再販売価格拘束における「拘束」と公正競争阻害性の関係
再販売価格拘束の排除措置命令においては、通常、違反者の商品が市場で人気があったとか、指名買いする消費者もいたとか、小売店は品揃えの観点から特に当該商品を必要としていたとか、違反者の市場シェアが高いとかいった事実が認定されます。
これらの事実の持つ意味合いについては、従来、「拘束」が実効性をもって行われているか、という、「拘束」の要素として位置付ける文献が多かったような気がします(例えば『注釈独占禁止法』463頁)。
私は、これは常々、拘束の問題ではなくて、公正競争阻害性の問題ではないかと考えていましたが、菅久他『独占禁止法』(以下「赤本」)148頁では、私の考えと同様、これらを公正競争阻害性の問題と位置付けています。
「拘束」というのは相手を縛ることなので、市場シェアが高いとかは、間接的には関係あるかもしれませんが、やはり日本語の問題として、直接的には関係ないと思います。
その意味で、赤本でまっとうな解釈が示されたことは、大変心強い限りです。
また、赤本p148では、
「このような〔和光堂事件の〕裁判所の判断は、拘束の対象となった商品がブランド内市場を形成しており、・・・」
と、単一ブランドからなる市場を想定しているように読め、白石先生などのお考えに近く、私も、準備書面で「ブランド内市場」という言葉を使うのは抵抗がありますが(笑)、心情的には強いシンパシーを感じます。
指名買い等の事実を拘束の要件であるかのように論じる『注釈』のような立場は、拘束は合意でも、再販を破った時の不利益でも、守った時の利益でも、なんでもいい、といっている流通取引慣行ガイドラインの立場とも整合的でないと思います。
例えば、多額のリベートを提供することによって再販価格拘束をして値引きを禁じたために売上が10分の1に落ちた、というようなケースを考えると、拘束はあるけれど公正競争阻害性はない(と言い切れるかはさておき)、と整理するほうがすっきりしていると思います。
ただし、赤本の記述にも気になるところがあって、p147の公正競争阻害性の説明で、
「再販売価格の拘束が実効性をもって行われると、取引相手である販売業者間の競争は必然的に制限される。」
とされています。
「必然的に」というのは、言い過ぎではないでしょうか。
競争が必然的制限されるというと、他に救いようがなくなり、上述の、売上が10分の1に落ちたような場合まで違法とせざるをえないような気がします。
そういう場合も違法でいいんだという考えも一つの割り切りでしょうが、私は、そういう場合は競合品への乗り換えが十分に起こっているのだから、公正競争阻害性がないといってもいい(少なくとも、ないといえる場合もある)のではないかと考えています。
それと、これは言葉の問題かもしれませんが、「必然的に」といってしまうと、例えば、
「テリトリー制が実効性をもって行われると、取引相手である販売業者間の競争は必然的に制限される。」
とか、
「一店一帳合制が実効性をもって行われると、取引相手である販売業者間の競争は必然的に制限される。」
とか、
「横流し禁止が実効性をもって行われると、取引相手である販売業者間の競争は必然的に制限される。」
より一般的には、
「販売業者の販売行為に対する拘束が実効性をもって行われると、取引相手である販売業者間の競争は必然的に制限される。」
という理屈もあり得ることにはならないのでしょうか。
あるいは、この部分には実は深い意味はなくって、要するに、
「販売事業者の競争制限が実効性をもって行われると、取引相手である販売業者間の競争は必然的に制限される。」
という、たんなる同義反復だけ、いわば言葉の綾、なのかもしれません。
つまり、赤本の立場は、販売業者間の競争が必然的に制限されても、公正競争阻害性がないといえる場合があることを否定するわけではない、と読むわけです(たぶん、それが正しい読み方だと思います)。
そうしないと、再販が原則違法ではなく、当然違法になってしまいます。
ただ、「必然的に」という背景には、「ブランド内市場」を想定していることがある、あるいは、再販が行われるのは他のブランドへの乗り換えが起こらない場合なのだ、という事実認識があるような気がします。
そうだとすると、これはこれで首尾一貫した説明の仕方かもしれません。
あともう一つ、p148で和光堂最高裁判決を引用したあと、
「・・・として、〔再販が〕原則違法であることを明確にした。」
というのも、(結論には反対しませんが)言い過ぎではないでしょうか。
というのは、引用部分は、ブランド間競争が促進されても自由なブランド内競争が行われた場合と経済的に同じとは言えない、といっているだけのように見えるからです。
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