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2013年12月

2013年12月26日 (木)

大リーグの新ポスティング・システムの独占禁止法上の問題

たまには軽い話題を。

楽天の田中将大投手が「新ポスティング制度」を使って大リーグに移籍することが話題になっています。

MLB日本公式サイト」の説明では、新ポスティング制度というのは次のようなものです。

「新システムでは、入札の代わりに、選手の属するNPB球団があらかじめ2000万ドルを上限とする譲渡金(リリース・フィー)を設定する。告知申請は11月1日から翌年2月1日まで。これに対し、その金額を支払う意志のあるMLB球団は、それが何球団であっても、告知の翌日から30日間、選手と交渉することができる。」

要するに、大リーグ球団側が楽天に支払う譲渡金が2000万ドルに制限されるということのようです。

しかし、これは独禁法上のカルテルです。

つまり、「田中将大」という商品を競売にかけているときに、買手である大リーグ側が、「これ以上高い金額で入札しないようにしよう」と合意しているわけです。

おそらくカルテルに該当しない理由としては、売手である日本球団側が同意しているから、ということなのでしょうが、一般論としていえば、取引の相手方が同意していれば当然にカルテルが違法でなくなるわけではない、という点には注意が必要です。

例えば、部品メーカーがカルテルをした場合、部品を購入する完成品メーカーは、もし値上がり分を消費者に転嫁できるのであれば、カルテルに反対しないかもしれません。

でもこの場合、完成品メーカーが同意しているからといって当然に部品メーカーのカルテルが認められるわけではありません。

新ポスティングシステムも、大リーグ側が無理やり日本側に押し付けたのなら、なおさらです。

本件に特殊な事情があるとすれば、売手側である日本のプロ野球側も共同して決めているわけで、いわば「お互い様」ということはいえます。

このように、売手側も買手側も共同行為をしているときに独禁法違反になるのかは、理屈の上では興味深い問題です。

新ポスティング・システムがカルテルにあたるとして、それでも独禁法に違反しないとすれば、競争法では実現できない別の利益を実現するのだ、とか主張するのでしょう(本件ではかなり怪しいと思いますが。)

ちなみに米国では、アメリカンニードル事件という有名な事件で、グッズの販売において大リーグは各チームが事業者なのではなくてリーグ全体が事業者だという主張がなされましたが、最高裁は否定しました。日本の独禁法上の評価としても同じではないかという気がします。

(「お金を取って試合を見せる」というサービスではリーグ全体が事業者だとはいえても、そのインプット(選手)の購入市場では各球団が事業者だというのが実態に合っているような気がします。ドラフト制度は、各チームの戦力を均衡させてより魅力的な試合を見せるための制度として、独禁法上当然認められる、ということになるのでしょう。)

さらに、日本の独禁法はカルテル参加者が外国にいても適用されますので(域外適用)、大リーグには日本の独禁法の効力は及ばないとか、米国反トラスト法では選手の年俸や移籍金には上限を設けてもいいことになっている(かどうか知りませんが)という主張は、主張自体失当です。

新ポスティングシステムは日本の球団側も同意しているし、本件を公取委が調査するということはおよそ考えられないですが、このシステムを受け入れるかどうか交渉しているときに日本側が、「これは独禁法違反だから受け入れられない」と言ったら、ひょっとしたら違った違った制度になっていたかもしれません。(といいますか、もし違法なら今からでも無効を主張できてしかるべきですが。)

ともあれ、私も楽天のリーグ優勝と日本一は久しぶりにプロ野球をテレビで見て感動しましたので、田中選手にはぜひ、望みをかなえて大リーグで活躍していただきたいと思います。

2013年12月19日 (木)

「近畿日本鉄道株式会社、株式会社阪急阪神ホテルズ及び株式会社阪神ホテルシステムズに対する景品表示法に基づく措置命令について」について

一連の食品偽装事件について措置命令の第一弾が12月19日付で出ました

以前このブログでも取り上げた牛脂注入肉に関係する部分を抜き出すと、おおよそ以下のとおりです。

① 近鉄は、本件料理を一般消費者に提供するに当たり、・・・ホテル内に備え置いたチラシ(別添写し)に「牛ロース肉のステーキ」と記載するなど、・・・あたかも、当該記載された料理に牛の生肉の切り身を使用しているかのように示す表示をしていた。

実際には、別表「記載」欄記載の料理にあっては、いずれも生鮮食品に該当しない牛脂その他の添加物を注入した加工食肉製品を使用していた。

② 「ビーフステーキ フライドポテト添」と記載することにより、あたかも、記載された料理に牛の生肉の切り身を使用しているかのように示す表示

生鮮食品に該当しない牛脂その他の添加物を注入した加工食肉製品を使用していた。

③ 「やわらかビーフソテー 赤ワインソース」と記載することにより、あたかも、記載された料理に牛の生肉の切り身を使用しているかのように示す表示

生鮮食品に該当しない牛脂その他の添加物を注入した加工食肉製品を使用していた。

④ 「柔らか牛肉の鉄板焼き ナムルとコチジャンライス添え」と記載することにより、あたかも、記載された料理に牛の生肉の切り身を使用しているかのように示す表示

生鮮食品に該当しない牛脂その他の添加物を注入した加工食肉製品を使用していた。

要するに、

「牛ロース肉のステーキ」、

「ビーフステーキ フライドポテト添」、

「やわらかビーフソテー 赤ワインソース」、

「柔らか牛肉の鉄板焼き ナムルとコチジャンライス添え」

などの表示は、

あたかも、記載された料理に牛の生肉の切り身を使用しているかのように示す表示

なので、優良誤認表示だ、という理屈ですね。

おおむね消費者庁のQ&Aに従った内容なので、予想通りの結論ではありますが(消費者庁のQ&A自体が法律解釈として間違っているというのは、以前このブログで書いたとおりです)、細かく見ると、Q&Aよりもさらに踏み込んでいます。

というのは、

「ステーキ」

という表示が、

「牛の生肉の切り身を使用しているかのように示す表示」

というのは、まだ見解の相違ともいえなくもないですが(それでも、焼いて出しているのに生肉も何もないような気もしますし、牛脂注入肉だって「生肉」じゃないかという気もするので、ちょっと舌足らずな感じはします)、Q&Aをさらに逸脱しているのは、

「やわらかビーフソテー 赤ワインソース」、

「柔らか牛肉の鉄板焼き ナムルとコチジャンライス添え」

です。

これって、どこが問題と消費者庁は考えたのでしょうね。

おそらく、「やわらか(柔らか)」は問題ないでしょうから(牛脂注入肉の方がむしろ柔らかい)、問題にされたのは、

「ビーフソテー」、

「牛肉の鉄板焼き」

の部分なんだろう、もっといえば、

「ビーフ」

「牛肉」

と表示すること自体が問題だ、ということなのでしょう。

牛脂注入肉は「ビーフ」、「牛肉」と表示してはいけない、という説明ですね。

しかしそうすると、「ビーフ」、「牛肉」という表示が、

あたかも、当該記載された料理に牛の生肉の切り身を使用しているかのように示す表示

であるということになりますが、消費者庁の論理は、かなり無理があると思います。

きちんと論理的に説明するなら、

あたかも、当該記載された料理に牛の生肉の切り身を、焼く前には何らの加工を施さずに使用しているかのように示す表示

とか説明するべきでしょう。

「牛の生肉の切り身」では、牛脂注入肉をはじくことができていないように思います。

ただ、以上は形式論理だけの問題に過ぎず、そもそも「ビーフ」、「牛肉」という表示では、

あたかも、当該記載された料理に牛の生肉の切り身を、焼く前には何らの加工を施さずに使用しているかのように示す表示

とすらいえないのではないか、という、より実質的な問題が残るように思われます。(「ビーフ」、「牛肉」にそこまで読み込むのは無理。あるいは、「ソテー」、「鉄板焼き」に読み込むのか?)

ともあれ、消費者庁のQ&Aでは、

「霜降りビーフステーキ」、

「さし入りビーフステーキ」

という表示がいかん、と書いてあったわけですが、いけないのは

「ステーキ」

の部分でも、ましてや

「霜降り」、「さし入り」

の部分でもなく、

「ビーフ」

の部分だった、ということですね。

これではむしろ、Q&A自体が非常に誤解を招く内容になってしまいます。

普通の人がQ&Aを見たら、「霜降り」(←一番インパクトがある部分)とか、せいぜい「ステーキ」の部分がいけない、と思うのではないでしょうか。私は(何となくですが)そう思っていました。

というのは、牛脂注入肉は見た目は立派な霜降り肉なので、天然の霜降り肉であるかのように表示するのがいかん、というように読むのが素直な読み方のように思うのです。

まさか「牛肉」がいかんとは、少なくともこのQ&Aからは読み取れないように思います。

今回の排除命令のような運用をするのであれば、はっきりと、「牛肉」、「ビーフ」と表示すること自体が、「牛脂注入肉」と明記しない限りだめなのだと書くべきでしょう(私はそもそもQ&Aに反対ですが)。

今回の排除命令では、かろうじて、「牛肉」、「ビーフ」という表現を使わなければ問題ない、という線は守られたように思います(「豪華大地の恵み膳」に牛脂注入肉が使われたような場合)。

まあこの点は、たまたま「牛肉」、「ビーフ」という表現が使われた事例が摘発されたというだけのことかもしれません。

ひっとしたら消費者庁の本音は、「牛肉」、「ビーフ」という表示がなくても、ともかく牛脂注入肉は牛脂注入肉と明記しないと使ってはいかん、というところにあるのかもしれません。

それと、命令の主文も、

「前記・・・記載の表示と同様の表示を行うことにより、当該料理及び当該商品の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示す表示をしてはならない」

という紋切り型のもので、特定の表示を消極的に禁止するのではなくて、実質的に牛脂注入肉であることを積極的に表示することを義務付けているという特殊性がまったく反映されていません。

というわけで、法律解釈としてはいろいろな意味で問題の多い命令であると思われます。

この命令についてはきちんと論文を発表させていただきたいと思いますので、ご検討いただける法律誌のみなさま、ぜひご連絡ください。

2013年12月 3日 (火)

消費税転嫁法に関する公取委FAQ

消費税転嫁法に関する「よくある質問」が公取委のホームページに掲載されています。今後も適宜アップデートされていくものと思われます。

ちなみに公取委のホームページなので、公取委が担当する転嫁拒否行為(買手が消費税の転嫁を拒むこと)に関するQ&Aのみです。消費者庁や財務省のホームページには同様のQ&Aは今のところなさそうで、各省庁の温度差が感じられて興味深いところです。

そこで公取委のQ&Aで気になる点を指摘しておきます。

まず、Q1-1では、

「Q1-1 当社は小売部門の売上高は1億円程度しかありませんが,それ以外の売上高も合わせた会社全体としては売上高が100億円以上あります。当社は「大規模小売事業者」に該当するのでしょうか。」

という質問に対して、まず、

「A 消費税転嫁対策特別措置法第2条第1項第1号に規定する「大規模小売事業者」は,

[1]一般消費者が日常使用する商品の小売業を行う者であること(小売業要件),及び

[2]公正取引委員会規則に定める規模の売上高〔注:小売業の売上高に限りません。〕又は店舗を有する事業者であること(規模要件

の両方を満たす事業者です。」

と一般論を述べています。

ここまでは良いのですが、次の、

「前事業年度における一般消費者が日常使用する商品の小売販売に係る売上高が100億円未満であっても,

販売形態,販売期間,売上規模,他の事業との関連性,総売上高に占める小売販売に係る売上高の割合等からみて,

小売販売事業がサービス業,製造業などの他の事業に付随した業務ではないと認められるときには,

小売業を行う者に該当します(小売業要件)。

その上で,前事業年度の総売上高〔注: 「小売業の売上」ではありません。〕が100億円以上ある場合(規模要件)には,「大規模小売事業者」に該当します。」

という部分は、結論はまずまず穏当ですが、「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法第二条第一項第一号の大規模小売事業者を定める規則」の文言をやや外れているように思われます。

つまり同規則では、

「(「法」)第2条第1項第1号の大規模小売事業者は、

一般消費者が日常使用する商品の小売業を行う者・・・であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。

一 前事業年度における売上高・・・が100億円以上である者

(以下省略)」

となっています。

確かに、①小売業かどうか、②売上が100億円以上か、の二本立てで判断するのは規則のとおりなのですが、規則からは、小売業の売上が100億円を超えたら常に「小売業」に該当する、という解釈は出てきません

例えば総売上が10兆円の企業の小売業売上が100億円の場合、「大規模小売事業者」に該当するのでしょうか?

上記の公取Q&Aに続く、

「貴社の場合は,総売上高が100億円以上あるものの,商品の小売販売に係る売上高は1億円程度しかないとのことですので,基本的に「大規模小売事業者」には該当しません。」

という回答とのバランスを考えると、総売上の0.1%程度しか小売売上がない上記設例(総売上10兆円、小売売上100億円)の場合は当然大規模小売事業者には該当しないとなりそうですが、そうはなっておらず、続けてQ&Aでは、

「なお,前事業年度における小売販売に係る売上高が100億円以上ある場合は,小売業を行う者に該当し(小売業要件),同時に規模要件も満たすため,「大規模小売事業者」に該当します。」

と回答されており、小売売上が100億円以上ある場合は常に小売業に該当する、とみていることがわかります。

それがよりはっきり表れているのが次のQ1-2で、そこでは、

「Q1-2 当社は,店内での食事の提供のほか,テイクアウトでの販売も行っております。当社は,小売業を行う者に該当しますか。」

という問いに対して、

「A 貴社のテイクアウトでの商品の小売販売に係る売上高が100億円以上あれば,小売業を行う者に該当し,総売上高が100億円以上あることから,「大規模小売事業者」に該当します。

他方,テイクアウトでの商品の小売販売に係る売上高が100億円未満であれば,店内での食事の提供サービスとテイクアウトでの商品の小売販売との業務の関連性や売上高の割合等をみて,小売業を行う者に該当するかどうかを個別に判断します。」

と回答されています。

要するに公取委の上記Q&Aをまとめると、

①小売業の売上だけで100億円以上なら、(総売上に対する小売の売上の割合を問わず)「大規模小売事業者」に該当する(小売業要件も規模要件も満たす)

②総売上が100億円以上だけど、小売業の売上が100億円未満なら、ケースバイケースで判断(規模要件は満たすが、小売業要件は場合による)

③総売上が100億円未満なら、「大規模小売事業者」に該当しない(規模要件を満たさない。)

ということになりそうです。

でもそれだったら、「大規模小売事業者」の定義を(店舗面積はさておき)、小売業の売上100億円以上の事業者と規則で定義したほうが、よほどすっきりしたのではないでしょうか。

そうしても、転嫁法2条1号の文言からは外れていないと思います。

総売上が100億円以上だけれど小売の売上が100億円未満、という場合に、このQ&Aないし規則では、いたずらにグレーな部分を残すことになりそうです(例えば総売上100億円で小売の売上が10億円の場合はどうか、など)。

ともあれ、少なくとも総売上100億円で小売の売上が1億円の場合には大規模小売事業者に該当しないことははっきりしたので、それはそれで結構なことだと思います。

でも、テイクアウトと店内の売上って、企業は分けて管理しているのですかね。きっと売上が100億もある企業なら、マーケティングの目的で管理しているのでしょうけれど、もし分けて管理していない場合は、転嫁法を順守するために分けて管理するシステムを導入するか、自己が大規模小売事業者に該当することを前提にすべての継続的な取引先との関係で転嫁拒否をしないようにするほかなさそうです。

ちなみに「消費税の転嫁を阻害する行為等に関する消費税転嫁対策特別措置法,独占禁止法及び下請法上の考え方」の最初の注では、

「(注)売上高や店舗面積の考え方は,「『大規模小売業者による納入業者との取引における特定の不公正な取引方法』の運用基準(平成17年公正取引委員会事務総長通達第9号)」の第1の1〔注:大規模小売業者の定義〕と同様である。」

とされていますが、大規模小売業告示の運用基準の該当箇所では、

「(1) 大規模小売業者とは、「一般消費者により日常使用される商品の小売業を行う者」であって、(1)前年度の総売上高が百億円以上(第一号)、又は(2)一定以上の店舗面積の店舗を有する者(第二号)をいう。

ここで、「小売業を行う者」とは、一般消費者により日常使用される商品を当該消費者に販売する者をいう。・・・なお、例えば、サービス提供事業において商品を販売する場合には、その販売が客観的にみて当該サービス提供事業の付随的な業務と認められる場合には、小売業を行っていることにはならない。」

とされていて、小売の売上が100億円を超えたら常に「小売業」に該当するとか、小売の売上が1割未満なら「小売業」ではない(とまではQ&Aもいってませんが)、とかいったことは述べられていません。

なので厳密にいえば、上記ガイドラインの(注)は不正確、ということになります。(ひょっとしたら、上記ガイドラインの(注)でいっているのは「売上高」の考え方が大規模小売業告示運用基準と同様といっているだけで、「小売業」の意義については何ら述べていない、ということかもしれませんが、いずれにせよ分かりにくいですね。)

さらに言えば、大規模小売業告示の運用基準では、上記のように、「サービス提供事業者」の場合の小売の付随性だけが念頭に置かれていて、しかも公取委の解説書(粕渕『大規模小売業告示の解説』p35)では、

書道の通信教育講座を提供する事業者が毛筆や硯を販売する場合

とか、

ホテル業を営む事業者がホテルの売店で土産等を販売しているような場合

が例として挙げられていて、なぜサービス業に付随すると小売業でなくなるのに商品の販売に付随すると小売業でなくなるわけではないのか疑問がわくところでしたので、公取委Q&Aが、

「小売販売事業がサービス業,製造業などの他の事業に付随した業務」

であれば小売業ではないとした点は、一歩踏み込んだものとして歓迎すべきなのでしょう(それでも、大規模小売業告示と同じとするガイドライン(注)とはずれてしまいますが)。

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