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2013年12月 3日 (火)

消費税転嫁法に関する公取委FAQ

消費税転嫁法に関する「よくある質問」が公取委のホームページに掲載されています。今後も適宜アップデートされていくものと思われます。

ちなみに公取委のホームページなので、公取委が担当する転嫁拒否行為(買手が消費税の転嫁を拒むこと)に関するQ&Aのみです。消費者庁や財務省のホームページには同様のQ&Aは今のところなさそうで、各省庁の温度差が感じられて興味深いところです。

そこで公取委のQ&Aで気になる点を指摘しておきます。

まず、Q1-1では、

「Q1-1 当社は小売部門の売上高は1億円程度しかありませんが,それ以外の売上高も合わせた会社全体としては売上高が100億円以上あります。当社は「大規模小売事業者」に該当するのでしょうか。」

という質問に対して、まず、

「A 消費税転嫁対策特別措置法第2条第1項第1号に規定する「大規模小売事業者」は,

[1]一般消費者が日常使用する商品の小売業を行う者であること(小売業要件),及び

[2]公正取引委員会規則に定める規模の売上高〔注:小売業の売上高に限りません。〕又は店舗を有する事業者であること(規模要件

の両方を満たす事業者です。」

と一般論を述べています。

ここまでは良いのですが、次の、

「前事業年度における一般消費者が日常使用する商品の小売販売に係る売上高が100億円未満であっても,

販売形態,販売期間,売上規模,他の事業との関連性,総売上高に占める小売販売に係る売上高の割合等からみて,

小売販売事業がサービス業,製造業などの他の事業に付随した業務ではないと認められるときには,

小売業を行う者に該当します(小売業要件)。

その上で,前事業年度の総売上高〔注: 「小売業の売上」ではありません。〕が100億円以上ある場合(規模要件)には,「大規模小売事業者」に該当します。」

という部分は、結論はまずまず穏当ですが、「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法第二条第一項第一号の大規模小売事業者を定める規則」の文言をやや外れているように思われます。

つまり同規則では、

「(「法」)第2条第1項第1号の大規模小売事業者は、

一般消費者が日常使用する商品の小売業を行う者・・・であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。

一 前事業年度における売上高・・・が100億円以上である者

(以下省略)」

となっています。

確かに、①小売業かどうか、②売上が100億円以上か、の二本立てで判断するのは規則のとおりなのですが、規則からは、小売業の売上が100億円を超えたら常に「小売業」に該当する、という解釈は出てきません

例えば総売上が10兆円の企業の小売業売上が100億円の場合、「大規模小売事業者」に該当するのでしょうか?

上記の公取Q&Aに続く、

「貴社の場合は,総売上高が100億円以上あるものの,商品の小売販売に係る売上高は1億円程度しかないとのことですので,基本的に「大規模小売事業者」には該当しません。」

という回答とのバランスを考えると、総売上の0.1%程度しか小売売上がない上記設例(総売上10兆円、小売売上100億円)の場合は当然大規模小売事業者には該当しないとなりそうですが、そうはなっておらず、続けてQ&Aでは、

「なお,前事業年度における小売販売に係る売上高が100億円以上ある場合は,小売業を行う者に該当し(小売業要件),同時に規模要件も満たすため,「大規模小売事業者」に該当します。」

と回答されており、小売売上が100億円以上ある場合は常に小売業に該当する、とみていることがわかります。

それがよりはっきり表れているのが次のQ1-2で、そこでは、

「Q1-2 当社は,店内での食事の提供のほか,テイクアウトでの販売も行っております。当社は,小売業を行う者に該当しますか。」

という問いに対して、

「A 貴社のテイクアウトでの商品の小売販売に係る売上高が100億円以上あれば,小売業を行う者に該当し,総売上高が100億円以上あることから,「大規模小売事業者」に該当します。

他方,テイクアウトでの商品の小売販売に係る売上高が100億円未満であれば,店内での食事の提供サービスとテイクアウトでの商品の小売販売との業務の関連性や売上高の割合等をみて,小売業を行う者に該当するかどうかを個別に判断します。」

と回答されています。

要するに公取委の上記Q&Aをまとめると、

①小売業の売上だけで100億円以上なら、(総売上に対する小売の売上の割合を問わず)「大規模小売事業者」に該当する(小売業要件も規模要件も満たす)

②総売上が100億円以上だけど、小売業の売上が100億円未満なら、ケースバイケースで判断(規模要件は満たすが、小売業要件は場合による)

③総売上が100億円未満なら、「大規模小売事業者」に該当しない(規模要件を満たさない。)

ということになりそうです。

でもそれだったら、「大規模小売事業者」の定義を(店舗面積はさておき)、小売業の売上100億円以上の事業者と規則で定義したほうが、よほどすっきりしたのではないでしょうか。

そうしても、転嫁法2条1号の文言からは外れていないと思います。

総売上が100億円以上だけれど小売の売上が100億円未満、という場合に、このQ&Aないし規則では、いたずらにグレーな部分を残すことになりそうです(例えば総売上100億円で小売の売上が10億円の場合はどうか、など)。

ともあれ、少なくとも総売上100億円で小売の売上が1億円の場合には大規模小売事業者に該当しないことははっきりしたので、それはそれで結構なことだと思います。

でも、テイクアウトと店内の売上って、企業は分けて管理しているのですかね。きっと売上が100億もある企業なら、マーケティングの目的で管理しているのでしょうけれど、もし分けて管理していない場合は、転嫁法を順守するために分けて管理するシステムを導入するか、自己が大規模小売事業者に該当することを前提にすべての継続的な取引先との関係で転嫁拒否をしないようにするほかなさそうです。

ちなみに「消費税の転嫁を阻害する行為等に関する消費税転嫁対策特別措置法,独占禁止法及び下請法上の考え方」の最初の注では、

「(注)売上高や店舗面積の考え方は,「『大規模小売業者による納入業者との取引における特定の不公正な取引方法』の運用基準(平成17年公正取引委員会事務総長通達第9号)」の第1の1〔注:大規模小売業者の定義〕と同様である。」

とされていますが、大規模小売業告示の運用基準の該当箇所では、

「(1) 大規模小売業者とは、「一般消費者により日常使用される商品の小売業を行う者」であって、(1)前年度の総売上高が百億円以上(第一号)、又は(2)一定以上の店舗面積の店舗を有する者(第二号)をいう。

ここで、「小売業を行う者」とは、一般消費者により日常使用される商品を当該消費者に販売する者をいう。・・・なお、例えば、サービス提供事業において商品を販売する場合には、その販売が客観的にみて当該サービス提供事業の付随的な業務と認められる場合には、小売業を行っていることにはならない。」

とされていて、小売の売上が100億円を超えたら常に「小売業」に該当するとか、小売の売上が1割未満なら「小売業」ではない(とまではQ&Aもいってませんが)、とかいったことは述べられていません。

なので厳密にいえば、上記ガイドラインの(注)は不正確、ということになります。(ひょっとしたら、上記ガイドラインの(注)でいっているのは「売上高」の考え方が大規模小売業告示運用基準と同様といっているだけで、「小売業」の意義については何ら述べていない、ということかもしれませんが、いずれにせよ分かりにくいですね。)

さらに言えば、大規模小売業告示の運用基準では、上記のように、「サービス提供事業者」の場合の小売の付随性だけが念頭に置かれていて、しかも公取委の解説書(粕渕『大規模小売業告示の解説』p35)では、

書道の通信教育講座を提供する事業者が毛筆や硯を販売する場合

とか、

ホテル業を営む事業者がホテルの売店で土産等を販売しているような場合

が例として挙げられていて、なぜサービス業に付随すると小売業でなくなるのに商品の販売に付随すると小売業でなくなるわけではないのか疑問がわくところでしたので、公取委Q&Aが、

「小売販売事業がサービス業,製造業などの他の事業に付随した業務」

であれば小売業ではないとした点は、一歩踏み込んだものとして歓迎すべきなのでしょう(それでも、大規模小売業告示と同じとするガイドライン(注)とはずれてしまいますが)。

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