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2014年12月22日 (月)

表示の管理措置の勧告の公表

2014年6月改正で、事業者は景表法に違反しないような措置をとることを義務付けられ、そのような措置がとられていない場合には消費者庁が勧告をすることができることになりました(景表法8条の2第1項)。

また、事業者が勧告に従わない場合には消費者庁は公表できることになりました(同条2項)。

この公表措置について、法律の根拠が必要なのかについて議論があるようです(実際には、8条の2第2項があるので、あくまで理屈の問題ですが。)

私は、法律の根拠が必要だと思います。

といいますか、法律の根拠が必要なのは当然で、根拠が不要だという考えがあると聞いて、正直びっくりしました。(中川丈久『平成26年改正景品表示法の評価と課題-行政法の見地から-」公正取引770号14頁)

法律の根拠が必要だと考える理由は、行政指導に関する行政手続法32条です。

同条には、

「(行政指導の一般原則)

第三十二条  行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、いやしくも当該行政機関の任務又は所掌事務の範囲を逸脱してはならないこと及び行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなければならない。

2  行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない。 」

と規定されています。

そして、室井他『コンメンタール行政法Ⅰ 行政手続法・行政不服審査法』p240では、

「法律上、相手方が行政指導に協力しないときに、これに対して改善命令等の下命行為や氏名等の公表を行うことができる旨の規定が存在する場合は、これが優先し、本項〔行政手続法32条2項〕の適用はない。」

とされています。

つまり、公表できる旨の規定が存在しない場合には公表できないということです。

この解説を待つまでもなく、公表が「不利益な取扱い」に該当することは文言上明らかであり、議論の余地はないと思います。

(と思ったら、後述の『条解』のように、公衆への情報提供目的なら該当しないとか、細かい議論があるみたいです。ただし、ここでの管理措置の勧告の公表には影響しないと思われます。)

なお、ここでの、勧告(行政指導の一種)に従わない場合に明文の根拠なく公表してよいかという問題と、行政処分や行政指導を一般的に公表してよいかという問題は、まったく別の問題です。

例えば下請法の勧告には公表に関する明文の規定はありませんが、全件公表されています。

(ちなみに下請法の勧告の公表について、粕渕他『下請法の実務(第3版)』p187では、

「平成15年の法改正前は、親事業者が勧告に従わなかったときは、公正取引委員会がその旨を公表するものと下請法上規定されていたが、法改正により当該規定は削除され、公正取引員会は勧告した場合に直ちに公表できるようになった。」

と説明されています。)

なぜ下請法の勧告を明文の根拠なく全件公表してよいかというと、公表を、「その相手方が行政指導〔勧告〕に従わなかったことを理由として」行うわけではなく、勧告に従うか否かにかかわらず公表するからです。

つまり、行政手続法32条2項がなぜ「行政指導に従わなかったことを理由として」不利益な取扱いをすることを禁止しているのかといえば、本来任意であるべき行政指導が、不利益による脅しによって、事実上強制されてしまうからです。

これに対して、全件公表であれば、公表により勧告に従うことが事実上強制されるということはありません。(勧告に従っても従わなくても、公表されるので。)

公表は間違いなく「不利益な取扱い」だと思いますが(ただし、後述の『条解』のように、公衆への情報提供目的の場合は該当しないという整理あり)、かといって、法律に違反した者を明文の根拠なく公表してはいけないとか、法律に違反した者に明文の規定のない不利益を課してはいけないとかいう法律は、一般的にはありません。

公表の是非についてはいろいろ議論はあり得ますが、それはあくまで立法論です(ただし、行政法では、安易な公表は慎むべきとか、議論はあるようです。後記『条解』p322に引用される塩野『行政法Ⅰ』201頁、宇賀『解説』139頁)。

なので、行政上の公表制度一般と、行政指導に従わなかった場合の公表とは、区別して考えないといけません。

上記論文で引用されている国会提出資料でも、そのあたりの区別があんまりなされていないような気がします。

ちなみに、塩野『条解行政手続法』p321では、

「なお、立案過程の沿革に照らしてみると、ここでいう『不利益な取扱い』というのは、単に相手方にとって客観的に不利益な措置ということではなく、『不当な取扱い』、すなわち、報復的ないし制裁的な意図をもったもの、間接的に相手方に強制として機能するものに限定されるとも解される(小早川編『逐条研究』269頁参照)。

たとえば、行政指導に対する不服従の事実の公表は、それが、公衆に対する必要な情報の提供であるときは、ここでいう『不利益な取扱い』ではないが、それが制裁目的としてなされることは許されないという整理がある〔引用略〕。」

とされています。

表示の管理措置の勧告の公表が「公衆に対する必要な情報の提供」であるとは考えにくいので、いずれにせよ、明文の規定なしには公表できないということになるのでしょう。

(個人的には、以上の条解の説明も疑問と思っていて、仮に公表が公衆に対する必要な情報の提供であっても、行政指導に従わないことを理由として公表するのは、やっぱりまずいんじゃないかと思います。公衆に対する情報の提供が必要なら、行政指導に従うとか従わないとかつべこべ言わず、さっさと公表すべきです。さっさとやらない公表なら、やはり制裁というべきでしょう。制裁と情報提供が入り混じった公表もあるのかもしれませんが、そういう日本的な湿っぽい実務は、やめた方がいいと思います。)

以前も別の場所で似たような混同をみた記憶があり、今回また見当たりましたので、指摘しておく次第です。

なお、以上の観点から上記粕渕他の解説を検討すると、平成15年の公表規定が削除されたことでただちに公表できるようになったというのは、間違いではないですが、行政手続法32条2項の観点からは、平成15年改正後は、「勧告に従わなかったことを理由として公表する」という、改正前にはできたことが、当該規定が削除されたために、かえってできなくなった、と理解すべきでしょう。

つまり、現行下請法でも、「勧告に従わなかったら公表する」ということ(公表をテコに勧告に従わせること)は、認められないというべきです。

たとえば、こんな実務は下請法では実際には行われていないと思いますが、

「勧告は全件公表だけど、今回は情状が軽いから特別に公表しないであげるけど、その代り、勧告には従ってね(従わないと公表するぞ)。」

というような取扱いをしてはいけません。

さらにいえば、行政手続法32条2項の観点からは、平成15年改正前も、全件公表することはできたはずだけれども、下請法の、「勧告に従わない場合に公表する」という規定があったために、その反対解釈として、従う限りは公表できなかったのだ(全件公表はできなかったのだ)、という整理になるのでしょう。

つまり、平成15年改正前に全件公表ができなかった根拠は、行政手続法32条2項ではなく、下請法の改正前7条4項の公表規定(の反対解釈)だった、ということです。

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