« 2014年5月 | トップページ | 2014年7月 »

2014年6月

2014年6月27日 (金)

共同研究開発ガイドラインの販売先制限に関する規定の疑問

共同研究開発ガイドラインでは、

成果に基づく製品の販売先を制限すること((3)ア①の場合を除く。)」

というのが、「不公正な取引方法に該当するおそれがある事項」であるとされています(第2-2(3)③)。

(ちなみに、上記で除かれている「(3)ア①の場合」というのは、ノウハウの秘密性保持のために必要な場合です。)

「不公正な取引方法に該当するおそれがある事項」というのは、いわゆる灰色条項といわれており、同ガイドラインでは、

「『不公正な取引方法に該当するおそれがある事項』は、各事項について、個々に公正な競争を阻害するおそれがあるか否かが検討されるものであるが、この場合、当該事項が公正な競争を阻害するおそれがあるか否かは、

参加者の市場における地位、

参加者間の関係、

市場の状況、

制限が課される期間の長短等

が総合的に勘案されることとなる。

この場合、参加者の市場における地位が有力であるほど、市場における競争が少ないほど、また、制限が課される期間が長いほど、公正な競争が阻害されるおそれが強い。なお、上記で述べた独占禁止法第二条第九項第五号又は一般指定第五項の問題〔優越的地位の濫用〕については、ここでも同様に一定の場合には問題となる。」

と説明されています。

さらに同ガイドラインでは、

「なお、上記③〔上記で引用した販売先制限のこと〕・・・に関し、例えば、取引関係にある事業者間で行う製品の改良又は代替品の開発のための共同研究開発については、

市場における有力な事業者によってこのような制限が課されることにより、競争者の取引の機会が減少し、他に代わり得る取引先を容易に見いだすことができなくなるおそれがある場合には、

公正な競争が阻害されるおそれがあるものと考えられる(「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(平成三年七月一一日公表)第一部の第四(取引先事業者に対する自己の競争者との取引の制限)参照)。」

ということで、流通取引慣行ガイドラインが引用されています。

しかし私は、実際には、成果に基づく製品の販売先制限が独禁法違反になるのはかなり稀な場合であると思います。

この点、公取委の担当者による解説である、平林英勝編著『共同研究開発に関する独占禁止法ガイドライン』p100では、

「例えば、取引関係にある完成品メーカーと部品メーカーとの部品の共同研究開発において、市場における有力な完成品メーカーが、部品メーカーに対して自己の競争者である完成品メーカーに当該部品(成果に基づく製品)を販売しないようにすることが挙げられる。この際、完成品メーカーの競争者の取引の機会が減少し、他に代わり得る取引先を容易に見いだすことができなくなるおそれがある場合(市場閉鎖効果)には、公正な競争が阻害されるおそれがあるものと考えられる。」

と説明されています。

(ちなみにこの本の定価は2,800円でしたが、今アマゾンで古本をみたら、12,800円もしてびっくりしました。。。)

しかし、私はこの解説にも疑問を感じます。(ガイドラインを言い換えているだけですから当然ですが。)

理由の一つめは、

①流通取引慣行ガイドラインで問題になっているのは排他条件付取引であって、被拘束者が拘束者の競争者と取引することをおよそ制限している場合である

のに対して、

②共同研究開発ガイドラインで問題になっているのは、被拘束者(上記の例では部品メーカー)が、共同研究開発の成果に基づく製品を拘束者(完成品メーカー)の競争者に販売することを制限しているに過ぎない、

つまり、被拘束者は成果とは関係ない製品を拘束者の競争者に販売することは何ら禁止されていない、

ということです。

つまり、流通取引慣行ガイドラインの場面と共同研究開発ガイドラインの場面では、制限の範囲が全然違っており、共同研究開発ガイドラインの場合は制限の範囲が極めて狭いのです。

適用範囲が全然違うのに、何の説明もなく流通取引慣行ガイドラインの排他条件付取引の説明を共同研究開発ガイドラインに持ってくるのは、極めて不適切です。

流通慣行取引ガイドラインの排他条件付取引の説明とパラレルに考えるべきは、共同研究開発の成果に基づく商品の販売先を制限した場合ではなく、成果に基づかない商品の販売先をも制限した場合でしょう。

それなら、もうちょっと灰色っぽい(少なくとも流通慣行ガイドラインとは同じ程度に灰色っぽい)かもしれません。

また、もし共同研究開発の成果物へのアクセスを、共同研究開発とは関係のない商品へのアクセスと同じように、競争者に認めないといけないとしたら、共同研究開発のインセンティブが削がれること甚だしいことは明らかでしょう。

ガイドラインの定めが疑問である2つめの理由は、同ガイドラインでは成果の第三者へのライセンス制限が白条項とされていることとのバランスです。

つまり同ガイドラインでは、

「成果の第三者への実施許諾を制限すること」

は、

「原則として不公正な取引方法に該当しないと認められる事項」

であるとされています(第2-2(2)②)。

なぜ成果の実施許諾の制限は白条項なのに、成果に基づく製品の販売制限は灰条項なのでしょう?

私にはそのような差を設ける理由が思い浮かびません。

ちなみに前述の平林解説p90では、

「共同研究開発の成果については、各参加者はそれぞれ貢献しているので、その実施について各参加者の意思を尊重することとしても、一概のこれを不合理ということはできないと思われる。

したがって、例えば、成果について権利を有する参加者が第三者への実施許諾をする場合に、共同研究の参加者全員の合意を要するとする制限が、共同研究を行うために必要と考えられるときには、原則として公正競争阻害がないものと考えられる。」

と解説されています。

「共同研究を行うために必要と考えられるときには」というガイドラインにすらない限定が入っているのは無視するほかないでしょう。

さらに同書では続けて、

「共同研究開発の成果である特許が参加者の共有に属することとされている場合には、わが国特許法上は、第三者への実施許諾には共有者全員の合意が必要となる(特許法73条3項)。

この特許法上の原則に従えば、参加者全員の共有に属している特許を実施許諾する場合に全員の合意が必要であるとしても原則として問題となることはない・・・。」

と解説しています。

この解説は、「特許法の明文で許されていることを独禁法違反とするのは据わりが悪い。」という素朴な感情で書かれているのでしょうが、私は、この特許法の条文をガイドラインのこの部分の説明に使うのは論理的に誤りだと思います。

まず、共同研究開発ガイドラインでは成果の帰属を決めることは白条項とされているので(第2-2(2)ア)、どちらかの単独帰属にしてもいいわけですが(ただし優越的地位濫用の問題は残ります)、上記の説明では、

①共有の場合には第三者への実施許諾の制限は許されるが、

②単独所有の場合には第三者への実施許諾の制限は許されない、

かのように読め、単独所有か共有かで結論が異なることになり、ガイドラインの明文に反します(よってガイドラインの解説としては不適切)。

さらに、単独所有か共有かで、競争上の評価も違わないはずです(だからこそ帰属の決定が白条項なのでしょう)。

つまり、一律に第三者への許諾制限は白だといっているガイドラインの説明として、共有の場合の特許法の条文を持ってきても片手落ち(というか、ほとんど意味がない)と言わざるを得ないのです。

話を元に戻して結論をまとめると、成果に基づく製品の販売先を制限することは実際に違法になるのは極めて限られた場合に限られる、ということです。

その、極めて限られた場合というのは、当該成果を用いた製品が競争上必須なものとなるような場合、ということなのでしょう。

しかし、そうだとすると、ガイドライン上は白条項である成果の実施許諾の制限も、そのような極めて限られた場合には違法と考えざるを得ないように思われます。

というのは、そのような必須な特許なら、他社も使いたいはずですが、にもかかわらず、

①他社は使用許諾を受けて自分で作ることはできないのに(使用許諾の制限が白条項のため)、

②成果に基づく製品は購入することができる(販売先制限は灰条項で、必須特許の場合には違法)

ということになり、きわめてバランスが悪いことが明らかです。(他社からは購入できるのに自分では作れない、という状態を独禁法が要求するのはナンセンスです。)

一昨日くらいの日経朝刊に流通取引慣行ガイドラインが改正される見通しとの記事が出ていましたが、それを引用している共同研究開発ガイドラインもついでに改正してはどうでしょうか。

2014年6月24日 (火)

【お知らせ】『論点体系独占禁止法』(第一法規) & 『実務に効く公正取引審決判例精選』(有斐閣)

私も共同執筆した、

白石忠志・多田敏明編著『論点体系独占禁止法』(第一法規・5400円+税)

が発刊され、手元に献本が届きました。

Img_0454

自分はさておき、執筆者の方々はいずれも独禁法に精通した実務家や研究者の方々であり、私などは、「この人はこの論点についてどう考えているのだろう?」という興味だけからでも、読みたくなりそうな本です。

この『論点体系』シリーズは、条文ごとに、関係する論点を解説するというスタイルなので、条文の文言について重箱の隅をつつくようなコンメンタールでもなく(そのようなコンメンタールも貴重で、ぜひ出て欲しいものですが)、独禁法を体系的に解説するという基本書でもない、独自の価値があると思います。

どちらかというと、逐条スタイルなのでコンメンタールに近いですが、コンメンタールは一般的にかなりプロ向けなので、その意味では本書は一般にはより受け入れられやすいのではないでしょうか。

700頁を超えるかなりの大著ですが、一般論や抽象論にページ数を取られることも、学説の対立をつらつらと述べる必要もなく、実務的に頻出する論点に絞って掘り下げて論述することができるので、実質的な意味での役に立つ情報量は相当なものではないかと思います。

それから、本書の特長として、審判制度廃止に関する平成25年改正と改正前の手続の両方を解説していることが挙げられます。

改正法が出たタイミングが結果的にたまたま良かったわけですが、しばらくは、改正法に関する唯一の逐条解説となるのではないでしょうか。

ぜひ書店で実物をご覧いただければと思います。

【7月22日追記】

立て続けに何ですが、私も執筆に参加した、

泉水文雄・長澤哲也編『実務に効く公正取引審決判例精選』(有斐閣・2667円+税)

が手元に届きました。

Img_0462

こちらの方は、再販売価格拘束について執筆させていただきました。

再販売価格拘束は、学問的にはともかく実務的には当然違法に近い原則違法ということでほぼ決着がついています。

なので、再販の質問を受ければとりあえず「違法の可能性が高いです。」と答えておけば、弁護士のアドバイスとしては間違いにはならない、という意味では悩みの少ない、議論しつくされた論点であるように見えるかもしれません。

しかし、実際にはそんなことはなく、悩ましい問題が再販については日々発生しています。

そこで今回の執筆では、『実務に効く』シリーズということもありますし、学問的な関心事はひとまず脇に置いて、企業の方や弁護士の方が実務で知りたいと思われる点を、かなり突っ込んで書いたつもりです。

再販売価格拘束の問題でお悩みの方には、一度読んでいただけるとありがたいです。

2014年6月12日 (木)

「(平成26年6月11日)平成26年5月までの消費税転嫁対策の取組について」について

公取委のホームページで最近の消費税転嫁法の取り組みについて紹介されています

その中で、買いたたきの主な指導事例が興味深いので、コメントしておきます。

指導事例の1つめは、

「製造業者であるC社は,部品の製造委託をしている製造業者(特定供給事業者)に対し,平成26年4月1日以後に納品されるものについて,発注の際に消費税率5パーセントで計算した金額を記載した注文書を発行していた。」

というものです。

消費税率5%で計算していたとすると、本体価格を下げたのだという言い訳すらできず、明らかに買いたたきになりそうですが、これでも勧告にまでは至らないのですね。金額が小さかったからでしょうか。

2つめは、

「大規模小売事業者であるD社は,自社店舗の駐車場に係る賃借料を消費税を含む額で契約している賃貸人(特定供給事業者)に対し,平成26年4月1日以後も消費税率引上げ分を上乗せすることなく消費税込みの賃借料を据え置いていた。」

というものです。

このブログでも以前指摘しましたが、大規模小売事業者が特定事業者となる場合には、転嫁法の適用対象となるのは小売のための商品仕入れ取引に限らず、あらゆる種類の取引が対象になります。この点が、「大規模小売業者による納入業者との取引における特定の不公正な取引方法」と異なるところです。

なので、転嫁法の場合は、駐車場代金も対象になります。

もちろん、小売店店舗に併設された店員用(従業員用)駐車場に限りません。例えば、本社従業員の社宅に併設された駐車場代金でも、同じことです。

考えてみると面白いことですが、こういう駐車場の契約とかは1年単位とかで締結されるので、消費税が上がったからといって自動的に賃料が民法上も増額されるのか、は一つの問題です。

あくまで契約解釈の問題ですが、一般的には、総額で契約している以上、特段の意思表示のない限り、消費税が上がったからと言って、契約金額が自動的に上がるということにはならないのではないかと思います。

でもそうすると、転嫁法が適用される取引では民法上は賃料は増額されないのに、転嫁法上は賃料を増額しないと違法になる、ということで、転嫁法と民法で結論が異なってしまいます

1つの解決としては、転嫁法が適用される取引の場合には民法上も転嫁法に従って代金が見直されることが当事者の合理的意思であった、と考えるということでしょうね。

これは、結論は穏当ですが、法律の理屈としては相当苦しいものがあると、個人的には思っております。

ともあれ、転嫁法が適用されない取引まで、自動的に賃料を見直す合意があったと推定するのは行き過ぎでしょう。

賃料が、「月4万円(消費税別)」みたいな定めなら、自動的に見直す合意があったとして良いと思いますが、むしろそういう合意は少なく、大抵は総額で合意しているのではないかと推測します。

だいぶ横道にそれましたので、3つめに行きましょう。

3つめは、

「製造業者であるE社は,金属加工等を委託している製造業者(特定供給事業者)に対し,平成26年4月1日以後の納入単価について,一定率の値引きを要請した。」

というものです。

一定率の価格見直しというのはどこでもやっていることで、下請法の適用対象なら親事業者のみなさんはそれなりに気を遣っていたでしょうが、転嫁法の適用対象取引類型は無限定で、その点、下請法よりもはるかに広いので、この4月の価格対応には頭を悩ませた特定事業者のみなさんも多いのではないでしょうか。

やはり、一定率の値引きは違法になる可能性がある、ということですね。

よく読むと、「要請した」だけで、その金額で合意したのかどうかは明らかではありません。

なので、「要請」だけだったので指導にとどまったのか、それとも金額が小さかったから指導にとどまったのかは、明らかではありません。

今悩ましいのは、「4月に一律の値下げをやったらさすがにまずかっただろうけど、そろそろ2か月経ったし、大丈夫かな?」という悩みですね。

2か月おきに普段から価格を見直していた取引なら大丈夫かもしれませんが、例年4月にしか見直していなかった取引について6月に見直しすると、「ほとぼりが冷めたころを狙って値下げしたのではないか(消費税の転嫁を実質的に拒否しているのではないか)」と疑われそうですね。

普段6月に価格改定していない取引の場合には、どうして今年だけ6月に価格を見直す必要があるのかを示す根拠を準備しておきましょう(誰でも言えるような、頭を使っていないアドバイスですみません)。

4つめは、

「製造業者であるF社は,材料の加工を委託している製造業者(特定供給事業者)に対し,消費税率引上げ分を上乗せした金額よりも低い委託代金を定めて支払っていた。」

というものです。

これも典型的な買いたたきですね。なぜ指導にとどまったのかは、やはり不明です。

ところで、現在までのところ唯一の転嫁法の勧告事例である「株式会社JR東日本ステーションリテイリングに対する勧告」をみてみましたが、下請法の減額などの場合と異なり、いくら買いたたいたのかが書いてないのですね。

転嫁法の場合は、勧告の金額の基準というのが公取内部にも無いのでしょうか。。。

« 2014年5月 | トップページ | 2014年7月 »