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2014年4月

2014年4月30日 (水)

秋田書店事件の担当官解説の疑問

秋田書店が雑誌の懸賞の当選者を実際よりも多く表示していた(表示していたのよりも少ない数しか当選者がいなかった)という景表法違反の事件がありましたが、その担当官解説が公正取引762号65頁に載っています。

しかし、この担当官解説は、結論はいいのですが、理由づけがちょっとおかしいですね。

同解説は、

「雑誌などにおける懸賞企画の案内は、雑誌の誌面上に記載されることが多く、特に雑誌が紐や結束バンドなどで閉じられて販売されている場合においては、一般消費者は雑誌を購入し、内部を確認するまでは懸賞企画の内容を把握することができない。

そのため・・・顧客を誘引するための手段といえるかが議論されることがある。」

と問題設定をした上で、

「・・・顧客を誘引するための手段には、今まで取引のない者を新たに取引するよう誘引することだけではなく、すでに取引関係がある者に対し、取引の増大・継続や再度の取引を誘引することも含まれるとされている・・・。」

という、運用基準第1項(2)の一般論を述べています。

ここまではいいのですが問題はその次で、

「本件のような雑誌の誌面上で案内される懸賞企画についてみれば、応募した懸賞企画の当選の有無を確認するために、当選者が発表される号を購入するという契機(取引の継続や再度の取引の誘引)になる。

そのため、一般消費者が購入前に目にすることができない懸賞企画の案内であっても、顧客を誘引するための手段であると考えられる。」

とされているところです。当選発表号の購入を誘引するという構成ですね。

確かに、懸賞に応募して自分が当選したかどうかを確認するために次の号を買う人も一定程度はいるでしょう。

なので、そういう人たちが「再度の取引」に誘引されているというのは、間違いではありません。

しかし、雑誌の懸賞で誘引されるのは、そういう人たちだけではないでしょう。

そもそも、懸賞を企画する雑誌社が、自分が当選したかどうかを確認するために次の号を読者が買うことを当て込んで懸賞を企画しているとは思えません。

では、なぜ雑誌社が懸賞を企画するのでしょうか。

担当官解説のように、当選者掲載号を買わせるというのも1つにはありますが、もう1つには、まさにその懸賞をエサにして、懸賞掲載号を買わせる、ということがあり得ます。

(ちなみに、雑誌を買わなくても懸賞には応募できたのかもしれませんが、買った方が申し込み先が書いてあって応募に便利、というのでも、誘引として十分です。)

しかし、こういう法律構成をすると、雑誌の表紙や電車の吊り広告に懸賞の告知(しかも、秋田書店で問題となった当選者数なども含め)をしていないと、景表法違反に問いにくそうです。

また、問題の本質を突いていないという点では、担当官解説と五十歩百歩のような気がします。

そこでもう1つ考えられる(こちらのほうがもっともらしい)のは、魅力的な懸賞を企画することでその雑誌の魅力を一般的に(=当該懸賞掲載号に限らず)上げる、ということが考えられます。

こっちのほうが、懸賞の本質を突いているのではないでしょうか。

雑誌を買う消費者にはいろいろなパターンがあり得て、雑誌を買ったときには懸賞の存在をしらなくても、ページを開いたら、

「まあ、素敵な懸賞!」

  ↓

「応募してみようかしら。」

  ↓

(次号を手に取りながら)「当たったかしら。」

というパターンでもいいですし(担当官解説の立場)、懸賞掲載号掲載の懸賞や電車の吊り広告をみて、

「あら、懸賞やってるのね。」

  ↓

「でも、今葉書がないから今回は応募やめとこ(あるいは、懸賞掲載号を買うのやめとこ)。」

  ↓

「でもこの雑誌の懸賞は要チェックね!」

というのでもいいわけです。

これでも十分、「再度の取引の誘引」といえると思います。

(なお念のため、ですが、誘引される取引(=将来の一般的な雑誌購入)と、内容・取引条件に虚偽の表示がある取引(=懸賞掲載号の取引)とは、別の取引でもかまいません。最初の取引でうそをついて偽りのお得感を持たせて将来も継続的に買わせる、というのも明らかに不当表示です。)

まあ執行する消費者庁の立場からすれば、物の本質を付いているかどうかはどうでもいいことで、不当表示の要件を満たしていることが大事(だから手堅く、確実に「誘引」が認定できる構成で行った)ということかもしれませんが、法律論としてはどうかと思います。

しかも担当官解説には実害がないわけでもなく、当選掲載号の購入を誘引するという法律構成だと、発表はウェブで行ったり、「当選者の発表は景品の発送をもって代えさせていただきます。」という場合には、誘引がないのではないか、という要らぬ誤解を生みかねません。

それから、もう1つ押さえておきたいのは、不当表示というのは、需要者が当該表示があったからこそ買った、というような条件関係は必要ない、ということです。

担当官解説は、懸賞の当選を確認するために買った(≒1人しか当選しないとわかってたらそもそも懸賞に応募しなかったし、当選を確認するために当選発表号を買うこともなかった)という発想が裏に透けて見えますが、そこまで厳格に考える必要はありません。

そういえば消費者庁の排除命令は、

「対象商品の取引条件について、実際のものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認されるものであり・・・」

ということで有利誤認になっていますが、むしろ雑誌という商品の中身に関することなので、優良誤認ではないですかね。

確かに懸賞の当選条件は実際のものと表示が違っていたわけですが、だからと言って、雑誌という商品の取引条件が実際と違っていたわけではないでしょう。

これがもし、宝くじの当選者数を偽っていた、というのなら、取引条件の虚偽表示(有利誤認)なんでしょうね。

でも本件では、対象商品は雑誌なのですから、宝くじとは違うと思います。

優良誤認は、よくよく考えると有利誤認に含まれる(「この内容でこの価格ならお得だ」というように、お得感は商品内容と取引条件とを一体として判断される)と私は考えているので、両者の区別にたいした意味はないと思いますが、本件も優良誤認と有利誤認の区別は微妙だということを示す一例だといえそうです。

2014年4月10日 (木)

事業譲受の届出の「譲受け後の総資産」の不思議

富士通がニフティを売却するみたいですね。ココログは、大丈夫でしょうか。。。

さて、事業譲受けの届出書の記載事項に、「譲受け後の総資産」というのがあります。

つまり、事業譲渡を受けた後の譲受会社の総資産を書く、ということです。

例えば、譲受会社の総資産が100億円、譲渡対象資産が10億円だとすると、110億円、ということになりそうです。

しかし、よく考えてみると、この記載事項は、今一つ意味が分かりません。

というのは、記載要領によると、この部分は、

「事業の全部の譲受け又は事業上の固定資産の全部の譲受けの場合は,譲受会社及び譲渡会社の確定した最終の貸借対照表による総資産の金額をそれぞれ合計した額を,

事業の重要部分の譲受け又は事業上の固定資産の重要部分の譲受けの場合は,譲受の譲受会社の総資産に当該部分の総資産の金額を合計した額を記載してください。」

となっているので、よくある後段の場合を例に前記の数字をあてはめて考えると、

譲受前の譲受会社の総資産 = 100億円

当該部分の総資産 = 10億円

で、確かに、110億円になります。

しかし言葉の本来の意味としては、「譲受け後の総資産」というのは、「譲受け後」の譲受会社の総資産のことを指すと言わざるを得ず、この項目は看板と中身が違っているようにみえます。

つまり、事業譲渡には当然お金が出ていくので、10億円の資産を15億円で買えば、譲受け後の譲受会社の資産は、

譲受前からの資産+譲受資産-譲渡対価

=100億円+10億円-15億円

=95億円

というのが、「譲受け後の総資産」の言葉の正しい意味だと思います。

競争へのインパクトのイメージをつかむためなら譲受前の譲受会社の資産と、譲渡対象資産の価値をそれぞれ書けば足りるのであって、よく意味の分からない足し算をする必要はないのではないでしょうか。

現在の届出書の記載事項は競争の評価とあまり関係ない事項が多いので改訂すべきですが、ついでのこの部分の記載も見直したらいいと思います。

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