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2014年5月12日 (月)

流通取引慣行ガイドラインにおける「独占禁止法上違法な行為の実効を確保するための手段」と「独占禁止法上不当な目的を達成するための手段」の違い?

流通取引慣行ガイドラインの第1部の第3-2「単独の直接取引拒絶」では、

「事業者が、独占禁止法上違法な行為の実効を確保するための手段として、例えば次の①のような行為を行うことは、不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定二項(その他の取引拒絶))。

また、市場における有力な事業者が、競争者を市場から排除するなどの独占禁止法上不当な目的を達成するための手段として、例えば次の②~③のような行為を行い、

これによって取引を拒絶される事業者の通常の事業活動が困難となるおそれがある場合には、

当該行為は不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定二項)。」

と説明されています。

つまり、

「独占禁止法上違法行為実効を確保するための手段」

というのと、

「独占禁止法上不当目的達成するための手段」

というのを、書き分けているわけです。

「違法」か「不当」か、「行為」か「目的」か、「実効を確保」か「達成」か、という違いですね。

要は、

達成されるゴール自体が独禁法の条文に該当する「違法」なものか、

条文には該当しないのでゴール自体は違法とはいえないけれど「不当」なものか、

という区別だと思いますが、正直、私にはこのような書き分けをする理由がよくわかりません。

まず日本語としては、「違法な目的を達成」でも、「不当な行為の実効を確保」でも、通じると思います。

また、中身を細かく見ていくと、

前半(便宜上、「違法型」といいます)では、①の行為を行えば即違法となるのに対して、

後半(同じく、「不当型」といいます)では、②③の行為を行ったうえ、被拒絶者の「通常の事業活動が困難となるおそれ」があることが違法要件である

ように見えます。

(まあこれは、「通常の事業活動が困難となるおそれ」というのを、本来②③の中に書き込むべきところを、前に出したというだけかもしれませんので、ちょっと言いがかり的なところはありますが、やはりドラフトとして美しくないと思います。)

しかし、そんな細かい区別を考えている人は、公取委を含め、誰もいないのではないでしょうか(いたらごめんなさい)。

ちなみに①②③というのは、

「①市場における有力な製造業者・・・が、取引先販売業者に対し、自己の競争者と取引しないようにさせることによって、競争者の取引の機会が減少し、他に代わり得る取引先を容易に見いだすことができなくなるようにする

とともに、

その実効性を確保するため、これに従わない販売業者との取引を拒絶すること(一般指定一一項(排他条件付取引)にも該当する。)

②市場における有力な原材料製造業者が、自己の供給する原材料の一部の品種を取引先完成品製造業者が自ら製造することを阻止するため、当該完成品製造業者に対し従来供給していた主要な原材料の供給を停止すること

③市場における有力な原材料製造業者が、自己の供給する原材料を用いて完成品を製造する自己と密接な関係にある事業者・・・の競争者を当該完成品の市場から排除するために、当該競争者に対し従来供給していた原材料の供給を停止すること」

というものです。

それに、不当型の場合に被拒絶者の「通常の事業活動が困難となるおそれ」を違法要件とすると、第2部第2-4(4)(安売り業者への販売禁止)のところで、

「メーカーが卸売業者に対して、安売りを行うことを理由・・・に小売業者へ販売しないようにさせることは、

これによって当該商品の価格が維持されるおそれがあり、原則として不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定二項(その他の取引拒絶)又は一二項)。

なお、メーカーが従来から直接取引している流通業者に対して、安売りを行うことを理由・・・に出荷停止を行うことも、これによって当該商品の価格が維持されるおそれがあり、原則として不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定二項)。」

とされており、これも(違法型ではなく)不当型と整理されている(注釈独占禁止法361頁)のですが、ここでは被拒絶者の「通常の事業活動が困難となるおそれ」に全く言及されていないのと統一感が無いように思われます。

それに、そもそも論ですが、不当型について際限なく取引拒絶の成立を認めると、達成すべきゴールが不公正な取引方法のいずれにも該当しなさそうな場合でも、手段として誰かに対する取引拒絶(既存取引の打ち切りと新規取引拒絶の両方を含む)が認定できれば、常に少なくとも取引拒絶では違法になることになり、本気でそういう執行をすると、

「私的独占崩れの取引拒絶」

とか、

「再販売価格拘束崩れの取引拒絶」

といったものが、うようよと出てこないか心配になります。

もっといえば、ガイドラインでは違法型に整理されている排他条件付取引の実効確保のための取引拒絶(第1部第3-2①)についても、不当型と整理したうえで、

「排他条件付取引崩れの取引拒絶」?

みたいなのが出てくるかもしれませんし、もっと限界があいまいな、

「拘束条件付取引崩れの取引拒絶」??

みたいなものが、不当型の名の下に違法とされないかも心配になってきます。

つまり、不当型の場合、

「○○崩れの取引拒絶」

の「○○」のところは、もともと「崩れ」なので、ゴールの行為は極論すれば何でもよくなってしまうのです。

というわけで、不当型は、今のガイドラインのままでは広すぎると思います。

公取委の立場からすれば、だからこそ、被拒絶者の「通常の事業活動が困難となるおそれ」で絞ったということかもしれませんが、ガイドライン全体で統一されていないのは上述のとおりですし、なぜ「通常の」なのか、なぜ「被拒絶者の」事業なのか(競争者の事業ではだめなのか)、よくわかりません。

例えば②③などは私的独占が成立するような場合でもないのに拒絶の部分だけとらえて取引拒絶というのはいかにもバランスが悪いように思えます。そういう行為は本来正々堂々と私的独占で行くべきでしょう。

第2部第2-4(4)(安売り業者への販売禁止)の例については、取引拒絶ではなく、再販売価格拘束の「拘束」に該当するかどうかで処理すべきだと思います。

こういうこと1つを考えても、やはり違法型も不当型も、ゴールとなっている行為類型一本で処理すべきという議論に説得力があるように思われます。

なので結論としては、違法型はゴールとなる行為類型として処理し、不当型はなくすべきだと思います(ゴールが「不当」に過ぎないので、法的にはゴールがないという整理)。

そうでないと、

包括契約という契約を用いた場合には競争者が排除されることとか、競争の実質的制限とか、私的独占の要件を満たしてはじめて独禁法上違法になるのに(JASRAC事件)、

他者排除の目的で取引拒絶を行った場合には、ゴールの競争の実質的制限や、ゴールの公正競争阻害性を認定することなく、ゴールが不当な目的だというだけで、手段としての取引拒絶が、(本来取引の自由と緊張関係にあるので取り締まりには慎重であるべきであるにもかかわらず!)単独で不公正な取引方法になってしまう、

ということになり、取引の自由と緊張関係にある取引拒絶のほうが、むしろ容易に違法になってしまう、というとんでもないことになってしまいます。

実は実務でそういう不都合が表立って生じていないのは、結局、「不当な目的の達成手段」は手段自体が違法となる、という看板を掲げながら、ゴールの反競争性を見据えて取り締まりをしているからです(なので、ゴールが再販の場合には容易に摘発される。平成13年7月27日松下電器産業事件公取委勧告審決)。

しかし、そういう偽りの看板なのであれば、下げてしまった方がよいのではないでしょうか。

他者排除の手段には、包括契約(→私的独占)から、競争者のせり場を壁で囲むこと(→取引妨害)、誹謗中傷(→不法行為)、ライバル工場の爆破(!)まで、いろいろあり得るわけです。

たまたま単独の取引拒絶が一般指定で指定されているというだけで、手段としての単独の取引拒絶だけが他の手段よりも違法になりやすいというのは、合理的な説明ができないと思います。

ちなみに立案担当者解説である山田他著『流通・取引慣行に関する独占禁止法ガイドライン』(平成3年・商事法務研究会)p75では、

事例①は独禁法に違反「する」のに対して、事例②③は違反する「おそれがある」と整理されていますが、ガイドラインの文言に根拠がなく、無視するほかありません。

さらに、「通常の事業活動が困難になるおそれがある」の意味については、

「その事業者の事業活動が困難になるおそれがある程度に至っている必要はなく、他に取引先があるとしても取引条件、必要数量の確保等の面で『通常の事業活動』が困難となる程度に至っていればよい。」

と解説されていますが、ガイドラインの文言でそのように理解できるのか疑問ですし、「通常」かそうでないかの区別も難しいし、そもそも不当型ではなぜ「他に取引先があるとしても取引条件、必要数量の確保等の面で『通常の事業活動』が困難となる程度に至っていればよい。」ということになるのか、理論的根拠が明らかではありません。

こういう解説を見ると、不当型が際限なく広がるのではないか、という懸念が裏付けられているような気さえします。

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