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2014年7月17日 (木)

カルテル非参加者に対する不当利得返還請求

外国では、カルテル非参加者(カルテル参加者の競争者)から購入した購入者がカルテル参加者に対して損害賠償請求をすることができるかが議論されており、米国でもだいたいは原告適格のレベルで否定されることが多いのですが、これを肯定する欧州司法裁判所の中間判決が最近出ました(2014年6月5日)。

いわゆるumbrella effects(アンブレラ効果)に基づく請求で、カルテルにより市場価格が吊り上げられたのだから、カルテル非参加者から購入した者もカルテルにより損害を被った、という理屈です。

日本の不法行為法(民法709条)では、

①加害者の故意・過失、

②被害者の権利侵害、

③因果関係のある損害、

があれば損害賠償は認められます。

なので、原告適格(standing)のようなカチッとした理屈で縛られない柔軟な解釈が可能なので、案外、欧米の裁判例よりもこの請求は認められやすいかもしれません。

まず、被告はカルテル参加者なので故意はあるでしょう(①)。

②の権利侵害も問題ないでしょう。

カルテル参加者から買った購入者の場合でも、カルテル参加者の本音としては、「契約で納得して買ったんだから損害はない。」といいたいところですが、消費者には公正な競争で形成された価格で購入する権利があるというのが、競争法の視点からみた不法行為法の一般的な解釈なのではないかと思います。この点は、購入者がカルテル非参加者から購入した場合でも左右されないでしょう。

問題は因果関係(③)ですね。

カルテル参加者から購入した場合には、因果関係は直接的だといえますが、非参加者から購入した場合には、非参加者との交渉というステップが介在しているので、果たして因果関係が認められるのか?ということです。

しかし、これを一律に否定する必要はないのではないでしょうか。

市場価格を基準に取引価格が形成されていることが明らかな場合には、むしろ因果関係は否定しづらいと思います。

それに対して、相対で価格が決まり、価格のバラツキが大きい商品の場合だと、因果関係の立証は難しいですね。

実は今回検討したいのは、以上の話とは似て非なる話で、カルテル非参加者自身が損害賠償請求や不当利得返還請求を受けることはないのか、ということです。

まず、カルテル非参加者には故意・過失はないので、不法行為は無理でしょう(参加してないけど薄々カルテルの存在を認識していた、というような場合は・・・難しいので割愛します)。

でも、不当利得はどうでしょう。

民法703条では、

「法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。 」

と規定されています。

少なくとも、受益者の故意過失は要件になっていません。(ただし、悪意の受益者はその受けた利益に利息を付して返還しなければならず、なお損害があるときは、その賠償もしなければいけない、という限りで意味があります。民法704条)。

なので善意の受益者(カルテル非参加者)も不当利得返還請求を受けることがあり得るわけです。

そこでポイントは、「法律上の原因なく」の意味で、我妻他『コンメンタール民法(補訂版)』p1211では、

「『法律上の原因なく』とは、財産的価値の移動をその当事者間において正当なものとするだけの公平の理念からみた実質的・相対的な理由がないという意味である。」

と説明されています。

つまり、カルテル非参加者とそれからの購入者の間に、競争価格を超えた価格の移動を正当とするだけの公平の理念からみた実質的・相対的な理由があるかどうか、が問題です。

私は、「公平の理念からみた実質的・相対的な理由」はあると思いますね。

理由は、詐欺も強迫もなく、お互い納得の上で購入しているから、というので十分だと思います。

実務的な感覚としては、カルテル非参加者に面と向かって不当利得返還請求を行うことなど思いつきもしないのではないでしょうか。

(でも、共同被告で何人か訴えた場合に、そのうちの一人が、「うちは大手に追随しただけで、カルテルには参加していない」という反論をしてきたときに、原告が予備的に、以上のような理屈で不当利得返還請求をする、という形で争点になることはあるかもしれません。)

別の理由は、カルテル非参加者がカルテルに追随することは単なる利益最大化行為である場合が多く、それ自体は非難すべきではない、ということです。

消費者の利益の観点からすれば、カルテル非参加者にも本来の競争価格で販売する義務を負わせるという理屈もあり得ますが(前述の競争価格で購入する消費者の権利の裏返し)、それでは非参加者にあまりに酷でしょう。

というわけで、カルテル非参加者に対する不当利得返還請求(および不法行為に基づく損害賠償請求)は認められないと考えます。

こういう角度から独禁法と民法を眺めると、独禁法と民法の保護法益(あるいは役割)は何なのか、ということが見えてくるような気がします。

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