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2014年7月 2日 (水)

コンペと下請法

下請法講習テキストでは、

「自らデザインを作成している広告会社〔=親事業者〕が、

新製品のデザインコンペ(試作競技)に参加するに当たり、

デザインの作成を

デザイン業者〔=下請事業者〕に委託すること。」

というのが、情報成果物作成委託の類型3(自社で業として作成している自家使用の情報成果物の作成の委託)の例として挙げられています(p12)。

同じことは、下請法の運用基準にも書かれています。

さて、このような講習テキスト・運用基準の考え方には、

コンペ参加者(広告会社)がデザインコンペに参加するためのデザインというのは、あくまでコンペ参加者の自家使用(=自らがコンペに参加するという目的)のためのデザインだ、

という理解あるいは前提があります。

逆にいえば、

コンペ参加者がデザインコンペに参加するためのデザインは、コンペ参加者がコンペ主催者に納入するためのものではない、

ということです。

というのは、もしコンペに参加するためのデザインが、

「親事業者(=コンペ参加者)が発注元(=コンペ主催者)に納入するための情報成果物」

だとすると、その情報成果物の作成を下請事業者に委託すると、情報成果物作成委託の類型2に該当してしまうからです(そうすると、コンペ参加者が社内で業として(=反復継続して)デザインを行っているかどうかにかかわらず、情報成果物作成委託に該当してしまいます。)。

つまり、上記テキスト・運用基準の設例は、

①コンペ参加者がコンペに参加するためのデザインは、コンペ参加者が(自らがコンペに参加するという)自家使用の目的でのデザインであり、

②当該コンペ参加者(広告会社)は、自社で業として(反復継続して)デザインを作成している、

という理解が前提になっているのです(②が満たされないと、当然、類型3には該当しません)。

さてここで気になるのは、コンペ主催者が親事業者とみなされる可能性はないのか?ということです。

つまり、上記設例とは異なり、デザインコンペというのは、

①コンペ主催者(デザインを必要としている者)が親事業者、

②コンペ参加者が下請事業者

であるとみなされるおそれはないのか、ということです。

(もちろん、コンペ主催者はそのデザインを使ってその顧客に商品を提供する(つまり、当該デザインが化体された商品を顧客に提供することがコンペ主催者の業である)というのが前提です。)

講習テキストのようなデザインコンペの理解を前提にすれば、デザインコンペでのデザインはあくまでコンペ参加者が(コンペに自ら参加するという)自家使用目的のデザインなので、コンペ主催者がコンペ参加者にコンペへの参加を呼びかけることは、デザインの作成を委託していることになるはずがない、ということになりそうです。

ですが世の中は教科書よりも複雑で、実際には、「コンペ」という名前は付けていても、そこで提供されたデザインや設計に係る知的財産権はコンペ主催者のものになる、というのが参加条件であったりすることがあります。

本来の「コンペ」というのは、あくまで複数のコンペ参加者から試作品を提供させて、その中から最も優れたコンペ参加者のデザイン(設計)が正式契約につながる、というもので、あくまで正式契約の前段階に過ぎません。

そういう本来のコンペを考えると、コンペに参加するだけでは本契約は成立しないので、コンペ主催者がコンペ参加者にデザインの作成を「委託」していると考えるのは、無理があると思います。

しかし実際には、多数のコンペ参加者のうち、正式契約に至るのは1社だけだけれども、負けた参加者の設計にも一部優れたところがあったりして、いわば「いいとこ取り」をしたいがために、コンペ参加者が提出したデザインに係る知的財産権は主催者のものになる、という条件を付けたくなることがあるわけです。

(ちょっと例は違いますが、サラリーマン川柳の募集で、入選しなかった作品の著作権も主催者に帰属する、というようなものですね。(本当のサラリーマン川柳がどうだかは、知りません。))

では、知的財産権がコンペ主催者に帰属するようにしているからといって、コンペ主催者がコンペ参加者に情報成果物の作成を「委託」していることになるのでしょうか。

私はならないと思います。

知的財産権の帰属がどうあれ、コンペはあくまで本契約の相手方を選ぶ手続に過ぎないと考えるべきでしょう(講習テキストも同じ理解でしょう)。

というわけで、知的財産権がコンペ主催者に帰属するルールでコンペを行う場合であっても、例えばコンペ主催者はコンペ参加者に対して3条書面を交付する必要はありません。

もちろん、そもそも情報成果物作成委託ではないのですから、無償で知的財産権を譲り受けても、不当な利益提供の要請(下請法4条2項3号)にも該当しません。

では優越的地位の濫用には該当しないのか、といえば、少なくともこれまで取引関係にない相手方との関係では、難しいでしょうね(該当しない可能性が高い)。

というのは、優越的地位の濫用が成立するためには、「継続して取引する相手方」(独禁法2条9項5号イ)でなければならないからです。

条文では、「新たに継続して取引しようとする相手方を含む。」とされていますが、コンペをやっている段階で、まだ本契約に進めるかどうかも分からない相手方を、「新たに継続して取引しようとする相手方」というのは無理でしょう。

なので、たとえコンペ参加者が「このコンペに入賞すれば名を上げられる」と期待して、コンペ主催者の無理難題(例えば知的財産権の無償譲渡とか)を呑まざるを得なかったとしても、優越的地位の濫用には該当しないというべきでしょう。

これに対して、コンペ主催者とコンペ参加者との間に既に別のところで継続的な取引があって、優越的地位が認められる、という場合であれば、優越的地位の濫用に該当する可能性はあるでしょう。

ただしその場合でも、「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して」(独禁法2条9項5号柱書)いることが必要です。

つまり、コンペ参加者が既存の取引との関係で無理難題を聞かざるを得なかった、という関係が必要です。

したがって、単に「このコンペで勝てば大きな取引が見込める」とか、「名を上げられる」といった理由で無理難題を聞いた、というだけでは、優越的地位の濫用には該当しないでしょう。

なお、以上はコンペの実態があることが前提であって、例えば、最初から発注する先は決めているのに、いわば出来レースで形だけ「コンペ」の体裁をととのえ、参加者の知的財産権を取得してしまう、というような極端なことをすると、下請法や優越的地位の濫用はさておき、民法の不法行為が成立するかもしれません。

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