50:50のJVとの取引と再販売価格拘束
平成12年度の相談事例集(平成13年公表)の事例7で、「大手家電メーカーの共同出資会社による再販売価格の指示」という事例があります。
A社とB社がJV(C社)をつくり、JV(C社)がA社の100%子会社であるD社に再販売価格拘束をする、というものです。
この事例は、実務上よくありがちな、50:50のJVに対して両親が再販拘束してよいか、という問題を考えるのに役立ちそうです(本相談事例では、拘束する側がJVで、拘束される側がJVパートナー(の100%子会社)なので上下が逆ですが。)
公取委の回答は以下のように述べています。
「本件相談について,C社〔JV〕とD社〔Aの子会社〕は親子会社の関係にはないところ,
C社がA社の生産した新製品を全量買い取り,
D社に転売するとともに,
D社の小売店向けの販売価格を指示することは,
再販売価格の拘束に該当するおそれがあるともいえる。
しかしながら,
(1)C社〔JV〕はA社〔JV親〕とB社〔JV親〕が各50%を出資して,新製品を我が国で販売するために設立した共同出資会社であること,
(2)D社〔Aの子〕はA社の100%出資の子会社であること,
(3)さらにC社〔JV〕の意思決定はA社〔JV親〕とB社〔JV親〕の合意に基づくものであること
から総合的に判断すると,
新製品の販売に関するC社〔JV〕の意思決定とA社〔JV親〕の意思決定の間に実質的な差はなく,
A社〔JV親〕,C社〔JV〕及びD社〔Aの子〕間の取引は実質的に同一企業内の行為に準ずるものと認められる。
したがって,C社〔JV〕がD社〔Aの子〕の販売価格を指示することは独占禁止法上問題ない。」
とされています。
理由づけを細かく見ていくと、(3)の、
「C社の意思決定はA社とB社の合意に基づくものであること」
という事実は、A、C、Dの取引が実質的に同一企業内の行為であることを否定する方向にはたらくんではないかという気がします。
というのは、むしろCの意思をA単独では決められない(Bの同意が必要である)ということであるととらえる方が素直に思われるからです。
このように理屈はともあれ、公取委はともかくも常識的な結論に落ち着かせようとしたのでしょう。
50:50の合弁を独禁法上独立の競争主体とみるべきかというのは実務でしょっちゅう起こる問題で、少なくとも法律の一般論としては、50:50では親と一体とは見られない(つまり独立の競争主体である)、よって再販に形式的には該当すると言わざるを得ない、というのが通常の理解ではないかと思います。
しかも親子間取引については「実質的に同一企業内の行為に準ずる」という、一見大変厳しい基準が採られているため、説明に難儀します。
ですが、たとえばJVの両親がJVに対して再販拘束するというのはよくある話であり、それを違法だというのはいかにも納まりが悪いでしょう。
そこで、本相談事例は、上述のように説明にやや難があるものの、50:50のJVをめぐる再販は基本的に問題視されないということを示す有力な根拠となっているといえるでしょう。
さらに、再販という日本では非常に厳しい行為類型ですら同一企業内の取引として処理されているわけですから、その他の取引類型ではなおさら、50:50のJVとの間の取引は同一企業内の取引として問題視されないといってよいと思います。
(穿った見方をすれば、本来救いようのない再販を同一企業内の行為として救っただけであって、他の行為類型の場合にはもっと実態をみて同一企業内の行為かどうかを判断するという見方もあり得ますが、それは本当に「穿った見方」というものでしょう。)
このように、本相談事例は、50:50のJVとの取引に一般的に影響しうる、実務上は非常に重要な事例であると思われます。
私などは、経験上、50:50のJVでも結構独立性があったり、場合によっては60:40のJVがむしろ40の親に支配されているというケースも見ますので、この相談事例ほど割り切った意見書を出すのはかなり躊躇しますが(なので、競争上も本当に問題ないか根掘り葉掘り聞きますが)、少なくとも、入り口レベルの(=形式論の)「50%超でない限り一体とはみられない」という形式論に対しては、この相談事例を頼りに、「そこまで神経質になることはないんじゃないの?」とは言ってあげられそうです。
« 下請法の「業として」の反復継続性に関する講習テキストの解釈変更 | トップページ | ハブアンドスポークに関する英国の判例 »
« 下請法の「業として」の反復継続性に関する講習テキストの解釈変更 | トップページ | ハブアンドスポークに関する英国の判例 »
コメント