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2015年2月

2015年2月13日 (金)

親子会社間の消費税転嫁拒否行為

親子会社間で消費税転嫁対策特別措置法上の消費税転嫁拒否行為が行われた場合も、同法違反になるのでしょうか。

私は、ならないと考えます。

似たような論点について、下請法の場合については、公取委のQ&Aで、

「Q3 親子会社や兄弟会社の間の取引にも,下請法が適用されますか。

 A. 親子会社間などの取引であっても下請法の適用が除外されるものではありませんが,親会社と当該親会社が総株主の議決権の50%超を所有する子会社との取引や,同一の親会社がいずれも総株主の議決権の50%超を所有している子会社間の取引など,実質的に同一会社内での取引とみられる場合は,従前から,運用上問題としておりません。」

となっています。

私は、下請法の場合も親子会社取引には適用がないと考えるべきで、Q&Aの「適用はあるけど運用上問題にしない」というのは解釈として間違っている(というか解釈論ですらない)と思います。

下請法は優越的地位の濫用の特別法なわけですから、競争上一体である親子会社の間で違反が生じるはずがありません。

たとえて言えば、右のポケットに入れるものを左のポケットに入れるだけのことです。

消費税転嫁法の転嫁拒否行為も、優越的地位の濫用や下請法の特別法であるわけですから、親子会社間の取引には適用がないと解すべきです。

消費税転嫁法については、消費税の円滑な転嫁を進めるべきという観点から、異なる議論があり得なくはありません。

つまり、親子会社間の取引でも消費税はかかるのだから、転嫁法も適用すべき、という議論です。

しかし、転嫁法は、優越的地位の濫用規制(の特別規定)を手段として転嫁を促進しようとしているものである以上、その手段が想定している範囲を超えて規制をすることはできないでしょう。

それに、実は増税前10,500円(税込)だったものを増税後も10,500円で販売したとしても、増税後も10,500円×8÷108≒778円の消費税を払えば、ちゃんと8%分納税していることになるのであって、親子会社で消費税をネコババしているわけでもありません。

(まあ、この議論をやりだすと、転嫁法っていうのはそもそも無意味ではないか、ということになりますし、転嫁法で売上が減れば税収も減って逆効果ではないか、という議論はあり、拙著『実務解説消費税転嫁特別措置法』p27のコラムでは、それらの議論の経済学的な根拠について書いたところです。)

それに、転嫁拒否行為に対する勧告は、これに反してもその効果は独禁法または下請法上の措置が採られないというだけです。

そして、親子会社の取引が優越的地位の濫用に該当するとは考えられないですし、下請法については前述のとおり公取委は運用上問題にしていない、ということです。

というわけで、万が一勧告に違反しても、それ以上の制裁はないことになります。(勧告は公表されてしまうので、みっともないですが。)

というわけで、親子会社間や兄弟会社間の取引では消費税転嫁法は気にしなくてよいと思います。

2015年2月12日 (木)

排他取引の経済分析

標題のテーマで弁護士会の勉強会で発表しましたので、スライドを貼り付けておきます。

「niben.pdf」をダウンロード

今回の発表で、Michael D. Whinston, “Lectures on Antitrust Economics, Chapter 4” (2008) を読んでみましたが、いろいろ学ぶところが多かったです。

この本(の4章)は、数学的に難しいところはほとんどなく(微分積分はほとんど出てきません。ほとんど足し算と引き算だけです)、「Lecture」の名に相応しい、直感的な説明をしてくれているので、理解しやすく(でも難しいですが)、とてもお薦めです。

中でも、排他取引の正当化理由としての関係特殊的投資の保護が、どのような場合に理由があって、どのような場合に理由がないのか、というのは、なるほど、と思いました。

売手2人、買手1人のモデルを前提に要約すると、

①ある投資が、買手が他の取引先と取引する価値に影響を与えないものである場合には、排他取引によって当該投資が促進されることはない(∵そのような投資は当事者の決裂利得(disagreement payoff)に影響を与えないので)

②売手が行うある投資が、買手が他の売手と取引する価値も上げるものである場合には、排他契約を締結することで投資が促進される(∵そのような投資はフリーライドのおそれがあり、当事者の決裂利得に影響を与えるので)

③売手が行うある投資が、買手が他の売手と取引する価値を下げるもの(買手の特定の売手に対する忠誠度を上げるような投資)である場合には、排他契約を締結することで投資が抑制される(∵排他契約のないときのほうが、買手の決裂利得が上がり、逆に、売手の交渉力は下がってしまうので)

ということです。

非効率的な既存事業者が効率的な既存事業者を排他契約で排除することはできないというシカゴ学派の主張は、排他契約の外部性を考慮していないなど、ポストシカゴ学派からの反論がいろいろとありますが、ポストシカゴ学派の反論も、排他契約の外部性を考慮して初めて成り立つ話なので、要は、具体的事案においてどちらの方がより妥当しそうかを見極めるのが大事で、どちらが一方的に正しいというものではありません。

ポストシカゴの議論が成り立つのは、かなり市場支配力のある既存事業者がいる場合でなければ成り立たないのではないかという気がしますし、そうすると、市場シェア10%で有力な事業者になり得るという流通取引慣行ガイドラインの定めは、いかにも現実に即していないといえそうです。

あと、今回の発表では、時間の関係と難し過ぎるので取り上げられなかったですが、

①契約に関与する当事者(例、メーカーと小売)間の競争により利益を受ける部外者(例、消費者)が存在する場合、他者排除の可能性がある(例えば、 メーカーと小売間の契約に関与しない最終消費者は、小売間の競争の利益を受ける)

②契約関与者の合計余剰は、部外者が享受する競争を減殺することで増加し、関与者全員の合計余剰を最大化する多当事者間契約(multi-party agreement)により、かかる競争を減殺が可能となり、この場合、他者排除の可能性がある(例えば、メーカーと複数小売の合計余剰は、小売間の競争を制限して小売価格を引上げることで増加する)

③多当事者間契約が締結不能だと、契約関与者間に生じる外部性のために、単純な(非排他的な)契約では合計余剰の最大化ができない可能性がある。この場合、外部性を除去するために排他契約が締結される可能性がある

というWhinston [1990]の議論が、面白かったです。

参考までに、Whinston p156のモデル(Hart-Tirole [1990])は、こんな感じです(楕円内が契約関与者)。

Hart_tirole_1990page001
私は、「独禁法を理解するためには経済学を知る必要がある」とアメリカの教科書に書いてあったことを真に受けて、独禁法の専門家になるためには経済学の理解が必要だと信じて、留学中にコツコツ経済学と産業組織論の勉強をしていたのですが、日本に戻ってみると、経済学の議論が独禁法の法律実務で取り上げられることは、ほとんどありません。

(ところが、独禁法に詳しい法律家は、経済学を知らなくても、経済モデルに対する非常に鋭い指摘をできるようになるのが、面白いところです。)

いわゆる経済分析が企業結合などで用いられる機会が増えていますが、誤解を恐れずにいえば、あれは、ここでいう経済学ではなくて、どちらかというと統計学(計量経済学)です。

でも、独禁法が経済学から得られるメリットというのはたくさんあります。

少なくとも、頭が非常にクリアーになるし、その業界での競争の本質を見抜いて、それを言葉に表す能力は確実に上がります

(反面、経済原則を無視した法律家の議論は、ますます理解困難になります。苦笑)

これからも、地道にコツコツ、独禁法実務に経済学の考え方を広げていけるよう、努力したいと思います。

2015年2月 4日 (水)

共同研究開発ガイドライン目次(と若干の要約)

はじめに

1 基本的視点

2 指針の適用範囲及び判断時点

第一 研究開発の共同化に対する独占禁止法の適用について

1 基本的考え方

2 判断に当たっての考慮事項

(1) 研究開発の共同化については、競争が実質的に制限されるか否かによって判断される

(2)  事業に不可欠な技術の開発を目的とする共同研究開発において、ある事業者が参加を制限され、これによってその事業活動が困難となり、市場から排除されるおそれがある場合に、例外的に研究開発の共同化が独占禁止法上問題となることがある(私的独占等)。

第二 共同研究開発の実施に伴う取決めに対する独占禁止法の適用について

1 基本的考え方

共同研究開発の実施に伴う取決めによって、参加者の事業活動を不当に拘束し、公正な競争を阻害するおそれがある場合には、不公正な取引方法の問題となる。

競争関係にある事業者間で行われる共同研究開発において、当該製品の価格、数量等について相互に事業活動の制限がなされる場合には、主として不当な取引制限の観点から検討される。

共同研究開発参加者間の取決めについては、基本的に本指針の考え方によって判断され、知財ガイドラインは適用されない。

ただし、共同研究開発の成果の第三者へのライセンス契約については、知財ガイドラインの考え方によって判断される。

 

2 不公正な取引方法に関する判断

(1) 共同研究開発の実施に関する事項

ア 原則として不公正な取引方法に該当しないと認められる事項(白条項)

①研究開発の目的、期間、分担等(業務分担、費用負担等)を取り決めること

②共同研究開発のために必要な技術等の情報を参加者間で開示する義務を課すこと

③ ②で他の参加者から開示された技術等の情報に関する秘密を保持する義務を課すこと

④ ②の技術等の情報以外に共同研究開発に関して他の参加者から得た情報のうち特に秘密とされているものの秘密を保持する義務を課すこと

⑤分担した研究の進捗状況を参加者間で報告する義務を課すこと

⑥ ②で他の参加者から開示された技術等を共同研究開発のテーマ以外に流用することを制限すること((1)イ①の場合〔技術等の流用防止のために必要な範囲を超えて共同研究開発以外のテーマに使用することを制限すること〕を除く。)

⑦共同研究開発のテーマと同一のテーマの独自の又は第三者との研究開発を共同研究開発実施期間中について制限すること

⑧共同研究開発の成果について争いが生じることを防止するため又は参加者を共同研究開発に専念させるために必要と認められる場合に、共同研究開発のテーマと極めて密接に関連するテーマの第三者との研究開発を共同研究開発実施期間中について制限すること((1)ウ①〔共同研究開発のテーマ以外のテーマの研究開発を制限すること〕参照)

⑨共同研究開発の成果について争いが生じることを防止するため又は参加者を共同研究開発に専念させるために必要と認められる場合に、共同研究開発終了後の合理的期間に限って、共同研究開発のテーマと同一又は極めて密接に関連するテーマの第三者との研究開発を制限すること((1)ウ①〔共同研究開発のテーマ以外のテーマの研究開発を制限すること〕及び②〔共同研究開発のテーマと同一のテーマの研究開発を共同研究開発終了後について制限すること〕参照) 

○ ただし、共同研究開発終了後の合理的期間に限って、同一又は極めて密接に関連するテーマの第三者との研究開発を制限することは、背信行為の防止又は権利の帰属の確定のために必要と認められる場合には、原則として公正競争阻害性がない。

⑩参加者を共同研究開発に専念させるために必要と認められる場合に、共同研究開発実施期間中において、共同研究開発の目的とする技術と同種の技術を他から導入することを制限すること((1)イ①〔技術等の流用防止のために必要な範囲を超えて、共同研究開発に際して他の参加者から開示された技術等を共同研究開発以外のテーマに使用することを制限すること〕の場合を除く。)

⑪共同研究開発への他の事業者の参加を制限すること

○ 共同研究開発への他の事業者の参加を制限すること自体は、原則として問題とはならないが、他の事業者の参加を制限する行為が、例外的に、不公正な取引方法(独占禁止法第二条第九項第一号又は一般指定第一項(共同の取引拒絶)、第二項(その他の取引拒絶)等)、私的独占等の問題となることがある(第一-2(2)参照)。

イ 不公正な取引方法に該当するおそれがある事項(灰条項)

①技術等の流用防止のために必要な範囲を超えて、共同研究開発に際して他の参加者から開示された技術等を共同研究開発以外のテーマに使用することを制限すること((1)ア⑥〔他の参加者から開示された技術等を共同研究開発のテーマ以外に流用することを制限すること〕参照)

○ 開示された技術等をそのまま流用するのではなく、それから着想を得て全く別の技術を開発することまで制限するような場合には、当該研究開発活動の制限は、技術等の流用防止のために必要な範囲を超えて参加者の事業活動を不当に拘束するものであり、公正な競争を阻害するおそれがあるものと考えられる(一般指定第一二項(拘束条件付取引))。

②共同研究開発の実施のために必要な範囲を超えて、共同研究開発の目的とする技術と同種の技術を他から導入することを制限すること((1)ア⑩〔参加者を共同研究開発に専念させるために必要と認められる場合に、共同研究開発実施期間中において、共同研究開発の目的とする技術と同種の技術を他から導入することを制限すること〕参照)

ウ 不公正な取引方法に該当するおそれが強い事項(黒条項)

①共同研究開発のテーマ以外のテーマの研究開発を制限すること((1)ア⑧〔共同研究開発の成果について争いが生じることを防止するため又は参加者を共同研究開発に専念させるために必要と認められる場合に、共同研究開発のテーマと極めて密接に関連するテーマの第三者との研究開発を共同研究開発実施期間中について制限すること〕及び⑨〔共同研究開発の成果について争いが生じることを防止するため又は参加者を共同研究開発に専念させるために必要と認められる場合に、共同研究開発終了後の合理的期間に限って、共同研究開発のテーマと同一又は極めて密接に関連するテーマの第三者との研究開発を制限すること〕の場合を除く。)

②共同研究開発のテーマと同一のテーマの研究開発を共同研究開発終了後について制限すること((1)ア⑨〔共同研究開発の成果について争いが生じることを防止するため又は参加者を共同研究開発に専念させるために必要と認められる場合に、共同研究開発終了後の合理的期間に限って、共同研究開発のテーマと同一又は極めて密接に関連するテーマの第三者との研究開発を制限すること〕の場合を除く。)

③既有の技術の自らの使用、第三者への実施許諾等を制限すること

④共同研究開発の成果に基づく製品以外の競合する製品等について、参加者の生産又は販売活動を制限すること

(2) 共同研究開発の成果である技術に関する事項

ア 白条項

①成果の定義又は帰属を取り決めること

②成果の第三者への実施許諾を制限すること

③成果の第三者への実施許諾に係る実施料の分配等を取り決めること

④成果に係る秘密を保持する義務を課すこと

⑤成果の改良発明等を他の参加者へ開示する義務を課すこと又は他の参加者へ非独占的に実施許諾する義務を課すこと

イ 黒条項

①成果を利用した研究開発を制限すること

②成果の改良発明等を他の参加者へ譲渡する義務を課すこと又は他の参加者へ独占的に実施許諾する義務を課すこと

(3) 共同研究開発の成果である技術を利用した製品に関する事項

ア 白条項

①成果であるノウハウの秘密性を保持するために必要な場合に、合理的な期間に限って、成果に基づく製品の販売先について、他の参加者又はその指定する事業者に制限すること((3)イ③〔成果に基づく製品の販売先を制限すること〕参照)

②成果であるノウハウの秘密性を保持するために必要な場合又は成果に基づく製品の品質を確保することが必要な場合に、合理的な期間に限って、成果に基づく製品の原材料又は部品の購入先について、他の参加者又はその指定する事業者に制限すること((3)イ④〔成果に基づく製品の原材料又は部品の購入先を制限すること〕参照)

○ ①②の「合理的な期間」は、リバース・エンジニアリング等によりその分野における技術水準からみてノウハウの取引価値がなくなるまでの期間、同等の原材料又は部品が他から入手できるまでの期間等により判断される。

 

③成果に基づく製品について他の参加者から供給を受ける場合に、成果である技術の効用を確保するために必要な範囲で、その供給を受ける製品について一定以上の品質又は規格を維持する義務を課すこと((3)イ⑤〔成果に基づく製品の品質又は規格を制限すること〕参照)

イ 灰条項

①成果に基づく製品の生産又は販売地域を制限すること

②成果に基づく製品の生産又は販売数量を制限すること

③成果に基づく製品の販売先を制限すること((3)ア①〔成果であるノウハウの秘密性を保持するために必要な場合に、合理的な期間に限って、成果に基づく製品の販売先について、他の参加者又はその指定する事業者に制限すること〕の場合を除く。)

④成果に基づく製品の原材料又は部品の購入先を制限すること((3)ア②〔成果であるノウハウの秘密性を保持するために必要な場合又は成果に基づく製品の品質を確保することが必要な場合に、合理的な期間に限って、成果に基づく製品の原材料又は部品の購入先について、他の参加者又はその指定する事業者に制限すること〕の場合を除く。)

⑤成果に基づく製品の品質又は規格を制限すること((3)ア③〔成果に基づく製品について他の参加者から供給を受ける場合に、成果である技術の効用を確保するために必要な範囲で、その供給を受ける製品について一定以上の品質又は規格を維持する義務を課すこと〕の場合を除く。)

ウ 黒条項

①成果に基づく製品の第三者への販売価格を制限すること

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