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2014年7月 8日 (火)

試作品と下請法

財団法人全国中小企業取引振興協会作成の、『下請かけこみ寺相談概要』の事例7に、以下のような事例があります。

「《相談内容》

A社(資本金2億円)は、B社(資本金15億円)から製品の部品の製造委託を受けていますが、商品化を予定した製品の試作品の製作を依頼されました。

当社は苦心の末、試作品を納品しましたが、その部品の製造は他社に委託され、結局試作品の費用も支払ってもらえませんでした。

B社のこのような行為は下請代金法に違反しないのでしょうか。

《下請かけこみ寺アドバイス内容》

A社とB社の取引は「製造委託」に該当し、B社の資本金は3億円を超え、A社の資本金は3億円以下(2億円)であることから、下請代金法の資本金基準(3億円)を満たしており、下請代金法が適用されます。

本事例では、A社が試作品を納品したにもかかわらず、その代金を支払ってもらっておらず、下請代金法の「支払遅延」(法4条1項2号)となっていると考えられます。

また、A社は、無償で試作品を作らされたことになるので、「不当な経済上の利益提供」(下請代金法4条2項3号)に該当するおそれもあります。

B社に対し、このような行為は、下請代金法に違反することになるので、見直してもらうよう交渉してはいかがでしょうか。」

私はこの回答にはいくつかの問題があると思います。

まず、試作品の製造の委託が製造委託に該当するかですが、この点については、粕渕他編著『下請法の実務(第3版)』p39に、

「Q6 試作品の製造を委託することは、製造委託に該当するのか。

A 商品化することを前提にしており、最終商品と同等のレベルにあるような商品化の前段階にある試作品の製造を委託する場合には、製造委託(類型1)に該当する。

また、研究開発の段階等で商品化に至らない試作品の製造を委託する場合には、自家使用物品の製造委託として、貴社が研究開発段階の試作品製造を業として行っていれば、製造委託(類型4)に該当することとなる。」

とされています。

なので、実務上は、

①最終商品と同等レベルの試作品→類型1に該当、

②そこまでではない試作品→親事業者自身が業として製造している場合に限り類型4に該当、

ということで、一応整理されていると思います。

なお、この解釈が下請法2条1項の製造委託の定義に照らして正しいのかを一応チェックしておくと、2条1項の製造委託の類型1は、

「事業者が業として行う販売・・・の目的物たる物品若しくはその半製品、部品、附属品若しくは原材料若しくはこれらの製造に用いる金型・・・の製造を他の事業者に委託すること・・・をいう。」

とされています。

ですので文言上は、試作品が、

「販売・・・の目的物たる物品」

に該当するかどうかです(半製品、部品、付属品、原材料、金型、は無理でしょう)。

文字通りに条文を読めば、試作品はあくまで試作品であって、それをそのまま親事業者がユーザーに売ることは考えられません。

なので、試作品を「販売・・・の目的たる物品」に該当するというのは、文言上相当無理があると思います。

さらに粕渕他の説明もよく読むとかなり適用範囲が狭く、とくに、

「商品化することを前提にしており、・・・」

という部分は、その試作品がそのまま商品化されることが試作品の発注時に前提にされている場合を想定していると読まざるを得ません。

ですので、例えば複数の事業者に試作品を作らせてその中から一番良い物を商品化するという場合には、結果的に商品化された試作品も含めて、「商品化することを前提」にしているとはいえないでしょう。(結果的に商品化したら遡って「商品化することを前提にしていた」というのは、理屈として無理でしょう。)

ともあれ、文言上は厳密にいえば試作品を「販売の目的たる物品」というのは相当無理はありますが、適用範囲を相当狭く解釈する限り(「商品化することを前提」というのを上述のように解することや、他には、物理的に最終製品と同じでも、発注者の量産化に向けた最終試験にパスすることまで委託の内容に含まれている場合に限って「最終商品と同等のレベルにあるような商品化の前段階にある試作品」の製造を委託したといえる、と解するなど)、まあ、許される拡張解釈の範囲なのかなと思います。

さて、「かけこみ寺」の事例に話を戻すと、「かけこみ寺」では、

「A社とB社の取引は、『製造委託』に該当し」

といきなり述べており、試作品であることの問題意識がまったく出ていません。その時点で、問題ありです。

ある取引が製造委託に該当するかどうかはその取引ごとに決まるのであり、資本金が2億と15億だったらすべての物品の製造の委託が製造委託になるわけではありません。

次に、支払遅延の説明で、

「A社が試作品を納品したにもかかわらず」

と述べていますが、これも余分です。

支払遅延は、決められた期日を過ぎても代金を支払わなければ成立するのであり、納品の有無は関係がありません。

(最終段階の試作品でない限り、粕渕他の立場ですら「製造委託」には該当しないわけですから、一般的に試作品の製造委託について支払遅延が成立するはずがありません。)

ただ、その次の、

「A社は、無償で試作品を作らされたことになるので、『不当な経済上の利益提供』(下請代金法4条2項3号)に該当するおそれもあります。」

というのはそのとおりで、注意すべき点です。

しかし、より注意すべきなのは、不当な経済上の利益提供が成立するのは、当該試作品の発注が製造委託に該当するからではなく、それよりも以前からある製造委託が存在するためです。

逆にいうと、今回の試作品の発注が本当に初めてである場合や、以前から取引があるがいずれも下請取引には該当しない取引ばかりである場合には、試作品を無償提供させることは「不当な経済上の利益提供」には該当しません

事例7の≪相談内容≫で、

「A社(資本金2億円)は、B社(資本金15億円)から製品の部品の製造委託を受けていますが

というところが従前からの下請関係を表しており、ここが決定的に重要です。

(なお、不当な経済上の利益提供の要請は、下請取引と関係した利益の提供の要請である必要はなく、むしろそれとはまったく無関係な、例えば運送契約の下請先にラーメンを買わせるような場合の方がむしろ不当性が大きいということには注意が必要です。)

なお最後に蛇足ですが、以上は下請法だけに限った分析であり、例えば量産品を発注するつもりもないのに発注するかのように誤信させて無償で試作品を提供させたりすると、民法上の債務不履行や不法行為が成立する可能性があると思います。(これは資本金の額などは関係ありません。)

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