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2015年1月15日 (木)

不当高価購入と下請法に関する村上他編著『条解独占禁止法』の記述

弘文堂・村上他編著『条解独占禁止法』の不当高価購入の「判審決例の展開」のところに、

「これまで不当高価購入が適用された事例は存在しない。しかも、仮に将来的に不当高価購入にあたる行為が生じても、排除型私的独占に該当するとして処理できる。」(p214)

と解説されています。

果たしてそうでしょうか?

一般的な理解では、私的独占の「競争の実質的制限」と不公正な取引方法の公正競争阻害性では、競争の実質的制限の方が競争制限の程度が高いと考えられています。

つまり、不公正な取引方法の方が、より低い競争制限のレベルで違法になるということです。

なのに、私的独占で処理できると言い切ってしまってよいのでしょうか?

この解説の理屈を私なりに忖度すると、裏返しの(安く売る)廉売では、排除型私的独占と不公正な取引方法としての不当廉売で、ガイドライン上、コスト基準が同じになっているので、裏返しの不当高価購入も事実上同じ基準で処理できるはずだ、という理屈が考えられます。

しかし、不当廉売もコストだけで違法性を判断するわけではありません。

そうすると、不当高価購入も購入価格だけで判断するのではないはずで、やはり不当廉売の場合と同様(あるいはそれ以上に)、私的独占の方がハードルが高いのではないかと思います。

もう少し現実的に、おそらく執筆者がこの部分の根拠と考えていると想像されるのは、欧州では不当高価購入はTFEU102条で処理される、という点です。

ただ、あくまで想像なので、何とも言えません。

上記該当箇所にも、根拠の説明はありません。

不当高価購入なんて実務上問題になることはないだろうということで端折って書かれているのかもしれませんが(不当高価購入の解説全部を合わせても全部で実質8行しかありません・・・)、クライアントから意見を求められることはあるので、そのときに根拠として引用できる参考文献がないと本当に困ります。

コンメンタールは、そういう、誰も論文を書かなそうなマイナー論点でも、多少なりとも触れているところがありがたかったりするのですが。。。

(もちろん、意見書に引用するには、安心して引用できる権威ある文献であることが大前提ではあります。)

ちなみに、旧版に相当する厚谷他『条解独占禁止法』p146以下では、私もファンで、鋭くかつ納得感のある(しかも実務のツボを突いている!)論文を多数発表されている、山形大学教授の藤田稔先生が、これぞ携帯版コンメンタールというかんじの、重みがあり明確かつ簡潔で、かつ行き届いた解説をされています。

あと、新版『条解』で下請法の買いたたきの部分を調べてて、「なんだか根拠になる文献が全然引用されてないなぁ」と思ったら、総論部分に、

「本章における各条の解説も特段の記載のない限り、下請法テキストの内容および図表をその出典としている。」(p893)

と書いてありました。

う~ん、そういう手があったか(笑)。

でも、下請法テキストは毎年ちょくちょく変わるし、そもそもコンメンタールは頭から全部読むものではないので、ちょっと不親切ですね。

しかも実際の内容は、「公取委は○○と回答している」という記述が結構あって、この部分は下請法テキストには書いてないようなのですが、こういうところなんかは、やっぱり出典を書いてもらったほうが便利だし、安心して引用できます(まさか執筆者が個人的に知っているということではないでしょうし)。

コンメンタールは実務で重視されることが多いし、私が個人的にコンメンタールというものを愛しているので、今回も辛口になってしまいましたが、改訂版を出される際にはぜひご検討ください!

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