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2013年9月

2013年9月27日 (金)

転嫁・表示カルテルの届出と実行の時期

公取委のHPに転嫁・表示カルテルの届出に関するQ&Aがあります。

その中に、

「Q4 消費税転嫁・表示カルテルの届出の時期を教えてください。

A 共同行為の内容を実行する前までにあらかじめ届出書を提出することが必要です。」

というものがあります。

これは、独禁法をやっている者の目から見ると、なかなか興味深い問題(カルテルの「実行」とは何か)が見えてきます。

(そのほか、カルテルは合意だけで既遂になる(合意時説)というのが通説であることからすると、合意ではカルテルとはしないという転嫁法の立場は、別の意味で興味深いものがあります。)

転嫁・表示カルテルは届出によって独禁法の適用除外となるとしても、届出をする前にはどのような内容のカルテルをするのかを事業者間で話し合わなければならず、そのような話し合いはまさにカルテルそのものではないか、という疑問がわいてきます。

この点に関してはパブコメ回答56ですでに、

「転嫁カルテルや表示カルテルの届出に先立って、事業者または事業者団体の間で、当該届出の内容について、話合いを行うことは独占禁止法上違法とならないのか。」

という質問に、

「御指摘の行為は、本特別措置法第12条の趣旨に照らして、当該行為のみをもって独占禁止法違法となるものではありません。」

という回答がなされており、実務的には決着しています。

上記のHPのQ&Aも、これと同じ問題意識であるところ、より具体的に、カルテルの「実行」をしなければよい、というふうに整理されたと理解できます。

まずまず穏当な整理だと思いますが、では何をもってカルテルの「実行」と考えるのかは、なかなか微妙です。

細かく分けると、何が「実行」なのかという問題と、同じ行為があったときに、それがカルテルに基づく「実行」なのか、それとも独自の判断によって同じことをしているに過ぎないのか、という問題があるように思われます。

まず、「実行」の中身としてすぐ頭に浮かぶのは、105円で売っていた物を108円で実際に販売開始する、というものですね。

しかし、これは消費税率引上げ前に届出が済んでいて、実行時期を来年4月1日とする場合であればスムーズに行くと思いますが、消費税率引上げ後に転嫁カルテルを実行する場合はどうするのでしょうね。

(ちなみに、「共同行為の実施期間」も、届出書の記載事項です。)

例えば、来年3月31日まで税込み105円で売っていたものを、4月1日からも転嫁できずに105円で売っていたところ、それではやっぱり利益がでないので(あるいは、周りのお店は108円で売ってもそれほど売上は落ちていないみたいなので)、5月1日から108円で売ろうということで、4月中に転嫁カルテルの話合いをして、4月30日に届け出る(届出書上の実施期間は5月1日から)というシナリオが頭に浮かびますが、何だか変ですね。

4月1日以降も税込み105円で売っていたなら、すでに105円のうちの約8円は消費税なわけで、さらに5月に入ってから108円で売るというのは、消費税分よりも余分に値上げしていることにはならないのでしょうか

転嫁カルテルを認めた趣旨からすれば、こういうのも認められるのだとは思いますが、すっきりしないものは残ります。

そのほか、例えば、ある企業が1つのカルテル参加者集団に属して届出を行ったところ、そのあとで、別の参加者集団に属して別のカルテルを届け出たという場合、同じ商品を転嫁カルテルの名目で2度にわたって値上げしても良いものなのでしょうか?(たぶん、だめなのでしょうね。)

いずれにせよ、届出は来年3月末までに済ませておくのが得策ですね。

さて、わき道にそれましたが、「実行」とは何なのか、ですね。

むしろ「実行」に該当しない行為を挙げた方がわかりやすいと思うので挙げると、①値上げの社内決定、②値札の貼り換え、③カタログの印刷、くらいまでは、実行の準備行為にとどまるということで、OKなのでしょう。

逆に、消費税転嫁を求める価格交渉を開始すると、それはカルテルの「実行」なので、アウト(=届出前にやってはいけない)なのでしょう。

しかしここでもう1つの疑問がわいてきます。

そもそも転嫁法の建前からすれば消費税は転嫁されるべきものなのですから、当然、転嫁の交渉はするわけです。

それが、転嫁カルテルを届出ようと話合いを開始したとたん、届出が受理されるまでは転嫁交渉を開始してはいけなくなるのです。

もちろん、単独でやって良い行為であっても共同でやってはいけない、というのは独禁法では当たり前のことなので、目くじらを立てることはないのでしょうけれど、転嫁カルテルの届出をしようという話合いをはじめたとたんに、本来ならできたはずの転嫁交渉ができなくなるのは、何となく腑に落ちない気がします。

言い訳としては、「この転嫁交渉は、あくまで単独でやっているのであって、カルテルの実行としてやっているのではない。」ということが考えられますが、届出をしようと話合いをしている事業者がそのような言い訳をしても、通常の独禁法の感覚からすれば、到底認められないように思われます。

むしろ理屈としては、届出の話合いを開始していても、転嫁交渉は単独でも本来やるべきもの(転嫁法の趣旨)なのだから、一人で交渉している限りはカルテルの「実行」ではないと推定する、というふうに整理すべきではないでしょうか。

逆に言うと、さすがに届出前にサプライヤーで共同して顧客と転嫁交渉する、というのはまずいと思います。

(さらに言えば、「転嫁」の部分だけを共同で交渉するというのはちょっと考えにくく、どうしても本体価格の共同交渉特別できないので、そのような観点からすれば、そもそも共同の転嫁交渉はお勧めできません。)

それから、「転嫁カルテルに参加しませんか。」と声をかけられて辞退した事業者は、適用除外は受けられないので、カルテルをやっていない(あくまで転嫁交渉は単独のものだ)ということ、あるいは辞退したという事実を明らかにしておく必要があるように思います。(どうやって明らかにするかはさておき。)

というのは、独禁法でのカルテルといえば、明示的な共同行為の合意は不要で、意思の連絡に基づいて、お互いに相手が値上げするだろうと期待しながら値上げする、というのでも足りると考えられるからです。

「断ったんだからいいじゃないか」というのも一つの割り切りだとは思いますが、「そうか、みんな転嫁カルテルやるのか。じゃ、転嫁しやすくなるわけだから、自分も強気で行こう」というふうになりがちで、しかも消費税は転嫁するものというのが転嫁法の建前だということからすれば、お互いに転嫁するだろうという期待は常にあるというのもまた建前である、ともいえそうな気がします。

でも、そういう面倒なことを避けるためには、転嫁カルテルに誘われたら断らない、というのが、律儀な事業者にとっては一つの選択肢とはいえます。

個人的には、断っても不利益はない(断った事業者の転嫁交渉をカルテルだといって公取委が摘発するとは考えにくい)ので、断ってもよいと思います。

さて表示カルテルについては、「実行」というのは、まさに共同で合意された内容の表示を行うこと(値札の貼り換えなど)を意味するのでしょうね。

以上のように転嫁法は、それ自体かなりいびつな法律なので、いろいろ細かく考えていくと、奇妙な形で独禁法のさまざまな論点を考える素材を提供してくれそうな気がします。

ところで最近複数の外国の競争法専門の弁護士にこの転嫁法のことを説明したら、失笑されました。

彼らには、ほとんどジョークとしか思えないようです。

転嫁カルテルなどは、競争者が集まって転嫁について話し合うということ自体、欧米の感覚では信じられないみたいで、「どうやって価格そのもののカルテルと区別するんだ?」という、至極もっともな質問を受けてしまいましたcoldsweats01

2013年9月11日 (水)

消費税転嫁対策特措法ガイドライン公表

消費税転嫁特措法の各種ガイドラインが公取委と消費者庁のホームページで公表されました。

気になった点、といいますか、隠すのもフェアでないと思うので申し上げると、実は私がハブコメした点なのですが(笑)、感じたところを述べたいと思います。

まず、消費税転嫁阻害表示ガイドラインのパブコメ8番ですが、「3%値引き」というだけでは転嫁法違反にならないとさんざんいっておきながら、「(参考)」で、それは景表法違反というのはひどいだろう、という趣旨のことを(もうちょっと上品に)お尋ねしたのですが、これに対して、

「消費税率の引上げの直後においても、『3%値引き』との表示をした場合、消費税率引上げ後の税込価格から3%値引きされている旨を明瞭に表示していない限り、消費者は最近相当期間にわたって販売されていた税込価格から3%値引きされていると認識し得ることから、景品表示法上の有利誤認表示に該当するおそれがあります。」

との回答をいただきました。

まあ景表法の解釈としては仕方ないのかなぁというところですが、興味深いのは、「消費税率引上げ後の税込価格から3%値引きされている旨を明瞭に表示していない限り」という留保が付いていることです。

つまり、「3%値引き」という表示が、何からの3%値引きなのかを明瞭に書けばよい、具体的には、

「消費税率引上げ後の税込価格」

から引いているんだということがはっきり分かればよい、ということですね。

では具体的にどう表示すればいいのかというと、なかなか悩ましいと思います。

まず、「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」では、

「過去の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示を行う場合に,同一の商品について最近相当期間にわたって販売されていた価格とはいえない価格を比較対照価格に用いるときは,当該価格がいつの時点でどの程度の期間販売されていた価格であるか等その内容を正確に表示しない限り,一般消費者に販売価格が安いとの誤認を与え,不当表示に該当するおそれがある。」

と説明されています。

つまり、過去の価格と比較対照する場合には、

①最近相当期間にわたって販売された価格と比較対照するか、

②当該比較対照価格がいつの時点でどの程度の期間販売されていたか等を正確に表示するか、

のどちらかだ、ということです。

ですので、例えば来年3月31日まで税込105円(本体100円)で売っていた商品を、4月1日に108円(本体100円)で販売し、4月2日から、「3%値引き」と表示して、105円で販売したい場合には、単純に、

「3%値引き」

とだけ表示するとアウト(比較対照価格の108円の販売実績が1日しかないので)なので、

4月1日の価格から3%値引き」

と表示することになります。

それではあまりにアピール力がない(さすがに買い物客も、「4月1日だけ価格を3%上げたんじゃないの?」と気づく)ということであれば、

「4月1日の価格から3%値引き。3月31日までの価格から据置き」

という表示をすれば、多少はましでしょうか(でもそれなら、「お値段据置き」だけの方がアピールしそうですね)。

4月1日に1日だけ実績作りのために108円で売るのも無意味だということであれば、4月1日から105円で販売しつつ、「3%値引き」と表示したくなりますが、この場合にも

消費税率引上げ後の税込価格から3%値引きされている旨を明瞭に表示していない限り

という縛りがあるので、例えば、

「消費税率引上げ前の価格を消費税率引上げ後の税率に換算した価格から3%値引き」

とか、もっとシンプルに、

「税率5%時価格を8%に換算後の価格から3%値引き」

と表示することになりましょうか(いずれにしても分かりにくくて、アピール力は弱そうですね)。

さて、では最近相当期間の実績を作るためにセールを4週間(=8週間の半分)待てばいいのか、というと、原則はそのとおりなのですが、注意すべき点があります。

(ちなみに上記ガイドラインによれば、

「比較対照価格が『最近相当期間にわたって販売されていた価格」に当たるか否かは,当該価格で販売されていた時期及び期間,対象となっている商品の一般的価格変動の状況,当該店舗における販売形態等を考慮しつつ,個々の事案ごとに検討されることとなる」

というのがあくまで原則論で、

「一般的には,二重価格表示を行う最近時(最近時については,セール開始時点からさかのぼる八週間について検討されるものとするが,当該商品が販売されていた期間が八週間未満の場合には,当該期間について検討されるものとする。)において,当該価格で販売されていた期間が当該商品が販売されていた期間の過半を占めているときには,『最近相当期間にわたって販売されていた価格』とみてよいものと考えられる。」

という部分はあくまで目安という位置づけであり、8週間というのが絶対的な基準というわけではありません。)

というのは、上記ガイドラインに、

「ただし,セール実施の決定後に販売を開始した商品の二重価格表示については,商品の販売開始時点で,セールにおいていくらで販売するか既に決まっており,セール前価格は実績作りのものとみられることから,セール前価格で販売されていた期間を正確に表示したとしても,不当表示に該当するおそれがある。」

とされているからです。

(ちなみに、上記引用部分では、「セール実施の決定後に販売を開始した」とされているので、セール実施の決定前から販売していた商品は含まれない(セール実施の決定後に販売開始された新商品に限る)という読み方もあり得そうですが、実績作りのためのセール前価格が信頼できないというのは新製品でも既存製品でも同じですから、既存製品も含まれると読むのが自然でしょう。)

なので、来年4月1日から4週間後に「3%値引き」セールを開始すると、「4週間待ってたんじゃないの?」(増税時から決まってたんじゃないの?)という疑いが生じないこともない気がします。

上記設例のように、3月31日日までずーっと105円で売っていた物を4月1日から4週間108円で売ったということなのであれば問題ないのでしょう。

これに対して、3月31日まで税込100円で売っていた物を4月1日から108円で4週間売って、その後税込105円で販売しつつ、「3%値引き」と表示すると、そういう疑いが生じるかもしれません。

ただ、必ずそういう疑いが生じるかというとそういうわけでもなくて、増税後値上げをしたら売上がガタ落ちになったので、4月30日に明日からセールすることに決めた、ということも十分あり得るわけで、要は、比較対照価格で販売時点で「セールにおいていくらで販売するか既に決まって」いたか否かが問題です。「セールにおいていくらで販売するか既に決まって」いなかったなら、景表法違反にはなりません。(いずれにせよ社内のことなので、「既に決まって」いたかどうかが微妙なことがあるのは否めません。)

いずれにせよ、比較対照価格がいつの時点および期間の価格なのかを明示しない(「当店通常価格」とか、漠然と書くことも含みます)場合、つまり、「当該価格がいつの時点でどの程度の期間販売されていた価格であるか等その内容を正確に表示しない」場合には、消費税引上げ後の価格から3%値引きする趣旨で「3%値引き」と表示することは、最低4週間は待つべきことになるのでしょう。

次に、転嫁拒否行為のガイドラインのパブコメ5番目ですが、以前このブログでも指摘した問題ですが、大規模小売事業者の取引の相手方は商品の納入業者に限らずあらゆる取引先が特定供給事業者に該当するという点です。

本音のところではそんな解釈おかしいじゃないかといいたかったのですが、法律の解釈をガイドラインのパブコメでコメントしても始まらないので、それならいっそガイドラインではっきり書いたら?というのがコメントの趣旨です。

そうしたら、ガイドラインにはっきり書かれてしまいました(笑)。

(立案担当者が意図したかどうかはさておき)条文の解釈上はそう解釈せざるを得ないとはいえ、増税前の価格に増税分を加えた価格で購入しないと転嫁拒否になるというガイドラインの立場を前提にすると、これは大規模小売事業者にとってはかなり影響の大きいことなんじゃないでしょうか。

ともあれ、法律的に解釈がはっきりするのは良いことだと思います。

2013年9月10日 (火)

百選の東芝エレベータ事件解説の疑問

経済法判例百選の東芝エレベータ事件の解説に、同事件が私的独占に該当したのではないかが論じられている個所に、以下のような一節があります。

「従たる商品の市場は、保守サービス全体か、メーカー別エレベーターに細分化された保守サービスか、が問題となる。

A製エレベーターの独占的保守業者を仮定し、料金を引き上げようとしても、独立系保守業者や他のメーカー系保守業者が引上げを困難にするとみることができるかどうかである。」

いわゆるSSNIPテストを行おうとしているものですが、ちょっとおかしい気がします。

というのは、SSNIPテストで仮想的独占者を想定するときには、現に当該商品を供給している者のみならず、潜在的に供給しうる者も含まれると思われるからです。

なので、狭い市場(A製エレベーターの保守サービス市場)を市場の候補として想定したときの、

「A製エレベーターの独占的保守業者」

には、

①現に東芝製エレベーターの保守サービスを提供している者(=東芝昇降機サービス+現に東芝製エレベータの保守を手掛けている独立系保守業者)

のみならず、

②潜在的に東芝製エレベーターの保守サービスを提供しうる者(=その他の独立系保守業者+他のメーカー系保守業者)

が含まれるはずです。

そのうえで、①+②の仮想的独占者が東芝製エレベーターの保守サービスの料金をいっせいに値段を上げたときに(けれども東芝エレベーター以外の保守サービスの料金は据え置いた場合に)、ユーザーが、狭く想定した

「東芝製エレベーターの保守サービス」

から、もっと広い

「東芝製以外のすべてのエレベーターの保守サービス」

に乗り換えるかどうか、が問うべき質問のはずです。

そうすると、ユーザーとしては、他社製エレベータの保守サービス(例えば、フジテック製エレベータの保守サービス)に乗り換えるには、エレベータごとフジテックに乗り換えなければならないので、現実的には、そのような保守サービスの乗り換えは起こらないといってよいでしょう。

というわけで、現に東芝製エレベータを使用しているユーザーを前提にする限り、SSNIPテストを使えば、狭く「A(東芝)製エレベータの保守サービス」の市場を画定せざるを得ないと思います。

むしろ問題は、現に東芝製エレベーターを使用しているユーザーを前提にしてよいのか、つまり、エレベーターを選択する前の時点ユーザーを想定して、SSNIPテストをやるべきではないか、ということです。

これだと、ひょっとしたら、東芝製エレベータ保守サービスの仮想的独占者が値上げをしたら、東芝製エレベーターの保守サービスを選ばずにフジテック製エレベーターの保守サービスを選ぶ人が増えるかもしれません。(例えば、東芝製とフジテック製のエレベーターが性能も価格も全く同じだとしたら、保守費用が選択の決定的要素になるかもしれません。)

ただ、事前にそういう選択はできない(ロックインさている)という前提でいろいろな議論は進んでいるので、その議論の流れに乗る限りは、やはり、SSNIPテストでは東芝製エレベーター保守サービス市場が画定されると考えるほかないのでしょう。

ただ、それで公取委が私的独占として摘発するか(課徴金を課すか)、というと、理屈はともあれ実務的な感覚としては、大いに疑問ですね。

というのは、ロックインのために単独ブランドで画定された市場の「独占者」に適用するには、「私的独占」という看板は余りに重すぎるからです。

本当に、看板だけの問題です。

さてついでに、百選でも論じられていますが、本件では、主たる商品は「東芝製エレベーターの修理部品」であることは問題ないのですが、従たる商品役務が、

「普段の保守点検」(白石説)

か、

(その時に注文した部品の)「取り換え調整工事」(たぶん多数説)

かが問題になっています。

でも、この問題は、端的に、

「主たる商品を購入するためには、何(=従たる商品役務)を購入することが条件になっていたのか」

ということに尽きるので、そうすると、本件の事実関係では、どう考えても白石説が正しいと思います。

というのは、本件では、取り換え調整工事を一緒に発注しても、部品が手に入るのは3か月後だったからです。

エレベーターの部品(+修理)なんて、すぐに手に入らないと意味がありません。

(正確には、「意味がない」というと実はちょっと強すぎて、エレベーターは具合が悪くなってもすぐに止まってしまうわけでは必ずしもないので、3カ月後でも手に入らないよりはましです。私も昔破産管財人代理をしていたとき、管理中のビルのエレベーターの具合が悪くなったときは、冷や冷やしたものです。ただ、通常は、タイムリーに修理されないと、ビルオーナーにとってはかなりのプレッシャーです。)

なので、本件での主たる商品役務は、「タイムリーに供給される部品」なのです。

従たる商品を「取り換え調整工事」と考える多数説は、そのような従たる商品役務の購入を条件として提供される「時機に遅れて提供される部品」が主たる商品であるといっているのと同じです。

きっと多数説の人は、エレベーターが時々止まっても、3か月は悠然と構えていられるのでしょうね(笑)。

おそらく多数説は、部品と取り換え調整工事が同時に提供されるので、なんとなく抱き合わせっぽい、ということに引きずられたのでしょう(私も白石説がなければ、引きずられていたでしょう)。

しかし、主たる商品と従たる商品が同時に提供される必要は、そもそもありません。

あくまで、従たる商品の提供が、主たる商品の購入を「条件」としていればよいのです。

(百選では、「Yの部品単品の供給拒否の目的が保守サービス契約の獲得にあることにかんがみると、実質的に抱き合わされたのは保守サービスとみることもできる。」と解説されていますが、「目的」というのはちょっと弱いですね。端的に「条件」といえばすむ話と思います。)

整理すると、本件では、論理的には、

①(主,従)=(タイムリーに供給される部品,普段の保守点検)

か、

②(主,従)=(時機に遅れて提供される部品,取り換え調整工事)

という整理しかないのであり、私のように悠然と3か月も待っていられない小心者の目から見ると、①の白石説が正しいと思えるのです。

実は抱き合わせは取引強制の一種で、抱き合わせはあくまで例示なので、究極的には、

「相手方に対し・・・自己・・・と取引するように強制すること。」

に該当すれば、何が主でも従でもいいはずです。

本件では、この点から考えても、東芝エレベータが迫った(「強制」した)のは、その時注文された部品の取り換え調整工事ではなくて、普段の保守点検サービスだととらえるのが自然だと思います。

私的独占と構成する場合には、「一定の取引分野」を、普段の保守点検サービス市場ととらえるか、取り換え調整工事市場ととらえるか、ですが、この場合も、保守点検サービス市場ととらえる方が実態に合っていて、納まりが良いように思います。

でも、もし、「保守点検だけ」、「(壊れた時の)取り換えだけ」をやる業者というのが一定程度いたとしたら、それぞれが一定の取引分野になると思います。

そして、これら2つの市場から、独立系業者が排除された、ということになるのでしょう。

こういうふうに、私的独占の場合の「一定の取引分野」が2とおりありうることも考えると、ますます、抱き合わせで何が主で何が従かという問題は、独禁法の本質とは関係がないような気がします。

ただ、不公正な取引方法の場合は、(必ずしも独禁法の「本質」とは無関係の)条文の要件への厳格なあてはめが要求されるので、条文を厳格に当てはめるのは重要なことであり、そういう観点からみると、やはり、白石説の方に軍配が上がると思います。

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