下請法の「業として」の反復継続性に関する講習テキストの解釈変更
これまで下請法講習テキストでは、製造委託などの要件である「業として」の解説として、「反復継続的に」ということが明示的に要求されていたのですが、昨年(平成26(2014)年)11月の改訂版では、いくつかの重要な部分でこの記載がなくなっています。
たとえば、修理委託の類型2についての旧版の説明では、
「・・・自家使用する物品の修理を反復継続的に社会通念上、事業の遂行とみることができる程度に行っている場合に・・・」(p9)
という説明だったのが、新版では、
「・・・自家使用する物品の修理を、社内に修理部門を設けるなど業務の遂行と見ることができる程度に行っている場合に・・・」(p8)
というふうに変更されています。
この解釈変更の実務上の意義はとても大きいと思います。
そのことは、新版p8の続きの部分をみるとあきらかです。
つまり新版p8では、続けて、
「自社の工場で使用している機械類や、設備機械に付属する配線・配管等の修理を社内部門で行っている場合であって、その修理の一部を他の事業者に委託する場合がこれに当たる。
他方、修理に必要な技術を持った作業員が必要に応じ修理に当たるような場合や、修理を行う設備はあるが修理業務の全てを他に委託しているような場合は該当しない。」
とされています。
「修理に必要な技術を持った作業員が必要に応じ修理に当たるような場合」が「業として」に該当しないというのは、かなり驚きです。
というのは、社内で修理をするためには
「修理に必要な技術を持った従業員」
が必要なのは当然ですし、修理というのは
「必要に応じ」
て行うことも当然だからです(必要もないのに修理するはずがない)。
(善意に解釈すれば、「必要に応じ」というのは、「アドホックに」というニュアンスなのでしょうけれど。)
ですから、社内に「修理部門」と名付けた部門(あるいは、修理をもっぱらまたは主に行う部門?)がない限りは、およそ「業として」に該当することはなさそうにみえます。
以上と同様の解釈変更は、情報成果物の類型3でもなされています(新版p12)。
そもそも旧版までの反復継続性の要件は、下請法運用基準第2-1(2)の、
「『業として』とは、事業者が、ある行為を反復継続的に行っており、社会通念上、事業の遂行とみることができる場合を指す」
という部分から来ていました。
新版でも、総論的な説明としては、例えば製造委託の説明で、
「『業として』とは、事業者が、ある行為を反復継続的に行っており、社会通念上、事業の遂行とみることができる場合を指す。」
という記述は残されています(p5)。
(なお念のためですが、この「業として」は、類型1から3の「業として」と、類型4(自己使用)の「業として」に共通の説明です。)
しかし、具体例の説明として「反復継続して」の要件が意図的に外された意義はとても大きいと思います。
もし公取委に正面からきけば、「解釈を明確化しただけで変更したわけではない。」という答弁でしょうけれど。(「事業の遂行と見ることができる場合」に、「社内部門で・・・」以下を読み込むのでしょうかね。)
いままで、講習テキストの記述をもとに、幅広に「業として」を認識していた企業は、もう一度、下請取引該当性を見直してみる必要があるでしょう。
また、これまでは「業として」に該当せざるを得ないと考えていた取引を、「業として」に該当しないと公取委と議論できる余地がかなり広がったと思われます。
次の改訂ではこの記述がまた元に戻されるかもしれませんので、平成26年11月版の講習テキストは永久保存版でしょう。
【2015年1月20日追記】
ちなみに、今や同僚なので以前ほど褒めづらくなった(笑)、長澤『優越的地位濫用規制と下請法の解説と分析』p35で引用されている、辻・生駒『詳解下請代金支払遅延等防止法(改訂版)』p40では、修理委託の説明ですが、
「一定の施設を持っていわゆる自家修理を行っている場合には『業として』修理を行っていることがはっきりしているね。
問題は、小道具程度で済む簡単な修理の場合だが、ふだんは自社内で処理しているような作業でも、日常繰り返し行われているようなものであって、それを担当者が不在のために外注に出すとすれば、修理委託とみられるだろうね。」
と解説されています(この本は、解説が問答形式の部分があって、おもしろいです)。
要するに、「業として」のためには、反復継続か否かが決めてで、「一定の施設」を有することは不要という立場ですね。
辻・生駒では、「部門」の有無ではなく「施設」の有無を論じていますが、法的観点からは同様の分析になじみそうです。
今回の講習テキストの改正で、結論が逆になってしまったわけですが、それでも私は、辻・生駒の反復継続性を決め手とする発想のほうが、しっくりときます。
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