« 流通取引慣行ガイドラインの「(付)親子会社間の取引」のなお書きについて | トップページ | 今年のノーベル経済学賞 »

2014年9月15日 (月)

景表法の課徴金に関する日経記事について

今朝の日経法務面に、現在消費者庁で議論されている景表法への課徴金導入についての記事が載っていましたが、その中で、課徴金算定率が違反対象売上の3%であるとされることについて、

「花本弁護士は、『不当利得の剥奪といった制裁的な措置とはいえ、優越的地位の乱用よりも高いことは理解しにくい』と指摘する。」

という記載があります。

優越的地位の濫用の課徴金算定率が1%であることと対比したものです。

しかし、私は、これはちょっと視点がずれていると思います。

というのは、優越的地位の濫用と景表法では、課徴金の基礎となる売上の考え方が全然違うからです。

つまり、優越的地位の濫用に対する課徴金では、1%を乗じる基礎となる売上は、

「当該行為の相手方との間における政令で定める方法により算定した売上額

(当該行為が商品又は役務の供給を受ける相手方に対するものである場合は当該行為の相手方との間における政令で定める方法により算定した購入額とし、

当該行為の相手方が複数ある場合は当該行為のそれぞれの相手方との間における政令で定める方法により算定した売上額又は購入額の合計額とする。)」

とされており(独禁法20条の6)、要するに、濫用の被害者との取引額全部(売上額または購入額)が基準になるわけです。

例えば、あるコンビニ本部がある惣菜業者に弁当の陳列を強制していた場合、弁当の仕入れ額だけではなく、その惣菜業者からの仕入れ額全額が課徴金の基礎になります。

これが優越的地位の濫用の課徴金の怖いところです。

これに対して景表法で議論されているのは、不当表示の対象になった商品の売上ということなので、弁当の不当表示があれば弁当の売上だけが基礎になります。

というわけで、両者は比べる対象がそもそも違います。

優越的地位の濫用の課徴金算定率も、不当利得の剥奪という建前で決められたのですが、以上の説明から分かるように、不当利得の額とはほとんど関係なく、この点については衆目の一致するところだと思います(公取委も、ホンネでは不当利得の剥奪だなんて、まったく考えていないでしょう)。

もし優越的地位の濫用の課徴金を不当利得の剥奪として設計するなら、弁当の仕入れ額でも、ましてや全商品の仕入れ額でもなく、陳列させた従業員の日当相当額を基準にすべきでしょう。

このような意味で、景表法の課徴金はずいぶんまともになっているというべきです。

それを、成り立ちからして怪しげな優越的地位の濫用の課徴金と比べて「理解しにくい」というのは、ちょっと違うと思います。

ただ、景表法の課徴金算定率が3%でいいのかは、大いに議論のあり得るところでしょう。

同じ日経記事では、消費者庁課徴金制度検討室の、

「これまで不当表示で措置命令を出した約140社の売上営業利益率の中央値が3%だった。不当利得を剥奪するため設定した」

というコメントが紹介されています。

しかし、これもたぶん結論を見ながら鉛筆なめなめ考えた後付けの理屈であるような気がしてなりません。

まず、売上営業利益率ということは、当該不当表示の対象商品の粗利が基準になっているのではなさそうで、その意味で、不当表示による不当利得を剥奪する、というには根拠が薄すぎます。

不当表示をした企業の商品のすべてについて不当表示があったわけではないでしょう。

また、全く効果がない商品を不当表示で売ってボロ儲けしている悪徳業者も含めて3%ということなら、まじめにやっている業者にとっては過大な課徴金になりそうです。

(おそらくその点に配慮して、平均値ではなく、外れ値に引きずられにくい中央値にしているのだとは思いますが。)

反対に、「飲むだけで痩せるダイエット」みたいな悪徳メーカーの場合、3%の課徴金では到底不当利得は取り切れないと思います。

・・・という各論を議論しだすと、景表法の課徴金は本当に設計が難しいですね。

不当表示は、おそらくどの企業も問題になり得る(実際に違反するかどうかはさておき)という意味で、独禁法などよりもはるかにすそ野が広い分野です。

独禁法の中で最もすそ野が広い(適用対象が広い)と思われる優越的地位の濫用の比ではありません。

それだけに、典型的な不当表示というのはこういうものだ(あるいは、こういう類型がある)、というコンセンサスが立案担当者の間でも共有されていない可能性が大いにあり(というか、典型的な不当表示による不当利得をイメージするのはそもそも無理)、その結果、一刀両断に一定率で割り切るという無茶な制度になっています。

カルテルの課徴金のときには業種別や企業規模別に算定率を変えるなど各論にも配慮していたのが、不公正な取引方法あたりから、そのような配慮もなくなりました。

不公正な取引方法以上に典型的な利得額がイメージしにくい不当表示では、その矛盾がますます出てくるように思います。

やはり、景表法の課徴金は、上限を定めた上での裁量型にするほかないと思います。

そうしないと、公正な制度にはどうやったってできないと思います。

実は、3%という数字も、「どのような事案に適用しても明らかに不当とはならないなパーセンテージはいくつか」という観点から弾いているのではないか、と私は睨んでいます。

というのは、例えば30%とかいう数値にすると、悪徳業者の事例には妥当な結論かもしれませんが、そうでない事例の場合に、むしろ事実認定のほうで帳尻を合わせたり、そもそも注意で済ます、ということが頻発しかねないからです。

結論の妥当性のために理屈を曲げたフォワーダーのカルテルのような処理が、いつでもできるとは限りません。

そもそも独禁法が非裁量型の課徴金になっているのは、カルテルに課徴金を導入する際に、制裁ではなく不当利得の剥奪だから二重の処罰には当たらないのだ、という議論が発端だったわけですが、景表法の不当表示には刑事罰はないわけですし、担当官庁も公取委から消費者庁に変わったわけですから、いつまでも過去の不毛な議論に引きずられることはないのに、と思います。

惰性って、こわいですね。

« 流通取引慣行ガイドラインの「(付)親子会社間の取引」のなお書きについて | トップページ | 今年のノーベル経済学賞 »

景表法」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1240660/57381265

この記事へのトラックバック一覧です: 景表法の課徴金に関する日経記事について:

« 流通取引慣行ガイドラインの「(付)親子会社間の取引」のなお書きについて | トップページ | 今年のノーベル経済学賞 »