下請法の「業として」
下請法の自己使用の類型(製造委託の類型4など)では、親事業者が「業として」製造等している場合に限って、下請法の適用があります。
製造委託の条文(2条1項)で確認すると、
「事業者がその使用し又は消費する物品の製造を業として行う場合」
の部分です。
この「業として」というのは、下請法講習テキストでは、
「事業者が、ある行為を反復継続的に行っており、社会通念上、事業の遂行とみることができる場合を指す。」
と、何度も紋切り型の同じ説明が繰り返されています。
下請法運用基準第2-1(2)でも、
「この法律で『業として』とは、事業者が、ある行為を反復継続的に行っており、社会通念上、事業の遂行とみることができる場合を指す(修理委託、情報成果物作成委託及び役務提供委託においても同様である。)。」
と、同じ説明がなされています。
では、どれくらいやれば「反復継続的」なのか、「事業の遂行とみることができる」のか、という肝心な点については、説明がありません。
ところが、私が知る限り、下請法テキストに1か所だけ、やや具体的に説明されているところがあります。
それは12頁(情報成果物の類型3)のところで、
「例えば、事業者が、自らの事業のために用いる広告宣伝物、社内で使用する会計用ソフトウェア、自社のホームページ等の情報成果物の作成を社内にシステム部門を設けるなど業務の遂行とみることができる程度に行っている場合に、その情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託する場合が該当する。」
と説明されています。
つまり、何となくですが、社内に特定の部門を設けて行うような場合が「業として」と想定されているのだろうな、ということが分かります。
これは、下請テキストの一般論や運用基準における、「反復継続」や、「社会通念上、事業の遂行」というのに比べると、少なくとも私の目には、かなり絞っているように見えます。
つまり、雑用的に、単純な業務をいくつかの部門で何となく繰り返し行われているような場合には、「業として」に当たらないとする余地があるように思われます。
ちょっと脱線しますが、「事業の遂行」というのを、「お金儲け」、あるいは、「本業」という意味でとらえると、例えば社員運動会のためのパンフレットの作成を外部に委託する、というのは、仮に同じようなパンフレットを社内で作っていても、「業として」には該当しない、と見る余地もあるように思います(ただし、そのようにはっきり言っている文献は知りません)。
ここでも、「社内にシステム部門を設けるなど」というのが例示されているのは、そのような、「本業」、「お金儲け」というのを連想させ、単に毎年社員運動会をやっていても、それは「業として」には該当しない、というニュアンスを含んでいるように、私には思えます。
実質論として言えば、なぜ自己使用物の類型に反復継続性が要求されているのかといえば、親事業者が下請事業者に対して強い立場に類型的に立つといえるように絞っているわけで、そうすると、お金儲けとは関係のない社員運動会に関するものまで下請法でカバーする必要はないような気がします。
実際にはこんな微妙なケースは公取委の検査でも問題視されないかもしれませんが、講習テキストの前記記載は、理論武装をしておくことには役立つかもしれません。
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