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2014年5月

2014年5月22日 (木)

会社分割に関する企業結合ガイドラインの「事業の重要部分」に関する記述の疑問

企業結合ガイドラインの「分割」のところでは、

「共同新設分割又は吸収分割によって事業の重要部分を分割する場合における「重要部分」とは,

事業を承継しようとする会社ではなく,事業を承継させようとする会社にとっての重要部分を意味し,

当該承継部分が一つの経営単位として機能し得るような形態を備え,事業を承継させようとする会社の事業の実態からみて客観的に価値を有していると認められる場合に限られる。

このため,「重要部分」に該当するか否かについては,承継される事業の市場における個々の実態に応じて判断されることになるが,

事業を承継させようとする会社の年間売上高(又はこれに相当する取引高等。以下同じ。)に占める承継対象部分に係る年間売上高の割合が5%以下であり,

かつ,

承継対象部分に係る年間売上高が1億円以下の場合

には,通常,「重要部分」には該当しないと考えられる。」

と説明されています。

実は、田辺治他編著『企業結合ガイドライン』p50にも書いてあるとおり、分割の実体法(15条の2第1項)には「重要部分」という限定はないので、上記ガイドラインの説明は、分割の実体法(15条の2第1項)との関係では意味がありません。

確かに条文とガイドラインを照らし合わせる限り、このように解するほかないのですが、分かりにくいですね。

そもそも企業結合ガイドラインは企業結合の実体判断に関するガイドラインなのですから、ここだけ届出要件に関する説明だというのは、いかにも納まりが悪い気がします。

企業結合ガイドラインでもその冒頭部分で、

「まず、第1において、企業結合審査の対象となる企業結合の類型を示す・・・」

と明記されており、この部分は、企業結合審査の対象となる企業結合の類型に関する説明であることは明らかです。

そして、日本の独禁法では、企業結合審査の対象となるかどうか(実体法上違法になるかどうか)と届出義務があるかどうかとは別問題であることも明らかであることからすると、冒頭に引用した部分も、少なくともガイドラインの体系上は、届出義務に関する説明ではなく、実体法の問題に関する説明であるということにならざるをえないように思います。

そもそもなぜこういうことが起きたのかといえば、

①平成13年改正(だったかな?)で会社分割が届出の対象になり、

②それまでの事業譲受等に関する16条の前に15条の2を持ってきたため、

③それまでは「重要部分」に関する説明は事業譲受についてすればよかった(しかも、事業譲受の場合は実体規定の16条1項にも「重要部分」の要件があるので、企業結合ガイドラインは実体判断のガイドラインだという建前も崩れず違和感がない上に、同じ文言を使ってる2項も、同じ文言なのだから同じ解釈になるのだろう、ということがついでに示せて実務上は便宜だった)、

④ところが改正後は16条よりも前の15条の2の会社分割のところで「重要部分」の説明をしないといけなくなった、

⑤それなのに、会社分割については「重要部分」が実体法上違法の要件ではなかったので、実体法に関するガイドラインである企業結合ガイドラインからは消せばよかった(あるいは、事業譲受のところで最初に説明すればよかった)のに、

⑥機械的に頭から順番に説明したものだから、分割のところに「重要部分」の説明が来てしまった、

ということかと想像します。

なので、本来、「重要部分」の説明は、分割のところでするべきではなかったのです。

ちなみに、平成21年改正で届出がそれまでの資産額から売上高を基準にするようになってから、上記セーフハーバーは届出基準のセーフハーバーとしてはまったく無意味になっています。

というのは、届出の要否では法律上対象事業の売上が30億円以上必要なのに、セーフハーバーがそれより少額の1億円を要件にしているからです。「かつ」であることに注意してください。)

せめて、「共同新設分割又は吸収分割によって事業の重要部分を分割する場合における「重要部分」とは,・・・」のところに、条文(15条の2第2項)を引用すべきだったんじゃないでしょうか。

もしガイドライン内で整合的に説明しようとすると、

①冒頭で、「重要部分」に関する説明を含む「第1」の部分は審査対象となるか否かの説明だと宣言してしまっているので、

②これと整合性を持たせるためには、分割に関する「重要部分」の説明は審査対象となるか否かに関する説明だ、ということになり、

③15条の2第1項には「重要部分」の文言はないけれど、ガイドラインは「重要部分」であることが審査対象となる要件だ、

というふうに解釈せざるを得ないと思います(それを、田辺他は否定しているわけです)。

別に16条(1項)のところで「重要部分」の説明をしたって何ら不都合はなかった(同じ文言を使っている以上、16条2項の「重要部分」も、15条の2第2項の「重要部分」も、同じ意味になるのだろう、ということで実務は回っていったはず)のですから、こんなに分かりにくい立てつけにする必要はなかったのではないかと思います。

(以上のことに気付いたときは、「この部分は15条の2第2項の説明でしかありえないよなぁ」と思ったのですが、田辺他をみたらまさにそう書いてあったので、さすが公取委の方の著作だと妙に感心しました。笑)

ひょっとしたら今のようなガイドラインの書きぶりをするメリットは、同じ「重要部分」という文言を使っても、15条の2第2項と16条1項と2項とは違う意味に解するのだ、という解釈を完全に排除できる、という点にあるのかもしれません。(田辺他のいうとおり、分割のところに書いてある以上、15条の2第2項の「重要部分」の解説だと解するのが自然なので。)

しかしこれは後知恵で、おそらくガイドラインを現在の形に改正した時には、そんなに深く考えてなかったのではないか、と勘繰ってしまいます(少なくとも、ガイドラインにいきなり届出要件だけに関する記述が出てくることの違和感は、起草者は持っていなかったのでしょう)。

ともあれ、今度ガイドラインを改正するときには、ちょっと姑息なやり方ですが、冒頭の部分を、

「まず、第1において、企業結合審査の対象となる企業結合の類型を示すとともに・・・」

とでも手当てしたらいいのではないでしょうか。

また、そもそも論ですが、会社分割と事業譲渡で実体規定の違法要件に、「重要部分」という要件が必要か否かという差があることの立法論としての合理性が問われるべきでしょう。

2014年5月16日 (金)

【お知らせ】下請法講習会のお知らせ(中小企業庁委託事業)

昨年度に引き続き、中小企業庁の委託事業としての、下請法の講習会の講師を務めさせていただくことになりました。

今後、随時スケジュールは追加されていきますが、第1回目は、5月26日(月)に新宿エルタワーで開催されます。

下請法にご関心のある方は、申し込みページからお申し込みください。参加無料です。

なお、今回は半日コースなのですが、そうするとどうしても時間が短く話せる内容が限られてきますので、時間に余裕のある方は一日コースの方がお勧めだと個人的には思います。

2014年5月15日 (木)

日米犯罪人引渡条約の国外犯の規定

日米犯罪人引渡条約6条1項は、

「引渡しの請求に係る犯罪が請求国の領域の外において行われたものである場合には、

被請求国は、

自国の法令が自国の領域の外において行われたそのような犯罪を罰することとしているとき

又は

当該犯罪が請求国の国民によつて行われたものであるとき

に限り、引渡しを行う。」

としています。いわゆる国外犯に関する規定です。

昨今話題の、日本人がカルテル(シャーマン法1条)違反で米国に引き渡されるのか、という観点からこの条文を眺めると、

「カルテルが米国の外において行われたものである場合には、

日本は、

日本の法令が日本の外において行われたカルテルを罰することとしているとき

又は

カルテルが米国民によつて行われたものであるとき

に限り、引渡しを行う。」

となります。

「カルテルが米国民によって行われた・・・」というのはひとまず関心の対象外なので端折ると、結局、

「カルテルが米国の外において行われたものである場合には、

日本は、

日本の法令が日本の外において行われたカルテルを罰することとしているとき・・・に限り、

引渡しを行う。」

ということになります。

ただし、日本人が米国に引き渡されてしまうのか、という観点からは、自国民不引渡しの原則(5条)と併せて読むことが必要です。

つまり5条は、

「被請求国は、自国民を引き渡す義務を負わない。ただし、被請求国は、その裁量により自国民を引き渡すことができる。」

とされており、今の文脈で読み直すと、

「日本は、日本国民を引き渡す義務を負わない。ただし、日本は、その裁量により日本国民を引き渡すことができる。」

ということです。

つまり、6条の国外犯の規定以前の問題として(=米国内の犯罪か米国内の犯罪かを問わず)、日本人を引き渡すかどうかは日本国の裁量だ、ということです。

さて、カルテルの場合には、そもそも6条の「国外犯」なのか?という問題があります。

つまり、刑法1条(国内犯)では、

「この法律は、日本国内において罪を犯したすべての者に適用する。」

とされているものの、ここでいう、

「日本国内において罪を犯した」

というのは、実行行為(例えばカルテルの会合)が日本国内で行われたというだけでなく、犯罪の結果(カルテルによる価格の上昇)が日本国内で生じた場合でもよいと解されているのです。

(ただし、カルテルについて日本国外で会合が行われて日本に影響が及んだというケースを日本の刑法で処罰した事例はありません。)

そうすると、一般にカルテルの国外犯という場合にイメージされるような、「会合は米国外だったけど米国内の顧客に影響が及んだ」というケースは、実は(米国から見た場合の)「国外犯」ではなく、国内犯の問題なのです。

ということで、国際カルテルの場合は、6条1項はそもそも適用されないことになります。

確かに、刑法1条の

「日本国内において罪を犯した」

というのと、条約6条1項の、

「犯罪が請求国の領域の外において行われた」

というのは意味が違うのだ(条約の「犯罪が・・・行われた」というのは、実行行為だけを指すのだ)、という議論もありえなくはないですが、あんまり根拠がないんじゃないかと思います。

もともと国外犯の処罰について教科書事例的に挙げられるのは、「米国とメキシコの国境付近で、メキシコ側から銃を発砲して米国側にいる人を殺害する」というようなものであり、この例は典型的な(米国からみた)国内犯の例です。

国境付近のメキシコ側で、米国市場を狙ったカルテルの会合をしたら、米国の国内犯でしょう。

というわけで、例えばNBL1010号27頁の論文では慎重な物言いがなされていますが、私は、上述のような国際カルテルにおける犯罪人の引き渡しの場面では、6条は無視してよいと思います。

(ところで、同論文では、6条の解説として、

「・・・わが国国民が米国外でシャーマン法1条違反を犯した場合に引き渡しの対象とできるかについては、わが国において、外国人が外国で不当な取引制限該当行為を行った場合にこれを処罰するとされていなければならない。」

とされていますが、仮に、「米国外でシャーマン法1条違反を犯した場合」という言葉の意味を、「行為も結果も米国外だった場合」と無理やり読むとしても、「わが国において、外国人が外国で不当な取引制限該当行為を行った場合にこれを処罰するとされていなければならない。」という部分は若干不正確で、主体は外国人かどうかは問いません。)

もう1つの6条の読み方としては、

「カルテルが米国の外において行われたものである場合には、

日本は、

日本の法令が日本の外において行われたカルテルを罰することとしているとき・・・に限り、

引渡しを行う。」

というもののうち、

「カルテルが米国の外において行われたものである場合」

というのを、文言に素直に、

「カルテルの実行行為が米国の外において行われたものである場合」

と読んだうえで、だけれども、

日本では刑法1条で結果さえ国内に生じていれば国内犯になると解釈されているので、日本の外でカルテルの実行行為が行われても処罰されるから、

「日本の法令が日本の外において行われたカルテルを罰することとしているとき」

の要件は満たすのだ、という解釈ですね。

こちらの方が、6条の文言には素直ですね。立案担当者はこっちの趣旨だったかもしれません。(まあ、カルテルを念頭に置いてドラフトしたとは思えませんが。)

結論は変わらないので、どちらの読み方でもよいと思います。

2014年5月12日 (月)

流通取引慣行ガイドラインにおける「独占禁止法上違法な行為の実効を確保するための手段」と「独占禁止法上不当な目的を達成するための手段」の違い?

流通取引慣行ガイドラインの第1部の第3-2「単独の直接取引拒絶」では、

「事業者が、独占禁止法上違法な行為の実効を確保するための手段として、例えば次の①のような行為を行うことは、不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定二項(その他の取引拒絶))。

また、市場における有力な事業者が、競争者を市場から排除するなどの独占禁止法上不当な目的を達成するための手段として、例えば次の②~③のような行為を行い、

これによって取引を拒絶される事業者の通常の事業活動が困難となるおそれがある場合には、

当該行為は不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定二項)。」

と説明されています。

つまり、

「独占禁止法上違法行為実効を確保するための手段」

というのと、

「独占禁止法上不当目的達成するための手段」

というのを、書き分けているわけです。

「違法」か「不当」か、「行為」か「目的」か、「実効を確保」か「達成」か、という違いですね。

要は、

達成されるゴール自体が独禁法の条文に該当する「違法」なものか、

条文には該当しないのでゴール自体は違法とはいえないけれど「不当」なものか、

という区別だと思いますが、正直、私にはこのような書き分けをする理由がよくわかりません。

まず日本語としては、「違法な目的を達成」でも、「不当な行為の実効を確保」でも、通じると思います。

また、中身を細かく見ていくと、

前半(便宜上、「違法型」といいます)では、①の行為を行えば即違法となるのに対して、

後半(同じく、「不当型」といいます)では、②③の行為を行ったうえ、被拒絶者の「通常の事業活動が困難となるおそれ」があることが違法要件である

ように見えます。

(まあこれは、「通常の事業活動が困難となるおそれ」というのを、本来②③の中に書き込むべきところを、前に出したというだけかもしれませんので、ちょっと言いがかり的なところはありますが、やはりドラフトとして美しくないと思います。)

しかし、そんな細かい区別を考えている人は、公取委を含め、誰もいないのではないでしょうか(いたらごめんなさい)。

ちなみに①②③というのは、

「①市場における有力な製造業者・・・が、取引先販売業者に対し、自己の競争者と取引しないようにさせることによって、競争者の取引の機会が減少し、他に代わり得る取引先を容易に見いだすことができなくなるようにする

とともに、

その実効性を確保するため、これに従わない販売業者との取引を拒絶すること(一般指定一一項(排他条件付取引)にも該当する。)

②市場における有力な原材料製造業者が、自己の供給する原材料の一部の品種を取引先完成品製造業者が自ら製造することを阻止するため、当該完成品製造業者に対し従来供給していた主要な原材料の供給を停止すること

③市場における有力な原材料製造業者が、自己の供給する原材料を用いて完成品を製造する自己と密接な関係にある事業者・・・の競争者を当該完成品の市場から排除するために、当該競争者に対し従来供給していた原材料の供給を停止すること」

というものです。

それに、不当型の場合に被拒絶者の「通常の事業活動が困難となるおそれ」を違法要件とすると、第2部第2-4(4)(安売り業者への販売禁止)のところで、

「メーカーが卸売業者に対して、安売りを行うことを理由・・・に小売業者へ販売しないようにさせることは、

これによって当該商品の価格が維持されるおそれがあり、原則として不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定二項(その他の取引拒絶)又は一二項)。

なお、メーカーが従来から直接取引している流通業者に対して、安売りを行うことを理由・・・に出荷停止を行うことも、これによって当該商品の価格が維持されるおそれがあり、原則として不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定二項)。」

とされており、これも(違法型ではなく)不当型と整理されている(注釈独占禁止法361頁)のですが、ここでは被拒絶者の「通常の事業活動が困難となるおそれ」に全く言及されていないのと統一感が無いように思われます。

それに、そもそも論ですが、不当型について際限なく取引拒絶の成立を認めると、達成すべきゴールが不公正な取引方法のいずれにも該当しなさそうな場合でも、手段として誰かに対する取引拒絶(既存取引の打ち切りと新規取引拒絶の両方を含む)が認定できれば、常に少なくとも取引拒絶では違法になることになり、本気でそういう執行をすると、

「私的独占崩れの取引拒絶」

とか、

「再販売価格拘束崩れの取引拒絶」

といったものが、うようよと出てこないか心配になります。

もっといえば、ガイドラインでは違法型に整理されている排他条件付取引の実効確保のための取引拒絶(第1部第3-2①)についても、不当型と整理したうえで、

「排他条件付取引崩れの取引拒絶」?

みたいなのが出てくるかもしれませんし、もっと限界があいまいな、

「拘束条件付取引崩れの取引拒絶」??

みたいなものが、不当型の名の下に違法とされないかも心配になってきます。

つまり、不当型の場合、

「○○崩れの取引拒絶」

の「○○」のところは、もともと「崩れ」なので、ゴールの行為は極論すれば何でもよくなってしまうのです。

というわけで、不当型は、今のガイドラインのままでは広すぎると思います。

公取委の立場からすれば、だからこそ、被拒絶者の「通常の事業活動が困難となるおそれ」で絞ったということかもしれませんが、ガイドライン全体で統一されていないのは上述のとおりですし、なぜ「通常の」なのか、なぜ「被拒絶者の」事業なのか(競争者の事業ではだめなのか)、よくわかりません。

例えば②③などは私的独占が成立するような場合でもないのに拒絶の部分だけとらえて取引拒絶というのはいかにもバランスが悪いように思えます。そういう行為は本来正々堂々と私的独占で行くべきでしょう。

第2部第2-4(4)(安売り業者への販売禁止)の例については、取引拒絶ではなく、再販売価格拘束の「拘束」に該当するかどうかで処理すべきだと思います。

こういうこと1つを考えても、やはり違法型も不当型も、ゴールとなっている行為類型一本で処理すべきという議論に説得力があるように思われます。

なので結論としては、違法型はゴールとなる行為類型として処理し、不当型はなくすべきだと思います(ゴールが「不当」に過ぎないので、法的にはゴールがないという整理)。

そうでないと、

包括契約という契約を用いた場合には競争者が排除されることとか、競争の実質的制限とか、私的独占の要件を満たしてはじめて独禁法上違法になるのに(JASRAC事件)、

他者排除の目的で取引拒絶を行った場合には、ゴールの競争の実質的制限や、ゴールの公正競争阻害性を認定することなく、ゴールが不当な目的だというだけで、手段としての取引拒絶が、(本来取引の自由と緊張関係にあるので取り締まりには慎重であるべきであるにもかかわらず!)単独で不公正な取引方法になってしまう、

ということになり、取引の自由と緊張関係にある取引拒絶のほうが、むしろ容易に違法になってしまう、というとんでもないことになってしまいます。

実は実務でそういう不都合が表立って生じていないのは、結局、「不当な目的の達成手段」は手段自体が違法となる、という看板を掲げながら、ゴールの反競争性を見据えて取り締まりをしているからです(なので、ゴールが再販の場合には容易に摘発される。平成13年7月27日松下電器産業事件公取委勧告審決)。

しかし、そういう偽りの看板なのであれば、下げてしまった方がよいのではないでしょうか。

他者排除の手段には、包括契約(→私的独占)から、競争者のせり場を壁で囲むこと(→取引妨害)、誹謗中傷(→不法行為)、ライバル工場の爆破(!)まで、いろいろあり得るわけです。

たまたま単独の取引拒絶が一般指定で指定されているというだけで、手段としての単独の取引拒絶だけが他の手段よりも違法になりやすいというのは、合理的な説明ができないと思います。

ちなみに立案担当者解説である山田他著『流通・取引慣行に関する独占禁止法ガイドライン』(平成3年・商事法務研究会)p75では、

事例①は独禁法に違反「する」のに対して、事例②③は違反する「おそれがある」と整理されていますが、ガイドラインの文言に根拠がなく、無視するほかありません。

さらに、「通常の事業活動が困難になるおそれがある」の意味については、

「その事業者の事業活動が困難になるおそれがある程度に至っている必要はなく、他に取引先があるとしても取引条件、必要数量の確保等の面で『通常の事業活動』が困難となる程度に至っていればよい。」

と解説されていますが、ガイドラインの文言でそのように理解できるのか疑問ですし、「通常」かそうでないかの区別も難しいし、そもそも不当型ではなぜ「他に取引先があるとしても取引条件、必要数量の確保等の面で『通常の事業活動』が困難となる程度に至っていればよい。」ということになるのか、理論的根拠が明らかではありません。

こういう解説を見ると、不当型が際限なく広がるのではないか、という懸念が裏付けられているような気さえします。

2014年5月 7日 (水)

平成25年改正の意見聴取手続における証拠の閲覧謄写

平成25年改正で意見聴取手続における証拠の閲覧謄写に関する規定が設けられました(改正法52条)。

改正法52条

「当事者は、

第五十条第一項の規定による通知があつた時から

意見聴取が終結する時までの間、

公正取引委員会に対し、

当該意見聴取に係る事件について公正取引委員会の認定した事実を立証する証拠の閲覧又は謄写

(謄写については、当該証拠のうち、

当該当事者若しくはその従業員が提出したもの

又は

当該当事者若しくはその従業員の供述を録取したもの

として公正取引委員会規則で定めるもの

の謄写に限る。以下この条において同じ。)

を求めることができる。

この場合において、公正取引委員会は、第三者の利益を害するおそれがあるときその他正当な理由があるときでなければ、その閲覧又は謄写を拒むことができない。」

「2 前項の規定は、当事者が、意見聴取の進行に応じて必要となつた証拠の閲覧又は謄写を更に求めることを妨げない。」

「3 公正取引委員会は、前二項の閲覧又は謄写について日時及び場所を指定することができる。」

ただし、その意味合いについては、今一つよくわからないところがあります。

つまり、現在でも、証拠の閲覧謄写については以下のような規定が審査規則にあるのです。

審査規則18条(提出命令の対象物件についての閲覧及び謄写)

「法第四十七条第一項第三号の規定により帳簿書類その他の物件の提出を命じられた者は、当該物件を閲覧し、又は謄写することができる。ただし、事件の審査に特に支障を生ずることとなる場合にはこの限りではない。」

「2 前項の規定による閲覧又は謄写をさせる場合、当該物件の提出を命じられた者の意見を斟酌して、日時、場所及び方法を指定するものとする。」

そこで両者の違いを比べると、まず、閲覧謄写の時期については、

現行規則18条では、提出命令後であること以外には(日時場所は指定されるものの)とくに制限がないのに対して、

改正法52条では、意見聴取手続の通知があったときから意見聴取が終結するまでの間に限定されています。

ですので、改正法が施行された後も、現行規則18条の提出物件の閲覧謄写制度は残るものと思われます。(現行規則でも、閲覧謄写ではありませんが、証拠の説明という制度が規則25条にあるわけですし。)

といいますか、残らないと困ります。というのは、改正法52条の証拠閲覧謄写だけだと、公取委があらかた排除措置命令の内容を固めた後にはじめて見ることになり、反論の準備のためには遅すぎるからです。

次に、閲覧謄写の対象については、

現行規則18条の提出物件の閲覧謄写では、自社が提出命令を受けて提出した物件が対象であるのに対して、

改正法52条の閲覧謄写制度では、公取委が認定した事実を立証する証拠を閲覧できる(謄写は自社および自社従業員が提出したものに限る)

とされています。

改正法52条では、少なくとも閲覧については、他社が提出した証拠も含まれることになっており、現行法の提出物件の閲覧謄写よりはずいぶんと広がっているといえます。

しかし、これも現行規則25条の証拠説明の制度とどれだけ違うのかというとよくわからないところがあります。

というのは、現行規則25条の証拠説明の制度でも、たんに「説明」とはいっても、例えば他社から提出された供述書であれば、公取委の認定に用いられた部分を読み上げることにより説明しているので、改正法52条で(秘密部分を黒塗りにして)閲覧するのとどれだけ違うのか、あまり違わないのではないか、と思えてくるわけです。

ただ、改正法52条の閲覧謄写は、現行規則25条の証拠説明の制度が、規則から法律に、また、説明から閲覧謄写に、という2重の意味で格上げになったという点で、当事者の保護を一定程度厚くした、とはいえそうです。

以上まとめておくと、

【改正前に使える制度】

①提出物件の閲覧謄写(審査規則18条)

対象:自社が提出命令で提出した物件、

時期:提出命令後いつでも、

できること:閲覧謄写

②証拠の説明(審査規則25条)

対象:公取委が認定した事実を基礎づける証拠

時期:排除措置命令の事前通知後(排除措置命令まで)、

できること:公取委の説明を聞く、

【改正後に使える制度】

①提出物件の閲覧謄写(審査規則18条)→たぶん

対象:自社が提出命令で提出した物件、

時期:提出命令後いつでも、

できること:閲覧謄写

②意見聴取手続のための証拠の閲覧謄写(改正法52条)

対象:公取委が認定した事実を立証する証拠

時期:意見聴取手続の通知後、同手続終結まで、

できること:閲覧謄写(ただし謄写は自社および自社従業員のものに限る)

ということになります。

ところで、改正前の審査規則25条の証拠説明の制度では、

「当該説明を受ける者に係る委員会の認定した事実を基礎づけるために必要な証拠」

とされているのに対して、改正法52条の閲覧謄写の制度では、

「当該意見聴取に係る事件について公正取引委員会の認定した事実を立証する証拠」

とされており、微妙に異なります。

あえて違いに着目すれば、

現行審査規則25条では、「事実を基礎づけるために必要」な証拠さえ説明すればよく、「必要」な以上の証拠(例えば、立証に必要とまでは言えないが有益な証拠)を説明する必要はないのに対して(実際、最低限の証拠しか説明されていないような気がします)、

改正法52条では、「事実を立証する」証拠なので、事実を立証する証拠であればすべからく説明すべき、

という解釈もあり得そうですが、実際に公取委が積極的な証拠をすべて閲覧謄写させるというのはちょっと考えにくいので、実際には両者あまり変わらないのではないかと思います。

いずれにせよ、公取委が認定した事実を覆すような証拠の閲覧謄写は、改正法52条でも認められていないようです。

・・・というのがオーソドックスな(文言に忠実な)解釈かと思いますが、そもそも事実認定というのは積極・消極すべての証拠を積み上げてなされるもののはずなので、積極的な証拠だけを閲覧謄写の対象にするというのは、バランスが悪いような気がします。

極端な話、公取委は積極・消極のすべての証拠を斟酌して、微妙だけれどカルテルは認定できる、として排除措置命令を出そうとしているのに、積極証拠だけの開示を受けた当事者は、他社も含めて真っ黒で、それだけで争う意欲を失ってしまう、ということになりはしないでしょうか。

「事実を立証する」証拠という文言も、事実が有るか無いかを立証するというだけでなく、事実が存在しそうな程度(確からしさ)を立証するものも含むなどと解すれば、消極証拠も含まれるという解釈も可能ではないでしょうか。

実質論として、「事実を立証する」というのをあまり厳格に解すると、例えば、消極証拠を弾劾するような証拠は、事実を認定するのに積極的に働く証拠なので開示されてもよさそうなのに、弾劾される消極証拠が提出されないと意味をなさない、など、何かと不都合なことがあるように思われます。

前々から思っていたのですが、公取には、自分は訴追者なのだから積極証拠さえ集めればいい、反論があるなら当事者が消極証拠を出せばいい、という発想があるように思われます。

(一方的な調書を取られるときなんか、「反論は別途だせばいいでしょう。」というようなことを公取委の方から言われます。)

確かに、米国の司法省のような、裁判所の判決を経ないと執行できない機関ならこのような当事者主義的な理屈は通るかもしれません。

しかし、公取委は、一方的な意思決定で、強制力のある命令を出せる行政機関です。

しかも、行政機関の行為には、公定力(たとえ違法であっても、無効と認められる場合でない限り、権限ある行政庁または裁判所がそれを取り消すまでは、一応法効果のあるものとして通用し、相手方はもちろん他の行政庁、裁判所、その他の第三者もその効果を承認しなければならないという効力。三省堂『コンサイス法律学用語辞典』)があるとされています。

そういうことから考えると、公取委は自分に有利な証拠だけ集めていればいいというのは、間違った発想だと思います。

こういう発想は、民事訴訟法の当事者主義を勘違いしているのではないでしょうか。

平成17年改正で事前審判制度から事後審判制度になり、今回の改正でさらにいきなり命令を出せることになったことからすると、自分に有利な証拠だけを集めればいい、あるいは、自分に有利な証拠だけを開示すればいい、というのは、ますます間違った発想であるように思われます。

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