最近の中国期限切れ肉事件と景表法
最近、中国の工場で期限切れ肉を加工したものがマクドナルドやファミリーマートで使用されていたことが問題になっていますね。
この事件をみて私が思ったのは、「牛脂注入肉が景表法違反になるのだったら、期限切れ肉もなるのかな?」ということでした。
このブログでも過去何度か取り上げましたが、消費者庁のメニュー表示ガイドラインでは、
「Q-4
飲食店において、牛脂注入加工肉を焼いた料理のことを「ビーフステーキ」、「ステーキ」と表示することは景品表示法上問題となりますか。
A 問題となります。
<説明>
「ビーフステーキ」、「ステーキ」と表示した場合、Q-2の説明のとおり、この表示に接した一般消費者は、牛脂注入等の加工をしていない牛の生肉の切り身を焼いた料理であると認識するものと考えられます。したがって、実際には、牛脂注入加工肉を使用しているにもかかわらず、あたかも、牛の生肉の切り身を焼いた料理であるかのように示す表示は、景品表示法上問題となります。」
とされています。
私は、ガイドラインのこの部分はおかしいんじゃないか、と折に触れて訴えてきました。
牛脂注入肉を「牛肉」(「ステーキ」でもなんでもいいですが)と表示するのが景表法違反なら、期限切れ肉を「鶏肉」(「チキン」でもよいでしょう)も景表法違反にしないと辻褄が合わないでしょう。
でも、本事件を消費者庁が景表法違反で摘発することは、まず考えられないと思います(もし摘発したら、牛脂注入肉のガイドラインの定めがおかしいことが、ますます明らかになってしまうでしょう)。
上で引用したガイドラインの期限切れ肉バージョンを作ってみると、
「飲食店において、期限切れ鶏肉を用いた料理のことを「チキンナゲット」、「ガーリックナゲット」と表示することは景品表示法上問題となりますか。
A 問題となります。
<説明>
「チキンナゲット」、「ガーリックナゲット」と表示した場合、・・・この表示に接した一般消費者は、期限切れでない鶏肉を用いた料理であると認識するものと考えられます。したがって、実際には、期限切れ鶏肉を使用しているにもかかわらず、あたかも、期限切れでない鶏肉を用いた料理であるかのように示す表示は、景品表示法上問題となります。」
という感じで、これはこれで何も違和感がなくなってしまいますね。
牛脂注入肉と期限切れ鶏肉を景表法上あえて区別するとしたら、
①牛脂注入肉は、一応、商品として市場で受け入れられているものなので、これを生肉として表示するのはグレードを偽っているものであるので景表法の優良誤認の問題である、
②期限切れ肉は、およそ市場で取引されるものではないので、これを通常の鶏肉として表示するのはグレード云々以前の問題であり(?)、刑法で罰せられるべきような明確な違法行為であって(?)、景表法の優良誤認の問題ではない、
ということでしょうか。
我ながら無理のある理屈だと思います(笑)。
ただ、何となく消費者庁を含む関係者の頭の中には漠然と、景表法で処理すべき問題(牛脂注入肉)と、そうでない問題(期限切れ鶏肉)、というのが、「優良誤認」という法律の要件とは別のところであるのかもしれません。
しかし、そんな印象論ではまともな法律論とはいえないでしょう。
もっとも、「労働契約は労働法の問題なので独禁法の問題ではない。」という見解を伝統的に採用している公取委の流れを汲む消費者庁であれば、「期限切れ肉は刑法の問題であって景表法の問題ではない。」ということを言い出しかねないような気もしますし、案外、それが実務的には受け入れられたりするかもしれません(もちろん、私は反対です)。
というわけで、牛脂注入肉の事件は、やはり世論に後押しされて解釈論の限界を踏み越えてしまった、と考えざるを得ないと思います。
もう1つのあり得る理屈としては、
①期限切れ肉は「肉」という表示を偽るものではない(期限が切れていても「肉」であることには変わりはない、あるいは、消費者は「肉」という表示をみて期限切れでないことを期待するわけではない)ので景表法の問題ではない、
のに対して、
②牛脂注入肉は「肉」とは呼べないものであり(あるいは、「肉」といえば消費者は牛脂注入肉でないものを期待するので)、表示の偽りがあるので、景表法の問題だ、
というものが考えられますが、そこがまさに問題で、私は、牛脂注入肉も「肉」だと思いますし、「肉」という表示で消費者がそこまで期待するというのも言い過ぎだと思います(「肉」という表示から期待するのではなく、牛脂注入肉がどういうものかもよく知らない、というのが実態でしょう)。
一つ注意点は、景表法違反は故意過失を問わず成立する、ということです。
これは、景表法違反に課徴金の導入が検討されている現在、さらに重要な問題です。
最後に念のためですが、私は期限切れ鶏肉事件が景表法違反だと言いたいのではありません。牛脂注入肉が景表法違反ではない、と言いたいのです。
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