会社分割に関する企業結合ガイドラインの「事業の重要部分」に関する記述の疑問
企業結合ガイドラインの「分割」のところでは、
「共同新設分割又は吸収分割によって事業の重要部分を分割する場合における「重要部分」とは,
事業を承継しようとする会社ではなく,事業を承継させようとする会社にとっての重要部分を意味し,
当該承継部分が一つの経営単位として機能し得るような形態を備え,事業を承継させようとする会社の事業の実態からみて客観的に価値を有していると認められる場合に限られる。
このため,「重要部分」に該当するか否かについては,承継される事業の市場における個々の実態に応じて判断されることになるが,
事業を承継させようとする会社の年間売上高(又はこれに相当する取引高等。以下同じ。)に占める承継対象部分に係る年間売上高の割合が5%以下であり,
かつ,
承継対象部分に係る年間売上高が1億円以下の場合
には,通常,「重要部分」には該当しないと考えられる。」
と説明されています。
実は、田辺治他編著『企業結合ガイドライン』p50にも書いてあるとおり、分割の実体法(15条の2第1項)には「重要部分」という限定はないので、上記ガイドラインの説明は、分割の実体法(15条の2第1項)との関係では意味がありません。
確かに条文とガイドラインを照らし合わせる限り、このように解するほかないのですが、分かりにくいですね。
そもそも企業結合ガイドラインは企業結合の実体判断に関するガイドラインなのですから、ここだけ届出要件に関する説明だというのは、いかにも納まりが悪い気がします。
企業結合ガイドラインでもその冒頭部分で、
「まず、第1において、企業結合審査の対象となる企業結合の類型を示す・・・」
と明記されており、この部分は、企業結合審査の対象となる企業結合の類型に関する説明であることは明らかです。
そして、日本の独禁法では、企業結合審査の対象となるかどうか(実体法上違法になるかどうか)と届出義務があるかどうかとは別問題であることも明らかであることからすると、冒頭に引用した部分も、少なくともガイドラインの体系上は、届出義務に関する説明ではなく、実体法の問題に関する説明であるということにならざるをえないように思います。
そもそもなぜこういうことが起きたのかといえば、
①平成13年改正(だったかな?)で会社分割が届出の対象になり、
②それまでの事業譲受等に関する16条の前に15条の2を持ってきたため、
③それまでは「重要部分」に関する説明は事業譲受についてすればよかった(しかも、事業譲受の場合は実体規定の16条1項にも「重要部分」の要件があるので、企業結合ガイドラインは実体判断のガイドラインだという建前も崩れず違和感がない上に、同じ文言を使ってる2項も、同じ文言なのだから同じ解釈になるのだろう、ということがついでに示せて実務上は便宜だった)、
④ところが改正後は16条よりも前の15条の2の会社分割のところで「重要部分」の説明をしないといけなくなった、
⑤それなのに、会社分割については「重要部分」が実体法上違法の要件ではなかったので、実体法に関するガイドラインである企業結合ガイドラインからは消せばよかった(あるいは、事業譲受のところで最初に説明すればよかった)のに、
⑥機械的に頭から順番に説明したものだから、分割のところに「重要部分」の説明が来てしまった、
ということかと想像します。
なので、本来、「重要部分」の説明は、分割のところでするべきではなかったのです。
(ちなみに、平成21年改正で届出がそれまでの資産額から売上高を基準にするようになってから、上記セーフハーバーは届出基準のセーフハーバーとしてはまったく無意味になっています。
というのは、届出の要否では法律上対象事業の売上が30億円以上必要なのに、セーフハーバーがそれより少額の1億円を要件にしているからです。「かつ」であることに注意してください。)
せめて、「共同新設分割又は吸収分割によって事業の重要部分を分割する場合における「重要部分」とは,・・・」のところに、条文(15条の2第2項)を引用すべきだったんじゃないでしょうか。
もしガイドライン内で整合的に説明しようとすると、
①冒頭で、「重要部分」に関する説明を含む「第1」の部分は審査対象となるか否かの説明だと宣言してしまっているので、
②これと整合性を持たせるためには、分割に関する「重要部分」の説明は審査対象となるか否かに関する説明だ、ということになり、
③15条の2第1項には「重要部分」の文言はないけれど、ガイドラインは「重要部分」であることが審査対象となる要件だ、
というふうに解釈せざるを得ないと思います(それを、田辺他は否定しているわけです)。
別に16条(1項)のところで「重要部分」の説明をしたって何ら不都合はなかった(同じ文言を使っている以上、16条2項の「重要部分」も、15条の2第2項の「重要部分」も、同じ意味になるのだろう、ということで実務は回っていったはず)のですから、こんなに分かりにくい立てつけにする必要はなかったのではないかと思います。
(以上のことに気付いたときは、「この部分は15条の2第2項の説明でしかありえないよなぁ」と思ったのですが、田辺他をみたらまさにそう書いてあったので、さすが公取委の方の著作だと妙に感心しました。笑)
ひょっとしたら今のようなガイドラインの書きぶりをするメリットは、同じ「重要部分」という文言を使っても、15条の2第2項と16条1項と2項とは違う意味に解するのだ、という解釈を完全に排除できる、という点にあるのかもしれません。(田辺他のいうとおり、分割のところに書いてある以上、15条の2第2項の「重要部分」の解説だと解するのが自然なので。)
しかしこれは後知恵で、おそらくガイドラインを現在の形に改正した時には、そんなに深く考えてなかったのではないか、と勘繰ってしまいます(少なくとも、ガイドラインにいきなり届出要件だけに関する記述が出てくることの違和感は、起草者は持っていなかったのでしょう)。
ともあれ、今度ガイドラインを改正するときには、ちょっと姑息なやり方ですが、冒頭の部分を、
「まず、第1において、企業結合審査の対象となる企業結合の類型等を示すとともに・・・」
とでも手当てしたらいいのではないでしょうか。
また、そもそも論ですが、会社分割と事業譲渡で実体規定の違法要件に、「重要部分」という要件が必要か否かという差があることの立法論としての合理性が問われるべきでしょう。
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