景表法の課徴金算定における商品役務の同一性
景表法改正法案8条では、
「事業者が、
第五条〔不当な表示〕の規定に違反する行為(・・・以下「課徴金対象行為」という。)をしたときは、
内閣総理大臣は、当該事業者に対し、
当該課徴金対象行為に係る課徴金対象期間に取引をした当該課徴金対象行為に係る商品又は役務の政令で定める方法により算定した売上額
に百分の三を乗じて得た額に相当する額の課徴金を
国庫に納付することを命じなければならない。」
とされています。
ここで、どの範囲の商品役務の売上額が課徴金算定基礎に含まれるのか、ということが問題になるケースがあるように思われます。
条文でいえば、
「当該課徴金対象行為に係る商品又は役務」
とは何か、ということです。
例えば、旅館が温泉でないものを温泉と称していた「いち豆」の措置命令では、不当表示の対象役務(「本件役務」)は、
「貸切浴場利用役務を含む宿泊プラン
及び
同役務を含む日帰りプラン」
となっています。
つまり、対象役務はあくまで、「宿泊プラン」または「日帰りプラン」であって、温泉利用役務はそれに含まれるものに過ぎない、ということですね。
とすると、課徴金の対象売上高は、温泉の入浴料ではなく、(温泉入浴を含む)宿泊料ということになりそうです。
ところがこの事件ではもう一つ、料理のメニューについても不当表示がなされていて、そこでの対象役務は、
「『トラフグ会席』と称する料理を含む宿泊プラン
又は
『知多牛のステーキ』と称する料理を含む宿泊プラン」
となっています。
つまり、こちらも役務はあくまで「宿泊プラン」であって、料理はそれに含まれるものである、という位置づけです。
このような対象役務の認定を前提にすると、課徴金の対象になるのは料理の代金だけではなく、宿泊プランまたは日帰りプランの料金全体、ということになりそうです。
前述のように、課徴金算定の基礎になる「売上額」というのは何の「売上」かといえば、
「当該課徴金対象行為に係る商品又は役務」
の売上額です。
では、「課徴金対象行為に係る商品又は役務」の、「課徴金対象行為」とは何かといえば、改正法案8条1項に、
「第5条に違反する行為」
とあります(現行4条が5条に繰り下がっています)。
そこで、「第5条に違反する行為」とは何かといえば、優良誤認の部分を抜き出すと、
「自己の供給する商品又は役務の取引について」、
「商品又は役務の品質、規格その他の内容について・・・実際のものよりも著しく優良であると示」すこと
です。
なので、「いち豆」のケースでは、温泉(に入浴させるという役務)あるいは料理(を提供するという役務)も、宿泊を提供するという役務の「内容」である、という解釈になるのでしょう。
しかし、商品役務のうちのほんの一部について不当表示がなされたに過ぎない場合には、全体の商品役務の売上額を課徴金の対象にしてよいのか疑問が生じる場合が出てきそうです。
例えば、結婚式で出すコース料理のスパークリングワインをシャンパーニュ地方産でないのに「シャンパン」と称して提供していた場合に、結婚式代全部が課徴金の対象になるというのは、いくらなんでも常識に反するでしょう。
ではスパークリングワイン代だけに課徴金がかかるのか、というと、そもそもコース料理の中でスパークリングワイン代だけを特定して金額設定していない場合が多いのではないかという問題はさておき、コース料理代全部に課徴金を課すというのも、どうもバランスが悪いような気がします。
しかし考えてみると、「いち豆」のケースでは宿泊料全体に対して課徴金がかかりそうだ、と考えたわけで、なのにどうしてシャンパンの不当表示の場合にはコース料理代あるいは結婚式代に課徴金を課してはいけないのか、という疑問がわいてきそうです。
実務上は、何となく収まりの良い形で(常識に従って)課徴金を課すことになるのでしょうけれど、理屈の上では何となく割り切れないものがあります。
理屈の上では、シャンパンの不当表示でコース料理の「内容」や、結婚式の「内容」を著しく優良と誤認させたことになるのか、というところで議論するのが筋のようにも思いますが(ほかの文言にひっかける方法もあるかもしれませんが)、そういう条文に忠実な解釈を試みると、そもそもシャンパンの不当表示ではコース料理の不当表示にはならないのではないか?という、実体法の解釈にまで影響しそうな問題に発展しそうです。
景表法の課徴金も、エンフォースメントの設計が実体法の解釈に影響を及ぼす例の一つになるかもしれません。
あるいは、課徴金の算定に争いが生じそうな事例では、措置命令は打たずに注意や警告で済ませる(措置命令だけ出て課徴金納付命令がでないとカッコ悪いので)、という処理がなされるようになるかもしれません。
元来景表法は、独禁法と比べて、注意でも警告でも法目的は達成できることが多いので、それで構わないように思います。
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