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2014年12月12日 (金)

景表法の課徴金と違反行為の個数

2014年11月改正で導入が決まった景表法の課徴金の算定方法の問題の1つに、違反行為を何個と数えるか、という問題があるように思います。

例えば、レストランでメニューの虚偽表示があった場合に、

①それぞれの料理ごとに不当表示は1個と数えるのか(「芝エビとイカの炒め物」と「九条ネギのロティ」で2個と数える)

それとも、

②料理の不当表示である以上、すべてまとめて1個と数えるのか、

という問題です。

私は、これはまとめて1個と数えるのは条文上無理があって、別々に数えるほかないと思います。

なぜこの問題にこだわるのかといえば、課徴金の150万円の据切り額に届くか届かないかが、全く異なってくるからです(もちろん、行為が多数に分かれる①の方が、据切りに届かず課徴金が課されないケースが増えてきます)。

では条文を確認してみましょう。

2014年11月改正景表法8条では、

「事業者が、第五条〔不当な表示の禁止〕の規定に違反する行為(・・・以下「課徴金対象行為」という。)をしたときは、

内閣総理大臣は、当該事業者に対し、

当該課徴金対象行為に係る課徴金対象期間に取引をした当該課徴金対象行為に係る商品又は役務の政令で定める方法により算定した売上額に百分の三を乗じて得た額に相当する額の課徴金

を国庫に納付することを命じなければならない。

ただし、当該事業者が当該課徴金対象行為をした期間を通じて当該課徴金対象行為に係る表示が次の各号のいずれかに該当することを知らず、かつ、知らないことにつき相当の注意を怠つた者でないと認められるとき、

又は

その額が百五十万円未満であるとき

は、その納付を命ずることができない。」

とされていて、ただし書が150万円の据切りです。

そこで、「その〔=課徴金の〕納付を命ずることができない」場合としての、「その額が150万円未満であるとき」というときの、「その額」とは何の額なのか、が問題となります。

これは明らかに、

「当該課徴金対象行為に係る課徴金対象期間に取引をした当該課徴金対象行為に係る商品又は役務の政令で定める方法により算定した売上額に百分の三を乗じて得た額に相当する

というのが、「その額」です。

そして、課徴金算定の基礎となる売上額が、

当該課徴金対象行為に係る課徴金対象期間に取引をした当該課徴金対象行為に係る商品又は役務」

の売上額だとされていて、「当該」という文言で特定した課徴金対象行為(=不当表示)に「係る商品又は役務」が課徴金の対象ということになります。

「係る」という表現は私は好きではないので言い換えると、「当該課徴金対象行為に係る商品又は役務」というのは、当該不当表示を使って消費者に買わせた(誘引した)商品役務、ということです。

ともあれ、「当該」という言葉で「課徴金対象期間」を限定しているので、「課徴金対象期間」は、課徴金対象行為(=不当表示)ごとに確定する、ということになります。

このようなことを考えていくと、課徴金対象期間は課徴金対象行為ごとに決まり、それぞれ決まった課徴金対象期間の中で販売された商品役務が課徴金の対象になる、ということになります。

いわれてみれば当たり前のことですが、ここに、課徴金対象期間を合算するとか、「当該課徴金対象行為に係る商品又は役務の・・・売上額」を合算するということを読み込む余地はないように思われます。

(ちなみに、「課徴金対象期間」は、8条2項に定義があって、おおまかにいって、不当表示をした期間プラスその後の6か月の期間、ただし6か月経過前に誤認解消措置を採ればその日までの期間、です。)

さらに言えば、不当表示は1回でも不当表示なので、例えば、「芝エビ・・・」という表示を、店のメニューでも、ホームページでも、新聞広告では朝日と読売と毎日と日経の朝刊と夕刊でも出していた、という場合は、それぞれのメニューや広告の1つ1つが、「当該課徴金対象行為」に該当する、ということになると思われます。

ただ、対象商品役務が「芝エビ・・・」(と表示したところの、実はバナメイエビとイカの炒め物)の1つであるので、結果的に、売上額が重複してカウントされることはないに過ぎないのだ、というのが論理的な説明なのでしょう。

いずれにせよ、異なる商品役務の売上額について合算するという規定はないので、個別にカウントせざるを得ません。

とすると、8条1項ただし書の「その額」というのは、「芝エビとイカの炒め物」という表示(「当該課徴金対象行為」)については、バナメイエビとイカの炒め物の売上額に100分の3を乗じた額であると考えざるを得ず、したがって、バナメイエビとイカの炒め物の売上額だけで5000万円ないと、据え切りにより課徴金は課せられない、ということになります。

この点について似たような問題が生じる場面として、優越的地位の濫用がありますが、そこでは公取委の見解は、

「優越的地位の濫用には様々な行為類型があり、2条9項5号にも様々なものを掲げているが、実際にはそれだけで優越的地位の濫用に当たり得るような様々な行為が混然として行われることが多く、これらが1つの行為と評価できるような場合には、全体として1つの違反期間が認定される。」

ということだと思われます(菅久他『独占禁止法』226頁)。

私は、独禁法の条文をよく読めばこの公取委の解釈はおかしいと前々から言っているのですが、それでも、実質的には、公取委の解釈の方が妥当だとも思います。(出来の悪い条文を解釈で回している。)

それはまさに、上記引用した赤本に書いてあるとおり、優越的地位の濫用は、一連の取引先いじめとして混然一体としてなされるのが通常だからです。

数々の濫用行為の背後に、取引先をいじめるという統一的な意思がはたらいている、といえるかもしれません。

しかし景表法の場合は、そのようにいえる場合はむしろ極めて例外的ではないかと思われます。

例えば阪急阪神ホテルズの事例をみても、傘下の様々なレストランで、それぞれ別々にメニューの作成が行われていて、しかも、現場の確認ミスとか、納入業者の詐欺的行為とか、いろいろなものが含まれていて、とても「統一的な意思」といったものは見いだせなさそうです。

課徴金の大元になったカルテルでは、「統一的な意思」的なものがあることが明らかなので、複数案件をまとめて課徴金を課すことに何の問題もありませんでした。

それが、優越的地位の濫用では、かなり怪しくなってきました。

そして、今回の景表法の課徴金です。

さすがに、景表法については合算は無理でしょう。

少なくとも、優越的地位の濫用と同様に、「混然として行われる」行為が「1つの行為と評価できるような場合」に合算する(1つの違反期間を認定する)というのでは、ほとんど合算できる場面はないように思われます。

仮にそういう場面があったとしても、合算できる場面とできない場面の区別は相当難しいでしょう。

優越的地位の濫用あたりで、カルテルの課徴金の条文をコピペすると問題だと気づいていれば、景表法の課徴金ではもう少し工夫の余地があったのかもしれません。

あるいは、素直に考えれば、違反行為はそれぞれ別なので、それぞれ150万円に達しなければ課徴金はかさなくていいんだ、という立案担当者の政策判断なのかもしれません。

ただ、それでは国民感情にそぐわない気もしないではありません。

また、命令の実物をみたら、据え切りばかりでけっこうカッコ悪そうです。

命令には出ないとしても、今までの排除措置命令では不当表示のメディアや日付まで特定しているので、据え切りになるのが分かっていながら据え切りになることを確認するために延々と細々とした売上額の算定をしないといけないというのも、ずいぶんと余分な手間(消費者庁にとっても違反企業にとっても)だと思われます。

消費者庁は立法にあたり、どの辺まで考えていたのでしょうか。現実の運用が注目されます。

最後に蛇足ですが、このブログでは最近エンフォースメントについての細かい指摘ばかりしているような気がします。

こんな指摘は条文をしっかり読めば、独禁法や景表法の専門家でなくてもできることなので、正直、個人的には少々ウンザリです。

ではやめておけばいいのにという声が聞こえてきそうですが(苦笑)、これはこれで何かの議論の糧になればと願っておくことにして、公取委や消費者庁には、本当に議論のし甲斐のあるところで、骨太の立法、運用、ガイドラインの策定等を期待したいと思います。

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