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2013年8月

2013年8月27日 (火)

有利誤認表示の条文(景表法4条1項2号)の整理

景表法の不当表示の条文(4条)は、読んでも、分かったような分からないようなところがあるので、ちょっと整理しておきたいと思います。

有利誤認(4条1項2号)で説明しますが、優良誤認もだいたい同じようなものでしょう(そもそも、品質も取引条件の一部と考えれば、優良誤認は有利誤認の一部でもあるわけですし)。

景表法4条1項2号は、

第4条  

事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。

(1号省略)

 商品又は役務の価格その他の取引条件について、

実際のもの

又は

当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るもの

よりも

取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示」

と規定しています。

(「であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの」は、はっきりいって蛇足なので、割愛します。)

さて、「又は」の前と後で分けると、前段は、

「・・・取引条件について、実際のものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示」

となり、後段は、

「・・・取引条件について、当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示」

となります。

以下、簡単な前段に沿って説明します。

前段の「実際のもの」というのは、文言上、「実際の取引条件」という意味のようです。

とすると、前段は、

「取引条件について、実際の〔取引条件〕よりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示」

という意味になりそうです。

ところが、これを文字通りに解釈すると、例えば1万円のものを1万円と表示する限り有利誤認表示にはならないのではないか、という誤解が生じかねません。

なぜなら、1万円のものを1万円と表示していれば、1万円という「取引条件について」、「実際の取引条件」(=1万円)よりも有利とは表示していないからです。

もちろん4条1項2号はそういう意味ではなくて、例えば、ありもしない高額な比較対象価格を並べて安く見せる二重価格表示のようなものも、有利誤認表示です。

ほかには、「期間限定で1万円で販売」という表示も、1万円のものを1万円と表示してお客さんも1万円で買えるから良いかというと決してそうではなくて、「期間限定」なのでお得だと思ったら、実は同じ価格でいつまでも売り続けていた、というのも、立派な(?)有利誤認表示になります。

つまり、有利誤認表示というのは、取引条件自体を誤認させるものに限らず(「全品5割引き」と表示して5割引きでないものがあったら、取引条件自体の誤認が生じますが)、取引条件が有利か否かを消費者が判断する基礎となる事実について虚偽の情報を与える(=「誤認」させる)ものであるといえます。

例えば、「期間限定」という表示を消費者がみれば、

「期間限定だ」→「この値段で買えるのは今だけだ」→「お得だ」→「いつかうの、今でしょ!」(林修先生風)

となるわけです。

それが実は期間限定ではなかったとすると、

「期間限定って書いてあるけど、そうではないんだな」→「別にお得ではないな」→「買うのやめとこ」

となるわけです。

人間、「1万円」というナマの価格と商品だけをみて、これがお得かどうか判断できるほど、かしこくはありません(ミクロ経済学では、そういう現実離れした人間が出てきますが)。

「1万円」という価格だけではなくて、人間は、ほかの色々な情報を参考にして、「1万円」がお得なのかどうかを判断するわけです。(行動経済学でいうところの「参照点」ですね。)

「当店通常価格2万円のところ、1万円」

の「当店通常価格2万円」も、そういう、取引条件が有利か否かを判断するための事実であるわけです。

なので、「当店通常価格」について虚偽の表示をすると、有利誤認表示になるわけです。

別の言い方をすると、有利誤認表示というのは、取引条件自体を誤認させる表示ではなくて(そういう場合もありますが)、取引条件の有利さ(お得感)を誤認させる表示なのです。

というような観点から、4条1項2号の条文をもう一度読み返すと、

「取引条件について、実際のものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示」

というのは、

「取引条件について、実際の〔取引条件〕よりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示」

という意味ではなくて、

「取引条件について、実際の〔有利さ〕よりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示」

という意味だと読むのが合理的に思われます。

(ただし、「実際のもの」というのを、文字通り「実際の取引条件」と読むべき場合もあります。)

ただし、消費者が取引の有利さを判断するための事実について虚偽の表示をすれば(=「誤認」させれば)必ず不当表示になるというわけではなく、公取委(今は消費者庁)の現在の解釈では、

①取引の有利さを判断するための基礎となる事実について虚偽の表示をすること(基礎事実の虚偽(=「誤認」))、

に加えて、

②当該基礎となる事実に関する表示から消費者が受ける印象ほどには有利になっていないこと、

も、違反の要件にしているようです。

例えば、「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」では、

「A寝具店が,『製造業者倒産品処分』と強調して表示しているが,実際には,表示された商品は製造業者が倒産したことによる処分品ではなく,当該小売店が継続的に取引のある製造業者から仕入れたものであり,表示された商品の販売価格は従来と変わっていないとき。」

というのが、違反事例として挙げられています。

「倒産処分品」といえばいかにも安そうですから、「倒産処分品である」という表示は消費者が取引の有利さを判断する基礎となる事実であるわけですが、

「実際には,表示された商品は製造業者が倒産したことによる処分品ではなく,当該小売店が継続的に取引のある製造業者から仕入れたものであり」(①)

という事実だけではなく、さらに、

「表示された商品の販売価格は従来と変わっていない」(②)

という事実も、違反の要件とされています。

「期間限定」という表示の場合にも、あまり明示的には論じられませんが、

①「期間限定」ではないこと(その価格でいつも売っていること)

に加えて、暗に、

②「期間限定」という表示から受ける印象ほどには安くなっていないこと

が違反の要件になっていて、ただ期間限定セールでは「印象ほどには安くなっていない」(②)かどうかは結局、その価格がその期間だけの価格なのかいつもの価格なのかから判断されるので、①が満たされれば②も必然的に満たされる、ということなのでしょう。

倒産処分品でないのに「倒産処分品」と表示する(①)だけで不当表示とする解釈もあり得るように思いますが、結論の妥当性からいえば、②も要求するのでよいのでしょう。

ただ、②の立証のために多大な労力が必要とされるような気もしますし(どのくらい安ければ消費者の期待に合致しているといえるのかは、結構微妙な問題です)、①だけ(②はない)、という表示を蔓延させるのも、それはそれで問題のような気もします(①だけでも、立派なウソの表示です)。

例えば、「閉店セール」というのを年中やっているお店がありますが(笑)、この場合、

A: 実際に閉店するし、安くも売る。→(①,②)=(○,○)

B: 実際に閉店するけど、実は安くない。→(①,②)=(○,×)

C: 閉店しないけど、安く売る。→(①,②)=(×,○)

D: 閉店しないし、安くもない。→(①,②)=(×,×)

の4通りがありそうです。

このうち、Aが問題なくて、Dが問題あり、なのは明らかでしょう。

では、Bはどうでしょう?

たぶん、本当に閉店するんだったら、不当表示とはいえないのでしょうね。

「閉店セール」という表示だと、そもそも消費者がどのくらい安いという期待をもつのかもわからないので、それだけでは、実は②も、「○」か、せいぜい「△」なのかもしれません。

問題はCです。

私は、こういう虚偽の事実で客の目を引くこと自体、良くないと思うので、立法論としては、こういう表示も禁止すべきように思うのですが、結果オーライだから(期待通り安くなっているから)かまわない、というのが現状の景表法の解釈です。

でも考えてみると、景表法の条文が、

「取引条件について、実際の〔有利さ〕よりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示」

ということなので、表示から受ける有利さの印象と「実際の有利さ」が合致するのであれば、確かに、Cは不当表示にならないと解するのが、条文の解釈としては穏当なのかもしれません。

【2015年2月13日追記】

ちなみに、消費者庁のQ&Aでは、

「Q42

当店は,販売価格の安さを一般消費者に対してアピールするために,閉店時期は未定ですが,「閉店セール」と称したセールを長期間実施しようと考えていますが問題ないでしょうか。

A. 「閉店」する場合に,「閉店セール」と称して,在庫商品を処分するために通常販売価格(もしくは自店旧価格)よりも安い価格で販売を行うことがあります。このような処分セールに係る表示は,社会通念上,一般的には閉店までの「一定期間のみ特別に値引きが行われている」という認識を一般消費者に与えます。しかし,実際には閉店し,廃業する予定がなかったり,閉店する時期が確定していないにもかかわらず,「閉店セール」と称したセールを長期間行っているような場合には,一般消費者に対し,あたかも「今だけ特別に値引きが行われている(購入価格という取引条件が著しく有利である)のではないか」という誤認を与え,不当表示に該当するおそれがあります。 」

とされていて、実際に安ければ良いだろうという立場は取られていないらしいことが分かります。

ですのでなおさら、「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」の方は誤解を招きますね。

2013年8月20日 (火)

【お知らせ】下請取引改善講習会

この8月から、中小企業庁委託事業の「下請取引改善講習会(下請代金法講習会)」で、講師を務めさせていただいております(大江橋法律事務所のホームページ上のお知らせはこちらです。)。無料です。

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2013年8月 1日 (木)

特許権消滅後のライセンス料の「分割払い」、「延べ払い」の意味

知財ガイドラインでは、

「ライセンサーがライセンシーに対して、技術に係る権利が消滅した後においても、当該技術を利用することを制限する行為、又はライセンス料の支払義務を課す行為は、一般に技術の自由な利用を阻害するものであり、公正競争阻害性を有する場合には、不公正な取引方法に該当する(一般指定第12項)。

ただし、ライセンス料の支払義務については、ライセンス料の分割払い又は延べ払いと認められる範囲内であれば、ライセンシーの事業活動を不当に拘束するものではないと考えられる。」

という規定があります。

この但し書きの、特許権消滅後のライセンス料支払いが認められる、「ライセンス料の分割払い又は延べ払いと認められる範囲内」という意味が、ちょっと分かりにくいみたいですね。

端的にいえば、この但し書きは、権利消滅後の当該技術の利用から対価を取ってはいけない、ということです。

裏から言えば、ライセンサーが対価を徴収できるのは、権利存続中の利用からだけである、ということです。

「分割払い」とか、「延べ払い」というのは、あくまで、ライセンス料が権利存続中の技術の利用の対価であることが前提になっているのであって、その大事な前提が但し書きからは抜け落ちているので、ちょっと分かりにくいのですね。

ですので、この但し書きは、

「ただし、権利存続中の技術の利用の対価として発生したライセンス料の支払時期が、分割払いや延べ払いのため権利消滅後にずれ込むことは問題ない。」

というふうにでもした方がよいと思います。

分かりやすいのは、製品1個当たり売上の3%をライセンス料とする、というようなランニングロイヤリティの場合です。

この場合、権利消滅後に製造した分からも3%のライセンス料を徴収すると、違反になります。

この発想の背景にあるのは、ライセンス料がライセンシーにとって変動費である場合には、ライセンシーの製造数量にダイレクトに響いてくる(直接のコストアップの要因となる)ということがあります。

逆に、契約時に定額(ランプサム)でライセンス料を定めている場合は、たとえ分割払いのために支払時期が権利消滅後になっても、権利消滅後の技術の利用から対価を徴収しているとは言い難く、まず、問題ないと考えてよいでしょう。

あまり例は無いかもしれませんが、もし権利消滅後の製造数も見込んで固定額で一括ライセンス料を取り決めた場合はどうでしょうか。

たとえば1個100円の商品を1年で1万個製造すると見込まれる場合に、特許権が3年後に消滅するとして、3%の料率で、5年分のランセンス料を、

100円/個 × 10,000個 × 5年 × 3% = 150,000円

と定めて、これを契約時に一括で支払わせる、というものです。

私はこれも、独禁法には反しないのではないかと思います。

(もし独禁法違反になるリスクがあると考えるなら、料率を5%、期間を3年とかにして交渉、ないし契約書に書けばいいだけのことですが、それは置いておきます。)

というのは、見込みで決めた額というのはあくまでライセンシーにとっては固定費であって、いったん決めてしまった以上は何個作ろうが定額を払わないといけないので、ライセンシーの生産量(および変動費)にダイレクトに響かないからです。

また、製造量に比例しなくても、1年ごとに、契約を更新するごとに、1年分のライセンス料を定額で支払う、という取り決めの場合も、権利消滅後の期間についてライセンス料を徴収すると、権利消滅後の技術の利用から対価を徴収することになり、違反になるでしょうね。

また、ライセンシーの技術の「利用」というのは、自分が物を製造するなどといった積極的な利用だけを指すので、他者に使わせない(例えば、独占的ライセンシーでライセンサーも行使できない)というような、いわば消極的利用は含まないと考えるべきだと思います。

なぜなら、そのような消極的利用に関してライセンシーからランセンス料を徴収しても、ライセンシーの変動費は変わらず、生産数量にもダイレクトに影響しないからです。

まとめると、問題の本質は、ライセンシーによる権利消滅後の技術の利用を、ライセンス料の支払というコストを負担させることによって制約してはならない、ということなので、「分割」とか「延べ払い」という文字に目を奪われてはいけません。

そういう意味で、知財ガイドラインの記述は(読み手に頭を使わせるという点で)、ちょっと不親切というか、誤解を招くものだと思います。

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