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2014年9月 6日 (土)

特許の有効性を争わない義務(不争義務)についての知財ガイドラインの規定についての疑問

知財ガイドラインでは、ライセンシーがライセンサーの特許権の有効性を争わない義務(いわゆる不争義務)について、

「ライセンサーがライセンシーに対して、ライセンス技術に係る権利の有効性について争わない義務(注14)を課す行為は、

円滑な技術取引を通じ競争の促進に資する面が認められ、

かつ、

直接的には競争を減殺するおそれは小さい。

しかしながら、無効にされるべき権利が存続し、当該権利に係る技術の利用が制限されることから、

公正競争阻害性を有するものとして不公正な取引方法に該当する場合もある(一般指定第12項〔拘束条件付取引〕)。

なお、ライセンシーが権利の有効性を争った場合に当該権利の対象となっている技術についてライセンス契約を解除する旨を定めることは、

原則として不公正な取引方法に該当しない。」

と定めています。

この、最後の、

「ライセンシーが権利の有効性を争った場合に当該権利の対象となっている技術についてライセンス契約を解除する旨を定めることは、原則として不公正な取引方法に該当しない。」

という部分が、「争うのを禁止するのは白なのに、争ったら解除するのは灰とは如何」ということで、分かったような分からないような感じを受けている方は多いのではないでしょうか。

この疑問は確かにその通りで、日々契約書のドラフトをしている身としては、「○○してはならない」という定め(義務)を置く場合には、では、その義務に違反したらどうなるのか、という効果の部分も考えないといけないわけです。

つまり、「特許の有効性を争ってはならない」という義務を課すときには、では争ったらどうなるのか、という効果がいくつかあり得て(主なものは解除による原状回復義務の発生と損害賠償(違約罰含む))、義務違反が解除につながるというのは、ドラフティング上あり得る選択肢(効果)の一つに過ぎない、という発想があるわけです。

なので、原因である「争ってはならない」という定めは灰なのに、争った効果(のうちの1つ)としての解除が白だ、というのは、要件と効果をセットで考える法律家の発想からすると、どうもしっくりこないわけです。

この問題を解くヒントは、旧ガイドライン(特許ノウハウライセンスガイドライン)にあります。

旧ガイドラインでは、解除しうる旨の規定については、

「ただし、特許ライセンス契約において、ライセンシーがライセンスされた特許権の有効性について争った場合、ライセンサーが当該ライセンス契約を解除し得る旨規定することは、

ライセンシーが当該特許権の有効性について争うことができるときには、

原則として不公正な取引方法に該当しない。」

とされていました。

つまり、旧ガイドラインでは、

「解除されるけれども争うことはできる」

というのは、「争うことができる」に含まれる(つまり、「争うことができない」と定めているわけではない)と整理されていたことがはっきりします。

つまり、ライセンシーの不利益の観点からみれば、

争うことができない > 争ったら解除される

ということです。

しかし、ドラフティングの観点からは、「争ってはならない」と書いてあっても、では争ったら何が起こるのか、というのが大事なわけで、具体的な効果が大事なのは競争法上の判断でも同様だと思います(ただ、競争法の判断をする場合には、当事者が自己の利益だけを考えて特許権を争うことと社会全体の利益が一致する保証はない、という点が違うという点には注意が必要ですが)。

ガイドラインの、

争うことができない > 争ったら解除される

という発想の背後には、

「争うことができない」と契約書に書いたときには、基本的には一切争わないだろう(それは競争へのインパクトが大きい)、

というのに対して、

「争ったら解除される」と契約書に書いたときには、場合によって争うことがあるかもしれない(なのでそれほど競争へのインパクトは大きくない)、

という区別があるような気がしますが、これは勘違いです。

つまり、「争うことができない」と、義務の形で(?)書いたから争うインセンティブが下がるわけではなく、要は、争った場合にどうなるのかという効果が決め手であるはずです。

前記山木編著p188では、続けて、

「なお、特許権の有効性等が争われた場合、ライセンサーが契約を解除し得る胸規定することが白条項とされていることについて、不争義務と実質的に大差がないのではないかという指摘もなされている。

しかし、不争義務は契約終了後も存続し得るように規定し、終了後もライセンシーを拘束することができるが、契約解除規定は、解除後はライセンシーを拘束することができないので、制限の及ぶ期間が異なる。

と書かれていますが、これも誤解ですね。

不争義務を契約終了後も存続するように規定できるのは契約自由の原則から当然ですが、全く同じ理由で、解除規定も解除後ライセンシーを拘束するように定めることはできるはずです。

もし、拘束期間の違いが不争義務と解除条項の取り扱いの差異の理由なら、ガイドラインに書くべきでしょう(この拘束期間云々の部分は、たんなるガイドラインに対する批判への反論にすぎないので、公取委が独禁法のルールとして述べているものではない、と考えるべきでしょう)。

ちなみに、それにつつけて山木編著p188では、

「また、そもそもライセンシー側からは有効性を争えないようにし、例えば、契約違反としての制裁を受ける不争義務と比較すれば、契約解除という危険はあっても、有効性を争おうと思えば争えるようにしておくことが競争政策上も望ましいと考えられることなどの点を考慮して、白条項として規定されているものと考えられる。」

とはっきり書いてあり、

争うことができない(不争義務) > 争おうと思えば争える(=争ったら解除される(解除条項))

である、ということがよくわかります(それが勘違いであることは前述のとおりです)。

さて、現行ガイドラインでは、

「ライセンシーが当該特許権の有効性について争うことができるときには」

という部分が削除されているので、現行ガイドラインが旧ガイドラインの説明を引き継いでいると考える必要は必ずしもなく、現行ガイドラインは現行ガイドラインとして合理的に説明すべきでしょう。

そこで現行ガイドラインを合理的に説明すると、ガイドラインが言いたいことは以下のようになるでしょう。

つまり、現行ガイドラインの、

「ライセンシーが権利の有効性を争った場合に当該権利の対象となっている技術についてライセンス契約を解除する旨を定めることは、原則として不公正な取引方法に該当しない」

という解除条項について述べた部分は、不争義務は灰条項だけれども、不争義務違反に基づく解除に伴って、例えば、

ライセンサーがライセンシーに引き渡した資料の返還を求めたり、

技術指導を中止したりというような、

解除に伴う通常の原状回復を行わせることは、それ自体としては、灰色の判断の要素としてライセンサーに不利益には斟酌しない、ということをいっているものと考えるべきでしょう。

なので、「争うことはできない」という義務の形でさえ書かなければ白だ、ということはいえず、例えば、

「争うことはできるけれど、争ったら解除されて違約金1兆円ね

というような規定だと、やっぱり灰だ(解除条項だから白だ、とはいえない)というべきでしょう。

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