« 景表法の課徴金と違反行為の個数 | トップページ | 経済産業省から「平成25年度我が国経済構造に関する競争政策的観点からの調査研究(消費インテリジェンスと競争法の垂直的制限規制に関する調査研究)」報告書が公表されました »

2014年12月15日 (月)

日本版国家補助(state aid)

11日の日経夕刊一面トップに、「企業公的支援 ゆがみ是正」、「公取委、来年にも指針」という記事が出ていましたので、少々感想を述べておきます。

今回の指針は、欧州では国家による企業への補助が競争をゆがめることが競争法の問題とされており、それの日本版というところです。

記事にもあるように、この動きの背景にはJALへの支援が競争をゆがめているという根強い批判があります。

私もJALの公的支援のときに、これが独禁法上問題ないのかという質問をいろいろな形で受けましたが、正面から独禁法違反に問うのはかなり難しいという印象を持っています。

その理由を一言でいえば日本には国家補助に関する明文の規定が独禁法にないからだということですが、もう少し具体的にいえば、例えば民間銀行がJALを支援して強くなりすぎたとしてもそれを独禁法違反だというのはたぶん無理だというのは争いのないところだと思いますが、では民間企業がやってかまわないことを国家がやると競争法になるのかというと、そのような民間と国家とで違法性の判断を変えるような仕組みが日本の独禁法の中にはないからです。

つまり、通常、競争法というのは、競争をゆがめる行為がないと違法には問わないわけですが、たんに資金を供給するだけでは、通常は競争をゆがめることにはならないと考えられるからです。

もちろん、支援を受けた企業がその資金を原資に不当廉売とかをやれば違法になるわけですが、それは一応、資金援助とは別の話です。(資金援助を違法とするのではなく、不当廉売を違法とすればよいだけの話です。)

さらに、競争法がなぜ競争を保護するのかといえば、競争が害されると消費者が不利益を被るからであり、国家補助で支援を受けた企業が生き返って消費者が不利益を受けるということがあるのか、仮にあるとしても、ゆがんだ競争のせいで競合他社が市場から排除されて市場が支援を受けた企業に独占されてしまう(またはそれに近い状態になる)というような、かなり例外的な場合に限られるのではないか、という発想があります。

もしそうだとすると、通常の競争法の基準で国家補助を違法としようとすると、かなりハードルが高い基準になってしまいそうです。

欧州で行われているような国家補助の規制というのは、おそらくそれよりもかなり低いハードルで違法になる(競争を保護するのではなく、競争者を保護する)というように運用されているのではないかと思います。

そのように低いハードルでも違法にする実質的根拠というのは、国家補助は税金が使われているということと(なので使い道は公平平等でなければならない)、額も民間の融資よりも多額になる傾向があるということや、政治的思惑のために損得勘定での縛りが効かない、というようなことがあるのかもしれません。

いずれにせよ、通常の競争法の発想には収まりきらないところがあるので、欧州では、明文の規定を置いているのでしょう。

欧州で国家補助が通常の競争法とは別の発想でできている証拠の1つとして、欧州機能条約107条1項では、

「Save as otherwise provided in the Treaties, any aid granted by a Member State or through State resources in any form whatsoever which distorts or threatens to distort competition by favouring certain undertakings or the production of certain goods shall, in so far as it affects trade between Member States, be incompatible with the internal market.」

となっていて、名宛人が加盟国になっています。

つまり、非加盟国による補助は、域内市場に影響があっても107条の問題にはならない、ということです。

欧州で国家補助が競争法の一部になっているのは、EUは国家の連合体だという事情もあるのでしょう。

つまり、加盟国を縛るために、EU法(条約)で、国家補助を規制する意味があります。

今回の公取委の指針は、あくまで、法的拘束力はないということのようです。

こんな大事なことを法的拘束力のない指針でやってしまってよいのか、という疑問もありますが、EUと違って日本は単一国家なので、法律にするまでもない、ということなのかもしれません。

法的拘束力のない指針であるとはいっても、さすがに競争当局が定めた指針を政府も無視することはできないであろうことが期待され、それで十分ということなのでしょう。

もし法律にすると、今までの独禁法から1歩も2歩もはみ出したものにならざるをえないので、それなりに抵抗も予想されるでしょうし。

ただ、この指針ができても、実際に適用される場面はかなり限られたものになると思われます。

あるとすれば、NTTや郵便局が破綻したときくらいでしょうか。

でも日経記事によると、

「公取委は中小企業に対する公的な支援については、競争上の問題が小さいと判断している。」

とされていて、JALなみの大型支援に適用場面を限る発想ではないみたいです。

しかし前述のように、国家補助は競争法の通常の枠組みでは説明のつかないことをやっているのですから(お金を出すだけで競争がゆがむのは例外的)、超大型規模の支援だけでなくそこそこの大型案件にまで同指針の適用を広げるのはあまり好ましくないように思います(国民の利益になる支援を同指針を根拠にできなくしてしまうのは本末転倒です)。

また、通常の競争法の枠組みには乗らないことを忘れないようにすべきであって、本来競争上の問題でないものをあたかも通常の競争上の問題であるかのように擬制するような指針にはならないこと(逆にいえば、なぜ国家補助が競争をゆがめるのかの説得力のある説明)を期待したいと思います。

« 景表法の課徴金と違反行為の個数 | トップページ | 経済産業省から「平成25年度我が国経済構造に関する競争政策的観点からの調査研究(消費インテリジェンスと競争法の垂直的制限規制に関する調査研究)」報告書が公表されました »

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 日本版国家補助(state aid):

« 景表法の課徴金と違反行為の個数 | トップページ | 経済産業省から「平成25年度我が国経済構造に関する競争政策的観点からの調査研究(消費インテリジェンスと競争法の垂直的制限規制に関する調査研究)」報告書が公表されました »

フォト
無料ブログはココログ