」者の場合でも、同様にあてはまるように思われるからです。

ちなみに、主導的役割による加算が適用されたのは、いまのところ、

①高知土木工事事件談合事件納付命令・平成24年(納)第44号(2012年10月17日・ミタニ建設工業)

②同事件納付命令・平成24年(納)第45号(同日・入交建設)

③同事件納付命令・平成24年(納)第48号(同日・轟組)

(以上①~③は、同一事件)

④東京電力架空送電工事事件納付命令・平成25年(納)第39号(2013年12月20日・TLC)

⑤東京電力地中送電ケーブル事件納付命令・平成25年(納)第71号(2013年12月20日・関電工)

の5つの命令だけです。

(なお、村上他編著『条解独占禁止法』は平成26(2014)年12月の刊行で、原則として平成26(2014)年9月現在の法令に基づくようですが(前書き)、同書の7条の2第8項の解説(361頁以下)では、①~⑤のいずれの事件にも言及がありません。せっかく新しいコンメンタールなのですから、少しは触れておいてもよかったのではないかという気がします。)

①~③は同一事件で、3社が共同して受注予定者を指定していたということで、そろって2号(受託継続指定者)が適用されています。

④と⑤は、同じ東電発注の事件で相互に関連していますが別の事件(談合)で、④でも⑤でも、加重されているのは1社ずつです。

④のTLC(東電のグループ会社)は3号ロ(重要「指定」者)、⑤の関電工は1号(「企て」者)が適用されています。

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