平成25年度相談事例集について
6月18日に平成25年度の相談事例集が公表されました。
今年も突っ込みどころ満載ですが、いくつか気が付いたことをメモしておきます。
事例1
玩具メーカーによる店舗販売業者の過去1年間の販売価格の調査が独禁法違反ではないとするものです。
メーカーが小売店の価格を調査することについては、流通取引慣行ガイドラインで、
「メーカーの示した価格で販売しているかどうかを調べるため、販売価格の報告徴収、店頭でのパトロール、派遣店員による価格監視、帳簿等の書類閲覧等の行為を行うこと」
が違法であるとされており、実務上必要以上に萎縮効果を生んでいるという批判があるので、これに公取として答えようとしたものではないかと思われます。
ともかく、単なる価格の調査は違法ではない(「メーカーの示した価格で販売しているかどうかを調べるため」という目的がある場合に限り違法となる)ということをはっきりさせたということで、意義のある相談事例だと思います。
事例2
健康食品メーカーによる代理店の厳格な地域制限が問題なしとされた事例ですが、回答の理由で、
「本件は,X社が,販売代理店に対し,一定の販売地域を割り当て,地域外での販売を禁止するという厳格な地域制限を行うものであり,当該販売代理店の割り当てられた地域では,当該販売代理店はX社の健康食品Aのみを販売することとなるが・・・」
と述べられています。
しかし、これは間違いではないでしょうか。
厳格な地域制限なのだから、代理店は、割り当てられたテリトリー外で販売できなくなるだけで、X社以外の健康食品Aを販売することは自由なはずです。(公取の回答では、まるで排他条件付取引への回答みたいです。)
上記下線部分は、
「当該代理店は、割り当てられた地域外ではX社の健康食品Aを販売できないが」
が正しいのでしょう。
(ただ、いずれにせよブランド内競争の制限が問題となっている事案であるという肝心な点の分析がなされていませんが。。。差別化がなされていない商品だということは、事実認定のところで述べられています。)
事例3
メーカーの小売店に対する陳列方法の指定が問題ないとされた事例ですが、要は価格さえ制限しなければよい(「合理的な理由」は、高級感とか、品質に対する信頼性とかいった、漠然としたもので十分であり、安全性の確保などは要求されない(あってもよいが))という立場を公取委がより一層鮮明にした事例として意味があると思います。
事例4
福祉用具メーカーがインターネット販売業者にはリベートを払わないこととしたのを問題ないとした事例です。
リベートの条件として、「適切な商品説明を行うための販売員教育」が必要とされている事案ですが、もちろん、「適切な商品説明を行うこと」をダイレクトにリベートの条件にしても全く問題ないでしょう。
気になるのは、理由の中で、
「X社はインターネット販売業者に対する卸売価格を引き上げるものではなく,・・・」
とされている点です。
これではまるで、卸売価格を引き上げてはいけないかのように読めます。
販売員教育のためのコストの補償を実質的にリベートで行うか卸価格の引き下げで行うかはメーカーの自由のはずです。
インターネット販売業者が実店舗販売に変更して商品説明をすることを条件に卸価格の引き下げをすることは、何ら問題ないはずで、その反面として、そういう変更に応じないネット業者への卸売り価格を上げることも問題ないはずです。
この点の事例集の理由付けは、私は大いに問題があると思います。事例集は実務上の影響力が大きいのですから、一言一言に気を配って書いてほしいものです。
事例6
不動産情報サイト運営業者が共同で、不当表示を行う不動産業者を排除するルールを統一することが問題なしとされた事例です。
これも結論は正しいと思うのですが、理由づけで、
「5社が,不当表示が判明した場合に,当該不当表示に係る不動産物件及び不動産業者に係る情報を共有することは,違法行為による一般消費者への被害拡大を防止するために行われるものであって,競争を阻害するものではないことから,」
としているのは、荒っぽいですね。
この理由づけでは、
「違法行為による一般消費者への被害拡大を防止するために行われるもの」
であれば、必然的に、
「競争を阻害するものではない」
ということになりそうですが、そんなことはまったくありません。
消費者への被害と競争の制限をどうバランスさせるのかがまさに問われるところなのであり、被害拡大防止のためなら競争制限してもOKというのであれば、何も悩みはなくなってしまいます。
また、似たような批判ですが、「競争を実質的に制限」ではなく、「競争を阻害」といっているのも問題です。これでは、被害拡大のための共同行為であれば何ら競争への悪影響はないといっているように読めます。
本来この事例は、誰が供給者で、誰が需要者で、どういう競争が制限されているのかを、丁寧に認定すべきでしょう。
その際、この情報サイトサービスが無料で提供されていますが、無料でも「市場」が成立するのか、という問題もありますし、不動産業者が需要者にアクセスするためにこれらの情報サイトサービスがどれほど重要なのか(他にアクセスの手段はないのか)といったことも、きちんと分析すべきでしょう。
事例7
事務用機器の消耗品をメーカーの商標を巧みに利用して消耗品の互換品を排除しようとした事例ですが、手動設定で互換品も使えるならOKということになっています。
これは、使いようによってはプリンタメーカーやコピー機メーカーにも参考になりそうですね。
というのは、事例集では、手動設定がどれだけ面倒なのかとかは問題していないし、手動設定できることを分かりやすく表示することを求められているわけでもないので、やりようによっては、けっこう互換品メーカーを排除できるのではないかと思えるからです。
この事例では現状独立系事業者は存在しないということで、ちょっと公取委も甘くなったのかもしれません。
事例8
新聞で大きく報じられた国内自動車メーカーのエンジン基礎技術の共同研究開発の事例を思わせる事例です(笑)。
私はマツダの大ファンで、今の愛車も赤のアテンザ・セダンのディーゼルですが(多くの専門家がおっしゃるとおり、このエンジンは間違いなく傑作だと思います)、ぜひ、スカイアクティブの優位は保ってもらいたいものです。
それはさておき、この相談事例では、共同研究開発の成果を外国メーカー(ヒュンダイとか、上海汽車とか)にも開放すべきとか、余計なことを言っていないのは大変潔くて結構だと思います。
もちろん、私もそんな義務はないと思います。
事例9と10
事例9は、自由化分野の電気料金の値上げは優越的地位の濫用にあたる、として、事例10は、でも消費税分の値上げは問題ない、とするものです。
でもそれだったら、事例9のほうで、どのくらいの上げ幅なら濫用になるのか、もうすこし詳しく述べるできではないでしょうか。
この説明では、値上げは一切認められないかのように読めてしまいます(消費税の上げ幅と同じ3%でもダメなのでしょうか?)
それと、燃料費が大幅に上がっているのに値上げをすることが濫用になるというのは、一般論としては相当問題があると思います。
従来の公取の運用例に照らしてこれほどエキセントリックな結論でありながら、理由づけは極めてあっさりとしており、全く説得力がありません。
公取委のエコノミストの方々は、ぜひ相談指導室の方々に、「資源の効率的分配」という言葉を教えてあげてください。
また、この事例を事前相談に持っていかずに値上げしたら、公取委は調査したのですかね。
電力会社は公共的な企業なのでそういうわけにもいかなかったのでしょうが、公取委に事前相談に行くことは慎重にも慎重を重ねるべきという思いを強くする事例ではあります。
事例12
事業者団体が火器器具の消耗品の使用期限を設定することが問題ないとされた事例です。
ちょっと気になるのは、理由づけで、
「会員に遵守を強制しない限り」
という留保が付けれらていることです。
この事例で問題になっている事業者団体の行為は、
①使用期限の設定
と
②使用期限の表示の要請
ですが、
①の設定には強制も何もないので、②の強制が問題といっているのだと思いますが(「要請」なのでよい)、表示くらいは強制してもよいのではないでしょうか。
事例13
協同組合が、共同購入で余った接着剤を第三者に売る際の参考価格を設定することを問題ありとした事例です。
これも、違法とするほどのものかという気がします。
まず、余った接着剤を売るくらいのことは、接着剤の販売市場全体から見れば微々たるものでしょうから、8条1号の「競争の実質的制限」はないでしょう。
4号と5号も挙げられていますが、参考価格の設定くらいで「不当に制限」(8条4号)とはいえないのではないでしょうか。
5号になると、なおさら当たらないような気がします。
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