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2015年1月11日 (日)

ハブアンドスポークに関する英国の判例

池田毅「直接の連絡によらない『非典型カルテル』の近時の発展と求められるコンプライアンス」(NBL1039号36頁)で紹介されていた、ハブアンドスポークに関する英国の裁判例が、なかなかよく練られていて興味深いので、ちょっと検討してみます。

CAT 31, Case No. 1188/1/1/11 Tesco Stores Ltd. etc v. OFT (20 Dec. 2012)

同判決では、

B (supplier)

↗       ↘

A (retailer)          C (retailer)

と価格情報が伝達されたという事実関係のもとでハブアンドスポークのカルテルが成立する十分条件として、次の5つを挙げています(57段落)。

(a) retailer A discloses to supplier B its future pricing intentions;

(b) A may be taken to intend that B will make use of that information to influence market conditions by passing that information to other retailers (of whom C is, or may be, one);

(c) B does, in fact, pass that information to C;

(d) C may be taken to know the circumstances in which the information was disclosed by A to B; and

(e) C does, in fact, use the information in determining its own future pricing intentions.

さて前記論文では、

① 小売店AがサプライヤーBに将来の価格の意向を伝達した。

② Aは、Bが、その情報を他の小売店に伝えることによって、市場の状況に影響を与えようとするであろうことを意図していた。

③ Bが実際に当該情報を別の小売店Cに伝達した。

④ Cは、AがBに情報を開示したという状況を認識していた。

⑤ Cが実際に当該情報を自己の将来価格の意向を決定するのに用いた。

と翻訳されていますので、これを取っ掛かりに検討してみましょう。

まず最初に細かいことですが、同論文では、

「CATは過去の先例と同様に、以下の要件が満たされる場合に違法な協調行為になるとの規範を示した。」

とされていますが、厳密にいえば、同判決57段落では、

「The parties agreed that, if the propositions set out by Lloyd LJ at paragraph 141 of Toys and Kits (set out in full at paragraph 67 below) were met, that would be sufficient to establish an infringement of the Chapter I prohibition.」

といっています。

つまり、「要件」というよりも、「十分条件」なのですね。(つまり、以上の5つの事実が満たされれば必ず違法だけれど、それ以外にも違法になる場合がある、ということです。)

たとえば判決353段落では、AやCの主観的要件が、もっと程度の低いもので足りるのかについては、先例は意図的に明言していないのだ、と述べています(つまり、5つの事実を満たさない場合にでも違法になり得るということです。)

日本の法律で「要件」という場合には、必要十分条件の意味で使うことが多いですし、通常の日本語としても、

「以下の要件が満たされる場合に違法な協調行為になる」

といえば、

「以下の要件が満たされない場合に違法な協調行為にならない

んだな、と理解しがちなので、前記論文の「以下の要件が満たされる場合には」という記述には若干の注意が必要です。

さて、上に引用した前記論文の翻訳は、だいたいそのとおりなのですが、判決のこの部分は縦の関係の情報伝達がカルテルになるか否かを分ける基準として練りに練られた上でドラフトされているので、実は読み込むにはかなりの集中力が必要です。

まず、①はとくに問題ないでしょう。

問題は次の

② Aは、Bが、その情報を他の小売店に伝えることによって、市場の状況に影響を与えようとするであろうことを意図していた。

です。

原文の(b)では、

(b) A may be taken to intend that B will make use of that information to influence market conditions by passing that information to other retailers (of whom C is, or may be, one);

となっていて、直訳すると、

Bが当該情報を他の小売店ら(Cがそのうちの1つであるか、あるいは、1つであり得る)に伝えることによって市場の諸条件に影響を与えるために利用するであろうことを、Aが意図しているとみなされ得る

となります。

まず、前記論文翻訳の「与えようとする」というのは、「try to influence」的なニュアンスがありますが、原文は端的に、「Bが・・・与えるためにその情報を利用する」となっており、直接的です。

もっと根本的なことをいえば、原文では「B will make use of...」となっていて、この「will」というのは、英語のニュアンスでは、ほぼ確実にそうするであろうという感じで、mayと明確に対置されます。

実は判決の71段落ではこの点がまさに争点になっていて、Aの将来価格の意図がCに伝達される「かもしれない」(might)ことを予期していたこと(foresight)だけでもAの主観的要件としては十分であるというOFTの主張が裁判所により排斥されています。

なので、伝達されるであろう(would)と、伝達されるかもしれない(might)というのでは意味が異なるわけで、「与えようとするであろう」では、この辺りがあいまいになってしまいます。

それから、「may be taken to」(~とみなされ得る)というのもけっこうポイントで、(Aが)現に意図していた場合に限られない、という含みがあります。つまり、「意図していた」というのより幅広くカルテルの成立が認められることになります。

この点も判決では明確に意識されていて、66段落では、先例を引用しながら、Aの主観的要件は、

「retailer A may be taken to have intended, or actually foresaw, that its future intentions would be conveyed to its competitor, retainer C」

であると述べられていて、実際に予期していた場合以外に、「意図していたとみなされ得る」場合があると考えられていることがわかります。

次の③はよいでしょう。

問題は次の、

④ Cは、AがBに情報を開示したという状況を認識していた。

です。

「情報を開示したという状況」って何かと思って原文をみたら、

(d) C may be taken to know the circumstances in which the information was disclosed by A to B;

なんですね。

直訳すると、

当該情報がAからBに開示された状況をCが知っているとみなされ得る(こと)

ですね。

「may be taken」(みなされ得る)は、前述のとおりです。

そして、前記論文の「Cは、AがBに情報を開示したという状況を認識していた」というのでは、AからBへの情報開示があったことをCが知っていればこの要件は満たされそうに見えますが、その状況(the circumstances)を知ってないといけないのですね。

ただ、状況の詳細まで知らないといけないわけではもちろんないでしょうから、結果的には、

「④’ Cは、AがBに当該情報を開示したことを認識している」

でも良さそうなものです。

そうだとしたら、前記論文の翻訳も、細かい文法的なことはさておいて、結論的には大過ないということになるのでしょう。

しかし、私はこの部分を、

「④’ Cは、AがBに当該情報を開示したことを認識している」

と解釈するのは問題だと思います。

ポイントは、

(d) C may be taken to know the circumstances in which the information was disclosed by A to B;

の中の、

「the circumstances」

です。

「circumstance」をOxford Advanced Lerners' Dictionaryで調べると、

「the conditions and facts that are connected with and affect a situation, an event or an action.」

(ある状況、出来事または行為に関係し、かつ影響を与える諸条件および諸事実)

と説明されています。

そして、今の文脈で大事なのは、

the circumstances in which the information was disclosed by A to B」

の「the circumstances」に、AがBに価格情報を伝えたという外形上の事実(要件(a))のみならず、開示したときの意図(要件(b))も含まれるのか、という問題です。

実質論からいえば、これは明らかに含まれるべきです。

なぜなら、CがAの意図を知らない場合にカルテルが成立するというのは、どう考えても無理だからです。

そして、circumstancesの、

「ある状況、出来事または行為に関係し、かつ影響を与える諸条件および諸事実

という意味からすれば、その「諸条件および諸事実」に、Aの意図が含まれないと考えるのは、言葉の意味からして無理でしょう。

というのは、主観的意図が何かの「条件」になることはいくらでもありますし、主観的意図も「事実」であることには変わらないからです。

実際、判決の85段落では、

「The key point is, in our view, that C must be shown to have appreciated the basis on which A provided the information to B, so that A, B and C can all be regarded as parties to a concerted practice.」

(当裁判所の見解によれば、キーポイントは、A、BおよびCが協調行為の当事者とみなされ得るためには、Aが当該情報をBに提供した理由をCが理解していたことが示されなければならない、ということである。)

と判示されており、Aの意図をCが理解していることが要件(d)のcircumstancesに読み込まれていることが明らかです。

というわけで、前記論文の、

④ Cは、AがBに情報を開示したという状況を認識していた。

という翻訳では、あたかも開示したという事実を認識していたと読める点で、問題があるわけです。

まして、

「④’ Cは、AがBに当該情報を開示したことを認識している」

と省略してしまうのは、もっと問題です。これでは開示という客観的事実を認識していたとしか読めません。

やっぱり日本語に直すなら、

当該情報がAからBに開示された状況をCが知っている(とみなされ得ること)

というのしかなく、その「状況」の中に、Aの開示の意図や理由も含まれると読んでもらうことを期待するしかないでしょう(「状況」に意図が含まれるというのは、そんなに不自然な解釈ではないでしょう)。

ところで(d)の要件で

(d) C may be taken to know the circumstances in which the information was disclosed by A to B;

と、情報の開示者がAであることをCが認識している必要があると思われること、いいかえれば、

C may be taken to know the circumstances in which the information was disclosed by a competitor [of C] to B;

では足りない、というのは結構重要なポイントではないかと思います。(深読みかもしれませんが。)

というのは、ハブアンドスポークのような間接的な情報のやり取りでは、情報の受領者が情報の発信者を特定できていることがぜひとも必要だと思われるからです。

あと興味深いのは、

(b) A may be taken to intend that B will make use of that information to influence market conditions by passing that information to other retailers (of whom C is, or may be, one);

の要件で、(Cへの情報伝達により)市場の諸条件に影響を与えるために当該情報を利用する主体はBである、と読めることですね。

この点について判決をよく読むと、

「The next limb of an infringement is that supplier B must be shown, as a matter of fact, to have transmitted retailer A’s future pricing intentions to retailer C.」

とされていて(75段落)、Bが市場競争に影響を与えるために情報を意図的に利用したことなどはまったく想定されておらず、たんに客観的に、「伝達」(transmit)したかどうかだけが問題にされているように見えるところもあります。

Bが藁人形でもAとCにカルテルが成立することは何ら問題ないわけですから、この判決の解釈で基本的には正しいのでしょう。

一見、AとCのカルテル成立の要件としてBの主体的関与が必要であるかのように見えますが、そうではありません。外国語って、やっぱり難しいですね。

ただし、Bの立場というのは、要件事実としてはさておき、事実認定の上での間接事実としては通常とても重要で、BがCに情報を伝達する何らかのインセンティブを有しない場合にはAとCの間のカルテルも否定されることが多いでしょう。

というのは、BがCに正確な情報を伝達するのにはそれなりにコストがかかるはずですし、何の理由もなくBがそのような伝達に協力することは通常考えにくいからです。(BがCと価格交渉するためには、Aの価格をあえて不正確にブラフで伝えることもあるので、通常の価格交渉があるだけの状況では、Bに十分な情報伝達のインセンティブがあるとはいいにくいと思います。)このあたりの考慮は判決の237段落にも表れています。

そういうことを考えると、

(b) A may be taken to intend that B will make use of...

と、あえて情報利用の主体としてBを登場させていることは、このあたりのBの立場の重要性を意識しているのかもしれません。

また、別の観点から見ると、

"... B will make use of that information to influence market conditions"

といっているのは、市場の諸条件に反競争的な影響を与えることが当然に含意されているとみることもできます。

なので、本件はハブが上に来ているので成り立ちませんが、ハブが下に来ている場合だと、たとえばBがAから伝達を受けた情報をCに伝えたけれど、それはCから値引きを引き出すためだった、というような場合ならこの要件を満たさないことになりそうです。

被害者になる需要者たるハブが競争制限目的で自分の首を絞めるようなことは通常そもそもないはずですが、官製談合とかだと現実的な想定なので、競わせるための情報伝達が官製談合だと言われないためにはこの要件は役立つかもしれません。

その他にも、Bが競争制限以外の目的でCに伝達するのであれば、この要件を満たさないということになりそうです。

そういうことも考えると、この部分は実に奥行きが深いことを言っているのかもしれません。

ともあれ、判決の英語というのは、冠詞とか助動詞とか、ちょっとしたところに実は深い意味が込められていて、わかりやすく誤解のないように翻訳するのは実はけっこう大変です。(紙面の制限もありますし。)

私もパワポのときとかは、けっこうはっしょってしまったりもします。

論文を書くときも、想定読者によって厳密さのレベル感を変えることもあるかもしれません(笑)。

なので、やっぱり法律の英語は、原文に当たるのが一番なのですね。

別の見方をすると、正確を期すなら逐語訳をするのが最も無難なわけで、わかりやすさを重視してはしょるのは、実はそちらのほうがずいぶん手間がかかりますし、気も遣います。

なので、上記論文の執筆者の名誉のために申し上げれば、きっと執筆者の方はわかりやすさを重視されたのだと思います。

なお蛇足ですが、同論文では、

「CATが用いた規範の下では必ずしも双方向の情報の授受が違法認定に必要となるわけではないと解される。」

との「見解」が示されており、それは正しいのですが、この点は判決の第70段落に、

「We note also that in Toys and Kits, Lloyd LJ said that a finding of an infringement would be all the stronger where there is reciprocity, in the sense that C, having already received A’s future pricing intentions, discloses to supplier B its future pricing intentions in circumstances where C may be taken to intend that B will make use of that information to influence market conditions by passing that information to (amongst others) A, and B does so (paragraph 141). This, however, is not a necessary ingredient of an infringement.」

と、明示的に判断が示されています。

さて、以上を振り返って同判決の規範がハブアンドスポークの規範として適切でしょうか。

例えば、小売店がメーカーに働きかけて行う再販売価格維持とハブアンドスポークのカルテルを区別できるのでしょうか。

判決では、

(a) retailer A discloses to supplier B its future pricing intentions;

ということなので、再販の場合はBからAに小売価格を伝えるので向きが逆だ、というので区別するのでしょうか?

でも実際には、どっちが決めた価格なのか、微妙なこともあるのではないでしょうか。

ただ、結論の妥当性からさかのぼって考えると、この(a)の事実には、CではなくAが小売価格を決定することを当然の前提としているということを読み込む必要がありそうです。

もしそうだとすると、もっとも何気なさそうな(a)の事実が、実はこの規範の中で最も(あるいは案外)重要、ということになりそうです。

次の、

(b) A may be taken to intend that B will make use of that information to influence market conditions by passing that information to other retailers (of whom C is, or may be, one);

は、(a)を前提としないとそもそも成り立たないので、これ単体では検討してもあまり意味がありませんが、それでも(b)だけ単体でみた場合、再販の場合はまさにBが反競争的目的で他の小売店に価格情報を伝えるので、(b)の要件では再販とハブアンドスポークは区別できなさそうです。

次の、

(c) B does, in fact, pass that information to C;

も、やっぱり再販と区別できませんね。

次の、

(d) C may be taken to know the circumstances in which the information was disclosed by A to B;

は、再販と区別するのに役立ちそうですが、それでも、AとBが協議してAの小売価格を決めたような場合には、そのような状況も「the circumstances」に該当すると解するのであれば、再販と区別するのは難しそうです。

なお上述のように、「by A」の部分に着目して、Cが漠然と「他の小売店もこの価格に従うんだな」と認識しているのでは足りない、と考えると、再販と区別する重要な基準になりそうです。

「でも、再販の場合でも小売店にお互いの顔が見えているようなケースもあるのではないか。」といわれると確かにそうなのですが、再販は小売店多数の場合を想定していて、ハブアンドスポークは小売店が比較的少数であることを想定していることが多いのかもしれません。

最後の、

(e) C does, in fact, use the information in determining its own future pricing intentions.

も、再販の場合にはCはBに言われた小売価格に従うだけであって自ら「determine」していないのだ、と解釈すれば、再販と区別する基準になりそうです。

目の前にいかにもハブアンドスポークっぽい事実がある場合にそれをカルテルだといえるというだけでは規範として不適切で、ハブアンドスポークっぽくない(たとえば再販の)事例をカルテルにしてしまわない規範でもある必要があるわけです。

そういうことを考えてみると、英国の判例の基準は、細かいことを言い出すときりがないけれど、大きなところでは、やっぱりうまく練られているんだなあ、という気もします。

今回、この判例をやや詳しく検討するきっかけを与えていただいた各方面の方々と、前記論文とのご縁に感謝したいと思います。

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