2013年独禁法改正

2014年5月 7日 (水)

平成25年改正の意見聴取手続における証拠の閲覧謄写

平成25年改正で意見聴取手続における証拠の閲覧謄写に関する規定が設けられました(改正法52条)。

改正法52条

「当事者は、

第五十条第一項の規定による通知があつた時から

意見聴取が終結する時までの間、

公正取引委員会に対し、

当該意見聴取に係る事件について公正取引委員会の認定した事実を立証する証拠の閲覧又は謄写

(謄写については、当該証拠のうち、

当該当事者若しくはその従業員が提出したもの

又は

当該当事者若しくはその従業員の供述を録取したもの

として公正取引委員会規則で定めるもの

の謄写に限る。以下この条において同じ。)

を求めることができる。

この場合において、公正取引委員会は、第三者の利益を害するおそれがあるときその他正当な理由があるときでなければ、その閲覧又は謄写を拒むことができない。」

「2 前項の規定は、当事者が、意見聴取の進行に応じて必要となつた証拠の閲覧又は謄写を更に求めることを妨げない。」

「3 公正取引委員会は、前二項の閲覧又は謄写について日時及び場所を指定することができる。」

ただし、その意味合いについては、今一つよくわからないところがあります。

つまり、現在でも、証拠の閲覧謄写については以下のような規定が審査規則にあるのです。

審査規則18条(提出命令の対象物件についての閲覧及び謄写)

「法第四十七条第一項第三号の規定により帳簿書類その他の物件の提出を命じられた者は、当該物件を閲覧し、又は謄写することができる。ただし、事件の審査に特に支障を生ずることとなる場合にはこの限りではない。」

「2 前項の規定による閲覧又は謄写をさせる場合、当該物件の提出を命じられた者の意見を斟酌して、日時、場所及び方法を指定するものとする。」

そこで両者の違いを比べると、まず、閲覧謄写の時期については、

現行規則18条では、提出命令後であること以外には(日時場所は指定されるものの)とくに制限がないのに対して、

改正法52条では、意見聴取手続の通知があったときから意見聴取が終結するまでの間に限定されています。

ですので、改正法が施行された後も、現行規則18条の提出物件の閲覧謄写制度は残るものと思われます。(現行規則でも、閲覧謄写ではありませんが、証拠の説明という制度が規則25条にあるわけですし。)

といいますか、残らないと困ります。というのは、改正法52条の証拠閲覧謄写だけだと、公取委があらかた排除措置命令の内容を固めた後にはじめて見ることになり、反論の準備のためには遅すぎるからです。

次に、閲覧謄写の対象については、

現行規則18条の提出物件の閲覧謄写では、自社が提出命令を受けて提出した物件が対象であるのに対して、

改正法52条の閲覧謄写制度では、公取委が認定した事実を立証する証拠を閲覧できる(謄写は自社および自社従業員が提出したものに限る)

とされています。

改正法52条では、少なくとも閲覧については、他社が提出した証拠も含まれることになっており、現行法の提出物件の閲覧謄写よりはずいぶんと広がっているといえます。

しかし、これも現行規則25条の証拠説明の制度とどれだけ違うのかというとよくわからないところがあります。

というのは、現行規則25条の証拠説明の制度でも、たんに「説明」とはいっても、例えば他社から提出された供述書であれば、公取委の認定に用いられた部分を読み上げることにより説明しているので、改正法52条で(秘密部分を黒塗りにして)閲覧するのとどれだけ違うのか、あまり違わないのではないか、と思えてくるわけです。

ただ、改正法52条の閲覧謄写は、現行規則25条の証拠説明の制度が、規則から法律に、また、説明から閲覧謄写に、という2重の意味で格上げになったという点で、当事者の保護を一定程度厚くした、とはいえそうです。

以上まとめておくと、

【改正前に使える制度】

①提出物件の閲覧謄写(審査規則18条)

対象:自社が提出命令で提出した物件、

時期:提出命令後いつでも、

できること:閲覧謄写

②証拠の説明(審査規則25条)

対象:公取委が認定した事実を基礎づける証拠

時期:排除措置命令の事前通知後(排除措置命令まで)、

できること:公取委の説明を聞く、

【改正後に使える制度】

①提出物件の閲覧謄写(審査規則18条)→たぶん

対象:自社が提出命令で提出した物件、

時期:提出命令後いつでも、

できること:閲覧謄写

②意見聴取手続のための証拠の閲覧謄写(改正法52条)

対象:公取委が認定した事実を立証する証拠

時期:意見聴取手続の通知後、同手続終結まで、

できること:閲覧謄写(ただし謄写は自社および自社従業員のものに限る)

ということになります。

ところで、改正前の審査規則25条の証拠説明の制度では、

「当該説明を受ける者に係る委員会の認定した事実を基礎づけるために必要な証拠」

とされているのに対して、改正法52条の閲覧謄写の制度では、

「当該意見聴取に係る事件について公正取引委員会の認定した事実を立証する証拠」

とされており、微妙に異なります。

あえて違いに着目すれば、

現行審査規則25条では、「事実を基礎づけるために必要」な証拠さえ説明すればよく、「必要」な以上の証拠(例えば、立証に必要とまでは言えないが有益な証拠)を説明する必要はないのに対して(実際、最低限の証拠しか説明されていないような気がします)、

改正法52条では、「事実を立証する」証拠なので、事実を立証する証拠であればすべからく説明すべき、

という解釈もあり得そうですが、実際に公取委が積極的な証拠をすべて閲覧謄写させるというのはちょっと考えにくいので、実際には両者あまり変わらないのではないかと思います。

いずれにせよ、公取委が認定した事実を覆すような証拠の閲覧謄写は、改正法52条でも認められていないようです。

・・・というのがオーソドックスな(文言に忠実な)解釈かと思いますが、そもそも事実認定というのは積極・消極すべての証拠を積み上げてなされるもののはずなので、積極的な証拠だけを閲覧謄写の対象にするというのは、バランスが悪いような気がします。

極端な話、公取委は積極・消極のすべての証拠を斟酌して、微妙だけれどカルテルは認定できる、として排除措置命令を出そうとしているのに、積極証拠だけの開示を受けた当事者は、他社も含めて真っ黒で、それだけで争う意欲を失ってしまう、ということになりはしないでしょうか。

「事実を立証する」証拠という文言も、事実が有るか無いかを立証するというだけでなく、事実が存在しそうな程度(確からしさ)を立証するものも含むなどと解すれば、消極証拠も含まれるという解釈も可能ではないでしょうか。

実質論として、「事実を立証する」というのをあまり厳格に解すると、例えば、消極証拠を弾劾するような証拠は、事実を認定するのに積極的に働く証拠なので開示されてもよさそうなのに、弾劾される消極証拠が提出されないと意味をなさない、など、何かと不都合なことがあるように思われます。

前々から思っていたのですが、公取には、自分は訴追者なのだから積極証拠さえ集めればいい、反論があるなら当事者が消極証拠を出せばいい、という発想があるように思われます。

(一方的な調書を取られるときなんか、「反論は別途だせばいいでしょう。」というようなことを公取委の方から言われます。)

確かに、米国の司法省のような、裁判所の判決を経ないと執行できない機関ならこのような当事者主義的な理屈は通るかもしれません。

しかし、公取委は、一方的な意思決定で、強制力のある命令を出せる行政機関です。

しかも、行政機関の行為には、公定力(たとえ違法であっても、無効と認められる場合でない限り、権限ある行政庁または裁判所がそれを取り消すまでは、一応法効果のあるものとして通用し、相手方はもちろん他の行政庁、裁判所、その他の第三者もその効果を承認しなければならないという効力。三省堂『コンサイス法律学用語辞典』)があるとされています。

そういうことから考えると、公取委は自分に有利な証拠だけ集めていればいいというのは、間違った発想だと思います。

こういう発想は、民事訴訟法の当事者主義を勘違いしているのではないでしょうか。

平成17年改正で事前審判制度から事後審判制度になり、今回の改正でさらにいきなり命令を出せることになったことからすると、自分に有利な証拠だけを集めればいい、あるいは、自分に有利な証拠だけを開示すればいい、というのは、ますます間違った発想であるように思われます。