特許権消滅後のライセンス料の「分割払い」、「延べ払い」の意味
知財ガイドラインでは、
「ライセンサーがライセンシーに対して、技術に係る権利が消滅した後においても、当該技術を利用することを制限する行為、又はライセンス料の支払義務を課す行為は、一般に技術の自由な利用を阻害するものであり、公正競争阻害性を有する場合には、不公正な取引方法に該当する(一般指定第12項)。
ただし、ライセンス料の支払義務については、ライセンス料の分割払い又は延べ払いと認められる範囲内であれば、ライセンシーの事業活動を不当に拘束するものではないと考えられる。」
という規定があります。
この但し書きの、特許権消滅後のライセンス料支払いが認められる、「ライセンス料の分割払い又は延べ払いと認められる範囲内」という意味が、ちょっと分かりにくいみたいですね。
端的にいえば、この但し書きは、権利消滅後の当該技術の利用から対価を取ってはいけない、ということです。
裏から言えば、ライセンサーが対価を徴収できるのは、権利存続中の利用からだけである、ということです。
「分割払い」とか、「延べ払い」というのは、あくまで、ライセンス料が権利存続中の技術の利用の対価であることが前提になっているのであって、その大事な前提が但し書きからは抜け落ちているので、ちょっと分かりにくいのですね。
ですので、この但し書きは、
「ただし、権利存続中の技術の利用の対価として発生したライセンス料の支払時期が、分割払いや延べ払いのため権利消滅後にずれ込むことは問題ない。」
というふうにでもした方がよいと思います。
分かりやすいのは、製品1個当たり売上の3%をライセンス料とする、というようなランニングロイヤリティの場合です。
この場合、権利消滅後に製造した分からも3%のライセンス料を徴収すると、違反になります。
この発想の背景にあるのは、ライセンス料がライセンシーにとって変動費である場合には、ライセンシーの製造数量にダイレクトに響いてくる(直接のコストアップの要因となる)ということがあります。
逆に、契約時に定額(ランプサム)でライセンス料を定めている場合は、たとえ分割払いのために支払時期が権利消滅後になっても、権利消滅後の技術の利用から対価を徴収しているとは言い難く、まず、問題ないと考えてよいでしょう。
あまり例は無いかもしれませんが、もし権利消滅後の製造数も見込んで固定額で一括ライセンス料を取り決めた場合はどうでしょうか。
たとえば1個100円の商品を1年で1万個製造すると見込まれる場合に、特許権が3年後に消滅するとして、3%の料率で、5年分のランセンス料を、
100円/個 × 10,000個 × 5年 × 3% = 150,000円
と定めて、これを契約時に一括で支払わせる、というものです。
私はこれも、独禁法には反しないのではないかと思います。
(もし独禁法違反になるリスクがあると考えるなら、料率を5%、期間を3年とかにして交渉、ないし契約書に書けばいいだけのことですが、それは置いておきます。)
というのは、見込みで決めた額というのはあくまでライセンシーにとっては固定費であって、いったん決めてしまった以上は何個作ろうが定額を払わないといけないので、ライセンシーの生産量(および変動費)にダイレクトに響かないからです。
また、製造量に比例しなくても、1年ごとに、契約を更新するごとに、1年分のライセンス料を定額で支払う、という取り決めの場合も、権利消滅後の期間についてライセンス料を徴収すると、権利消滅後の技術の利用から対価を徴収することになり、違反になるでしょうね。
また、ライセンシーの技術の「利用」というのは、自分が物を製造するなどといった積極的な利用だけを指すので、他者に使わせない(例えば、独占的ライセンシーでライセンサーも行使できない)というような、いわば消極的利用は含まないと考えるべきだと思います。
なぜなら、そのような消極的利用に関してライセンシーからランセンス料を徴収しても、ライセンシーの変動費は変わらず、生産数量にもダイレクトに影響しないからです。
まとめると、問題の本質は、ライセンシーによる権利消滅後の技術の利用を、ライセンス料の支払というコストを負担させることによって制約してはならない、ということなので、「分割」とか「延べ払い」という文字に目を奪われてはいけません。
そういう意味で、知財ガイドラインの記述は(読み手に頭を使わせるという点で)、ちょっと不親切というか、誤解を招くものだと思います。
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